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1-13 『生きて、何がしたいのか。』

 彼らは、生者と同じ能力を使う、初めて会うタイプのお尋ね者だった。これまで二度の襲撃で現れた個体達は、いずれも能力を持たない存在のみだった。


 そのため、今回の二体は、戦闘能力もこれまでの存在より桁外れに高い。


「ぃ、やば……うがぁぁぁっ!!!!」

「バイト君!!!」


 巨大なナイフの一振りが、カナデの首元に襲いかかる。咄嗟に手にしていたスプレー缶を割り込ませるが、ナイフの刃がその缶を裂き、中のインクが吹き散る。

 衝撃で大きく吹き飛ばされるカナデに目を向けるが、その瞬間、今度は注射器の先端がマリエの目前へと迫り来る。


「くっ!!あっぶないわね……このっ!!!」


 眼球間近でハルバードを滑り込ませ、身体を反らしながら注射針を受け流すマリエ。甲高い金属音が響き続け、生と死のせめぎ合いは熾烈さを増していく。

 自分達以外の能力と対峙したのは初めてであり、自然と防戦を強いられるカナデとマリエ。過去より明らかに殺傷性の高い攻撃を前に、二人は中々前へと踏み出せずにいた。


「はぁ、はぁ……マリエさん、こいつら手数が多い!!どう戦えばいいんですか!!」

「っ、そ、そんなの、私にだって、分かるわけ……」


 余裕をなくし、思わず口を変に開きそうになるマリエ。だが、年下のカナデのことを思うと、そんな自分の情けない考えが恥ずかしくなった。きっとこの子は不安に満ちている。多少勢い任せでも、ここは先導を切り、年上の意地を見せる時だ。


「……そうね、手数が多いなら、それを上回るスピードでぶっ飛ばせばいいのよ」

「それって、やられる前にやれってこと!?」

「怖気付いてないで、脳筋でガンガン攻めていくわ。逆に、相手に攻撃させる隙を与えさせないのよ!!さあ行くの、行くのよ私自身っ!!!」


 ハルバードを携え、恐怖で動きの鈍い脚に喝を入れると、その場から突撃を繰り出すマリエ。刃と針が降りかかる中、幾度の際どい回避により新品のメイド服が傷だらけになっていく。

 このままでは危ない、そうマリエを止めようとしたが、


「だとしても、流石に脳死じゃ無理がある……引く時は引くのも一つでしょ、マリエさん!」

「攻める時は攻めるのも一つよ、バイト君!私の能力じゃ、防御は苦手なの!それこそ、君の能力は、防御に優れてるわよね?」


 その時、カナデはふと、これまでの自分達の戦い方を思い出した。自分はスプレーを吹きつけ、その側でマリエはハルバードを振り回していた。それぞれがバラバラに敵と対峙し、正面だけを見つめていた。

 共に息を合わせた連携の経験は、まだまだ浅い。一対一の構図ばかりで、チームワークへの意識……他人へと目を向けることが出来ていないのではないか。


「そうだ、いつも自分ばかりで戦ってた……俺、またマリエさんのこと、全然よく見れて……」

「本当のコンビネーションは、お互いがお互いを助け合うものでしょ、っ!!さっきのグッズ合戦みたいに、バラけても噛み合って、最後に同じ場所に集まれば結果オーライなのよ、っ!!」

「……分かりました、敵の攻撃は俺が食い止めます。だからアンタは、アイツらに攻撃を!!」

「うん、しっかり援護は任せたわよ、バイト君!!」


 二人は、二人が心に思う光景が同じことを確かめる。次の瞬間、カナデは身に染み込んでいた恐れを振り払い、マリエを助けるために足を前に踏み出す。

 自分が出なければ、マリエは死ぬ。そう思い込んで自分を追い込み、マリエとの連携を完成させることを最優先にする。


「マリエさんの能力は、一撃一撃が重い。小回りが効きにくいから、そこを突かれたら……っ!?」


 改めてマリエの大仰な動きを読み取り、その最大の弱点を理解する。その瞬間、狙ったかのように隙へとつけ入り、マリエの背後からナイフの刃が迫り来る。お尋ね者達は、マリエの攻撃をかわし、攻撃後の、最も隙が現れる背中を切り刻もうと目論んでいた。


「させるか……っ!!!!!」


 直後、ナイフが直撃したのは柔い肉ではなく、硬いステンレスだった。瞬時に投げ飛ばしたスプレー缶の噴出口がナイフによって粉砕し、そこから大量のインクが吹き出し、背後にいたナイフ使いの一人に目眩しを喰らわせる。


「ふふっ、ナイスタイミング、バイト君!!」

「よ、よかった、上手く行った……もう少し、そっちでも気にかけてくださいって!!」

「だって、私は信じるって決めてたもん。君なら絶対、私のこと守ってくれるってね」

「なにそれ、調子いいな、もう……」


 ハルバードの隙をインクの防御で補う。さらに瞬間的に固まる性質を利用すれば、敵の進路を妨害する障害物としても機能する。マリエの弱みは、カナデの強みでいくらでも打ち消せる。

 これで手立ては分かった。あとは、二人が息を揃えることだけだ。


「ちゃんと下の子を信じられるのも、カッコよくて頼れる人生の先輩になる、大切な一歩だから!」

「はいはい……なんだか、変に心配した俺がバカらしくなってきたよ」

「ふふっ、もう緊張は解れたかしら?」

「とっくに」

「なら、この後も頼むわよ、っと!!」

「了解!!」


 そして、意を決して、カナデはさらに最前線のマリエの元へと走り寄っていく。途中、注射器使いの一人の攻撃を受けるも、即座に腕にシールドを描き、それを弾き飛ばす。

 マリエはハルバードを振り回し、ジワジワともう一方との距離を狭めていく。ナイフ使いはかわし続けるもの、先程に攻撃を繰り出すタイミングを崩され、明らかに動揺していた。

 だが、どこまでもマリエの空振りが続いていくのか、そう見えた次の瞬間。


「!?ガ……ァァ、ァ……」

「甘いよ、背中がガラ空きだって」


 豪快な音を立てて、背中から真っ赤な壁に衝突したナイフ使い。今の今まで存在していなかったそれは、言わずもがな、カナデの力により生み出された壁であり、この空振りの終着点でもある。


「トドメよ……はぁぁぁぁっ!!!!!」


 マリエに気を取られていて、完全に背後に回り込んだカナデに気づいていなかった。壁に強く当たった彼には最大の隙が生まれ……目線を戻した頃には、既に鋭く重い一撃が身を断ち切っていた。

 何も言い残すこともなく、ただ滑り落ちるように倒れ込み、赤い壁にもたれ、青い粒子を流し消えていく。これであと一人、残された彼女も、もはや動揺を隠すことはできなくなっていた。


「イキテヤル……ワタシ、ダケデモ、イキノコッテ……ミンナ……ブッコロシテ、ヤル!!!!」


 そう、彼女の声が聞こえてくる気がした。見知らぬ誰かの声ではあるが、生に固執する者の、確かな執念が宿っていた。どうして渋谷アーバンにこだわるのか、どうして死んだはずの存在が再び生を得られると思うのか。分かっていても、やはり諦めきれないのが、人の定めなのか。

 だが、どんな理由や思いがあろうと、今を生きる権利を奪える者は誰一人としていない。


「私たちは、負けるわけには行かないの。生きてなくちゃ、自分の欲しい明日はやってこないんだもの」

「生きたいのは、俺たちだって同じだ。どんな出来損ないでも、どんな役立たずでも……それでも生きていたいって思う。

完璧な人間じゃなくても……たとえ俺たちみたいな奴らだって、生きたい希望は誰が持ってもいいんだよ!!」

「ワタシダ……イキル、ノハ……ワタシナンダァァァァァァァッ!!!!!!」

「そうよ!だから私たちも負けてなんてあげない!!正々堂々……これで最後よ!!!」


 生者だけが持つものを、死者は求める。今を確かに味わえるもの、ただそれだけが欲しい。その思いは確かに受け取った。

 だがその上で、自分達は先に進まなければならない。




 『生きたい』と『生きたい』の狭間に起こる、命の抗争。生の望みは、勝者にのみ授けられる。




 カナデとマリエは、改めてスプレー缶とハルバードを構え、横一列に駆け出して行く。生きてやると暴れる彼女は、最後の力を振り絞り、頭上に再度巨大な注射器を発現させ、その中に謎の液体を注ぎ込む。

 触れる物を無差別に腐らせ、溶かす激薬。空高くへと舞い上がらせると、その先端を地面へと向け、天面を押し込む。


「マリエさん!!」

「分かってるわ、バイト君!!」


 頭上より降るのは、致死毒の雨。当たる地面が溶解し、地盤が大きく揺れ動く中、カナデはスプレー缶で棒を創造すると、即座にマリエに缶を投げ渡す。何をするつもりなのか、彼女を横目にマリエは缶を頭上に投げると、それをハルバードの斧部分で、振り上げるよう一刀両断する。

 当然、スプレー缶は真っ二つに割れ、全範囲にインクを放出する。勢いに乗り、カナデとマリエ、さらには敵である彼女を覆うほどにインクは広がり、ちょうどドーム状の壁を形成する。


「……!?」


 毒の雨は、インクに打ち消され、内部にいるカナデとマリエの元へは届かない。傘の役割を果たすインクドームの中で、注射器を失い丸腰になってしまった彼女は、一転して劣勢に追いやられた。


「行くわよ、しっかり着いてきなさい、バイト君!!」

「アンタこそ、マリエさん!!」


 切り札を封じ込められ、もはや彼女は逃げることしか出来ない。だが、逃げる場所などどこにもない。

 ハルバードを携え、棒を構え、正面から迫り来る二人の生者。あっという間に周囲を囲まれたと思った瞬間、背の高い女の強力な一撃が、決定的な致命傷を身体に刻む。次に背後から若い男の素早い一撃が、身体を徐々に終焉へと追い込む。


「ァ……ァァ、ァァァ……」


 重撃、連撃、重撃、連撃、重撃、連撃、受ければ受けるほど、身体が破滅に近づく感覚を覚える。既に肉体はない以上、魂が削られると言った方が正しいかもしれない。どちらにせよ、もうどうでもいいことだ。

 立つことも、ままならなくなってきた。生きようとすればするほど、意識を手繰り寄せれば寄せるほど、痛みが頭を支配する。槍斧が全身を引き裂き、次は棒が全身を砕く。

 リズミカルで、連携の取れた二人の攻撃は、敵に一秒の隙も与えない。




「シブヤ……アーバン……オマエ、タチヘノ、ウラミハ……」

「イツマデ、モ……キエ、ナ——」




 もう、能力も出せない。目も開けられない。




「「……これで、終わりだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!」」




——雄叫びと共に、最期は胴を前後から同時に貫かれた。渋谷を混沌に誘おうとした死者達は、その罪を身を持って償うこととなったのだ。

 インクの効果が切れ、ドームが霧のように消えていく。既に頭上には注射器は存在せず、また、ドームの中にいたであろう彼女も、跡形もなく消えていた。






「……やった、のね」

「……はい」


 ナイフ、注射器、そして毒による影響と思われる、地面のひび割れと液状化。凄惨な戦いの痕を物語るそれは、あの世からのお尋ね者の消滅と共になかったこととなり、元の形に再生される。

 カナデとマリエが立つ地面が、光を放ち、何の変わりようもないコンクリの道へと戻る。まるで、死者など初めからこの世にいなかったかのような、平和な一日が今日も過ぎたことになったのだ。


「……不思議なものね。人々を守る務めのはずなのに、私たち、ずっと死者達と比べっこばかりしてる。生き残った私たちに、本当にあんな思い、背負い切れるのかしら」

「……だけど、俺たちはその上で勝った、それが全てですよ。誰だって生きたいって思うわけだし、俺たちだって生きたいって思ったんだから」

「……君は、強いのね」

「いや、むしろ逆ですよ。自分のことで手一杯で、他に手が回らないだけで。知らないことも多いし、マリエさんとの連携もまだまだ。

プライドばっかでバカな俺だから……今度こそ、熱意だけじゃない本当の努力で、頑張っていかないとさ」

「……ふふっ、流石は私が選んだバイト君ね」


 死者達の報われなさに、少しだけ考えを馳せるマリエ。だが、生き残った側として、アーバンエッセンシアのメンバーとして、課せられた自身への責任を受け止める。

 そして、その上で手にした人生を、今度は自分のために活かしていく。それが生者に与えられた、ある意味の贅沢というものだろう。


「ん……ん〜〜っ、と!!そうね、私もこうしちゃいられないわ!これからの私たちの未来に向けて、今日から準備よっ!!」

「あ、それ、俺も手伝いますよ。今日は遅くなるって、もう母親に言ってるんで」

「なに、張り切ってるじゃない?なら、今日はウチで夕飯食べてかない?ちょうど美味しそうなピザのチラシが……」

「ピザ!?」


 死者達の無き跡に別れを告げ、再び帰路に着くカナデとマリエ。歩いていく内に、いつも通りの光景が見えてきた。

 ボロくて、錆だらけの集合住宅。軋む階段を上がり、鍵を開け、硬い扉を開く。

 こんないつも通りの生活も、もう少しで終わってしまう。また一歩先に新しい日々が待つ中、最後の思い出作りをしよう。


「え、ご、ご馳走してくれるんですか!?あの、マリエさんが!?」

「何よその言い方!?私だって、そんくらいの心はあるわよ!!今日はもう、贅沢に頼んじゃいなさい。私の奢り……いや、何より私がガッツリ食べたいからね!」

「おお〜〜っ!!!マリエさ〜〜ん!!!さいこ〜!!!」

「おわっ!!ちょ、き、君も中々大胆になってきたわね!」

「あ、マリエさん、これ苦手なんだっけ?さーせーん」

「分かってやってるんでしょうが!!」


 マリエに抱きつくようにして、カナデは音を鳴らす腹に正直に従う。今日は、この拠点での最初で最後のご馳走だ。


「もう……てか、早く上がって上がって!!何食べるか、先決めちゃいましょ!」

「はーい、じゃあ、俺は——」


 新たなる日々の始まりに、乾杯をあげた渋谷アーバンだった。




マリエさんって、どうやって金稼いでんだろ……とか、考えちゃダメです。ここ、少し先のネタバレも含んじゃってる部分です。

次回で第一章最終回です。決して必ずしもストレスのない物語ということはありませんでしたが、それでもここまで見ていただき嬉しい限りです。


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