第六十六話
図書館の男。その単語に、ジュリアンナはびくりと体を揺らした。
「……何か知っているのか、ジュリ」
後方からヘンリーのいぶかしげな声が聞こえる。あたしはそちらを振り向き、ごくりと小さく頷いた。
「あぁ。……前に辺境領の街である話を聞いたんだ。『一年ほど前、ある占い師が魔石の鉱脈の存在を当てた。そいつは紫の石がついたブレスレットをしていた』ってな」
全員の視線が、ジュリアンナの手首についたブレスレットへと集中する。紫の石から放たれる鈍い光が、今は酷く不気味に見えた。
「酒場の主人が言うに、そのブレスレットに似てんだと。……そいつが何らかの方法でヘンリーの家にある禁書を見つけ出し、ジュリアンナにブレスレットごと渡した。そう考えんのがしっくりくる」
「そのブレスレットについている魔石を利用した……と言うことか」
「多分な。占い師がつけてた石はもっとデカかったらしい。あたしを呼んだ魔法の時に一部が消費されたんだろうな」
特殊な魔法を使うには魔石がいる。こいつが本当に魔石かはわからねぇ。だが異世界から魂を呼び出す魔法なんて凄まじいもんなら、特別な魔石が必要でもおかしくねぇだろう。
「そうか。だが、そいつは何のためにそんなことをしたんだ?」
「さぁな。それは今から考えるしかねぇよ」
あたしをジュリアンナの体に宿したこと、そして魔石の鉱脈の存在を教えたこと。この二つの関係がいまいち見えてこねぇ。まだ、何かがたりねぇ。
あたしはすっと視線を戻す。そこには口に手を当てて、俯くジュリアンナの姿があった。
「……なぁ、ジュリアンナ。お前がどこまで知ってるかは知らねぇ。だが、その男には何かしら裏がある」
「あの方が……そんな……」
肩を震わせ俯くジュリアンナ。その悲痛な姿に、あたしはすっと目を細めた。
「おそらくそいつはこの分離の術も知ってるはずだ。目的がわからねぇなら、これがバレた時にどう動くかも予想できねぇ」
ジュリアンナはぐっと拳をにぎる。しばしの沈黙が、その葛藤を静かに示していた。
「しかし……ここで話をしたら、あの方はどうなるのですか……?」
やっと聞こえてきたのは絞り出すような声だった。
得体がしれねぇやつでも、ジュリアンナにとっては絶望した時に手を差し伸べてくれた恩人だ。話したくねぇ気持ちは、理解できる。
「内容次第だな。だが……出来る限りお前が望む形にする」
絶対に助けるなんて嘘はつけねぇ。だがその気持ちは、ある程度くんでやりたかった。
「知りたいとはおもわねぇか? 全部お前のためだったのか、違う目的があったのか。……それをはっきりさせるために、お前の力が必要なんだよ」
ジュリアンナの拳は硬く握られ、滑らかな表面に華奢な骨が浮いている。それはプルプルと震えたあと、ゆっくりと、何かを諦めたかのように緩んだ。
「……わかりました。役に立つかは分かりませんが……知っている範囲のことを、お話しします」
ジュリアンナは俯いたまま、記憶を手繰り寄せるかのように、ぽつりぽつりと語り出した。




