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ナギとリサの大冒険  作者: あ★い★う★え★お
【桃薔薇の部】第一章
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第101話/ナギ VS 巨大ムカデ/Limited_NAGI

突っ込んできた壁から広場に戻ると、E棟前の戦いはさらに入り乱れていた。

クラックランの増援があったのか、鎧を着ている人間が増えている。人数を数えるのも難しい状況だった。


S棟の方面から絶叫が響く。

見れば、一人の人間がナギに向かって加速してくる。大きく開いた口からは怒号が漏れていた。

半身になり顔面に狙いを定め、ふらふら漂わせるように左手を翳した。

襲ってきた人間は、止まれずにナギの左手に突っ込み、とろりと溶ける。

制御を失った身体は、勢いだけを残してナギの横を通り過ぎていった。

砂埃と共にN棟の前にだらんと横たわる死体。

叫びながら襲ってくるのってなんかの物語みたい。そう思いながら視線を戻す。


N棟からは離れ、広場のほぼ中心に立つ。

乱戦に数歩近寄って手を翳す。

入り乱れる人間の中からシューズを履いた人間を〝つかむ〟。

左手から出た帯を右手で掴み、振り回そうと横に引っ張った。


女が転がった状態で、砂埃と共に目の前に現れる。

母のナエラから頼まれ、家の裏に生えた雑草をしぶしぶ毟るように、うつ伏せになっている女の首へ左手を伸ばす。

触れた箇所から崩れ、女の頭が地面へ落ちる。

地面についていた手から力が抜け、その場に突っ伏した。


(なんでブローチみたいに〝つかむ〟を振り回せないの?ふわふわさせるのは出来たのに。)


少年は眉間に皺を寄せ、S棟の壁面とその付近でぴょんぴょん跳ねるシューズの集団に左手を翳す。

雑に狙いを定めた。


壁面に張り付いている人間を〝つかむ〟と同様に横への力を加えようと角度をつけて引っ張るが、先ほどと同じ。

やや魔法の帯からはズレて、砂埃と一緒に人間が近くに現れるだけだった。

ため息をつき、肩を落としながら近づくと、左手で首に触れる。


ブローチは〝つかんだ〟ナギを振り回し、真後ろから迫るリサにぶち当てていた。

それがやりたかった。

ぼんやりとS棟の屋根を見上げながら、当時の事を思い出す。

リサがいる。マヤかミカに近寄っていた。


ブローチの〝つかむ〟と自分のものは何が違うのだろう。立ち尽くして考える。

首から上がなくなった死体を〝つかんで〟ふわふわと帯だけの力で浮かせる。

死体を動かして帯の張力を調整し、弛ませては張る動きを繰り返した。

ノードを吸収してから、サファを持ち運んだように、帯を揺蕩わせたまま移動する程度なら出来る。

しかしそれだけだ。


唇に力を入れる。やや前傾姿勢で拳を握り、目を細める。

帯に力を籠めてみた。

何も変わらずにふわふわ浮く死体。

高速で操作するのは難しそうだった。

脱力ながらに息を吐く。


横からナギの足元に滑り込むように襲い掛かってくる人間を、前に飛んで避ける。

着地と同時に振り向き、通り過ぎていく敵の背中を〝つかむ〟。


少し弱い力で帯を引っ張った。

同時に自分の胸に〝はなれて〟を撃ち込む。

敵が引き寄せられている直線とは直角に、自分を後ろに吹き飛ばす。

引っ張って引き寄せた人間の軌道と、ナギの〝はなれて〟の軌道が〝T〟になる。


それまでナギがいた位置を通過して、帯の延長線上に滑り転ぶ人間が見える。

その勢いを利用して横に振ろうと、腕を限界まで伸ばす。

帯をなるべく体から離れた位置で引き、振り回すように力をかけた。

滑り転ぶ人間がそのまま直線状に、ナギの足元に現れた。

結局、二回引っ張っただけだ。


顎を上げながら強く目を閉じて、落胆の声を出す。どうしても回転しない。


再び目の前に現れた人間の腕を落とす。

片手で使えない事を祈りながら、とりあえず魔法を封じる。


頭を魔法で〝つかみ〟、叫び声を気にせず、帯で空中に漂わせる。

相手からは手足が届かないぎりぎりの距離まで近づけた。

〝つかんでいた〟のは女だった。


女は、焦りと笑みに揺れ動く表情で、ヤらせてあげる、なんでもしますと叫んでいた。

頭に伸びる魔法の帯を凝視するナギ。


その内、女は目を見開いて口を歪ませていたのがぼんやりと映る。

涙目で足をばたつかせ、矢継ぎ早に何か叫んでいた。


ナギは左足を軸に腰を捻り、右足で女の膝裏を蹴り抜く。

聞こえてくる呻き声を気にせずに、着地と同時に足の位置を小刻みに調整する。

捻った腰を戻す勢いに乗せ、右手の甲を腹部へ叩き込んだ。

蹴るつもりはなかったが、せっかく腰が回っているので、勢いに任せて左足を女の腰の辺り目掛けて振る。

女の頭を〝つかむ〟帯は、衝撃の反動でゆらりと揺れるだけでほぼ固定されたままだった。


(〝これ〟はできるんだよね。)


ブローチに〝つかまれて〟連打を食らった経験がちらついた。

あん時、お腹殴られたの痛かったなあ。そう思いながら腹を擦り、細目になった。


広場の真ん中で思いを馳せていると、急に魔法の帯が重くなる。

ノードを吸収してから、今まで魔法の帯に抵抗は感じなかった。

建物の屋根に移動する時も大して感じていない。焦って前を向く。


女の体が、くすんだ緑色の液体のようなものでべっとりと覆われていた。

聞こえてくる命乞いの叫び声に困惑が混じる。

女に纏わりつくねばついた液体の先、燃えるW棟の付近に〝巨大なムカデ〟がいる。

口元から緑色の液体が伸びていた。


(デカムカデ!)


壁を這っている時よりも地上にいるそれは大きく感じた。

うぞうぞと動いている無数の足。

W棟の二階部分に届きそうな程の高さ。

尾の先は建物の後ろまで伸びていて見えない…。


帯が引っ張られ、思わず前へ数歩よろける。

咄嗟に奥歯を噛み締め、女に伸びる帯を掴んで踏み止まる。

〝デカムカデ〟と女の間で、帯が張り詰めた。


だが、地面があまりにも乾いていた。

踏み込んだ足が表面の砂を削り、そのまま滑る。


そろそろ魔法が切れるかも。そう思い、新しく〝つかむ〟を女へ発動させる。

ずるずると引き摺られる。

〝はやく〟が過るが、なんとなく使いたくない。

堪らず帯から手を離し〝デカムカデ〟の頭に向けて〝もうれつにはなれて〟を発声した。

頭部が跳ね上がり、巨大な体が地面からせり上がる。

手元がさらに引っ張られる。足が浮きそうになった。


もう一発、高威力で〝はなれて〟を発声する。

そのまま燃えるW棟へ巨体が傾いていく。

倒れる力で一気に引っ張られると思い、腕と腿にさらに力を入れる。

再び帯を手で掴み、腰を捻り体を反転させる。


引っ張るというより、前を向いて帯の下に肩を入れ、体重を預ける。

木材の破砕音が鳴り響き、W棟から上がる黒煙が勢いを増したのがちらりと見えた時。

張り詰めたものが切れるように力がかからなくなった。

反動で前に転ぶナギ。


振り向いて上半身だけ起こす。

少しだけ息を切らして辺りを見回した。

ムカデは体をくねらせ、崩壊したW棟の上で燃えながら暴れている。

ねばついた液体を纏った女も地面に突っ伏していた。

ムカデの粘液は途中で切れているようだった。


〝デカムカデ〟に〝つかむの引っ張り合い〟で負けそうになった。

いや、負けていた。

ある事に気づき、悔しさよりも、胸の中に〝黒いそれ〟が湧く。


きっと自分の〝つかむ〟は帯を帯として維持する力が弱い。ナギはそう思った。

人間相手には強いかもしれない。しかしそれだけだ。

だから鞭のようにならない。鞭のような状態を少しも維持できない。


魔力が弱いのか、使い込んでいないからなのか、何かコツがあるのか。

理由は全くわからない。

しかし、唐突に全てがどうでもよくなった。


こんなに強くなっても。これが最強ならまだしも。まだ上がいるのだ。

結局、強くなったとて、上には上がいる。

ノードを吸収してから魔力は桁違いに上がっている。

しかし、どれだけ努力をすればいいんだろう。

ナギは漠然と、なんとなく、途方もない距離を感じた。

ブローチには一生勝てない。改めてそう思った。


(強くなるって虚しいんだな。)


少年の目からは光が消えていた。

突っ伏している女に近づくと、涙を流しながら御礼を言っている。

なんでも言う事を聞いてくれるらしい。


身を屈めて、粘液まみれの首を掴んで溶かす。

頭が地面に落ちた。

自分で襲ってきた癖にこいつは何を言っているんだろう。ナギはそう思った。

ため息をつきながら上体を起こし、E棟に視線を移す。

乱戦の人間達を見て、ため息をひとつついた。


少し近づくと、乱戦に手を翳し、適当に〝つかむ〟で数人引き寄せる。

膝を曲げ伸ばしして、左の掌の位置を調節した。

大体定まると、転倒している数人の首へ掌が当たるように雑に走り出す。

駆け抜ける背中にくぐもった声と悲鳴が聞こえた。

振り返ると二人動いている。


近寄って首に触れる。

地面に落ちる頭に目もくれず、入り乱れて戦う人間達に近づいた。


鎧の集団はふたつに別れ、それぞれ戦っていた。

どちらにもすぐに駆け付けられるような距離。

そのひとつの集団の前にいる配達員達を凍らせると左拳で殴りつける。


(六?八?…もう別にどうでもいいか。)


すぐ横で、鎧の人間が男の背中に乗り、取り押さえていた。

何か叫んでいる。

ゆらりと近寄ると、取り押さえられている男の顔に左の掌を押し付ける。

抵抗なく溶けていく頭。

すぐ目の前で、鎧を纏った人間が何か叫んでいたが、鎧越しの声は籠っている。

何言っているのかわからない。

聞く気もなかった。

S棟の壁面と屋根にたくさんの人間がいるのが見える。

両手を翳すと〝もうれつにもやせ〟を声に出す。

一瞬で建物が炎に包まれた。


太陽の光が炎の明るさに呑み込まれた。

黒煙がぼわっと空に昇り出す。

皮膚に触れる風が急激に熱くなる。

木材と何かの焦げる匂い。


建物から飛び出し、燃えながら地面に向かって〝つかむ〟を唱えている者。

屋根から別の建物に飛び移っている者。

広場にせり出した、二階につながる大階段を燃えながら滑り降りてくる者。


目についた人間すべてを片っ端から魔法で掴んで引っ張った。

エーテルシューズを履いている人間は逃さない。

〝道端〟にそうしたように、人間が溜まってきた所を凍らせて殴る。

掃いて集めた落ち葉を焚火にくべるように、淡々と行った。


氷が弾けた赤黒い霧なのか、燃えるE棟から舞う火の粉なのかわからないほど、ナギの周囲には細かな粒が漂っていた。

ナギの腹の底から胸へ湧き上がった〝真っ黒いそれ〟もまた、舞いながら落ちる火の粉のように静かに満ちていく。

やがて胸の底に積もり、干上がった池の底のようにざらついていた。



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