表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/30

2-28 『夢は、人が追い求めるもの。』

今回を含め、あとラスト3話で完結です。

「ぇ……ユカ、リ……?」


 何が起こったのか、理解できない。自分は死んで、幸せを掴んだはず……なのに風は冷たく、地は固い。手で足で、首で頭で、五体満足の肉体でそれを感じる。自分はまだ生きていた。


「ぐ……ぅぅ、ぐぅ、っ……」

「……バカね、ユカリ。いくら努力しても、世界は貴方達に救済なんて与えない。それを分かっているはずなのに……何故すがりつこうとする」


 プルプルと足を震えさせ、自分を庇うよう剣を構えていたユカリ。カグラの攻撃を変に受け、鎧の節々から血を流している。

 痛みに喘ぎそうになりながらも、ユカリはワラビの前から離れず、必死にカグラに立ち塞がっていた。


「っ……ぁ、貴方、みたい、な……奴、なんかに……」




「ワラビ、に……私の、大好きなワラビに……手出しはさせないっっっっっ!!!!」




 一瞬息を止めると、ユカリは目を見開き、


「……うおぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!」

「く、っ……」


 痛覚を遮断し、剣先に全意識を集中させて決死の一撃を放つ。青い波動を放ち、確かにカグラの身体に攻撃が当たり、大きく後ろへと吹き飛ばす。


「はぁ、はぁ……っ!!!今よ、捕まりなさい、ワラビ!!」


 強引にでも隙を作り、ワラビをカグラから引き剥がすことが出来た。即座にユカリはワラビの手を取り、戦士となった身体能力を活かし、その場からの離脱を図る。

 ビルの側面を蹴って伝い、転々と次のビルへと移っていく。カグラが顔を上げた際、既に視界から二人の姿はなくなっていた。


「ユカリ……」


「……残念だ」


 分かり合えなかった。同じ境遇に置かれた者同士、仲良くできたはずなのに。少し口惜しそうに俯くと、カグラは後ろに振り返って場を後にし、再び死者達の統率者としての顔を顕にする。

 死者達の侵攻は着実に進んでいる。そろそろ、計画を最終段階へと移す頃合いだ。






「はぁ、はぁ、はぁ……っ、ぐっ!!!」

「ユカリ、っ……!」


 とあるビルとビルの間の路地裏。日が差し込まない暗がりの中、力尽きたユカリは地面に突っ伏していた。

 ゴミ溜めの近くで、周りの臭いも酷い。こんなボロボロで血だらけで、満身創痍の彼女の姿はあまりにも低俗で醜かった。

 ただ立ち尽くし、ユカリを見下ろしていたワラビは、僅かに口を開く。


「……ユカリ、どうして……どうして、私を助けたの……」

「当たり前、じゃない……友達だからよ」

「なに……なんなの、それ……」


 ふつふつと、心の中で何かが煮えていく。このもどかしい感情はなんだ、酷く気持ち悪く、後悔のような息苦しさに溢れている。

 ワラビは、その発生源に違いない存在を睨みつけ、


「私は死にたい、死にたかったのに……なんで、なんで余計なことしたの!!!!」


 沸き上がる感情のまま、友だちであるユカリに対して怒号を浴びせる。


「……」

「なんで、なんでよ!!?私は最低な奴で、生きる価値もないような、クズでしょうもないゴミ人間なんだよ?ユカリだって分かったでしょ、私はみんなに、生きてる人間全員に、ユカリさえに嫉妬を覚えるような、救いようのない奴だって!!」


 口にしていく度に、ワラビは自分が分からなくなる感覚に襲われる。ただ苦しんでいたから、それから逃げたかっただけなのに。

 一度噛み付くと引き下がれない。自分の芯が腐り切って、口先だけのクズから本物のクズへと堕ちていくのを感じる。


「……」

「それなのに、なんで助けるわけ?放っておいて、さっさと見殺しにすればよかったのに。こんなことして、私に感謝でもされたいの?はぁ?バカなの?」

「……」

「ほら、なんとか言ってみてよ。ほら……私が大嫌いで憎くて、失望させられたって、ほら早くさぁ!!!!!」

「……調子に乗んな、このクソ女っ!!!!」


 声を上げて煽りはしたくせに、いざそうなれば身を震わせてビビり散らかす。一体何をしたいのか分からない。完全に軸を失ったワラビに、今度はユカリが怒号を浴びせ、そして……その頰に思い切りビンタを喰らわせた。


「い、ぎっ……!?」

「いい加減にしなさいよ……これ以上つまらないこと言うつもりなら、次はそのツラ、思いっきりぶん殴ってやる」

「う、っ……!?ぐはぁ、ぁっ!!!」


 ビンタした流れで立ち上がると、ユカリはワラビの胸ぐらを掴み、そのまま向かいの壁に背中を叩きつけた。鈍くも重い痛みが骨に伝わり、痛みと怖さで目から涙が溢れてくる。

 こんなユカリ……今まで見たことない。


「あら、どうしたの、怖いの?急に黙りはじめて、さっきまでのイキり腐った口はどこ行ったのかしらね」

「ぐぅ、っ……」

「……人様にこんな怪我負わせて、そのくせワガママ言いたい放題で余計だのなんだの、ホントに最低な女だわ。こんな奴に誰が友達になろうだなんて言うのかしらね。そんなアホの顔が見てみたいくらいよ」

「ぅ、っ……うるさい……もう黙って、黙れよっ!!!!」

「黙ってなんかやらないわよ。アンタみたいなゴミクズ野郎、これくらい雑に扱ってやるのがちょうどいいわ。ええ?報われなくて死にたい?努力がアホ?……抜かしたこと言ってんじゃないわよ!!!!!」

「く、ぅぅ……っ!!!」


 怒りに震えるユカリに怯え、完全に腰を抜かし、鼻声で喉を震えさせるワラビ。いつ殴られるかも分からない、胸ぐらを掴む力はそのまま、ユカリはワラビの顔を寄せ、超近距離から口を開く。

 次はどんな仕打ちを受けるのか、恐れて思わず目を伏せるワラビだったが……


「っ……アンタのアホな努力に救われたアホだって、ここにいるのよ」

「ひっ、っ……ぇ、え、っ……?」


 ユカリは手を振るうことなく、ただ言葉で、目の前のワラビの心へと訴えかける。


「聞き逃さないで。一度だけ、ハッキリと言うわよ……もし貴方が相方じゃなかったら、私はここまで走ってこれなかった。ずっと前に諦めて、努力なんかアホらしいって投げてたわ」

「っ!?」

「はじめてユニットを組んで、ペアになった私に話しかけてくれたわよね。あんなに人を拒絶してたのに、そんな私におじけることなく、貴方は笑顔で接してくれた……私の人生は、貴方と出会って変わったの」


 思い出を語る口調は、徐々に柔くなっていく。

 昔から人付き合いが下手で、アイドルにもなあなあに取り組んでいたユカリ。そんな乾いた彼女の心を引っ張り、励まし、いつの日かのステージを夢に思うキッカケを与えてくれたのが、ワラビだ。


「私だって人気になりたい、でもいつまで経ってもなれないって、ホントに努力に意味なんてあるのか、辞めた方がいいのかって、いっぱい悩んだわ」

「……ぇ、ユカリ、も……そ、う、だった、の……?」

「でも、挫けそうになった時でも頑張れたのは、いつまでも努力を欠かさなかった、貴方の姿が隣にあったから」


 普段は内心を見せないユカリだが、辛くて苦しいことなど数えきれないほどある。

 その度にユカリの目には、隣でただひたすらに頑張るワラビの姿が映った。笑顔でステップを刻んで、腹の底から声を出して、思い切りかいた汗をタオルで拭い、濡れたウェアを脱いで着替える。

 初めはウザいほどだった、そんな彼女の姿がいつの日か、自分の生きる理由になっていった。




「どこまでも、純粋に、がむしゃらでも全力に頑張る。貴方の夢を追う姿が段々カッコよく見えて、だからそんな風になりたい、私も真っ直ぐに夢を貫けるようになりたいって思えたの」




 たとえ本人そのものが夢を失ってしまっても、努力を無価値だと切り捨てても、ユカリがワラビから得たものは、まだ彼女自身の中に宿っている。

 心が折れ、底のない苦しみから抜け出せなくなっているなら、今度は自分が彼女の手を取り、救い出す番だ。いつまでも諦めなかったワラビのよう、自分も絶対に諦めはしない。


「私と一緒に頑張ってくれて、いつも隣にいてくれて……光であり続けてくれて、ありがとう」

「ユカ、リ……」


 努力の末に、必ず自分達は夢の大舞台に……大勢のファンが集うステージに立ってみせるんだ。


「そんな……ユカリがそんなこと、言うなんて……なのに、私、なんて、ことを……」

「もう、その通りよ。こんなことわざわざ言わせるなんて……普段なら恥ずかしくて、絶対言えないわよ、っ」

「うひっ!?」

「ふっ、私がこんな恥ずかしい思いしたんだもの。アホでクソバカな貴方にも分けてあげる」

「く、クソバカって……わひゃぁ!!」


 突然抱きつかれ、直後に耳に息を吹きかけられ、変な声を上げるワラビ。まさか、ユカリにここまで強引にされるなんて。こんなことも初めてだった。

 自分に生きる価値はないと、ワラビは言った。だがユカリがこうして今を生きていられるのは、他でもないワラビがいてくれたからだ。

 何もかもが上手くいかなくて、自分に自信も価値も見出せなくなっても、大事な友達はずっと側にいてくれる。




「——へへっ、なに二人だけでイチャイチャしてんだよ。俺も混ぜやがれっ!!」




 そして、それはユカリだけじゃない。ワラビには自身の生を確かに感じられる、大切な居場所がある。


「えっ、オウマ……君!?」

「ひっ!?お、おっ、オウマぁっ!?なっ、ななな、なんでこんなとこにいるのよ!!」


 路地裏に突如現れた影、女の交わりを乱すお邪魔。でもそのウザさが頼もしくもある青年、オウマは声を上げて、二人だけの空間に風穴を開けた。

 光差す大通りから、友達の二人を迎えに来たのだ。


「いやぁ、カイドウさんがお前らのこと……って違う違う!!た、たまたまここを通った時に見かけてよー、あーこんなとこで会うなんて奇遇だなー、あ、あはははは!!!」

「……お、お前それ、嘘が下手なんて次元じゃなくね……幼稚園生でもまだマシなこと言わない?」

「はぁっ!?おい誰が幼稚園生以下だ、カナデっ!!」


 オウマの絶望的に下手な嘘へ、裏からさりげなくツッコミを入れたのは、本来渋谷にいるはずのカナデだった。

 もう何となく分かった。カイドウがきっと、カグラがワラビと接触したことを察して、何かが起きたとオウマ達を呼び込んだのだろう。

 

「カナデ……はぁ、貴方までいたのね」

「あっ、もちろんアツミちゃん達もいるよーっ!!せっかくだし、来ちゃった!」

「わ、わわ、私もっ!!ち、ちゃんと、いる、よっ!!」

「えっ、ちょ……アツミに、メグミまでいたの……」


 と思ったら全員いた。渋谷に六本木から、わざわざご足労なことだと思わずにはいられない。ワラビの背中に回していた手をどけると、頭に手を添え、冷静さを装ってユカリはため息をつく。


「もー、そうやって不満そうにしてー、ユカリちゃんてば」

「アポなしで来られたら、突然仕事が増えた気分になるのは分かるでしょ、はぁ」

「へへ、サプラ〜イズってやつじゃん?おはよっ、ワラビちゃん。昨日はちゃんとよく眠れた?」

「あ、っ……ライカ、ちゃん」


 ライカの名を呼び、先程までの自分の発言を思い出し、変にぎこちなくなってしまうワラビ。少し間ができる中、アツミは持ち前の洞察眼で瞬時に心を覗く。


「なんて、ちょっと回りくどいかな。私たちも察しは付くよ、きっとあの豆打悶堕って人のことだよね、ワラビちゃんが気にしてるのは」

「……」


 もう気づかれている、今更隠せない。アツミへの良い意味の諦めにより、ワラビは自ら口を開いて、素直に自分の思いを伝える。


「……うん、そう、だよ。あの人は、私と同じ理由で、ずっと苦しんでた。私と同じ理由で、この世界を憎んでた。

努力なんてしても無駄、何も現状は変わらない、私に価値なんてない、そうやって考え出したら、止まらなくなって……不意に、死んだら楽になれるんじゃないかって……」

「死んじゃった方が、生きてる方よりずっといい、って感じ?」

「あの人も、生きてても良いことなんてない、苦しいことばかりで何も残らない、だったら生きてる必要なんかないって言ってて……あの『昔話』を聞いて、希望を抱くことが、自分の夢が、分からなくなって……」

「わ、ワラビ……お前、本当にそんなこと……」


 カイドウ、マリエ、カオリの三人に唆され、ワラビとユカリの様子を見に来た四人は、ここで初めてワラビの心中を知る。死の直前まで追い詰められていた彼女の姿に、カナデが思わず声をかけようとするが、


「でもね、ワラビちゃん。今ある全てを捨てて、その人と同じようになっても、本当に自分は幸せになれるのかな?」

「え?」


 すかさず、アツミはワラビの心へと問いかける。


「あの豆打悶堕、カグラって人は、生きることをやめて死者として歩むことを選んだ。なのに今は、捨てた生者の世界をわざわざ滅ぼそうとしてる。本当に死ぬだけで幸せになれるなら、死者達はこんなことしてないでしょ?」

「結局、人は死者になっても不満があるんだよ。生者への妬み、嫉妬……生者を追い出して死者の世界を作りたいのも、それも全部自分の生への固執、ヤキモチの裏返しだよ」

「……」


 死んでも生きても、不幸は変わらず付きまとう。ならなおさらどうすれば……


「そんなの、結局はお前だけが決められることだろうが」

「えっ……私、だけ、が?」

「ああ、そうだ。ワラビ、お前のその死にたいって気持ち、俺にだって分かるぜ。俺も何度だって死にたいと思った、この世界に嫌気が差したことも、何度もな」

「……」


 死者の矛盾を突かれ、混乱するワラビに、オウマは自身の過去を交えて同情し、かつ明確にハッキリと訴えかける。


「生も死も、別に頭ごなしに否定するわけじゃねぇ。でも、その選択肢が『夢を失った諦め』から来てんなら……俺は全力でお前を止める。その諦めはお前の本心じゃねぇ。勝手に自分で思い込んで、自分自身を絶望に閉じ込める、そんな虚しいことあってたまるかよ」

「オウマ、君……」


 不幸に喘ぎ、復讐心などの負の感情に駆られ、最終的に自分自身が不幸を生み出す側へと回ってしまう。最初は自分に対してだったものが、やがては他人に、そして世界に対して向かっていく。

 不幸に直面した時、どう行動を起こすか。今も事件を起こすお尋ね者とヒーローになったフェニックスの違いは、ここにある。


「俺は誰も見捨てはしねぇ!どんな奴でも、必ず希望を持てるよう笑わせてやるんだ!!だから俺は、お前を全力で助けて、お前を全力で支えてやる!お前が心の底から笑えるよう、自信を持って夢を語れるよう、ずっとそばで勇気づけてやる!!

だから俺たちを頼れ!勝手に抱え込んで、無理して苦しんでんじゃねぇ、ワラビ!!!」

「っ……」

「……ああ、お前の言う通りだ、オウマ」


 ワラビを、お尋ね者と同じようにはさせない。普段は自分を抑えることの多いカナデも、今回は積極的に話に乗り込んでくる。

 退屈な日々の中で、夢を追い求める楽しさを感じ始めている。そんな彼にも、この話は他人事じゃない。


「……夢を追い求めることは、苦しみも伴うし、うまくいかないこともある。でも未来に進むことは、悪いことだけじゃない。新しいことを始めて、自分の世界が広がっていく感覚……あの気持ちは、生きてないと抱けない。

生きてるからこそ、人は夢を持てるんだと、思う」

「ううっ……ぐ、ず……っ……」

「自分の夢を持てるなんて、カッコいいよ。俺もいつかそうなりたい……だからその日まで、俺の目標でもあって欲しいんだ。苦しい時は、みんなで一緒に立ち向かおう、ワラビ」

「カナデ君、みんな……私、私……っ!!!」


 カナデの真っ直ぐな瞳を見て、堪えきれずにまた目から大粒の涙をこぼすワラビ。ふと横を見れば、澄ました笑顔で寄り添うユカリ。


「ふっ、思うほど捨てたものじゃないでしょ。アホにもアホなりの、やり方ってものがあるのよ」


 オウマ、アツミ、メグミ、カナデ。


「俺の前では、好きなだけ笑ってて良いんだぜ!!笑え、笑え、笑い飛ばせ!!どんな窮屈な世界の中でも、俺たちはずっとお前を信じ続けてやるさ!!」


「私も……誰かに死んで欲しいなんて、思わない。人は生きて、笑顔でいてこそ意味がある。笑顔になれないなら、そんな時は私をみて笑って欲しい……そんな風に世界中の笑顔を作るのが、私の夢だからね!!」


「わ、私には、何も、うまいことは言えない、けど……好きなことを追い求められるのって、すっごい、素敵だと思うんだ!!大好きなものは、自分に、力と勇気をくれる……ワラビちゃんも、負けないで、頑張って!!」


「バカバカしいなんて声、跳ね除けて、そのまま夢を掴んじゃえば良いんだ。あの時は不安だったなって懐かしんで、最後には思いっっっ切り、笑い飛ばしちゃおう!」


 全員の視線が、ワラビに集う。生きることは苦しくても、死んでは手にすることの出来ない、かけがえのないものが得られる。

 夢への思い、ワラビが伸ばす手は、一体どちら側に……






「——生きる、全ての者に告ぐ」






 その時、全員の脳内、及び渋谷、新宿、六本木……全東京に存在する人間へと、通告がなされる。声の主は死者達の統率者である、カグラだった。


「——状況は依然我らに有利に傾いている。此度を潮時と考え、明日、我らは最後の攻撃をお前達生者へと仕掛ける。我が同士達の願いで世界が満たされ、死者による、新たな秩序の世界が始まるのだ」

「——この無秩序で愚かしい世界に、別れを告げる時が来た」




「——我らの死こそが永遠の幸せ……アーバンエッエンシアよ。さあ、この世界の行末をかけた、最後の戦いを始めよう」




 声は途絶え、街は再び元の姿に戻る。大半の人間にはお尋ね者の姿も、声も届きはしない。届かないと分かっていても、彼らはそう嘆かけることをやめることができない。

 結局死者もまた、生者と同じ苦しみからは逃れられないのだ。


「……カグラ、さん」


 カグラ達死者は、いよいよ本気でこの世界を奪おうと動き出すようだ。死に飲まれた世界……そこには夢も希望もない、命なきジレンマに満ちた悪夢が待つ。


「私の、本当の思い……心からの思い……夢」


 どちらで苦しむかではない、どちらの世界で何をしたいのか。生の世界で前を向いて歩くのか、死の世界で永遠に立ち止まるのか。

 選ぶのは、自分自身だ。




「私は……私は……っ!!!!」




……一人の少女が思いを定めた時、東京の未来をかけた、運命の決戦の火蓋は切られた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ