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2-17 『新宿硬めと、六本木濃いめ。』

「すみません!!私、君みたいな人がちょーちょーちょーーーどストライクなんですっ!!!あの、今日からおかずにさせてもらうので、おかず君と呼ばせてくださいっ!!!」

「え?え、えええ、え、えっ、え、っええ、え、あ、え、え?えっ?」

「じ、じゃ、いただきまふ、はふっ、はふはふ……おいひい!!!おいひいれふ、おかず君の前で食べる、ほわいとしちゅーは!!!はむっ、はむはむっ……」

「はっ——————」

「カナデくぅぅぅぅぅぅぅん!!!!!」


 突如おかずにすると言い、自分をガン見しながら皿のホワイトシチューに貪りつくメグミ。とても理解が追いつかない光景を前に、目を回して気絶しそうになるカナデを、マリエが支える。


「はぁ、はぁ……おかず君の前で、しちゅーが、喉元を流れるたびに、こ、心が、昂ってきて……ああっ!!たまらない!!さいっっっこう……は、はぁぁ、っ……ふひ、ぃっ」

「お、おい、ユカリ!頼むから!!ほら、お得意のやつでこの状況どうにかしろって!!」

「ち、ちょっと私はお手洗いの方に……」

「行かせねぇよ!?」

「い、いいい、行かせないからっ!?私も頭クラクラして、どうにかなりそうなんだよっ!?」

「っ!?は、離しなさい、オウマ、ワラビ!!」


 息を荒げながらの飯テロにより、過ぎ去ったカオスが再来する、渋谷と新宿と六本木の邂逅の場。渋谷は必死で意識を保ち、新宿は全員での道連れを選ぶ。

 カオリとカイドウは軽くため息を吐くが、何よりも一番対応に困っていたのは、彼女だろう。


「あ、あの〜……さ、境純美サカイ アツミでーす。はい、以上でーす……」


 とんでもないメグミの自己紹介の後に回されたアツミは、気まずそうに軽い挨拶を済ませて視線を自分の皿に戻そうとする。だが、それを許さなかったのが、瀕死の渋谷アーバンだった。


「い、いやいや、気遣わなくていいのよ!?むしろ、この場の空気は全部君にかかってるんだから!!」

「ええっ!?」

「そ、そうそう!!お願いだから俺を殺してくれ……じゃなくて、助けてくれぇぇっ!!!」

「カナデ君!?ほ、ほら、早くっ!!」

「いや、私もあ〜んまし加わりたく……どわっ!わ、分かったよっ!!」


 完全に呑まれそうになる渋谷アーバンにしがみつかれて催促され、仲間の責任を負わされてしまったアツミ。もうこの場の収集を図れるのは、彼女しかいない。

 全員の視点が集中する中、アツミは……自身の職業柄の強みを、全開にして応えた。


「えっとね!私は、普段はちょー話題のインフルエンサー、『ライカちゃん』として活躍してるのだにゃ〜〜っ!!!」


 そう言った瞬間、これまでの循環が悪かった空気の流れが、一気に変わった。

 サングラスをズラして、その奥にある宝石のような瞳をチラつかせる。微かに見えた美貌は、彼女の持ち合わせる品格を、確かに示していた。


「えっ……ええっ!?ライカって、あ、あのライカちゃん!?」

「ん?らい、く、か、え……?知ってんのか、ワラビ?」

「そーだよっ、オウマ君!!だってこの子、フォロワー70万超えのちょ〜〜人気ライバーさんだよ!!?」

「なんだってえぇぇぇぇぇぇ!!!?」


 メグミのもたらした混沌はそのまま、そこに新たなムーブメントを起こすアツミ。すっかり高揚した様子のワラビは、憧れの有名人に会った一般人として、目を輝かせていた。


「ふっふっふ……さっすが、ワラビちゃん!アツミちゃん、ちゃんと知名度上がってて、ちょ〜〜嬉しいにゃ〜〜ん!!」

「へ!?な、なんで私の名前を……!?」

「だって、君とユカリちゃんって、あの『モンダちゃん』の事務所の後輩ちゃんでしょ?前に共演した時、話は聞いてるよん」

「せ、先輩が、ライカちゃんに私たちのことを!?」


 人気ライバーライカだと明かしたアツミは、ワラビとユカリの話を、過去にあの豆打悶堕から聞いたことがあった。

 元々地下出身で、そこから這い上がるように表舞台へ躍り出たのが豆打悶堕だ。多くの苦難を超え、その努力の果てに輝かしい夢を掴み取った彼女を、後輩の二人も尊敬していた。

 だが、


「ふん、少し人気だからって、調子に乗らないことね」

「ん?何カリカリしてんだよ、ユカリ」

「……別に、関係ないわよ」


 ワラビとは対照的に、少し冷たくアツミに応えるユカリ。先輩の知り合いとはいえ、地下に住む自分たちと殿上人である彼女を比べた時、微かに心が尖る感覚を覚えたのだ。

 そうして、空気が良くなったのか悪くなったのか、不思議な温度感の中で、全員の食事は続く。

 全員が目の前の皿をつつきながら、腹を膨れさせつつ自己紹介を進めていった……


「ごきゅ、ごっきゅ……っ!?あ、あれ……わ、私、何をして……はっ!?ご、ごごがごごごごっ、ごめんなさい、ごめんなさい!!」

「い、いや、あのその……とりあえず、少し、休ませ、て……」

「カナデ君……私が人工呼吸でもすれば、少しは楽になるかしら」

「マリエさん!?こんな時にセクハラやめてください!!」

「飴でも舐めさせとけば治るわよ。はい、アタシのペロペロキャンディーあげる」

「マリエ。ここ、人前、だから」

「はいはい、ちょっとどさくさに紛れてみただけよ」

「何言ってんですか!」


 カナデの正面に座るメグミを警戒し、少しやり方が強引になってきたマリエ。その暴走を抑制し、さりげなくカナデの背中をさするカイドウとカオリの気遣い。他のメンバーも同じく、各アーバンの垣根を越え、純粋な信頼を築いていく。

 と、そうしているうちに全員の自己紹介が済み、皿の上の料理も綺麗になくなっていた。


「んっと、ここで全員の顔合わせが終わったわけだ。

渋谷のカナデ、マリエ。

新宿のユカリ、ワラビ、オウマ、カイドウ。

六本木のメグミ、アツミ、カオリ。

これから僕らは、この東京を守るアーバンエッセンシアの連合として、協力関係を築くことになるんだ。

よろしくの意を込めて、午後はそれぞれのアーバンの親交を深める時間にしよう」

「えっ!?今日、これで終わりじゃないんですか!?」

「そうだね。あともうひと頑張りかな、頑張って、カナデ君!」

「カイドウさん!?マジでか……」


 既に疲労困憊のカナデを叩き起こし、逃すことのない新宿と六本木。

 昼食を済ませてからは、マネージャー組とメンバー組に分かれ、別々に行動する。マリエはカイドウ、カオリとカフェで同窓会に洒落込み、カナデは新宿と六本木のメンバーと渋谷観光に出る。

 仲間とはいえ、会ったばかりの他人である彼らと共にいるのに、カナデは少しばかりの息苦しさを感じていた。


「あ、あの、お、お、おかず君……き、緊張してるの、は、私も、同じ、だよ……」

「……ひょっとして、気、使われてます、メグミさん」

「ひゅっん!?め、めめめ、っ、メグミさん、だなんて……き、気軽に、呼び捨て、で、平気、だ、だよ!!」

「あ……ありがと、う。メグ、ミ」

「っ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!ぽわぁぁぁぁぁぁぁ……」


 自己紹介より、ここにいる全員が、偶然にも同じ年齢の17歳だったと分かった。渋谷センター街を散策する中、敬語を抜いたメグミは、動きが固かったカナデを気遣う。


「団体とつるむのに慣れてないのね。まあ、私も無理して他人といるのは性に合わないの。気持ちは分かるわ」

「……それ、今の俺たちに言ってんのかよ、ユカリ」

「まさか、とてもウッキウキでワックワクしてるわ」

「顔半分死んでるけどね、ユカリ!?」


 自虐のような内容を述べ、進む足を速めていくユカリ。彼女といい、カナデといい、そこまで朗らかな空気感ではない六人の輪の中、そこに新たな風を取り入れたのがアツミだった。

 ちょうど野外設置のガチャガチャスペースに差し掛かった時、彼女は動きに出る。


「う〜む……あっ!ねえねえ、アツミちゃんよく企画でガチャガチャとかやるんだけど、ちょっとやってみよーよ!ほら、あそこにあるからさ〜!!」

「いや、私は遠慮しておくわ。ガチャガチャなんて子どもじみたもの、私には無縁の世界——」

「はーい、団体の六名様ごあんな〜い!!」

「ちょっ!?は、話を聞いてるのかしら、このっ!!」

「ほらほら、カナデ君も早く早く〜!!」

「うわっ!ちょ、お、俺まで!?」


 ユカリとカナデを引き込むと、サングラスを傾けてウィンクをするアツミ。彼女の意図を汲み取ったオウマ、ワラビ、メグミも微笑み、続いてガチャマシンの前に並ぶ。


「ほらほら、こ〜んなにいっぱいあるよっ!!ささ、どれ引くどれ引く?」

「ったく、もう、私はやらないって言って……」

「そーいうこと言って、一回やってみれば、印象ガラッと変わっちゃうかもよ〜?」

「ふっ、こんな低俗な集金ビジネスに嵌まるほど、私はバカじゃ……っ!?」


 蔑むように視線を無数のガチャマシンに向けていると、ある一点にて、突如ユカリが息を呑んで目の動きを止める。彼女の異変に気づくと、カナデとアツミもそのガチャマシンを覗く。


「ん?ユカリさ……ユカリ、は何を見て……『戦隊ヒーローズ』ラバーマスコット?」

「戦隊ヒーローズって……あー、アレね!アツミちゃんも知ってる〜!」

「なっ!?あ、アツミ、まさか……貴方もせ、戦隊ヒーローズが好きなの!?」


 戦隊ヒーローズと言った途端、ユカリの目の色が全く異なるものに変わる。普段とは違い、頬の色もやや赤らんでいる。心なしか、嬉しさが見え透けする彼女の変わりぶりに、アツミも驚きつつも応える。


「へっ!?あ、いや、私は聞いたことがあるってだけで、ほ、ほら!毎週日曜朝はトレンドに乗ってるから!」

「あ、っ……そ、う、なのね……」


 すると心なしか、悲しそうに声のトーンが落ちたユカリ。その後、何事もなかったかのように立ち上がるも、明らかに肩が落ちていて、察したオウマが彼女を引き留める。


「おい、どうしたんだよ、そんな悲しそうにしやがって。結局引かないのか?なあなあ、ユカリ?」

「……何でもないから。さ、次に行きましょ。ほら、次よ次!次に行くのよ、このバカっ!!」

「はぁ!?聞いただけなのに、バカって酷くね!?」

「バカバカ!うっさいわよっ!!」

「誰がバカだ、こんにゃろっ!!」


 ガタイのいいオウマの背中を、ペチペチと可愛く叩くユカリ。すっかりクールな毒舌キャラを壊してしまった彼女に、追い打ちをかけるようワラビも話に便乗してくる。

 今こそ、人付き合いが下手なユカリが周りと打ち解けられる、またとないチャンスだ。


「実はね、ユカリって、戦隊ヒーローズっていう特撮番組が大好きでね。オウマ君が前番組の変身ヒーローズ派だから、いつも意見が合わなくて揉めてるんだよー」

「へぇ、オウマだけじゃなくて、ユカリ、もヒーロー好きなんだ。結構意外だったなぁ」

「ね〜。まあ、カッコいいものに憧れる気持ち、アツミちゃんも分からなくないけどね〜」

「ワラビっ!?い、いい、言わないでってば!やめなさい!」


 珍しく焦るユカリを見て、ついニヤニヤとするワラビ。してやったりな表情の裏には、相方で大事な友達である彼女への応援と、秘密を共有できたことへの嬉しさが秘められていた。


「ふふーん、いーじゃん、ユ〜カ〜リ〜?」

「そうだ、いーじゃねえか!!ヒーローを憧れるのに男も女も関係ねえ!好きなもん好きって言って、何も悪いことなんてねえんだよ!な、カナデ!!」

「うおっ……まあ、自分が本当に好きなことなら、変に考えないで、自信持っていいと思うけど」


 背を叩くオウマの言葉を聞き、カナデもその考えに同意を示す。

 本当の自由は、決めつけもこじつけもない、自分が心から望むもの。

 前にマリエと共に見つけた、人生における大事な考えを基づくよう、カナデはユカリに言った。


「そ、そう……って、なんで貴方なんかに励まされてるのかしら、っ……はぁ、もういいわよ」

「ユカリちゃん?どうしたの?」

「どうしたも何もないわよ……ちょっとだけ、ほんの数回だけだから」

「おっ……ふふっ!じゃあ、私も同じの引いちゃお〜っと!そうすれば、ユカリちゃんと仲良しのオソロだしっ!ねっ!」

「……勝手に、しなさい」

「やったにゃ〜〜ん!!」


 そうして、カナデや周りの後押しもあり、途中から完全にアツミのペースに乗せられてしまったユカリ。だが、その表情はそこまで硬くはなく、同じ趣味を共有できたからか、案外満更でもなさそうだった。

 外から微笑ましく見守るワラビに釣られて、オウマ、メグミ、さらにカナデにも、その表情に自然と笑みが溢れていたのだった。

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