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2-24 『始まる事変と、存在しない者の叫び。』

【——まずい、まずいぞ!!大変だ、マリエ!!】


 レンチンご飯を片手に、スマホの通話ボタンを押すマリエ。画面いっぱいに現れたのは、何やら焦った様子のカイドウの顔だった。


「もー、何よタイミング悪いわね!!今、ちょーど焼肉食べようとしてたとこなのにっ!!」

【ああ、それは……って、そっちから連絡してこいって言ったんだろ!それよりも、さっきの件、お尋ね者についてのことだよ!!とにかく大変なんだ!!】

「ど、どうしたんですか!?そんなに焦るなんて、何かあったんですか、カイドウさん?」


 カナデがマリエを押しのけて入り込むと、カイドウ側でも、横から幼女が割り込むようにして会話に加わる。六本木エリアマネージャー、カオリだ。


【その通りよっ、カナデ!!私とカイドウも、今日お尋ね者に襲撃されたの!だから急遽、私だけで新宿に来てたんだけど……そうしたらよ!!】


 カイドウのスマホを持ち上げて、内カメラをデスク上のパソコン画面へと向けるカオリ。恐らくカイドウのものと思われるパソコンには、次のような文書のメールフォルダが送られていた。




■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


『警告』


コレハ、我ラニヨル革命ダ。


我々罪ナキ死者達ガ、憎ク愚カシイ生者ノ世ヲ翻シ、排斥ノ運命カラノ脱却ヲ図ル。モウ誰一人トシテ、我ラヲ忘レ去ルコトハ出来ナイ。


腐敗セシ世界ニ生キル全テノ生者、モトイ、アーバンエッセンシア二告グ。我ラガ主……『豆打悶堕』ノ手ニヨリ、現在アル世界ヲ終ワラセ、ソシテ、新タナル秩序ト共ニ世界ヲ再編シ、コノ世ハ救済サレル。


サヨウナラ、古キ世ノ者達。ソシテヨウコソ、新タナル世ノ住人……死ヲ担ウ者達。】


■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■




「なに、これ……どういうこと、なの……!?」


 文書の内容は、読んだ者に不快感を植え付ける、とても不気味なものだった。思わず手から箸を落としてしまい、緊張感が場を支配し始めていく。


【今さっき、これが僕とカオリのパソコンに送られてきたんだ。しかもそれだけじゃない、他の各アーバンにも、同様の内容の文書が送られてきてる】

「私たち以外にも……てことは、イタズラでもない、本当にお尋ね者からの、アーバンエッセンシア自体への宣戦布告、ってことなの?」


 前々の渋谷アーバンを狙った襲撃といい、お尋ね者がアーバンエッセンシアを認知し、敵視していることは確かだ。警告文をわざわざ東京中の全アーバンへと送りつけ……それほどの何かを、アーバンエッセンシアの管理する都市に起こすつもりであるなら。


 本当に、この文書の内容が正しいとするなら。予想もつかないほどの巨大な脅威が、この東京に迫り来ることを意味することになる。


【そういうことよ、私たちは腐ってても秘密組織。一般人がイタズラ目的で、そう易々と特定できるようなもんじゃないわ】

【それに、ついさっき、東京の管理者『銀座アーバン』も緊急の声明を出したんだ。お尋ね者から生者へとメッセージが届くなんて、今までに前例がないからね。相当のことが起こっているんだと思う】

「銀座まで……ツナギも、動いてるのね……」

「ツナギ?」

「銀座アーバンのエリアマネージャーよ。あの人は……いや、今はいいわ」


 どこか間が悪そうにしつつも、あの銀座アーバンが動き出したことを伝えられ、いよいよただごとではない、緊急事態が起きていることを実感するマリエ。

 これまでになかった、死者達からの明確な敵対を示す文書に、アーバンエッセンシアは最大級の警戒を促す声明を、東京の管理者である銀座アーバンから発信した。


 先程の緑のタトゥー、一週間前の同様の襲撃、そして……文書に名のあった謎の存在『豆打悶堕』。


「……カナデ君」

「……すごく、嫌な予感がしますね」


 強大な何かが、この東京を覆い尽くそうと動き出している。脅威は銀座を始め、新宿、六本木、そしてこの渋谷へと伝わりゆく。


【……カイドウ。下手こいて、変にしくじるんじゃないわよ】

【そっちこそ気抜かないこと、カオリ。お互い街を守りぬいて、次もちゃんと会おう】

【ええ、アンタ達もね、マリエ、カナデ。街も自分自身もちゃんと本当に、十分に気をつけてね、いい?それじゃあね】


 電話が切れ、ついに平穏な時間が終わりを告げてしまった。


「……」

「……」


 立ち尽くす彼らに残されたのは、もう残り少ない時間。これより待ち受ける未曾有の危機に、渋谷アーバンは渋谷を、そして人々を守るべく、自らに覚悟を刻まなければならないのだった。






「——はぁ、はぁ……おりゃぁぁっ!!!」


 危機は、確かに着実に近づいている。次の日、マリエは早朝より、あの世からのお尋ね者の対処に追われていた。まだ人も少ない、日が昇ったばかりのスクランブル交差点にて、奴らは姿を現した。


「ぜぇ、はぁ……こいつも、腕に緑の印を……昨日の文書、豆打悶堕に関わるお尋ね者なのね、っ!!」


 今日は平日で、カナデは午前中には高校の授業がある。早くバイトに来れても、彼はお昼過ぎになってしまうが、今まではこれで事足りていた。

 滅多に現れず、一週間に一度起こるか起こらないかの襲撃。渋谷はそれほどまでに、これまでが平和すぎたということだった。


 だが、そんな日々はもう昔のこと。


「——なっ、き、今日もこんなに数が……う、嘘でしょ!?」


 次の日も、


「——そんな……」


 また次の日も、


「——っ……」


 どれだけ日が経とうと、お尋ね者の襲撃が止むことはない。毎日、さまざまな時間にて、必ず街のどこかで何かが起こる。

 街が壊されても、人が殺されても、それを引き起こしたお尋ね者を倒せば全てが元に戻る。でも、このままではいつかは押されきり、何かが手遅れになってしまう瞬間が必ず来る。


「……マリエさん!!」


 そんなマリエが一人で戦い抜く中、学校が終わり、即座に電車に乗り込み、戦線へと到着したカナデ。これまではなんとかマリエ単騎で凌ぎきれていたものの、今日はそうはいかなかった。

 渋谷駅周辺、多くのビルの窓ガラスが割れている。電柱や街路樹も次々と倒れ、多くの人々が横たわる地獄絵図。


「カナデ君!!この中に、能力を持ってる奴がたまに混じってる!十分、気をつけながら戦いなさい!!」

「能力、ソート使いが……分かりました!そっちも気をつけて!」


 大混乱に陥っていた渋谷。だが、それは渋谷だけではなく、新宿、六本木、そして東京中のいくつものエリアでも同じだった。


「こ、こんなすごい数の襲撃、見たことない……ぐっ!!」


 分かれざるを得ないカナデとマリエは、それぞれ真逆の方向へと走り、渋谷を駆け巡る。かたやスプレーで創造したトゲトゲの棍棒を振り回し、かたや鋭利で巨大なハルバードを振り下ろす。


「とりゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

「おりゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」


 街を守るために、人を守るために、自分たちの未来を守るために。アーバンエッセンシアは自らの命を懸け、自分の正義を掲げて戦い抜く。




『……ふふ、っ——』




 勝てば生き、負ければ死ぬ。生者と死者の存在を巡る、最大級の防衛戦がいよいよ幕を開けた。

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