↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ナギとリサの大冒険  作者: あ★い★う★え★お
【桃薔薇の部】第一章
117/132

第108話/僕は、いま死ねる。/Limited_NAGI

少年の思考は〝死〟に振れた。

騒いでいる大人達から飛び出す声が消えた。

興味なさそうに、足で床にあるポーチを手繰り寄せる。

左手を握っては緩め、自分の腿をさわり、落ちているマナベルトに触る。

無意識に掌が使えるというのは本当に便利だ。目の前の大人達を横目にそう思った。

リサが何か短い言葉を叫んでいる。口を開けているのが視界に入った。


ナギは、目の前の人間達の存在を尊重する事を辞めた。

期待や謝罪、要望というには、放たれる言葉はあまりにも言葉足らずで、無遠慮だった。

漠然とした〝願い〟に擬態する失望や罵声を浴びる中で、頭の片隅にはアネットもルントも浮かばない。

ナギは黙って、一人一人を品定めするような視線を向ける。

注意深く耳を傾けると、それぞれの音の輪郭が聞こえてきたが、やがて語彙が尽きたと言わんばかりに周囲に静けさが戻る。

ダーガが首にかけたゴーグルをいじりながら、口を開く。


「で?どうすんだよ。」


即座に反応した。


「どうすんだって?何がだよ。僕に選ぶ権利はあるの?」


右の掌を天井に向け、へらへらしながら言い返す。

ダーガはナギから目を逸らし、黙っていた。

弁解を叫ぶマヤに興味なさそうな目つきを向けると、左手で右肩の裏を掻きながら口を開く。


「黙ってて。汚いから。」


両手で顔を覆い、マヤが黙る。

それを見て、ついため息が出た。

床にまみれている砂を二、三度、擦るように蹴る。

しばらくすすり泣く声だけが道場に響いた後、ナギが口を開いた。


「なんでお前たちは土壇場にならないと、会話すら出来ないんだろうね。土壇場になっても、会話できない奴もいるしさ。なんで世界が自分だけになっちゃうんだろうね。」


率直な感想だった。

ナギの口調が明らかに変わる。

冷たいが、寄り添っているような。

しかし最後には突き放しているような声。


マヤが顔を上げる。

頬からは涙が零れていた。

ダーガとサファは、何を言っているんだという表情でナギを見つめている。


自分が執着まみれだった時、こんなにも会話が出来なかっただろうか。

そう思い、勇者候補に選ばれてからの自分を思い出してみた。

不安だった、さらに怖かった。そして、なんで自分が。という理不尽。感情で現すなら、そんな所かもしれない。

両親ともそれなりに会話していたし、オウ王様とだって…リサとも話していた…他にも…。他にも色んな人と会話をしているはずだ…。

いや、たしかに…。あまり人と会話自体をしていなかった事に気づく。

それでも、世界が自分だけにはなっていない。勇者というポジションを他人に無理に押し付けようなどとは、していない。していないはずだ…。

別の質問を投げる。


「まず、おまえらが揃いも揃って、そっち側に並んで立ってる事から、僕にとっては理解が出来ないんだけど。ダーガもキューを誘拐して。僕に責任を言える立場じゃなくない?サファなんて僕からお金を奪って、あんなに殴って。一緒に旅をしようなんて無理でしょ。リサに限っては僕を殺そうとしてるんだ。ヤマカミは僕をドミヌスに渡そうとしてる。今僕には、この状況が全く分からない。そこから説明をしてくれる人、いますか。」


何故か丁寧な話し方になったが、理由はわからなかった。


「状況が変わったんだよ。ノードが使えなくなったから。チームの抗争レベルの話じゃなくなったんだ。」


ダーガが精悍な顔つきで返してきた。


「てめえのせいだろうが。」


便乗サファ。

それを聞いたナギは上半身を上下させ、大笑いしながら言う。


「ははは!じゃあ、僕があのままヤマカミに捕まってて、サファに殺されるとしたら。その時に、おまえのせいだって、僕がそれを言ったらおまえは何て言う?あははははははははは!サファは〝弱いからいけない〟って言うじゃないか!言ってたよな!僕のせいだって言うだろ!はは!」


爆笑を挟んだ後半はリサを見る。

唇に笑みを残しながら目を剥いて、ダーガとサファに視線を戻す。


「はは!ノードを壊しても僕のせい。死んでも僕のせい。何しても僕のせいなんだろ?それなら僕は僕の目的のために生きるよ!他の人間なんて関係ない!はははは!おまえらは結局、ずっと人のせいにしてるだけじゃないか!そうやって生きてきたんだね!」


アネットがちらついた。

いくらでも他人のせいにできるのに、彼女はしなかった。

自分を見つめてミトハロを発った。


「おまえたちは自分を見つめられないから、人のせいにして生きてるんだろ?セグイドが攻めてくる。クラックランが攻めてくる。そうやって言い訳ばっかりして、動かないんだ!だから動いた奴が気に入らないんだろ!ましてや自分たちが損するなんて耐えられない!」


「そんな簡単な話じゃないんだよ。」


ダーガがぽつりと言う。

目を丸くし、すかさず反応するナギ。


「難しくしてんのはおまえらだろ!あははははは!今回の抗争に参加する前、考える事多すぎて、頭爆発するかと思ったよ僕!そりゃそうだ!みんな!外側でちくちくやってるだけで!真ん中の…核心って言えばいいの!?そういう真ん中の部分の行動は誰も起こさないから複雑になるんだよ!」


誰も口を開かないので続ける。


「なんで皆でノードを壊す方法を探さないんだ!それさえわかれば、周りの国に強く出られるかもしれないのに!サファやダーガが、よく言ってる事と逆の事をやればいい!悪い事したらセグイドが攻めてくるぞ!ってチームの仲間に言うんじゃなくて!自分達は他の仕事を準備した上で!ミトハロの言う事聞かなかったらノードぶっ壊すぞって!周りの国に言えばいい!」


その場にいた全員が、床を見て黙り込む。

聞こえてきた誰かの舌打ちを嘲笑うかのように、へらへらしながら言う。


「ノード壊された壊されたっていうけど!守る気あるのかよ!置いてある所の護衛が四人!?ばかじゃないの!ノードに到着するまでにも、九人しか会ってないよ!人いなさ過ぎ!」


反撃サファ。

怒鳴り散らしてくる。


「うるせえよ!殺人鬼が強かったんだからしょうがねえだろうが!奴らがあんなに大人数だと思わなかったんだよ!ヤマカミはダガヤに手間取るしよ!タリフはおまえにつきやがるし!」


ほとんどドミヌスはいなかったのか。煽りながらそう聞こうとしたが、ダーガが口にした四文字が早い。


「うそつけ。」


「ああ!?」


サファが声の方向を睨みつける。

リサとマヤも、ダーガを向いていた。


「殺人鬼は大人数じゃない。一人だよ。いても二人か三人だ。俺、見たんだよ。配達の帰り。真新しい死体を見つけたから。チームの人間だけは帰らせて、俺だけレモメ街道を偵察したんだ。」


何かを思い出すように、床に視線を漂わせながら淡々と話すダーガ。

サファに視線が集中した。

虚ろな顔つきだったドーゲンとミカも、サファに顔を向けている。

殺人鬼を見ていないと言っていたのは嘘だったのか。そう思い、ナギは表情を消してダーガが口を開くのを待っていた。

ダーガが続ける。


「雷を味方につけたみたいな魔法だった。命乞いする奴を笑顔で殺してたよ。雷の光で一瞬だけそいつと目が合ったら、見た事もない赤黒い魔法が目の前に出来た。相当強いんだと思う。声に出してからすぐに魔法が出来てた。逃げたけど、そのあとも戻って少しだけ見てたんだ。その時は遠くからだったからよくわからない。でも魔法はとんでもなかった。体幹も考えられないくらい強かったと思う。」


少しの沈黙。

何頭かの馬の蹄が地面を打つ音がした。

近づいてくる。

目の前の人間達は警戒の色を浮かべ、音の先を眼球で追っているようだったが、やがて蹄の音は遠ざかっていった。


「青か、緑の短い髪。腰までの外套だけで、軽装だった。頭に花つけてよ。異様だった。多分女だと思うけど、人間とは思えなかったよ。」


ナギの目が丸くなる。

まさか。開いた口が塞がらない。

リサに見られている気がしたが、どうでもよかった。


「アn」


漏れる言葉が続くより速く、サファが反論した。


「嘘つくな!てめえ!でまかせ言ってんじゃねえよ!お、大人数って報告受けてんだ!一人にやられるわけねえだろ!」


「あれを大人数って報告するチームなら、それだけ知能が低い集団だって事だな。」


ダーガが鼻で笑いながら言った。

へらへらしながらナギが口を挟む。


「たった一人にボコボコにされたチームのボスか、頭が悪い子分を持って大変なボス。〝カッコ悪い自分にならない方〟〝みじめにならない方〟を、今選んだって事?子分の報告はちゃんと受けてるだろうから、本当の事に自分は気づいてるのに?どれだけ周りに取り繕っても自分では気づいてるのに?」


執着ってすごい。本当に一人だけの世界でお人形遊びしてるみたい。改めてそう思った。


「私達には、殺人鬼の件は解決したって言ってたよね。まあ、痛手は負ったけど、殺したって。」


真っ赤な目のマヤがサファを向いて言った。


「ああ!殺したよ!俺たちが負けるわけないだろ!」


僕に負けてんじゃん。ナギはそう思った。

ダーガが嘲笑い、揶揄うような口調で言う。


「どうやってあんな化け物殺すんだよ。体が火に包まれても死なない。ほとんど命中する雷魔法。しかも、それを魔力切れがないかのように連発してくる。赤黒い魔法の正体もわからない。エーテルシューズも使いこなしてたぜ。もしかしたら俺たちよりもうまい。あれを殺せる方法があるなら、今回の抗争はサファの圧勝だろうな。」


ナギが鼻で笑う。

それを見たサファが突っかかってきた。


「何笑ってんだよ!今おまえ弱いくせによ!たまたまノード吸収出来たから強くなっただけだろ!」


「アネットだ。」


ナギは笑いを抑えながら言う。

サファが何か短く叫んでいたが続ける。


「その殺人鬼、僕の師匠だよ。エーテルシューズを履いた人間には絶対に負けないって言ってた!本当だったんだ!配達業の人にだけは負けちゃダメって言ってた!」


笑みを抑えるのをやめた。

サファに言い放つ。


「はははは!本当に一人だけでやったんだ!ぴょんぴょん飛び跳ねてるだけで肩で風切って歩いてるおまえらをぶちのめした!おまえは僕に負けたんじゃない!アネット一人にとっくに負けてたんだ!おまえのせいで何人子分が死んだんだよ!自分でやれよ!臆病者サファ!あははは!」


周りに散らばるポーチ、ベルト、ナイフをひとつひとつ拾い上げる。

大笑いしながら言った。

〝臆病者サファ〟その言葉でサファが怒り狂うように、早口で何か言い出した。

ナギはにやりと笑って、決めつけるように言う。


「おまえ多分引っ込みつかなくなって、意味わかんない感じでアネットに突っ込んでったでしょ?」


拾ったカランビットナイフを指でくるくると回しながら、逃げられるのにバシナリー広場から逃げられなかったサファを思い出す。

怒りに満ちた目つきで唇を歪ませているサファ。

回す勢いで飛んでいくナイフのカバーを見ながら、アネットが出発してからの事を思い出す。


(たしかに。アネットが出発してから数日後に殺人鬼の話が出た。その情報が出た後、ルントがいなくなっちゃって、皆いなくなるなって悲しかったから覚えてる。殺人鬼はきっとアネットだ。)


カバーを床から拾い上げる。

砂を払って〝一日一善〟の前に一列に並ぶ大人達を見ながら口を開く。


「話、戻そうよ。あ、もう戻さないでいっか。別に。僕も好き勝手喋ればいいんだもんね。おまえらに気を使う必要ないし。」


特に返事を待たずに喋り出す。


「そこの、おまえ。首からゴーグル下げてる。おまえ。」


眉間に皺を寄せたダーガと目が合った。


「おまえさ、素直になれよ。まどろっこしい事してないで。素直に協力してくださいって言え。僕が絶対に参加するように周りを整えるのも別にいいけど、いやだめだけど!そんなのやめてって言っても止められないんだから、一旦それは仕方ないとして。でも…、じゃあ!ノードが壊れたって状況が決まった時に喚くな。めんどくさい。自分で状況は作る癖に、思いもよらない状況に喚くな。ぎょまっ」


噛んだ。

構わず再開した。


「おまえのそういうめんどくさい所で、なんで〝まとも〟なパルやマークが悩まないといけないんだよ。おまえのチームに〝墓場〟が出来る理由、なんかわかったよ。あと、今もさ、すぐ横にサファがいるんだからさっさと殺せよ。そのための抗争だったんでしょ。おまえ中途半端なんだよ。今やれよ。殺せ。はやく。ほら。」


矢継ぎ早に言う。

動かないダーガから顔を逸らす。


「次、そこの。〝腐れギャル〟」


リサを向いて言った。

何故かマヤが返事をしていた。


「おまえもめんどくさすぎ。自分で決めろ。ドミヌスに入るなら入る。僕と仲間を解散するならする。自分で決めろ。周りに流されるのもおまえが決めた事だよ。〝周りに流される自分を許した〟のは自分だよ。」


勇者候補になってからの自分を思い出して話した。


「もしおまえが許されるなら、その場の感情に流されて他の女の人も好きになっちゃうジョージはなんで家の前で土下座してるんだ。そうでしょ。困った事があったら話しかけてほしかったし、僕はおまえの相談も聞く気あったよ。おまえが拒絶したんだよ。腐れギャル。気持ち悪いんだよ。ドミヌスに入ります。僕とは仲間を解散してません。でも僕の命は奪います。これね、しんどすぎ。おまえの都合の良い事ばっかり言いすぎなんだよ。」


大きな息が出た。


「おまえが責められないように主張し過ぎなんだよ。でも、今回の事は僕もいけなかったかもしれない。タトゥーを見た時に信じられなかったんだ。だから、僕から今はっきり言うよ。死ね。二度と僕の目の前に顔出すな。腐れギャル。」


興味なさげにリサから目を切ったので表情はわからない。

マヤを指差すと、肩がびくついていた。


「次、あんた。汚いとか汚くないとか、おまえが思ってる事はどうでもいいんだよ。汚いと思って、それが自分で嫌なら綺麗になればいいでしょ。汚くないって自分が思ってるならそれでいいでしょ。他人に任せないで。めんどくさい。自分が自分の事を思いたいように。そう思えるように生きなよ。……最悪のおっぱいでした。ええ、とても。僕の正直な感想ですが、とても気持ち悪かった。以上です。」


最後の言葉は、なぜか母のナエラの口調になった。


隣にいるアエスをちらりと見て、顔を背ける。

彼こそ、戦場で逃げられるチャンスはあったはずだ。

ここにいるという事は、彼の言う通り、覚悟が出来ているのだ。そう言い聞かせた。


虚ろな表情で壁にもたれかかるミカは無視をした。

サファを見る。


「おまえ、なんなのそれ。」


「ああ?」


顔を上げるサファ。


「仲間にしてほしいなら説明しろよ。大事な事なにも言わないで仲間にしてって、都合よすぎない?リサには、もう説明したのかもしれないけど、僕にも説明しなよ。」


マヤがぽつぽつと口を開く。


「敵だと思ってる存在に攻撃されると入れ替わる。サファの時は攻撃的にしか喋れない。ミライ?男の時は謝る事しかできない。男は魔法が使えない。相手を傷つける事も出来ない。その代わり、攻撃されても全然効かない。これは私の予想だけど、なんかの魔法だと思うよ。」


なんだそりゃ。そう思った。

何か問答する上での手掛かりはないものかと、ルントとのやりとりを思い出すが、わからない。

ここまで飛躍した情報をどう扱えばいいのかわからなかった。

気持ち悪くてごめんね。と話を続けているマヤ。

気持ち良くさせてあげたいから時間を取ってほしい。そう言われていたのを無視して、ドーゲンに聞く。


「中にいるのは二人?一人?」


言うと、目を丸くさせたドーゲンと目が合った。

ナギにはその意味がわからなかった。


「一緒。一人の人間。」


ダーガが言う。


「魔法なの?」


サファとドーゲンに視線を向け、問いただす。


「それ以外になんかあんのかよ。クソガキ。死ね、低知能が。」


舌打ちをしながらサファは言った。


「もうそれ、人間じゃないでしょ。」


的を射ない答えに少し苛立ったが、ナギは言葉と共に、笑みが飛び出していた。


「てめえ!今何て言った!それだけは許さねえからな!」


両肩のない上半身を震わせながらサファが言う。

ドーゲンが口を開く。


「サファはね、エマナリ島の出身なんだけどーー」


うんざりした様子でナギは言葉を遮る。


「昔の話はいいよ。おまえはお金返してから喋ってよ。二十万エンテ。」


ドーゲンが下を向く。

やがて床の上に散らばっている砂を、軽く掴んでは零していた。

初めて見た時に、なんとなく同情してしまった〝道端〟を思い出して話し続ける。


「昔の話って僕、あんま好きじゃないんだよ。昔、そういう出来事があったから、今悪い事しても許してねって言われてるみたいで気持ち悪いんだ。懐かしい思い出の話とか、楽しい話だったらいいんだけど。」


一呼吸置いてサファに話を戻す。


「おまえ、僕が攻撃したら入れ替わるけど、僕の事、敵だと思ってんじゃないの?そんな奴と旅に行けるわけないじゃん。余裕なさ過ぎ。おまえも中途半端っていうかさ、嘘ばっかりじゃないか。殺人鬼も解決したって言って解決したかわかんないし。リサが楽しそうだって言ってるのにこいつはこんな感じだし。」


〝別の生命体〟を指差した。


「おまえら、全員めんどくさいんだよ。なんでここまで誰も、素直に会話ができないんだ。皆で協力してセグイドから街を守ればいいじゃん。あと少しで解放されるなら、それを街の皆に知らせてあげて協力すればよかったんだよ。どうせおまえの事だから、そう言ったとしても、怖くなっちゃって誰かを騙して犠牲にするんだろうけどさ。」


黙るミトハロの人間達。

ナギの中では、もうリサもその一員であった。

言葉が止まらない。

ダーガを見る。


「ノード壊された壊されたってずっと喚いてるけど、こじつけて喚いてるだけで、別にダーガだって守ろうとしてなくない?まさか壊れると思ってなかったって?そう考えてた自分が悪くない?そんなの僕に言われても困る。どこまでそっちの都合に立てばいいんだよ。その内、こんな世界だと思ってなかったからダーガにしかメリットがない世界に作り替えてくれとか言い出しそうだよおまえ。いい加減にしろよ。大体ね、キューを誘拐されてヤマカミにも拘束されて、僕にはあれしかなかったし。」


俯いているリサを睨みつける。


「結局、おまえらは誰一人ミトハロの事を考えてないと思う。考えてるかもしれないけど、なんか別の事…自分の事を優先してるからうまくいかないんだと思う。」


「ガキの癖にうるせえんだよ!わかった事言いやがってよ!ガキはいいよな!好き勝手言えてよ!なんのしがらみもねえ!おまえだって年取ったら一緒だろ!別に変わんねえよ!」


サファが噛みついてきた。

僕、勇者って最悪のしがらみ持ってるんだけど…。目を細めてそう考えていると、ダーガも付け加えてきた。


「ナギ、落ち着けよ。おまえが思ってるほど大人は単純じゃないんだよ。」


落ち着けとはよく言えたものだ。

つい拳を握り締める。一瞬、後頭部が熱くなるのを感じた。

〝ひやすね〟が欲しい。そう思うと頭が冷えた。


「ガキとか大人とかどうでもいいよ。自分の事ばっかりしか考えてないからそこの意味わかんないジジイババアみたいのに利用されるんじゃないの。〝道端〟みたいなさ。」


ドーゲンを指差すが〝道端〟を考えながら言う。


「おまえらの年がいくつかわかんないけど…。ガキの癖にっていうなら尊敬させてみなよ。ダーガも口では殺す殺すっていうけどサファがいざ目の前に来たら何故か一緒に話してるし、サファはサファで攫うって言ってただ殴るだけだったり、広場で会っても、ずっと僕にボコボコにされてるだけだし、マヤに至っては一人だけ自分の話をしてる気がするしさ。言ってる事とやってる事めちゃくちゃなんだよ。リサは…」


もういいかと、話を切る。

アネットが浮かんだ。


「自分で向き合いたくない自分から目を逸らすために、身の回りの何かに縋りついてるんだと思うけどさ、おまえらよりも年下の人で自分と向き合ってる人見ちゃったら、おまえらって年下に見えるよ。」


当初叫んでいたはずの彼らの〝願い〟も別の話題となっている。

たまに噛み合いはするが、ほとんど会話が成立していない。


とりあえず思った事を叫んだから、もう本人達の中では問題ではないのかもしれない。

〝自分はちゃんと言ったがダメだった〟〝自分は動いたから悪くない〟〝相手が薄情だった〟

そんな感じで、あとは〝何か〟で言い聞かせるのかもしれない。ほくそ笑みながら、ナギはそう思った。


ポーチから有り金の全てを掴み取り、ポケットに突っ込む。

左手につけているグローブが視界に入る。

血でどろどろだった。ついでに新品のマナフィルムをポーチから出すとズボンのポケットに入れる。

〝一日一善〟とは反対の壁に開いた、大きな穴に向かって歩き出した。


「おい。どこいくんだよ。」


ダーガの低い声が背中から聞こえてくる。


「おしっこ!」


顔を横に向け、苛立ちを滲ませながら答える。

壁に開いた穴の縁を掴み、顔を出す。

不安そうな顔のパルがいた。フライパンを持っている。

肩が跳ねたのが見えた。

ナギの左腕を見ながら、声を潜めて話しかけてくる。


「大丈夫?なんで、ドミヌスも、いるの?」


少しだけ言い淀んでいた。


「わかんない。」


笑いながらそう答えた。

眉間に皺を寄せ、パルがフライパンを差し出しながら言う。


「ねえ、これ。マークが、やっぱり返すって。ちゃんと自分で買うって。」


少し笑って受け取る。

アルセナ製のフライパン。全く思い入れはないが、懐かしい感じがして口元が緩む。


「レイシー。助けてくれたんでしょ。ありがと。」


笑いながら言うパルを見て首を左右に振る。


「なんか女の人も居たけど。あれがカイバさん?こんな時に何してんのってちょっとむかついた。」


わざとらしく語調を変えるパルの顔から目を切る。

足元を見た。

ナギの表情が寂しげに変わり、ぽつりと言葉が出る。


「ノード、壊しちゃってごめん。」


「それね!もう疲れちゃった!」


少し大きな声が返ってくる。

パルは慌てて自分の口を覆うと、ナギの左腕に視線をやりながら、開き直ったような、安心を滲ませたような顔つきで続ける。


「色々トラブルがあるのもわかるし、売上が大変だとか。そういう事情もあるのもわかるんだけどさ。さすがに誘拐は引いちゃった。なんかもう、チームとか、どうでもいいかも。あたしの方こそごめんね。キューは大丈夫だから。マークとレイシーも見てるし。」


口元を覆っていた手の人差し指で、頬についた毛を払いながら言った。

首を横に振るナギに、パルは少し弾んだ声を出す。


「最後の魔法。凄かったね。あれナギでしょ?なんかあたし、スカッとした。キューが拍子抜けするほど、大丈夫だったから。それ教えようかと思って、また広場来てたの。〝すな〟のやつ。見てたよ。」


「うん。」


他になんと言っていいのかわからず、とりあえず言葉を置いた。

話を変える。


「配達、お願いしたいんだ。手、出してくれる?」


パルは眉間に皺を寄せながら掌を差し出した。

その上に金を置く。

眉間の皺は解れていき、眉が上がる。

口を半開きにさせたままのパルと目が合った。

四万五千くらいあるだろうか。

現金の全てを渡す。


「三千エンテずつ、パルとマークで分けて。配達料でいいから。ちょっとキリが悪いけど、三万九千は、キューに渡してくれる?宿、休業しちゃってるらしいんだ。」


「うん。わかった。でも、配達料って言っても、多すぎない?こんなにもらっていいの?」


掌の上の金とナギに視線を往復させている。

パルは訝し気な顔つきだった。


「うん。色々ありがとね。」


ナギは微笑んでそう言った。


「じゃあ、あたしが配達するんだから、マークは二千だね。それでもいい?」


にやりと笑ってパルが尋ねる。

つい噴き出して頷いた。

金を数えて腰にある小さなポーチにしまっているのを眺めていると、別の質問が飛んできた。


「さっきここから出てきた人と。付き合ってるの?」


悪戯な顔つきと目が合った。

ウォッチの事だろうと、目尻を緩めて返す。


「ただのお姉ちゃんだよ。」


息を潜めていた事など忘れ、ころころと笑うパル。

ナギもつられて笑ってしまった。

落ち着くと、少しだけ低い声でナギが切り出す。


「この辺、まだ魔物いるからさ、急いで離れてほしいんだ。」


嘘をついた。

いや、嘘かどうかはわからないが、そう言った。


「これからどうするの?」


パルが聞いてきた。

何と答えようか。視線を宙に漂わせる。

広場の方に〝山〟のようなものが顔を出している。

空に塵が舞っていた。


「わかんないけど。多分、北に行くかな。」


本当にわからなくなっていた。


「また、会えるよね?」


屈伸をしながら上目遣いで、パルが平然と言う。


「うん。」


ナギは一瞬目を逸らすが、パルを再び向いて答えた。


「わかった。じゃあ、またね。」


目尻を緩ませて少女がそう言った。


「うん。また。」


笑顔で走り出すパルを見えなくなるまで見送った。

エーテルシューズを履いて駆ける様子は新鮮だった。


表情を消して、道場に入る。

壁の破れ目が腐っていたのか、ノードが体内に残っているわけでもないのに、触れた部分が崩れていた。


道場の中央に戻っていくと、ダーガとサファが何か言い合いをしている。

マヤが声を荒げてきた。


「ナギ君!子供とか大人とか関係ない!ナギ君の力が必要なの!私なんでもするから!」


数歩前に出てくるが、魔法で吹き飛ばされると思ったのか、途中で立ち止まるマヤ。

両肩のない女とゴーグルを首にかけている男がすっと黙る。

ナギは少し近づくと、目の前に並ぶ人間達を見て、口を開く。


「僕はおまえ達みたいな大人にはならないと思う。〝そうじゃない大人〟もミトハロで見たから。」


卑しい笑顔を浮かべながらサファが言葉を返してきた。

髪をかき上げている手がないからだろう。顔をぶるぶる震わせて言った。


「てめえ、一人で生きていくつもりかよ。恋人も家族もいらねえってのか。寂しいねえ。でも作りゃ作ったで〝弱み〟になるもんな。俺みたいに一人で生きていくのが一番強ーーーーー」


くすくす笑いながらナギが反論する。


「サファ、おまえほんとに、さっきから何言ってんだよ。いや、もう〝ずっと〟か。ずっと何言ってんだよ。おまえ。」


「ああ?」


何を言われたのかよくわかっていないような表情のサファ。


「一人とか大勢とか関係ない!おまえ達はただダラダラ生きてるだけだろ!僕は〝今、死ねる〟んだ!」


大笑いしながら言うと、目を瞑る。

大きく息を吸った。

瞼を開ける事なく、自分から飛び出る言葉を聞く。


「お前達はただ生きてるだけだろ。僕は、今死ねる。」


改めて言うと生きたくなった。

しかしそう思うと、何を救えばいいのかわからなかった。


(出すぞ!魔女確!サファ!こいつ絶対に魔女!)


〝ああ、ちびっこ達。いないと思うけど、もし魔女を見つけたら教えておくれよ。高く買うよ。〟


ブローチから言われた言葉を思い出す。

瞼を開け、天井を見る。

口を大きく開けてブローチの名を呼んだ。


「ナギ!」


リサの声がした。

初めて見上げた気がする〝ドーゲンミライ道場〟の天井は、所々塗装が剥がれ落ち、無数の穴が開いていた。

木材がそれぞれ膨張したように隙間が開いている。

ここは〝道場〟じゃない。ナギはなんとなくそう思いながら、ブローチの名前を何度も叫んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。