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1-10 『DMと、謎の気配。』

「おはようございまー……って、え!?」

「あっ、きたきた!おはよう、バイト君!」

「えと……な、なんです、これ?」

「見て分からないの?朝、ご、は、ん、よ」


 もはや日課になりつつある職場への通勤。今日も一日、と意気込んだカナデの目の前には、なんとも豪勢に盛られた料理の数々が用意されていた。狭い部屋の狭いテーブルを縁まで埋め尽くす、それはもうものすごい数の……だが、


「な、なんでこんなにオムレツだけ?」

「えーと……じ、実験には失敗が付きもの的な?」

「いやいや、マリエさん……」


 テーブルの上は見事に黄色一色、しかも全く同じ料理しかなかったのだ。どこを見てもオムレツにオムレツ、その総量は一人前を大きく超えていた。


「ちょ、ちょっとくらい憧れたっていいじゃない!愛しの旦那さんに朝食を振る舞う奥さんの気分とか、味わってみたいな〜って!」

「こんな卵ばっか出る家庭なんかないわ!もう、また漫画の影響受けたんですか?ざっと、一昨日更新されたアレの最新話とか?」

「うっ……あ、当たり、です……」

「うわ、よりにもよってアレって……」


 マリエお墨付きの『おほほほ』や、カナデお墨付きの『時の最端』以外にも、暇さえあれば二人は頻繁にアプリ内更新欄をチェックしている。恐らくはその中にあった、料理を極めて世界を救う主婦が主人公の漫画を読んだのだろう。しかし、オムレツは一切出てこなかった気がするが。


「卵代、将来の俺たちへの債務ってことで」

「うええええ〜ん!!料理ってほんと〜に難しいのよ!!美味しいオムレツを作ろうとして、あれこれもう二時間はやってるのよ!?」

「だとしても、せめて食べること先に考えてくださいよ!!」

「ううう……」


 あれだけ堕とすとかなんだとか言ってたくせに、少し経ったらもうこうなるのか。やれやれとため息をつくカナデだったが、ちゃんとよくテーブルの上のオムレツを見てみると、


「はぁ、もう……ん?」

「バイト君、ハート……バイト君、おとしちゃうわよ……LOVE、『BAIT』」


 上に赤いケチャップで書かれた文字があったのだ。形が崩れたものも多くあったが、その一つ一つにも、丁寧に違う別のことが書かれていた。不慣れそうな手つきのプルプルした線で描かれたハート。そして、全部に律儀に入っている『バイト』という名前。


「……全く、やれやれですよ」

「バ、バイト君。よ、よろしければですけど、えと、こちらの料理の処理をお手伝い願いた——」

「割り箸って、どこにありますか?俺も朝ごはんの準備、手伝いますよ」

「ば、バイト君……!!」

「あと、バイトは『BAIT』って書きませんから」

「そんなの伝わってたらいいわよ、もう!!やったーっ!!それじゃそれじゃ、早く一緒に食べましょ!これ、私の初めての手料理で、上手くできてるか分からないし、火も使ったことなかったから怖かったけど、でも、味付けとか一生懸命調べて色々と試してみたからだから」

「わ、分かりました分かりました!!よっぽど食べてもらいたかったんですね、マリエさん!」


 エプロン姿のまま、台所から慌てて席に着くマリエと、割り箸を投げ渡されるカナデ。満面の笑みを浮かべた彼女を見ているうちに、気分が良くなってきたのか、すぐさま皿に箸を伸ばしていく。


「いただきまーす、うんうん……あっ、甘い。卵焼きみたいな味付けですね」

「そーなのよ!一番初めに作った時、砂糖とか牛乳とか、何も味付けしないでやったらぜーんぜん美味しくなくってさ?むっちゃ頑張ったんだから!」

「じゃあ、これ新しいやつか……え、全然美味しいじゃん。これすごい美味しいよ、マリエさん!」

「本当に!?よ〜かったぁ〜!!!」

「あむ、うん、やっぱりいい味してる。この人多分、普通に料理上手いんだろうな」

「ベタ褒めじゃない、ちょっと。ふふん、このまま手のひら返して、堕っこちてもいいのよ?」

「ははっ、べーっ、だ」

「ちょ!?」

 品物は淡白でも、微笑ましさと温かみのある朝食を平らげた時、二人は自然と笑みをこぼしていた。朝から大量の卵は重くても、今日はいい気分で一日を迎えられそうだ。






「ん、何してるの、バイト君?」

「ああ、DM来てたんで、それを見ようとしてたんです」

「へぇー、どこかの裏垢女子とやり取りでもしてるの?」

「してないよ!渋谷アーバンのアカウント作って、俺たちのこと宣伝してるだけだから!」


 食事を済ませた後、水道水で喉を潤すマリエは、カナデのスマホ画面を覗き込む。カナデは説明をすると、そのままスマホの画面へと目を移していく。


「ほっ、よかっ……て、まあ、君には女の子と話することすら、一苦労だもんね〜?」

「確かにそうですけど、不思議とアンタとは気軽に話せるんですけどね〜?」

「……また泣いてやろうかしら」

「うん、ごめんなさい、やめて」


 謎の嫉妬心を見せるマリエを置き去りにしつつ、カナデは早速DMの中身を覗く。カナデが作ったアカウントは、渋谷アーバンを何でも屋と称し、渋谷の中でのお困り事解決を謳う宣伝として用意したものだった。

 あの日以来、身の回りのことを一つ一つ丁寧に整理していくことにした、カナデとマリエ。アルバイトは毎日などではなく週に二〜三回。空いた日程にちゃんとした参考書で勉強し、無休をやめて一週間に必ず一日は休みの日を設ける。


 急ぐことをやめ、追い求める理想を実際に掴むにはどうすべきかを考えるようになった。『攻めすぎず、引くところは引き、でもここぞという時は一気に攻める』。カナデが何でも屋としての宣伝を始めたのは、それがある程度固まり、次のステップへ進めるようになったことを意味していた。


「ねえねえ、ひょっとしなくても、これって私たちの初めての依頼になるかもしれないのよね?どんなのが来るのかしら……ちょっと、緊張してきたわ」

「まだ依頼って決まったわけじゃ……あ、でも、いつもの釣り垢とかじゃない。これひょっとしてワンチャンあるかも!?」

「っ!?ま、待って、心の準備が……」


 意を決してDMを開き、そこに書いてあった文章を読む。そこに書かれていた内容は……まさに、夢物語のような話だった。




「「え……どぅえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!?????」」




【空きテナントをお探しのようでしたので、ご連絡させていただきました。よろしければ、こちらの方をお使いくださいませ。】

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