第七十話
どこまでも冷たい、白く美しい部屋。3人で独占するにはいささか広すぎるこの部屋で、あたしはノア様と向き合っていた。
「……まさか、そのようなことが」
ジュリアンナが禁術を使ったこと、それをルーバンが仕掛けたこと、そして、ヘンリーがそれを分離させたこと。全てを聞いたノア様は、声を揺らして一言そういった。
「ジュリアンナが禁術に手を出そうと考えるほどに、私は彼女を追い詰めていた。それに、気がつけていなかったなんて……本当に私は、何も見えていなかったんですね……」
ノア様は細く息を吐くいてからこちらを見る。その青い瞳は、どこか不安げに揺れていた。
「見えてなかったのはお互い様だろ。……今まで見えてなかったっていうなら、この後は相手をちゃんと見ていけばい」
今まではノア様と向き合うために使っていたこの言葉。前を向くはずのそれが、ずしりとあたしの胸に沈んだ。
「……なぁ、ノア様。お前に伝えたいことがあるんだ」
あたしの言葉に、ノア様はびくりと体を揺らす。その姿に、ズキリと何かが痛んだ。
「あたしは……ずっと、ノア様を愛してた。初恋で、ただ一人の存在で……お前がエイダに憧れたように、あたしもノア様に憧れてたのかもしれねぇな」
優しくて、人を支えることができて、可愛らしくて、自分にはないそれが、どうしようもなく眩しかったのかもしれない。
その憧れを押し付けるように、あたし強く拳を握る。
「だが……お互いに向き合って、確信した。……あたしは、お前を選べねぇ。あたしは――ヘンリーの事が、好きになっちまったんだ」
あたしはそう言い切ると、真っ直ぐにノア様を見つめる。その顔に浮かぶのは全てを察したような、諦めを含んだ寂しげな笑みだった。
「わかっていました、貴女が……私を、選ばないことは。しかし、貴女が本当の愛を見つけたならば……私は、それを祝福したい」
「ノア様……」
「貴女に出会って、貴女の強さを感じて……少しだけ、自分自身も強くなれた気がします。今後は婚約者ではなく、一人の友人として共に歩んで欲しいのです」
ノア様の声は、もう震えていなかった。
「……あぁ。ありがとな、ノア様」
ノア様はあたしの言葉に、ふわりと口角を上げる。
半年前の揺れていた姿は、そこには存在しなかった。
ノア様への気持ちには蹴りがついた、あとは……あいつにあたしから、気持ちを伝えるだけだ。
あたしは目を伏せ――うるさい心臓を抑えるように、細く、息を吐いた。




