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ナギとリサの大冒険  作者: あ★い★う★え★お
【水仙の部】第五章
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第96話/魔王ふっかつにかんけいなく、そもそも世界は平和ではない/Limited_NAGI


顔に届く熱気。

炎が轟々と燃え盛り、木材が弾ける音が続く。

柱が倒れる音と同時に火の粉が吹き出し、炎が形を変える。

風に乗り損なった火の粉が顔に迫る。

焦げた木の臭いが増した。

涙目になっているのは、人を殺しまくったからではない。

黒煙の刺激臭だった。


「結局、ほんとに一人でやっちゃったなあ。」


目の前で勢いよく燃える家屋を見ながら、横に立つエヴィがぽつりと呟いた。

言葉に何も返さずに、ナギは燃える家屋を瞳に映していた。


ミッシェルのいた建物の向かいも制圧し、襲われた女達も助け出した。

その周辺の建物もできる限り確認し、隠し部屋のあった家屋に戻ってきていた。

二人とも血まみれだ。


ナギには人間だとは思えなかったが〝あれら〟も、一応人間なのであろう。

皆が期待する通り、魔王に勝利して世界平和をもたらす存在が勇者なのだとしたら。


(そもそも、世界って平和じゃないじゃん。)


その辺に唾を吐きそうだった。

人間を救うという事は、あんな世界〝も〟救わなければならないのか。

少年は迷っていた。

しかし、勇者なんて存在がなくても、世界はすでにけっこうゴミだった。別にミスッても良さそうだ。ナギはそうも思った。


どうしても〝道端〟を人間だと思えなかった。

襲われていた手足のない女達。

その〝手足〟が、どこにもなかった。

骨も見ていない。


(やっぱあんまり、世界平和とか、どうでもいいや。)


家屋の真ん中あたりがどしゃっと音を立てて潰れ、太い黒煙が立ち昇る。

勇者に最も必要な使命感が薄れていった。

そう考えると、何故か湧き出てくる行き場のないどす黒い感情を、空へ昇る黒煙が代わりに昇華してくれているようで、少し気が晴れた。

微笑みを抑えていると、再び横から声がする。


「何?助けた中にタイプの女でもいたの?」


眉をひそめているエヴィが視界の端に映った。

一呼吸おいて返す。


「人間って、気持ち悪いなあって思って。」


くすりと笑ってそう言うと、エヴィが肩を組んできた。


「ほんっっっっっとうにそうだよね。わかる。あたしもそう思う。」


近くなった彼女の横顔を見る。

瞳には燃える家屋の炎が映っていた。その炎を彼女自身が宿しているような表情だった。


「これからどうすんの?」


視線を家屋から逸らさず、エヴィが聞いてきた。


「わかんないけど、とりあえず一回バシナリー戻るよ。」


ナギも燃える家屋に視線を移してそう言った。


「そう。」


優しく言いながら、肩から手を離すエヴィ。

炎は家屋全体を呑み込んで、勢いを増した。

高い声を上げて喜ぶエヴィとは裏腹に、柱が自分に倒れてこないかひやひやした。

息をすると喉が焼けそうだった。

しばらく見ているとエヴィが切り出した。


「あんたさ、色々見たでしょ。女の人の、色々。さっき。で、辛かったり、まあ、なんだ。その、気持ちがさ、気持ち、って言うか、うん、まあ、落ち着かなくなったりしたらさ、グローブ・K来なよ。広場に、送った後、あたし、一度、戻、ってるから。あ、もう、グローブ・Kだったとこか。」


あまりにも途切れ途切れに話すものだから、言い終わる前にエヴィに顔を向ける。

腕組みをしながら、燃える家屋とナギの膝辺りに視線を往復させて言っていた。


「うん。わかったよ。ありがとう。」


ナギはとりあえずそう言った。

炎が隣の建物の屋根や軒先へ舌のように伸びた。

想定はしていたが、思わず声を出す。


「さっき見たんでしょ?中。」


エヴィが飛んできた火の粉を払いながら言った。話し方は戻っていた。

事前に周辺の建物を確認していた時の事を思い浮かべる。

たしかに人はいなかった。

魔法を使わずに左手だけで壁を溶かせるのは便利だった。

ノードが体内に入ってから、初めて人を守るために左手を使ったかもしれない。そう思った。


「うん、大丈夫だと思う。」


淡々と答える。

弾けた声で言葉が返ってきた。


「じゃーさー!気にしないでいいでしょ!別に!こんなとこ!」


「たしかにね~。」


小さく息を吐いた。

脱力ナギ。


「サファ、炙んないの?」


すぐ後ろに横たわっているサファを、腕組を半分解いてエヴィが指さした。

別の建物から女性達を解放する時に意識が戻っていたが、一部の女性達に再び襲われ気を失っていた。


「ははは!炙る価値もない!僕からカツアゲしちゃうような弱虫!」


エヴィを向き、眉を上げて言った。


「さっき炙ってたじゃん。」


視線の先の彼女は噴き出していた。

大きく息をして、ナギの上半身を見て言う。


「それ大丈夫なの?取れんの?」


「わかんない。」


苦笑いをしながら言った。

俯いて体を見回すと、ノードの触手は腹、右胸までの全てを覆い、右肩に伸びようとしていた。

目を逸らすように燃える家屋に目を向け、右手を頬に撫でる。

右の頬も隆起していた。

少し大きな息を吐き、顎を引く。

赤い糸が不気味に巡った体を改めて見た。

さすがにもう人間じゃない。ナギはそう思った。


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