第六十八話
「これが、私が知る全てです。この時の私は彼の名も、彼が何者なのかも知りませんでした」
ジュリアンナは全てを語り終えると、ゆっくりとライトグリーンの瞳を開く。
この時は、確かに知らなかったのだろう。
黒い髪、赤い瞳、そして――白いピアス。
見覚えのあるその特徴。多分あたし以外の全員も、同じ名前が浮かんでるんだろう。
「……ルーバンが、術を教えたのか」
ヘンリーの静かな声が生ぬるい部屋の空気を揺らす。何かを抑えこむようなその音に反論する奴はいなかった。
「ルーバンが犯人なら、なおのことあいつの目的がわかんねぇな。なんで本じゃなくわざわざ禁術のページだけを渡す必要があった? しかもその後辺境警備隊に入って、目立つような真似をした理由は何だ……?」
考えれば考えるほど謎が深まっていく。ヒントを得たはずなのに、ドツボにはまって出られねぇ。
「……ルーバンは元々、辺境領の端の出身だと言っていた。その街を取り戻すため、警備隊へと志願したと」
「辺境の、端の出身……?」
ヘンリーの言葉に――あたしは、大きく目を見開いた。
その言葉がどこまで本当かわからねぇ。だが、もし嘘じゃねぇとしたら。
「……辺境領の防衛魔法を構築するため、だったのか?」
一つの結論が、あたしの中で浮かび上がった。ヘンリーも同じ結論に達したのか、眉をひそめてこくりと頷く。
「どういう、ことですか……?」
揺れるジュリアンナの声にあたしはゆっくりと、乾いた舌を動かした。
「今のところわかってんのは2つだ。あいつがジュリアンナに術を教えあたしをここに呼び出したこと。占い師として魔石鉱脈の存在を教えたこと」
「何故それが防衛魔法に繋がるのですか……?」
ジュリアンナの言葉に、あたしはこくりと頷いた。
「フォスター卿は『魔石の鉱脈が見つかったことで防衛魔法設置の目処がついた』って言ってたんだ。こっちは直接関係がある」
「なるほど……しかし、禁術の方はどう関係が……?」
「ノア様の心を射止めるためには強くなる必要があった。その結果、防衛魔法を設置するために邪魔だったS級や特A級の魔物を討伐できたわけだ」
こじつけかもしれねぇが、全く関係ねぇとは言い難い。
「防衛魔法を完成できれば辺境の街の復興も早まる。計画を成功させるためにルーバン自身も副官として戦場に参加した」
ジュリアンナはあたしの言葉を噛み砕くように小さく何度も頷く。
「そんなこと、考えたこともありませんでした……」
「あくまで仮説だけどな。あとは本人に聞かなきゃわかんねぇよ。……あたしはこれからルーバンに話を聞きにいく。先生、お前も来い」
ヘンリーは静かに頷き、あたしのそばへと歩み寄る。
今後やらなきゃいけねぇことは見えてきた。だが……まだ一つ、問題がある。
「あとはどうやってジュリアンナを別邸につれていくかだな」
ジュリアンナとガブリエルが二人で別邸に行ったとなりゃあ、何かしら噂がたってもおかしくねぇ。馬車を使うと従者から話が漏れる可能性がある。転移門は警備がいるから論外だ。
……さて、どうしたもんかな。
「それに関しては問題ない。……近くに馬車を待機させてある」
あたしが口元を抑えたと同時に、ヘンリーは静かにそう告げた。
「馬車?」
「あぁ。……信頼のおける口の固い従者だ。話が漏れることはないだろう」
何でわざわざんなもんを……。
そう言いかけて、あたしは口をつぐむ。
元々ヘンリーはあたしとジュリアンナを分裂させるつもりだった。なら、何かしら準備をしててもおかしくねぇか。
「……わかった。二人もそれでいいか?」
こくりと頷くジュリアンナとガブリエル。それをみて、あたしは小さく息を吐いた。
「決まりだな」
これで目先の問題は何とかなった。だが……相変わらず、謎ばっかなのはかわらねぇ。
あたしはガシガシと頭を掻く。
ルーバンに関しての予測は、理論としては破綻してねぇ、はずだ。
だが、何か引っ掛かる。わざわざこんな手を使わずとも、いくらでもやりようはあっただろ。
……それをはっきりさせるためにも、動くしかねぇな。
どこか底の見えないルーバンの微笑み。あの笑みの奥に何を隠してんのか……それを、暴いてやろうじゃねえか。




