32:王様らしくない王
「ワシは葉月ではない 」
葉月ちゃん…ではない……さっきのカオスとかいう奴がファイの腕の中で目を見開いた。
笑いながら。
ファイは今まで優しく抱いていた力が急に強張った。
「葉月を返せ 」
目が本気だ。
視線で人が殺せるのなら、すでにもう見られた人は死んでしまっているだろうほどの強い視線。
うわー、こんなに怒ったファイを見るのは久しぶりだ。
……今、ファイの心のうちで蠢いている感情は決して穏やかではないだろう。
恐ろしいほどの憎しみが湧きあがってきてもおかしくない。
大好きな、大好きな……愛おしい、何よりも大切な思い人との『未来』のために日々努力してきたファイ。
忌むべき魔王に壊された世界の半分の復興というのは、それはもう困難なことで…。
それをほとんどファイ1人で成し遂げたといっても過言じゃない。
頭の固い爺どもをなんとか動かし、多大なるお金を集め、復興のための作業に自らも参加する。
汗にまみれ、泥まみれになって、かすり傷や痣などはしょっちゅう作った。
それを約10年間、ずっと、ずっと繰り返した…。
王様らしく堂々とはしているのに、彼がすること成すことは王という座からでは考えられない前代未聞なことばかり。
ファイはガラム王国の王としてではなく、一人の人間として全力を尽くしていた。
そんな彼に周囲は感心し、感動し、協力したいと自ら思うようになった。
最初は非協力的だった貴族の爺どもも、頭の固い兵隊も、金に目のない町人も、貧乏な人も、家族を魔王に消された人も……。
この世界で生きる者は皆、彼を敬い感謝している。
でもその全力が尽くせたのも全て彼女…葉月ちゃんの存在があったからこそ、なのだ。
色んな事に耐えて…耐えて、耐え過ぎて限界の糸が切れそうになり、葉月ちゃんの所に会いに行こうとしたことなんて何度もあった。
それでもファイは必ず『復興させるまで会えない』って考えを貫いた。
――――全ては愛しい人との約束のため。
それなのに葉月ちゃんは魔王に攫われ、内側には得体のしれないカオスがいる……。
ようやく…やっと果たした感動の再会を、今すぐにでも殺したい魔王とカオスに邪魔されて。
さっき思い存分キスしたとしても(←嫌味)、平然といられるはずがない。




