第119話/初めての独り(1)/RISA
ドミヌスの人達もほとんど死んじゃったと思う。
元々、人数も見かけなくなってたし。
さっき道場にいた人達も全員殺された。
サファもいない。
ネリもいない。
シェアもいない。
周りにいた人達だって、みんないなくなっちゃった。
シェアは、なんであたしの事、恋人なんて嘘をついたんだろう。
でも、元々あたしの周りに誰かがいた?
誰かはいたけど、仲良かった?
広場で、ネリもシェアも気づいたらいなくなってたし。
別に大して仲良くなかったんじゃないの?
〝コッチ側に来れば来るほど、もっと独りを感じたはず。それすらもわからずにもやもやしてたでしょ?お姉ちゃん。怖いよね。独りって。悩みも相談できないし、笑い合う事も出来ない。楽しいはずなのに一日疲れるし、逃げようにも満たし方がわかんないもんね。そういう時って、繋がっているようで誰とも繋がれないもんねえ。〟
頭の中で女の子の声がした。
香ばしい匂い。ナギがフライパンでカニを焼いてる。
炒りながら、なんかぶつぶつ言っていたけど、よくわからなかった。
たぶんあたしの事バカにしてたんだと思う。
もう別人。紺のシャツに見慣れないパンツを履いてるからかと思ってたけど、目つき。
鋭い、冷たい、迷いがない。
ミトハロでこんな目つきの人、見た時ない。
バルコニーでナギの隣にいたエクステの男の人、あの人が近いかも。
でもあの人、へらへらしてたし。
あぐらをかいてるナギの足元をカニが通り過ぎた。
気づいていたみたいだけど、獲らないみたい。
蟹のおいしそうな匂い。くれないだろうな。
あたしもオウ王様にラグナロク売って、フライパンにすればよかった。
強くても、なんの意味もなかった。
ナギの方が、ブローチの方が強かった。
みんな死んじゃった。
二人にみんな殺されちゃったと思う。
胸が苦しい、重い。
膝を抱えてる手に力が入る。
ナギを見てるだけなのに、なんかまた涙出そう。
ナギに嫌われちゃった。
さっきまた死ねって言われた。
なんでそんな酷い事言うの?
どうして許してくれないの?
一人よりも二人で旅した方が安全じゃないの?
ナギがフライパンに残った最後の一匹のカニを口に放り込んだ。
冷たい声が上から聞こえて、立ち上がったんだと遅れて反応した。
「じゃあ、僕もう行くから。さっきも言ったけど、二度と僕の前に現れないで。お金はあげるって言ってんだからもういいでしょ。それではさようなら。」
ナギに顔を向ける。
目から出てるような冷たい声。
「やだ。」
聞こえてたと思うけど、ナギは何も言わずに行っちゃった。
振り返ってもくれなかった。
アルセナではいつも一緒に居たのに。
なんで別々になってるの?
波の音がやたら大きく聞こえる。
ほんとにナギが行っちゃった。また涙が出てきた。
サファのせい。
サファが悪い。
ナギに暴力振るったり、カツアゲしたりしてたからあたしまで敵に見られる。
あいつ、ナギは傷つけるつもりなかったとか言ってたけど、絶対に嘘だ。
むかつく。サファが悪い。
あんなやつ死んでよかった。
生きてたら殺してやりたかった。
〝ナギと二人で逃げられるチャンスなんて、あいつがアタシを呼ぶまでに星の数ほどあった〟
ブローチの指が食い込んだ痛みと、しゃがれた声で言われた言葉が蘇る。
頬に手を添える。
ほんとにサファのせい?
ナギが宿で声をかけてくれた時、襲われた事を言ってくれた時。
あたしなんて言ったっけ?
そう過ぎった途端。
胸の奥。
体の中身。
内側から誰かに撫でられてるみたいに、肺がぞわぞわした。
頭が重くなる。考えたくない。
気づいたら立ち上がってた。
木の幹を思いっ切り蹴り飛ばす。
葉っぱ、木の実が落ちてきた。
取り残されちゃった。
あたしが失敗したから置いてかれちゃうの?
失敗したらもうだめなの?
一度失敗したら必要なくなっちゃうの?
なんであたしは失敗したの?
誰のせい?
村にも、家にも帰れない。
ナギは旅をしていて、あたしは帰るなんて、笑い者になるだけ。
ブローチから言われた事がちらついた。
帰ったら一生苦しいの?
なんで村に帰らないといけないの?
ドミヌスに入ったから?あたし、入ってないんだけど。
右足の脛が痛くなってきた。
木の幹を蹴り飛ばしてないとおかしくなりそうだった。
家に帰りたい。
けど帰っても、家族になんて話したらいいかわからない。
ナギと一緒にいたい。
どこに行けばいいの?ナギはどこに行くの?
クラックランは敵だってサファが言ってた。
これからどうしよう。
ウィキアークに行く?セグイドに行く?
でも、ショートツインテールの人が警戒してた。
おっぱい大きかったなあの人。死んじゃったけど。
やりなおしたい。
どこからやり直す?
なんでやり直さないといけない?
誰かの声がして我に返る。
気づいたら日が暮れてて、その辺りの木々がほとんど倒れてた。
何人かの焦ったような大声がする。
めんどくさそうだったから走って逃げた。
*
夜を明かそうと、太くて大きな木の上に昇る。
木を蹴り倒すんじゃなかった。
丁度良い太さの木、探すの大変だったし。
幹に寄りかかって膝を抱える。
腕に顔を埋めて小さくなると少し安心した。
右も。左も。下も真っ暗。
目を凝らして空を見ると、雲が流れてるのがわかる。
急に鳥や獣の鳴き声がすると体がびくつく。
あれ、人の可能性ない?
息が浅くなる。
〝つかむ〟やつ、あの魔法買っとけばよかった。
木、登る時便利そう。
ナギは今誰かといるの?
一人でいるの大丈夫なの?
怖くないの?
あのお団子頭の女の人といるの?
宿で一人で泊まってた時は全然平気だったのに、今は怖い。
暗い世界に自分だけしかいなくなっちゃったような。
自分を知ってる人が誰もいなくなっちゃったような感じ。
その感覚に呑まれそうになると吐き気がする。
頭がぐわんぐわんする。
倒れそう。
気を紛らわせたくなった。
誰かと話したかった。
ナギと話したい。
もう無理なの?
一緒に旅はできないの?
気づいたら寝てた。




