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ナギとリサの大冒険  作者: あ★い★う★え★お
【桃薔薇の部】第一章
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第107話/会話にならない大人達/Limited_NAGI


棚の倒れる音が奥の部屋で響いている。

ナギの顔を見るなり駆け寄ってくるマヤを、奥の部屋に魔法で吹き飛ばした。


ノードを吸収していないが、それなりに強いように思えた。

追いかけるように奥の部屋へと走っていくアエス。

それを見て舌打ちが出た。


(なんであいつもいるんだよ!)


ダーガを見据え、ナギが口を開く。


「なんでキュー、攫ったんだよ。」


リサがダーガを見る。

サファが喚く。


「ダーガ!おまえのせいかよ!俺がひどい目に遭ってんだよてめえ!」


「誰かそいつ黙らせてよ。」


鼻で笑いながらナギが言う。

険しい顔のサファと目が合った。

奥の部屋からよろよろと出てきたマヤが口を開く。


「別に、戦いたい、わけじゃないの。」


ちらりとも見ず、ダーガを問い詰める。


「なんで攫ったの。」


「ナギ。サファも一緒に旅をする事になったから。」


リサが口を挟んできた。

意味が分からなさ過ぎて無視をした。

ダーガがぽつりと口を開く。


「ウチから参加してほしかったんだよ。」


心臓が大きく波打った。やはり自分のせいだった。

その次の言葉で、さらに鼓動が速くなる。


「おまえ、勇者だろ。」


マヤが小さい声を上げる。視線がナギに集中した。

リサはダーガを何気ない表情で見ていた。

サファの目の色が変わる。


「パルの回復を毎日させてたのも。それを知ってたからなの?」


平静を装って、ダーガを睨みながら言う。

視線が合わない。

弱々しい言葉が返ってきた。


「違う。そん時は、おまえが魔法使いだから、ただ関係を持っておきたかった。」


ナギが口を開く前に続ける。


「カウンターの仕事もそうだった。近くに置いときたかったんだよ。おまえが勇者だってのは、その時に行った配達先で知ったんだ。もう一人いんだろ。勇者。」


一瞬リサに行きかけた視線を止める。


(成長してるからわかんないのか。)


「ナギ君!ミトハロに残ってほしいの!助けてほしい!裏切ったのは本当にごめんなさい!」


叫ぶマヤを気にせずにダーガに話しかけようとした時、リサが口を開く。


「ナギ!無視しないで!サファと一緒に行く事になったって言ってんでしょ!」


鳥肌が立った。

ついリサを見てしまった。

歪んだ顔と目が合った。

今までの自分の行いを、なかった事にするのだろうか。

ナギは本当に理解が出来なかった。

リサが何か、別の生命体に見える。


「リサ、おまえ、ドミヌス入ったんでしょ。もう仲間じゃないよ。」


「あたしドミヌス入ってない!ナギとも解散するなんて言ってない!」


ナギは言葉が出なかった。

あの時に殺しておけばよかった。

ため息をつきながらそう思った。


じゃあ、なんと言えば〝この生命体〟と会話が成立するんだろう。

アネットの〝木箱の話〟が浮かぶ。

〝世界を彷徨ってしまう〟これが今、まさに目の前で起きている気がした。

自分の思いたい通りに思い込み、言葉を発し、自分の思う方向に話が進まなければ相手を責め。喚く。


アネットが手を差し伸ばさない理由も、改めてわかった気がした。

めんどくさいとか、リスクがあるとか。そういう事じゃない。


会話が成立していない事が相手にはわからないのだ。

その認識自体が、相手にはないのだ。

きっと会話が成立していると思って話しているに違いない。

今、目の前にいる化け物は、自分で自分が正しいと本気で思っている。


「ナギ!てめえの意見は関係ないだろ!リサが一緒に行くって決めてんだから!」


叫ぶサファに言い返す。


「そうだよ!僕は関係ないんだ!別におまえとリサが一緒に旅をしようがどうでもいいんだよ!おまえの言う通り僕は関係ないんだから!勝手に行けよ!」


「ナギ!」


叫ぶリサ。

サファが続ける。


「そうじゃねえよ!俺も一緒につれてけって言ってんだよ!おまえリサとまだ仲間なんだろ!?」


目の前がぐわんと揺れた気がした。

想像以上の支離滅裂さに焦る。

自分が悪いような気さえしてくる。

正気を保つように声を張り上げる。


「話聞いてたのか!?おまえら頭大丈夫なの!?ドミヌスに入ったんだからもう仲間じゃないでしょ!」


「なんでそんな事言うの!?あたし仲間をやめるなんて一言も言ってない!」


リサが涙目になっていた。

こいつほんとなんなんだ?ナギはそう思った。


「おまえ〝勇者教本〟読んでないのかよ。」


ダーガが口を挟む。


「〝勇者教本〟?」


思わず視線をやり、聞き返す。


「関わった街の困り事、トラブルは出来る限り関わるべしって書いてある。」


こいつも何を言ってるんだ?ナギは思った。


「ミトハロを守ってほしいの!残ってほしいの!私ならなんでもするから!」


涙を溜めながらマヤが叫ぶ。

ナギは肩で息をした。


なるほど。こいつら別々の〝お願い〟を自分にしてきているのか。

そう思い、心の底から軽蔑した。

目の前で立っている人間達に視線を這わせる。


一番端、入り口側には、今にも泣きだしそうなリサ。

宿屋で虚ろな目をしたかと思えば、戦場では睨みつけ、今は泣きだしそうだ。

全く会話になっていない。

なぜ急に一緒に旅をすると言い出したのかは、全くわからない。


その隣、奥の部屋に続く入口の前にいる、マヤとアエス。

マヤは、断っているにも関わらず、胸を触らせてきた。

汚くないと言っても、汚いと言い張って、会話にならない。

挙句の果てには〝汚くないと思っているなら証明しろ〟そう言い出す始末。


はっとした表情になる。


今思えば、アエスも最初おかしかった。

〝どっか行け〟と言われ、それに従おうものなら〝ここに居ろ〟と言う。

こいつもおかしいのだ。


その隣にサファとドーゲン。

ドーゲンは死んだ顔をして座っていた。

もうこの二人は思い出すだけで鬱陶しい。

勝負をしようと言ってかかってこないミライが浮かび、鼻で笑いそうになった。


一番端にいるダーガ。

マークに盗まれたフライパンの代金をいらないと言っているのに、かなり無理に引き留められた気がする。

それは、彼が言うように関係性を作っておきたかったのかもしれない。


しかし、戦場ではどうだ。

サファを殺すだの、ドミヌスのやり方が気に入らないだと言っておいて、なかなか手を下さない。

ナギが散々、サファをボコボコにしたのだ。

チャンスはいくらでもあったはずだった。


ダーガとサファの間にいる、片腕のない、虚ろな顔をしたミカ。

ナギが言い放った〝歓楽街行き〟を仄めかした台詞が効いたのか、命乞いをしてきた時の勢いはない。心ここにあらずだった。

拘束された時、彼女は一方的に話していた。話さなくてもいい事まで。

マヤが自分に嘘をついたかもと聞くと、急に激昂もしていた。おそらく不安だったのだろう。


ナギは肩で息をした。


〝狂ってる〟で言えばウォッチもそうだ。

E棟の屋根の上では狂っていた。さっきはだいぶ抑えていたのだろう。

しかし、彼女はなんだかんだ相手を尊重するのだ。

自分の希望はいえど、相手の意見を聞ける。そういう常識ある〝狂人〟なのだ。


ここにいる奴らは、自分の都合しか話さない。

いや〝話せない〟のかもしれない。そういう風にしか考えられないのかも。

何か、会話をしてしまうと〝自分が自分でなくなってしまう〟。そういうものがあるのかもしれない。

ナギはそう思った。


喚くサファと懇願するマヤの声が交じる中、考えを巡らせていた。

ダーガが信じられない事を口走る。


「ナギ。責任とれよ。ノード壊したんだから。俺たちこれからどうすればいいんだよ。おまえなんとかしろよ。ミトハロのこれからを手伝えよ。」


マヤが制止するようにダーガの名を呼んだが、サファが便乗する。


「そうだろ!責任とれよてめえ!ノードもそうだけどな!俺の両腕もこんなんしちまいやがって!セグイドからも解放される予定だったんだよ!あと少しだったんだ!おまえが全部悪いんじゃねえかよ!勇者のくせに街を壊してんじゃねえか!ふざけんな!街はどうでもいいから俺を守れよ!一緒に行くからな!旅!」


「もうこんな街!さっさと出よ!あたしもう居たくない!」


リサが叫んだ。

マヤは顔を手で覆い、膝をついて泣いていた。


「おまえが、勇者じゃなきゃよかったのによ。もっと、頼りになる奴がよかった。せめて、もう一人の奴と会いたかったよ。女なんだろ?」


ダーガのぽつりと言った台詞に、ナギの頭の中で何かが音を立てて弾けた。

目から光がなくなり、言葉を浴びせてくる目の前の〝それら〟を呆然と目で追っていた。

ダーガに顔を向けて叫んでいるマヤ。

下卑た笑顔で罵ってくるサファ。


このまま旅を続けても、ずっとこういう人間達の相手をしないといけないのだろうか。

自分はもう気づいてしまったから、自分を誤魔化す事は出来ない。

彼らのような人間に合わせる事は出来ないのだ。

適当に相槌を打ち、話し相手になるくらいなら出来ても、彼らの望む事は絶対にできない。

これがパルやマーク相手ならともかく。いや、その二人の方がよっぽど会話になるじゃないか。


「ナギ!子供みたいな事言わないで!」


言われた言葉に耳を疑った。

これは、待ってるのだろうか。

彼女流の、自分と会話したい意思表示なのではないだろうか。

そう。狂っている演技かもしれない。


〝僕、今黙ってるだけだよ〟そう言ってほしいのか。〝おまえ、僕とほとんど年同じだろ〟そう言ってほしいんじゃないのか。

顔を真っ赤にし、目には涙を溜め、口を歪ませて叫んでいる、明らかに演技とはいえないリサの顔をまじまじと見つめる。

ふふっとつい笑いが漏れた。


僕は、こんな世界を救わないといけないのか。

そう思った途端、泣きそうな表情に変わっていく。














全てがめんどくさかった。

少年の思考に〝生と死〟が揺れ動く。

世界線が、変わる。



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