21:笑って
葉月サイド◇◆◇
前も後ろも真っ暗で何も見えない。
暗い闇だけの空間で安心感と、心地よさと……。そんな暖かさに包まれているような気がする。
あ、……声が、頭上からか…足下からか…どこからともなく降ってきた。
「………………ス、リリス、リリ……… 」
誰かが私を呼んでいるんだ。早く行かなきゃ。
えっ………私…? …違う、私を呼んでいるんじゃない。
じゃあ、誰を呼んでるの? ここには私…しかいないよ……。
……私ってなんなの…?………誰なの?
分からない……分からないよ…………。
また頭痛がひどくなってきた。
…痛い……痛いよ…。
でも…この痛みが治まってきたら、また『私』のことを考えてしまう。…そしてまた激痛が走る。
さっきからそんなことばかり繰り返している。
しかもね…ぐるぐると回っては止まる私の思考と、何度も私を襲う頭痛によって奪われた体力は、もう限界が近いと思う。
誰かここから救い出して…。
すると、さっき降ってきた声が聞こえてきた。
「………………絶対…離さ…い……絶対に…… 」
途切れ途切れだけど、その言葉は胸に、心に、体に沁み込んでいく…。
そしてその声に引っ張られるかのようにして、ぼんやりと視界が広がっていく。
見えてきたのは満天の星が光り輝く空と……私を抱きしめている男の人。
この人は…さっきの……。
身じろぐと、すぐに体を離して顔を覗き込んできた。
「大丈夫か…? どこか、痛いとこ… 」
「あんまり怒っちゃいけないよ! 怒るってことは素敵な感情でもあるけど、行き過ぎたら人を困らせてしまう感情でもあるんだよ… 」
意識が途切れる直前に、彼はとても怒っている様子だったから…つい言ってしまった。
「……………… 」
何も言わない彼に、もう一言。
「しかも…ね、笑っていた方が、幸せになるんだよ 」
この時、無性に…私のとびきりの笑顔を彼に見せたくなった。
おじいさんが『誰にでも笑顔だ』って言ってたし、そうしたら、この人もきっと笑ってくれるだろうと思ったから。
……頭痛も治まっていないし、いろんな事がいっぺんに起こりすぎて、とびきりいい笑顔はできないけど。
自分の中で思いっきり笑ってみた。




