2-15 『新たな色と、懐かしの友。』
第二章、世界の革新編が今回より始まります。これまでカナデとマリエという二人のキャラクターしかいなかった物語に、新たに外部からの関係者が多く現れ、物語はさらに混沌としていきます。
一日に1〜3話ほどお昼頃に更新していますので、そのペースは変わりません。
——この街は、崩壊の危機を迎えていた。
「とんでもねえ数だな……おい、ユカリ、ワラビ!!気、抜くなよ!!」
「アンタこそね、暴れ馬」
「はぁ、はぁ……そっちも気をつけてね、オウマ君!!行くよ、ユカリ!」
ちょうど、ユカリとワラビの先輩に当たる、豆打悶堕のイベントで盛り上がっていた渋谷。そんな賑やかさを纏っていたはずの街は、ヒビ割れ、ビルが倒壊し、激闘の戦場と化していたのだった。
「まずい、このままじゃお尋ね者を取り逃がしてしまう……オウマ、ユカリ、ワラビ!!ひとまずお尋ね者の討伐を最優先に行動してくれ!!」
「はぁ、はぁ……はい!了解です、カイドウさん!!」
今、ヒビ割れた渋谷の空を漂うのは、500を越える数の、あの世からのお尋ね者達。既に生まれてしまった犠牲者も少なくはない。
もしも一人でも取り逃がしてしまえば、街の再生も、犠牲者の再生も、完全な状態では行われなくなる。
アーバンエッセンシアとして、課せられた責務は、生き残りを一人残らず消し去り、全員を始末することだ。
「させるか、よっ!!!俺のソート『ヴォイドソード』を喰らいやがれぇぇぇぇっ!!!!」
「私の力、ソート……『サファイアブレスレット』に、覆せない運命はないわ!」
「わ、私のソートだって……ただの『マイクスタンド』でも、十分戦えるんだから!!」
「この『月弦の弓』に、撃ち落とせないものはない!!みんな、もう少しだ、後もう一息……頑張れぇぇぇっ!!!」
「「「……おう!!!」」」
こうして、勇敢な彼らの行動により、渋谷は無事に救われた。英雄と語り継がれた新宿アーバンの四人は、未来永劫、人々の記憶に残るだろう。めでたし、めでたし……
「「いや、ちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇい!!!!!!!!!!!!」」
朝早く。埃も少ない、まだまだ新しい事務所の中で、二人の叫び声が轟く。
「何よ。本当のことを言ったまでじゃない。私たち新宿アーバンが、貴方たち渋谷アーバンの世話を肩代わりしたって話」
「ま、待って待って。渋谷が危機に陥るって、いつそんなことあったの!?俺とマリエさんだって、ちゃんとその日渋谷に……」
「ええ、見てたわよ。ソートを敵じゃなくて、向かいのビルに向ける貴方の姿をね」
「うげ、っ……や、やっぱ見られてたんだ……」
これまた奮発して買った、黒いフカフカのソファを埋め尽くす、四人の新たなるアーバンエッセンシアの関係者。その内の一人の女の子より、冷たい口調でグサグサと突き刺されるカナデ。
今日は世にも珍しい、渋谷アーバンにお客様が来る日だった。
時は、一時間前に遡る。
「……マリエさん、また寝てんのかな」
眠い目を擦って、新しい事務所の扉に手をかけるカナデ。職場が変わったことで、今までのマリエの賃貸へと行くことはほとんどなくなった。
まだ慣れてはいないが、いよいよ本格的な活動を始める手立てが整ったことは理解している。SNSでの宣伝でも、『あの超大物の依頼も完遂!!』と銘打ってしまったほどだ。より、気合いを入れていかなければならない。
「おはようございます、マリエさ——」
扉を開き、事務所内に入るカナデ。いつもなら、ここでマリエが迎え入れてくれるか、はたまた、一晩中寝過ごした下着、もしくは全裸姿のマリエを起こすことになるはずだった。
ところが、今日はいつもと違った。
「あ、おっはよ〜っ!カナデ君!」
いつも以上にぴっしりとスーツを決めたマリエと、そして、
「あ、どうもおはようございます、カナデ君!!」
「……ご無沙汰してるわ、坂葉奏」
「おーい、遅いぞ、カナデ〜?なんだなんだ、寝坊か〜?」
「こんにちは。君は、坂葉奏君だよね?」
見知らぬ二人の少女、見知らぬ一人の青年、そして、またしても見知らぬ一人の男性がソファを占拠していた。
「……?」
目を丸くして、入口に立ち尽くす。しばらく思考が停止した後に、現実に戻ってきたカナデは、真っ先にマリエの元に駆け寄る。
「え、ち、ちょ……な、何がどうなってんですか、マリエさん!!!??」
「え……って、そっか。そりゃ、いきなりこんな大所帯になってたら、ビックリもするわよね?」
「そーですって!!てか、この人達ってまさか、ウチの新メンバー……とか!?」
「愚問よ。こんな弱小アーバンに所属するほど、私たちは落ちぶれてないわ」
「は、はぁ!?」
出会って最初に交わした会話は、まさかの罵倒だった。少女からの突然の辛口コメントにうろたえるカナデだったが、隣にいるもう一人の少女がすかさずフォローに回る。
「ち、ちょっとユカリってば、言い過ぎっ!!この人と私たち、初対面だよ?」
「私は、事実を言ったまでよ。そもそも、今日は説教をしに来たんだから。そうよね、カイドウさん?」
「うーん、合ってるような語弊があるような……まあ、とりあえず言葉遣いには気をつけようね、ユカリ」
「あっははは!!!怒られてんじゃねえか、ユカリ!」
「その聞こえの悪い耳引きちぎるわよ、オウマ」
カナデを横目に、次々と自分達のテリトリーで話を広げていく謎の四人組。このままでは何も分からないと、少し緊張しながらも、その話の流れを断ち切り、カナデは初対面の四人に話しかける。
「てか、あの、その……最初にせめて、名前くらいは教えて欲しいって言うか……」
「あっ!!そうだったよ、まず私たちは自己紹介からしないと!ごめんね、カナデ君!」
カナデに優しく笑顔を見せる彼女は、もう一人の方と比べても、圧倒的に人当たりの良い少女だった。その少女が全員に呼びかけることで、全員の焦点がカナデに向く。
そして、全員が一斉に自己紹介をしだしたのだ。
「私は、甘垂蕨!隣にいるユカリと一緒に、地下アイドルユニット『あ〜んみChu♡』として活躍してるんだ。よろしくねっ!!」
「……私は、葛餅紫。ワラビもだけど、これは本名じゃなくて芸名。あ〜んみ……Chuは、プライベートはお断りのスタンスなの。だから普段からもこっちの名前で呼んでもらうわ、いいわね」
「よおっ!!俺は、焔大真!!まだまだ若い17の高校生で、腹筋とスクワットは俺の日課!!!憧れは『変身ヒーローズ』のヒーロー、フェニックス!!あんなかっけぇヒーローになれるよう……日々努力あるのみだぜ!!!」
「はじめまして、僕は現海堂、秘密組織アーバンエッセンシア、『新宿アーバン』のエリアマネージャーを担当してるんだ。人種は悪魔で、マリエとは大学時代からの同期。気軽に接してもらって構わないよ」
荒れ狂う情報の波が、カナデの小さな脳みそに襲いかかる。
「多い多い多い、てか濃い!!一回の情報量が凄すぎるって!!」
「ふっ、こんな程度のこともこなせないのかしら。バカのオウマがいる方が、よっぽどマシね」
「いや、理不尽すぎるだろ!!」
「そうだそうだ……っておい!!誰がバカだよ!!」
「いや、アンタバカでしょ」
「バカじゃねえよ、ユカリこんにゃろう!!」
カナデを罵倒すると同時に、同じメンバーであるオウマにも飛び火を喰らわせるユカリ。
朝早くから、その強烈なキャラを遺憾無く発揮する新宿アーバンのメンバー達。あまりのその躊躇いの無さに、完全に飲み込まれそうになる渋谷アーバンだったが、マリエがカオスになった場を元に戻す。
「ほらほら、ストップ!!さて、これで全員集まったことだし、そろそろ本題に入ってもいいんじゃないかしら?そうよね、カイドウ」
「っと、そうだったね、マリエ。ほら、みんなもそろそろ姿勢を正して……そうそう。
僕たち新宿アーバンは、一つ大事なことを伝えたくて、今日渋谷アーバンに来たんだ——」
「——で、その伝えたかったことが、俺たち渋谷アーバンの失態……って、ことですか?」
「別に、失態とまでは言わないよ。事実、僕らも完全には、奴らを始末することが出来なかった。最後に逃した二体……強力なソート使いのお尋ね者を倒したのは、君たちだしね」
「ただ、少し気にかけて欲しいと思ったのは事実だ。今日話す内容は主に君たち、いやアーバンエッセンシア全体への、警告の意味合いを持ってのものなんだ」
警告という、不穏な響きにマリエがカイドウに反応する。
「どういうことなの?」
「ここ最近、あの世からのお尋ね者の出現数が、以前よりも飛躍的に上昇しているんだ。僕たちの活動エリアの新宿でも、奴らを見かける回数が多くなった。渋谷も例外じゃないと思ってね、こないだの件で確信したよ」
先日、新宿アーバンが全員で渋谷を訪問したのには理由がある。アーバンエッセンシア全体で問題になっている、あの世からのお尋ね者について、新宿と同様の増加傾向にあるのか、それを調査するためだった。
その際中、偶然にも奴らの大群に遭遇し、渋谷の危機に急遽の大規模な戦闘を強いられたというわけだ。
「あんなヤバい規模のお尋ね者の襲撃、俺も中々経験ないぜ。お前ら渋谷、結構危ないトコまで来てたってことだぜ」
「まだ経験が浅いのかもしれないけど、それは理由にはならないわ。アーバンエッセンシアに所属するなら、責務を全うすることに言い訳は許されない。人を守る自覚をちゃんと持ちなさい」
「……でも、結果的に渋谷が守れて、私たちもホッとしたよ。本当に焦ったからね、あの時はさ」
「……なんか、申し訳ない気分になってきた……め、迷惑かけて、本当にすみません……」
それほどまでの大事が起こっていたことに、気づくことすらできなかった自分に不甲斐なさを覚えてしまう。つい豆打悶堕のことで頭が一杯だったばかりに、カナデは新宿アーバンのメンバー達に頭が上がらなくなっていた。
そんな本気で落ち込むカナデを、今度は優しく慰めるカイドウ。
「いいや、分かってくれればいいんだ。最近の異変は、平和と言われていたこの渋谷にも及んでいる。いつどんな時に危機が訪れてもいいよう、次からはよく街に目を配らないとね」
「精進、します……」
「あははっ、もう、そんなに落ち込まないで。僕たちは君たちの味方で、この道の先輩だ。困った時は、いつでも力になるよ」
「か、カイドウさん……!!!ありがとうございます!!!」
飴と鞭の使い分けが上手いとは、このことか。完全にカイドウに目を輝かせていたカナデを見て、横にいたマリエは謎の危機感を感じ、咄嗟にその腕を掴み、自分の方に引き寄せる。
若干の嫉妬と、カナデを取られてしまう不安から、マリエは頬を膨らませてカイドウに釘を刺した。
「ちょっと、カイドウ。カナデ君はウチの子なんだから、変にたぶらかさないでよね?」
「ははっ、そんなつもりないから平気だよ、マリエ。そうだ、事務所を手に入れて、こうして熱心なメンバーも加わって、本格的に渋谷アーバンとして動き出したんだよね。
すごい頑張ってるじゃんか、おめでとう」
「ふん、言われなくても分かってるわよ。カナマリ何でも屋も、渋谷の防衛も、私たち二人でちゃんとこなしてみせるわ」
「ははっ、前よりも随分と頼もしくなったな」
カナデに対するそれとは違う、少し砕けた口調でマリエに接するカイドウ。改めて事務所を見渡し、驚きと、少しの感動が、その笑顔に漏れ出る。マリエの、問題児としての過去時代を知っているからこその、同期として、友としての感慨深い何かがあるのだろうか。
「……あ、ありが、と」
「変に意地っ張りなとこは、変わってないな。あくまでマリエらしく、前を進めたってことだ」
「もう……昔から本当に口が上手いわね、アンタは」
「はは、そりゃどうも。じゃ、そろそろ今日はお暇させてもらおうかな。ちゃんとした挨拶が出来て、良かったよカナデ君」
照れくさそうに顔を掻くマリエに微笑むのを最後に、腕時計を見て、カイドウは渋谷から新宿に帰ることにした。
最後に手を前に出し、カナデと握手を交わす。それに合わせて、他の新宿アーバンのメンバー達も、カナデに話しかけていく。
「はい、俺も会えて良かったです!!ありがとうございました、カイドウさん!!」
「ま、次会った時には、私たちを驚かせるくらいになってみせなさいよ。アリ程度の期待なら、してあげてもいいわ」
「うっ……が、頑張るよ……」
「あっはっはっは!!!敵と戦う分には、勇気と体力が大事なんだ!!どうだ?もしヒーローになりたいなら、その秘訣、特別に伝授してやってもいいぜ?」
「ひ、ヒーロー?いや、それは、ちょっといいかな俺は……」
「ユカリ、オウマ君、ほどほどにっ!もう……ウチの濃い人達が、ごめんね?そうだ、今度良かったら、私たちの街にも来てよ!私が案内してあげるね!」
「あっ、どうもありがとう、えと……ワラビ、さん」
「さん、なんて付けられたら虫唾が走るわ。気軽にワラビ、ユカリ、バカで十分よ」
「おい!!なんで、俺だけそれなんだよ!?」
そうして、最後まで騒がしいまま、渋谷を後にした新宿アーバン。
また落ち着かない日々が始まる気がする。彼らと対面して疲れに疲れ切ったカナデは、見送りに出るマリエを見つめながら、そんなことを思っていたのだった。




