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2-18 『グラフィティと、変身。』

「——へぇ〜、カナデ君って、ネット漫画が好きなんだにゃんね〜」

「ふっ、そりゃそうよ。いかにもテンプレが好きそうな顔をしてるもの」

「違うし。テンプレが好きなのは、俺じゃなくてマリエさんの方だから」

「あ、あの女が全裸で酒飲んでテンプレ漫画読んでるって想像すると……中々絵面がすげえな」

「ちょっと、そんなこと言ったらデリカシーがないよ、オウマ君!」

「え、ええええ、えっちだよっ!!」


 ガチャガチャを堪能した後、すっかり距離が縮まった六人は、アツミお墨付きの店でアイスを買い、つまみながら食べ歩きしていた。話題は渋谷アーバンのカナデのことになり、趣味の漫画やマリエとの関係について話していた。


「あっははっ、そうそう、家ではいつも全裸だったから、俺しょっちゅうセクハラされてたし」

「ど、どういう状況なのよ、それ……?」

「最初は俺もマリエさんも、勢いであれこれやってたから、色々凄かったんだよ。一緒に風呂入ったり、外で押し倒されたり……」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!???!???嘘だろ!?」

「ぶ〜〜〜〜〜〜っ!!!!ご、ごほっ、ごほごほ……や、やめっ、アイス吹き出ちゃ、もう、カナデ君ってば!!」

「うわぁ〜、そ、そんなにおアツい二人だなんて、アツミちゃんし、知らなかったなぁ〜、に、にゃは、は……」

「な、なぁっ!?んんっ、おかず君は私のおかず、おかず君は私のおかず、おかず君は私のおかず、おかず君は私だけのおかず……」


 マリエに鍛えられ、もはや慣れっこだったカナデからすると、自分の話で阿鼻叫喚を見せるみんなの姿が不思議に感じられた。改めて考えると、確かに自分の倫理観がおかしくなりつつあったのが理解できた。


「カナデ君も、や〜っばいエピソード持ってるね〜。でも、ちょっとその話をするには明るすぎるかにゃ〜?」

「うっ、や、やばっ……俺、いつの間にさも当たり前みたいに思って……感覚狂ってたよ」

「か、カイドウさんがもし俺らにそんなことしてきたらって思うと……っひ!?と、鳥肌立ってきたぜ……」

「何言ってんのよ」


 あまりにもおぞましいカナデの話に、思わず手に持っていたコーンを落としそうになるオウマ。盛大に吹き出したワラビは真っ赤になって口元を拭いていたが、その横では、新たな災厄が再び目を覚まそうとしていた。


「う〜〜〜〜〜っ、ずるいずるいずるいっ!!!わ、わ、私も、一杯おかず君のあんな顔やこんな顔を、そ、想像して、バニラアイス、いただきますっ!!はふ、はふはふはふ、はむっ!!」

「やべぇっ!!メグミのやつ、また始まるぞ、おい!?」

「わ、私は近くのお店のお手洗いに……」

「行かせないよ!?」

「ほ、ほら、みんな!!次はあっちいこ〜!!ささ〜!さ〜さ〜さぁ〜〜っ!!」


 溢れ出るメグミの負のエネルギーを、自身の気遣い力で中和させるアツミ。大勢の前での暴走を避けるべく、比較的人気の少ない、渋谷の中の少しマイナーな地点へと全員を移動させた。


「——うぐっぅっ!?ご、ごごごごがご、ごめんっ!わ、私、つい、おかず君、のことになると、あ、あたま、おかしく、なりゅ……なっちゃ、って!!」


 バニラアイスを食べ終え、暴走を終えたメグミは、全力で不埒を謝罪する。普段は内気でも心優しい彼女だが、一定の状況だと、自身の感情をコントロール出来なくなってしまうらしい。

 やれやれと頭を抱える全員だったが、何故わざわざここに来たのか、気になったオウマはアツミに尋ねた。


「はぁ……そんでよ、アツミ。なんでお前はこんなとこに来たんだ?ここ、確かに人気は少ないけどよ」

「ああ、それはね?えっと、確かここの壁に……おおっ!あったよっ!!」


 自身のフリフリのスマホの画面を覗きつつ、何かを壁に見つけるアツミ。

 一見すると、そこはただぐちゃぐちゃに塗りつぶされただけの壁。ペンキ、スプレー跡の残る、アウトローでパンキッシュな世界観を生み出している、グラフィティアートの集い場。




 ここは宇田川町の裏路地、いわゆる壁グラというもので知られている場所だった。




「ん?ここの壁グラに何かあるの、アツミ?」

「ねぇ、カナデ君ってさ、『アドバイザー』って人、聞いたことあるかな?」

「『アドバイザー』?」


 首を振ると、アツミはスマホで検索をかけ、その画面をカナデに見せる。そこには、一つ一つに独特の世界観が宿る、なんとも不思議な感性の作品達がいくつも並んでいた。

 アツミが見つけたのは、これら作品を手がけているアーティスト『アドバイザー』が残した新作アートだったのだ。


「これこれ。ずっと昔からいるアーティストさんらしいんだけど、最近話題になっててね〜。頻繁に渋谷のあちこちに新作が出てるって、一種の都市伝説的な人気があるんだよ」

「へぇ〜。じゃあ、今目の前に描いてあるこれも、そのアドバイザーってアーティストの?」

「そうそう!ひょっとして新作あるかもって来てみたら、やっぱりあったんだよ〜っ!」

「そうなんだ……」


 最近話題のアーティスト、アドバイザー。年齢も、性別も何も分からない、一切が謎に包まれたグラフィティアーティスト。

 興奮するアツミと共に、その人物の新作である絵を見るカナデ。

——何かを訴えているような、焦った表情のフクロウの上から、赤い文字で『NOT HERE』という字が描かれている。


「……なんだろ、この感じ……?」


 カナデは……何故か、その絵を他人事のように見ることが出来なかった。

 理由は分からない。分からないが……アドバイザーの描いた絵は、どこか、自分との間に『繋がり』があるように感じられたのだ。


「……」


 気づけば、見入っていた。普段アートなんて全く興味のない自分が、流行などにも疎く、本当に漫画だけが趣味の自分が、ここまで心を鷲掴みにされるなんて。

 何も考えられなくて、目に自然と焼き付いて、記憶に刻み込まれる。視界が狭まり、意識が吸い込まれそうになる時、ふいに肩を叩かれ、揺らされる。

 カナデを現実へと引き戻したのは、側にいたメグミとユカリだった。


「あの、お、おかず君……だいじょう、ぶ?」

「——えっ」

「えって、気づいてないの?貴方、今泣いてるわよ」


 二人は、心配と怪訝の混ざる表情を浮かべ、涙を流すカナデを覗き込んでいた。近くの全員も、不思議そうにカナデの反応を見ていた。

 カナデは咄嗟に目を擦る。自分でも気づかない内に、無意識のまま涙を流していたようだった。


「え?な、なんでこんな……あれ?」

「泣くほど気にいるなんて、ちょ〜っとびっくりしたけど、でも、気に入ってくれたならよかったよっ、カナデ君!」

「不思議なこともあるもんだな。まあ、漫画好きなんだし、絵見て、つい泣くことくらいあるんじゃねえか?」

「あ、あんま関係ない気もするけどね……」


 きっと、泣くほど素晴らしくカナデの目には映ったのだろう。他の全員も鑑賞した後にそう片付けられ、この場はそれで締められてしまった。

 だが、カナデだけは自身に芽生えた感情……悲しみと覚悟が入り交じる、『強い衝動』のようなものを、どうも思い返せずにはいられなかった。何だか、不思議な気分だった。






 そうして時は過ぎ、夕暮れを通り過ぎるほどになる。

 もう一日も終わりに近い。カナデ達六人は、マリエ達との合流地点であるハチ公像前へと、再び赴くべく向かっていた。


「いや〜、すっかり終わっちゃったね〜。アツミちゃん、も〜ちょっと遊んでたいくらい楽しかったよ〜っ!!」

「あっはっはっ!!!ああ、俺もだぜ!!旨いもん一杯食って、沢山の奴と仲良くなる。幸せに溢れる、最高の気分ってやつだな!!」

「う、うん!わ、私も、こんな、最高級の、お、おかず君、に、出会えるなんて、夢にも、お、思って、なかった、から」

「まあ、私も思ったほど退屈はしなかったわ。時間と金額分の元を取れて、ホント安心した」

「もー、また意地っ張りになってるし。私も、今日はみんなの色々なことを知れて、楽しかったよっ!カナデ君ともメグミちゃんとも、それに、あのライカちゃんとも仲良くなれて、ホントに嬉しい!」


 即興でカイドウが決めた交流会だったが、それぞれのアーバンが真新しさをもたらし、もたらされ、結果お互いに多くのことを知り、楽しむことが出来た。

 初めは雰囲気に慣れなかったカナデも、最後は全員を呼び捨てで言えるほどに馴染むことが出来た。マリエ以外とこうして話すのも、いつぶりだろうか。同年代の友達なんて、いつぶりに出来たのだろうか。


「うん。俺も、楽しかった。疲れるだけじゃなくて、ちゃんと来てよかったって、思えたんだ」

「あっはっは!!!!おいおい、随分と素直じゃねえか〜、カナデ〜?」

「お前のやかましさは相変わらずだけどな」

「ま、そこは同感ね」

「うっせえし!何だか、いつの間に変に仲良くなっちまいやがって。ずるいぜ、このこのっ!!」

「ははっ、いってっ!やったなオウマ、お前っ!」


 どつき、どつかれ、背中を軽く叩き合うカナデとオウマ。ユカリは相変わらず飄々としていたが、そんな彼女を逃さないのがアツミ、メグミ、そしてワラビだった。


「全く、男っていつになってもバカばっかりね。鼻で笑ってやるわ」

「ユカリってば、もう。さっきみたいに素直な時は、本当に可愛いのにな〜」

「あっ!ぐっふっふ……ねー、ワラビちゃーん。アツミちゃん、も〜っとユカリちゃんの素直な表情みてみたいな〜。ちらちら〜」

「あ〜……ふっふっふ、それ、い〜かも〜。にやりにやり〜」

「ん、ん?え、な、何よそのわきわきした手つきは。ちょっと、何ニヤニヤしてるのよ!?やめなさい!私に何をする気なの!?」

「……え、ええええ、えっ、えっちなこと、だよっ!!」

「何言ってんのよ、この頭真っピンク変態女!!」

「っぐぅぅっ、ぐふ、っ〜〜〜!!?」


 罵倒を受け悶絶するメグミを横目に、両脇に手を滑り込ませようと企むアツミとワラビから逃げるユカリ。カナデとオウマの周りを逃げ惑い、時にはカナデを盾にしたり、わちゃわちゃとした掛け合いを繰り広げる。

 だが抵抗も虚しく、最後には脇腹を思う存分めちゃくちゃにされてしまった。


 すごい表情を浮かべ、悶絶するユカリ。それを見て、興奮が抑えられないメグミ。ハチ公像目前の渋谷センター街にて、まだまだ青い子ども達の気恥ずかしい声が響き渡る……その時だった。

 宴は突如として、終わりを迎える。




[うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!]




 突然、目の前の人混みが一斉に吹き飛び、多くの人間が宙を舞い、悲鳴と共に地面へと落ちてきた。大半は既に意識がない。何らかの異常な力が働いたことは明白だった。


「あ、っ、あ、ひゃ……っ!?ち、ちょっと、止めなさいっ!!ほら、前見て、前っ!!」


 異変に気づいたユカリは、息を必死で整え、正面を指差す。六人の前、重なった人間達の山から現れるのは、複数の白いウヨウヨ。アーバンエッセンシアの敵、世界を脅かすあの世からのお尋ね者達だった。


「……!?あいつらって、お尋ね者か!?」

「おいおい、こんな時に出くわすのかよ……せっかくいい感じのまま、終われるとこだったのによっ!」

「ええええ、え!?お、おおおお、お尋ね者、がいるじゅんっぐぅぶ!?」


 昨日のカイドウが言っていたように、各地域のお尋ね者の出現数は上昇傾向にある。いつどこで彼らが現れても、何もおかしくはない。


「あちゃー、これじゃ、こちょこちょ〜ってしてる場合じゃないねー。ワラビちゃん、今日はここでお預けかな」

「そうだね、ライカちゃん。アーバンエッセンシアの責務は、お尋ね者から街と人々の平和を守ること!今日は私たちも力を貸すよ、カナデ君!」


 だが、彼らも運が悪い。この場には渋谷だけではなく、新宿、六本木を含めた三つのアーバンが集まっているのだ。

 ワラビとアツミが意気込むように言うと、カナデ、メグミも頷き、お尋ね者と対峙する姿勢を見せる。そして、その最前線に立ち構えるのは、ユカリとオウマだった。


「仕方ねえ、俺もいっちょやってやるか!ほら、行くぞユカリ!!」

「……ふぅ、分かってるわ。足、引っ張るんじゃないわよ、オウマ」


 お尋ね者達もこちら側を認識したらしい。本格的な戦闘体制に入り、カナデも自身の能力であるスプレー缶を発現させ、普段通りの棒を生み出そうとするが、


「よし、行くぞ……って、あれ?」


 その時……オウマとユカリは、それぞれ身に謎のデバイスを装着したのだ。

 腰に巻いた、黒い剣が刺さったドライバーと、腕に巻いた、蒼色のブレスレット……?


「……へ?」


 次の瞬間、カナデの目に驚くような光景が映り込む。




「変身!!!」

「アーバンチェンジ」




 そう叫び、オウマは腰のドライバーから剣を引き抜き、ユカリは腕のブレスレットを撫でるよう起動させる。

 瞬間、二人の身体に変化が起こる。剣から放たれる炎がオウマを包み、オレンジのオーラと不死鳥柄の鎧を纏わせ、その姿を剣士のような姿に変える。

 一方、ブレスレットから放たれる蒼い光に纏われ、ユカリも蒼いオーラと鎧を纏った戦士の姿へと変わる。


 そう、二人はなんと、まるでテレビ番組顔負けの『変身』を披露したのだ。


「えええええええええええええええっ!!!!!!?」


 もはや何でもありな、信じられない光景を目にし、同時に能力……人の空想の力の具現化である『ソート』の自由性を、カナデは知ることとなったのだった。

オウマの変身とユカリのアーバンチェンジ……どこからどう見てもファ……とソノ……ですけど、あくまでこの世界では『似たような番組』が放送されていて、その特撮ヒーローの力を発現している、ということになっています。


次回、新たな仲間達の能力が立て続けに明らかになります。また見ていただけたら嬉しいです。

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