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2-23 『依頼と、駆ける日々。』

「おはようございまーす」

「おはよー、カナデ君!今日は待ちに待った、カナマリ何でも屋依頼の日ね!」


 外部アーバンとの接触から一週間後、今日の渋谷アーバンの活動は、久々のカナマリ何でも屋だった。

 数はまだまだ少ないが、着実に渋谷アーバンへの依頼数は増えてきている。人生やったもん勝ちという言葉に、やはり偽りはない。


 今日の依頼は、なんと三件もある。

 一つは、慈善チャリティーのお手伝いとしての、センター街でのゴミ拾い。

 一つは、慈善チャリティーのお手伝いとしての、キャットストリートでのゴミ拾い……と、そのうちの二件はボランティア、いわゆるタダ働きだが、最後の一件だけは違う。


「——え、えーと、あーの、あ、っはっはっはぁ〜っ!!……」


 最後の一件はというと、


[——Let's go to the graffiti! Hey,please take us you guys~!!]

「い、いぇ〜〜い!!うぇ、うぇるかむ、か、かもぉ〜ん!!お、おほほほ〜!!」

[Hmm……? Ah,what's up?]

「はっ——————」

「マリエさぁぁぁぁぁぁん!?」


 なんと、外国からの観光客らの道案内だったのだ。女性管理職と男子高校生、二人に外国語のスキルがあるかと言うと……とても残念な気持ちになってくる。


「はっ!?わ、私ってば、未知の言語に思わず頭が……」

「いやいや、やっぱ無理でしょこれ!?何でもやるって言って受けたけど、これは無謀過ぎるって!!」

「だ、大丈夫よ、大丈夫!!相手は生きてる人間なのよ?死んだ奴らを相手にしてる私たちからすれば、朝飯前もいいところよ!」

「朝飯食う前に、二度寝しかけてたけど……」

「う、上手いこと言ってんじゃないわよ!」


 痴話喧嘩を繰り広げていたカナデとマリエに、観光客の内の一人が声を上げる。


[He,hey!! Are you ok? we want to go to the graffiti. Can you hear it?]

「や、やばいやばい!!相手なんか口調強めですよ!怒ってるんじゃ!?」

「ま、まずいわね……と、とにかくなんかアクションを起こさないと!へ、へーい、へーい、へーい!!!あ〜、えーと、あの、お、おお〜っ!!!」

[……? Why is she doing so?]

[It beats me.]

「絶対終わったわ、これ……」


 ゴリ押しにも程がある。へい、かもん、うぇるかむだけで乗り越えられる壁ではない。手振り身振りを全力でこなすマリエ、それを不思議そうに見つめる観光客、頭を抱えてかすれ声で嘆くカナデ。

 時間は無情にも過ぎていく。渋谷アーバンは成す術もなく、当然そのまま観光客達に見放されてしまい依頼はグダグダの失敗に終わり……と、思われた所だったが、


[Ahahahaha!!! She is so funny~!!]

[It's silly~~!!!]

「SEN、Q 〜〜!!IEI、IEI〜〜!!MINNA、MUCCHA、CHO、YASA、C〜〜!!」

[Hahaha!! You are very crazy Japanese! I’m fun!!]

「いえ〜〜〜〜い!!!!」


 全身を使い、観光客に全力でぶつかっていくマリエの姿は、あまりにも滑稽だ。観光客の男女達も、若干バカにしたような態度で接しているのは何となく分かる。

 でも不思議なことに、はちゃめちゃにかますマリエは不思議と次第に輪の中に馴染んでいき、対照的に何もしなかったカナデの方が、むしろ輪の中で浮きがちになっていったのだ。


「うそ……結構、あれで上手くいってるのか!?」

「ふっふ〜ん!!どうよ、これが魂と魂の、生きたコミュニケーションよっ!!」

[Fuuuuu~~~!!!]

[Marie!!! Ma~~~ri ~~~e~~~!!!]

「うぐっ、さ、流石って感じだな……」


 もはや、観光客達も観光そっちのけで楽しみだした。マリエと盛り上がりながら、楽しそうに街を歩く姿は、とても渋谷を満喫しているようだった。

 こういった点は、マリエの長所なのかもしれない。

 カイドウやカオリは、多分普通に外国語を話せるだろうし、観光客を目的の場所へと直で案内することも出来るだろう。

 でも、こんなにも客を楽しませられるかどうかは、あまり想像が付かない。カオリはまだしも、カイドウにあれほどぶっ飛んだコミュニケーションをかませるだろうか?


「……でもなんか、こういうのも悪くないかも」


 すっかりマリエをバカにする気持ちは無くなっていた。それは観光客達も同じであり、完全にマリエと打ち解けたどころか、隣のカナデにも話しかけ、皆で一丸に盛り上がり始めた。

 そうして街を歩いているうちに、観光客の一人が信号上の宇田川町の標識を見つけ、自然と目的地へと歩を進めていった。行きたかった場所は、例のグラフィティアーティスト『アドバイザー』の新作の描かれた壁グラだったのだ。


「そっか、あの人たち、ずっとここのグラフィティのこと言ってたのか」

「はぁ、はぁ……疲れるけど、慣れると結構楽しいもんね、これ。とりあえず適当に歩いておけば、いつかはちゃんと辿り着けるってことも分かったし!」

「型破りすぎるよ、もうアンタって人は……ほんと、そういうところはすごいよね」

「ふふ〜ん、私のこと、見直しちゃった感じ〜?」

「うーん、見直すと言うより……驚愕かな?」

「それ、褒めてないでしょーが」


 道案内を終え、観光客が壁グラに集まっているのを、二人は遠くから眺めていた。


「にしても、あの絵なんなのかしら?私たち以外にもいくらか来てるけど、そんなに人気なの?」

「ああ、なんか有名なアーティストらしいですよ?最近話題だって、六本木のアツミが教えてくれて」

「ふ〜ん、そうなんだ。ああいうパンキッシュな感じ、結構イカしてるわね。NOT HERE……って、どゆ意味か分かんないけど」

「さ、さあ、俺も何だか……だけど」


 この前のアーバンメンバー達と話した、アドバイザーの話をマリエにもするカナデ。その中で、また例の壁のフクロウの絵を覗き見ていたが、


「やっぱり……なんかあの絵、変な感じが……」

「か、カナデ君?どうしたの、大丈夫?」


 この前と同じで、またしても沸き立つ不思議な感情に、カナデは心を支配されそうになっていた。

 マリエがカナデの様子に気付き、心配になって声をかけようとするが、まさに、そんな時のことだった。


[Wh……What!? He,hey!!! Be careful,Kanade,Marie!!!!!]

「……えっ!?ど、どうしたの!?」


 突如目の前がざわつき始め、途端、次々と観光客達がその場を駆け出して戻り、カナデとマリエの腕を掴んだ。

 咄嗟に前を向くと、壁グラの周囲には多くのウヨウヨ……あの世からのお尋ね者達が現れ、街や人々へ襲いかかっていたのだ。


「お尋ね者……こんなところにも来てたのね!!」

「また今日も……カイドウさんの言う通り、やっぱり、アイツらが現れる頻度が増してるのか……?」

[Wh,what happened……!?]

[Run!! Hurry up guys!!]


 焦った様子の観光客達は、カナデとマリエの腕を引っ張り、宇田川町から逃げようとする。どうやら二人のことも気にかけてくれたらしい。

 急に人が吹き飛ばされ、壁に穴が空き、車やゴミが散乱して……未知なる超常現象に狼狽え、怯え逃げ惑う人々。だが、


「……平気よ」

[Ma,mari,e……?]


 優しく手を振り解くと、マリエは観光客達に宇田川町の出口方面を指差し、先に逃げるようジェスチャーで伝える。


「貴方達は先に行きなさい!!ここは私たち……アーバンエッセンシアの出番よ!!」

[Hey!! Follow me hurry!!]

「聞こえなかったのかしら!!早く行きなさい!!ここは……ちゃんと、私たちに任せて!!」

[……All right. Thank you so much,Kanade,Marie!!!]

[Be careful!! Don't be reckless,guys!!]


 言ってる意味は分からなくても、伝えたいことは何となく分かる。マリエのフィーリングを感じ取ると、観光客は相槌を打ちながら場を走り離れていく。

 気をつけてくれ、きっとそんなことを言ってくれたのだろう。


「マリエさん、確か、みんなからはアイツらは見えてないんですよね」

「そうよ。急に目前に起こった超現象に驚いて、戸惑って、きっと怖がってるはず。いい、カナデ君?奴らを一人も……この宇田川町から出すんじゃないわよ!!」

「ええ!!みんなも、渋谷の人々も、俺たちが守らないと!行きましょう、マリエさん!!」

「うん、怖いことなんか忘れさせて……いい思い出のまま、気持ちよく帰ってもらうんだから!!」


 スプレー缶とハルバードを携える、渋谷アーバン。何でも屋の次は秘密組織の任務と、切り替えが慌ただしい中でも、人々の笑顔とちゃっかりの報酬は忘れない。

 そんな彼らは、今日も誰かを、自分自身を笑顔にするために力を使うのだった。






「……ふぅ、軽い軽い。こんなの、私たちにはまだまだ序の口ね」

「……どんな理由があろうと、俺たちの世界を好き勝手していいわけじゃないですから」


 赤い塗料で壁を作って敵を追い詰め、階段を作って高いところへのアクセスを可能にし、トドメはマリエの一撃に任せる。

 互いの欠点を埋め合うコンビネーションを意識した渋谷アーバンの戦い方に、バラバラの個であるお尋ね者達は、当然成す術もなく敗北を期した。


「そうね、同情とケジメ、きちんと線引きすることが大事よ。

……にしても、本当に急に現れるわね、コイツら。一体どこからこんなたくさん……ん?」


 いくら死者が報われない運命であろうと、それが生者への残虐な仕打ちを許す理由にはならない。そう考えるよう意識したマリエの目に、あるものが飛び込んできた。


「あれっ……これって、あの!?」


 見ていたのは、ちょうど自身が両断したお尋ね者の亡骸。腕の部分に……やはり今回も、例の緑色の印が刻まれていたのだ。


「このタトゥー……てことは!?」

「ええ。今回の件も、この前の襲撃と同じ群れが関与してた、ってことね」


 一週間前の襲撃は……と思い返しているうちに、しばらくして、亡骸は完全に消滅してしまった。今は考えても仕方ない。ひとまず観光客達の元へと急ぎ、渋谷駅へと送り迎えをしに行く渋谷アーバン。


 観光客達は、既に先程の事件の記憶を忘れていた。


 どこに行ってたんだと、言わんばかりにマリエとカナデに絡み、その姿は別れの瞬間まで楽しそうで、とても充実した一日となったようだった。

 手を振って、笑顔で別れた後に、大きくマリエは背伸びをする。


「ん〜〜っ!!はぁ、よかった!無事に終わって何よりだったわ〜っ!!」

「ほんと、あの人たちにも、渋谷にも何もなくて、ホッとしましたよ」

「うんうん、でも、まだ今日は上がれなさそうね。さっきの件、ちゃんとカイドウとカオリにも伝えなきゃだし。あ、君は先に帰ってる?」

「いや、俺も一緒にいますよ。どうせ家でも寝転ぶだけだし、なんかお手伝いさせてくださいよ」

「おっ、さっすがカナデ君!じゃあ、何してもらおっかな〜?ぐっふっふ……」

「……せ、セクハラは勘弁ね?」


 そうして夕方、渋谷駅から事務所に戻ったカナデとマリエは、新宿と六本木と連絡を取りつつ、ここで夕飯の準備を進めていた。

 デスクに座るマリエの側で、カナデは手前のテーブルにホットプレートを広げ、その上で焼肉を焼く。


「はぁ〜〜いい匂〜〜いっ!!歩き回った後の肉なんて、贅沢そのものね〜〜!!」

「この前オムレツ作ってもらったから、俺も得意料理でお返しです!ふっ……名付けて、男の超、適当簡単焼肉っ!!!」

「いや、適当か〜〜いっ!!」


 至ってシンプルに肉を焼き、その上から焼肉のタレをかけて絡める。これだけで十二分に旨いが、とっておきの隠し味をカナデは用意していた。


「じゃじゃーん!!そして、これこれっ、『新宿の恵みスパイス』!!」

「……し、新宿の恵み、スパイス?」

「えっ、やだなぁ、マリエさん。まさか忘れちゃったんですか?ほら、この前のあれ」


 カナデが手元に出したのは、一本の瓶。これは例の初依頼……東京スパイスロワイヤルでの熾烈な争奪戦の中、たまたま二人とも買ってしまった、あの新宿の恵みスパイスだった。






——そう、『東京スパイスロワイヤル』。あの日、カナデとマリエは渋谷区長の依頼である、『五種のスパイスを集めること』を見事に完遂し、無事にこの事務所を手にすることに成功した。

 人にもまれ、マリエが服を失くし、裏でお尋ね者の大反乱が起きて……随分と大変な一日だったことは、まだ記憶に新しい。


 五種の、グッズ。五種の、スパイス。

 新宿の、グッズ。新宿の、スパイス。

 何の違和感もない記憶が、二人の頭には刻み込まれている。






「あ〜、それね?私が余分に買ってダブった分、まだ残ってたから使うってことね」

「こらこら、一応隠し味ですよ。新宿の恵み……という名の、なんかよく分かんないやつがふんだんに使われてるんですから」

「結局よく分かんないんじゃないの……ま、いいわ。美味しければ何でもヨシ!料理は、口に含んだ味こそが全てなのよ!!」

「うわー、流石はガサツなマリエさんだなーっ、すごい、すごーい」

「ふっふ……もう、どうとでも言うがいいわっ!!!」

「ぷっ、あっはっはっはっ!」


 駄弁りつつ、彼らは何も思うことなくそのスパイスを肉に振りかけ、普段通りの焼肉に渋谷アーバン流アレンジを加える。既にレンチンご飯も用意し終わり、割り箸も揃え、肉もまもなく焼き上がる頃合いだ。


 背徳感マシマシの、至福のひとときがもうそこまで迫りつつある……と、心を踊らせていたその時、マリエの携帯がタイミングよく鳴り出した。

 相変わらずの、嫌な都合の良さだった。

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