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月の瞬き  作者: 幸紀涅
21/43

21:笑って



葉月サイド◇◆◇



前も後ろも真っ暗で何も見えない。


暗い闇だけの空間で安心感と、心地よさと……。そんな暖かさに包まれているような気がする。


あ、……声が、頭上からか…足下からか…どこからともなく降ってきた。


「………………ス、リリス、リリ……… 」



誰かが私を呼んでいるんだ。早く行かなきゃ。


えっ………私…? …違う、私を呼んでいるんじゃない。


じゃあ、誰を呼んでるの? ここには私…しかいないよ……。


……私ってなんなの…?………誰なの? 


分からない……分からないよ…………。



また頭痛がひどくなってきた。


…痛い……痛いよ…。


でも…この痛みが治まってきたら、また『私』のことを考えてしまう。…そしてまた激痛が走る。


さっきからそんなことばかり繰り返している。


しかもね…ぐるぐると回っては止まる私の思考と、何度も私を襲う頭痛によって奪われた体力は、もう限界が近いと思う。



誰かここから救い出して…。



すると、さっき降ってきた声が聞こえてきた。


「………………絶対…離さ…い……絶対に…… 」


途切れ途切れだけど、その言葉は胸に、心に、体に沁み込んでいく…。


そしてその声に引っ張られるかのようにして、ぼんやりと視界が広がっていく。





見えてきたのは満天の星が光り輝く空と……私を抱きしめている男の人。


この人は…さっきの……。


身じろぐと、すぐに体を離して顔を覗き込んできた。


「大丈夫か…? どこか、痛いとこ… 」


「あんまり怒っちゃいけないよ! 怒るってことは素敵な感情でもあるけど、行き過ぎたら人を困らせてしまう感情でもあるんだよ… 」


意識が途切れる直前に、彼はとても怒っている様子だったから…つい言ってしまった。


「……………… 」


何も言わない彼に、もう一言。


「しかも…ね、笑っていた方が、幸せになるんだよ 」


この時、無性に…私のとびきりの笑顔を彼に見せたくなった。


おじいさんが『誰にでも笑顔だ』って言ってたし、そうしたら、この人もきっと笑ってくれるだろうと思ったから。



……頭痛も治まっていないし、いろんな事がいっぺんに起こりすぎて、とびきりいい笑顔はできないけど。


自分の中で思いっきり笑ってみた。



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