↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ナギとリサの大冒険  作者: あ★い★う★え★お
【蓮の部】エンディング
104/132

第99話/決別/Limited_NAGI

自分から突っ込んできた女に何故か命乞いをされている。

少年は無感情だった。

あまりにも会話が成立しない体験を多くした少年は、疲れていた。

感情を出す事にも億劫だった。


目の前の女を殺そうとした時、ひとつの魔法が腑に落ちる。

手を翳すことなく静かに呟いた。


「〝きえて〟」


目の前の女が光の粒となる。

その瞬間、右肩と肘の中間あたりまで覆っていたノードが、一気に指の先までを覆う。

周囲に赤黒い光が弾け出たと思うと、体の周りに無数の光の粒が漂っていた。

赤黒さと白さが混じる光だった。


聞いた事のない高い音と共に、たくさん光の粒が一瞬で襲い掛かる。

咄嗟に目を瞑る。

胸が軽くなった。

剣の抜け落ちる音で目を開く。

自分の腕を見た。

体内を這うような赤いノードはなくなっていた。

頬を触ると、皮膚の盛り上がりもなくなっている。


二の腕の違和感に気づく。

左手首から肘にかけて、何本かの太い線が伸びている。

ぐるりと腕を一周するように、タトゥーのようなものが浮かび上がっていた。

右手にはない。


不思議そうな顔で見つめていると、吐き気に襲われる。

腹の中から何かが上がってくる。

抗わずに吐瀉すると、何か小さい球体が次々に口から勢いよく飛び出した。

朧げな色合いから、今まで口にした魔法キャンディだとわかった。


ナギは爽快感に包まれた。

胸がすっとしたのは剣が抜けたからだと思っていたが、そうではないようだった。

足元に散らばったキャンディを踏み砕き、動きが鈍くなったリサを見下ろす。


こんな女はやく殺してしまえばいいのに、自分は何をやっていたんだろう。そう思った。

自分を攻撃してきたのだから敵だ。

いや、敵味方関係なく、自分に攻撃をしてきた人間を戦場で生かしている事の意味が分からなかった。

自分の体から抜けた剣を拾い、無表情でリサの首に突き刺した。

近くに落ちていたナイフもついでに刺す。

辺りを見回すともう一本、剣が落ちていた。

首に突き立て、刺した二本の剣をぐりぐりと回す。

ノードが体内を這っていた時ほどではないが、力が強くなっているのを感じた。


特に何も感じず踵を返す。

表情を変えずに、少年は広場を歩き出していた。

ナギは、決して振り返らなかった。










リサは、自分から湧き出るものだけが自分だと誤解していた。

自分から湧き出るものに従う事だけが彼女の人生であった。

容姿に恵まれていた事もあり、自身について考える機会は少なかった。

周りがかわいいと言うからかわいいのである。

大人から綺麗だねと言われるから綺麗なのである。

そこに疑問は抱かなかった。

よって、世界に反応し続ける事が当然だった。


ミトハロに着き、そんな彼女の人生は一変する。

湧き出るものに従うと、胸が苦しかった。

〝それ〟が閾値に達すると、目を逸らせる方に進んでいった。いや、体が勝手にそう動いていた。

逸らせるなら、〝それが湧かぬなら〟なんでもよかった。

なんでも良いという認知すら、逸らせるという認知すらも彼女にはなかった。

ひたすら〝それ〟が湧かない状態に進んでいく事しかできなかった。


閾値に達した後は、不快感を不快感として認知もできなかった。

何が不快で、何が不快でないかもわからない。

わからないという認知すらない。


〝不快に含まれる感情〟〝不快を招く出来事〟も定義できないまま過ごしていた。

何もかもわからなかった。

ただ考えないで済む方に漂ったが、〝考えないで済む〟という認知もなかった。

ひたすらに〝その状態になる世界〟を探して彷徨った。


自分が定義できないものや、自分の中で処理ができないものは、知らぬ間に世界に押し付ける癖がついていた。

自分について考える。自分の気持ちを考える事は、選択肢として挙がらなくなっていた。

もやもやする。ただその一点に、ありとあらゆる感情が集約された。

分類する思考に次いで、リサの中で言語が消失する。


ドミヌスで過ごしてから、本人は何故かわからないが平穏だった。

彼女はたまたま強かったのでそれに身を委ねていた。

定義できない、言葉にできない不快感は、弱い人間を虐げる事で落ち着いた。

頻繁に不快感は訪れなかったが、コロンのように立ちはだかるものは斬れば解決した。


ドミヌスで過ごす中で〝自分自身に気付けるチャンス〟が一度だけあった。

明確に彼女の認知に触れた、千載一遇の気づきを得る機会。

気づく事が出来れば、即帰還である。

まさに天啓というもの。


しかし、リサは気づけなかった。

胸のざわつきに堪えられず、気を紛らわせるように娯楽に触れていると、知らぬ間に掻き消えていた。


ドミヌスには仲の良い人間は全くいなかったが、居場所があった気がした。

居ても平穏だからそこを居場所とした。

いや、居場所〝としても認知していない〟。ただそうなっていただけだった。

流されてもいない。本人にはその認知すらない。



周囲が確定させた世界にいればよかった。

そのため、ドミヌスのタトゥーを入れる事を懇願されても「タトゥーを入れてもドミヌスではない。」と補足を告げられれば入れた。

宿でナギに久しぶりに会った際、なぜ彼が喚いているのかが理解できなかった。

この時の認知レベルは、すでに壊滅的な状況だった。


なぜいけない事をしているかのように言われないといけないのか。なぜ責められないといけないのか。不快だった。

しかしこの頃にはもう、不快である事すらも認知できなかった。

不快という言葉を想起した事はある。

しかしその意味は本人もわかっておらず、ただ、もやもやした状態を記号的に表現しただけであった。


ミトハロに到着してからというもの。

幸か不幸か、ここまでのすべてが無意識。

執着により崩壊した認知、思考レベルは〝もやもやするかそうじゃないか〟。この二択のみで生きていた。

無自覚に。意図せずに。知らず知らずのうちに。目的もなく。考えもなく。衝動のままに。反射的な動きで。意識の及ばないところで。

リサはそのうちに死んだ。


苦しみさえも認知できず、やっと死ねるとも考えずに死んだ。

死ぬ間際、ナギが言っている事が全く理解できなかった。

ナギに嫌われた。とだけ感じた。

誰も一人にしていないのに。自分から一人になった癖に。この瞬間たしかにリサは世界を恨んだ。

自分を見つめられず、自分から目を逸らし、自分を一人にしたから独りになった。それだけの人生だった。


〝エリカシール・リサ〟


最期は、ナギに嫌われた。

そう言い聞かせたのだが、〝言い聞かせた〟という認知すらない。

自分から話し合いを拒否した癖に。自分から刃を向けた癖に。自分からナギの命を奪おうとした癖に。

リサは、ナギに拒否された。都合よく、心の底から、そう解釈して死んだ。


リサは何が何だかわからぬ内に、世界から脱落した。

そもそもこれまでに、世界に参加した事があっただろうか。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。