20:気安く触るな
魔王は僕が現れたことに微塵も驚きはしなかった。葉月ちゃんを抱きかかえたまま、黙ってこちらを見ている。
その態度に余計に腹が立つ。
「……その子を離せ 」
魔王から葉月ちゃんを奪い取ろうと瞬間的に接近した。
が、目の前に二人の姿はない…。代わりに後ろから僕の喉元に刃物の先が当たるのを感じた。
………葉月ちゃんを抱えていたのにも関わらず……早い。この僕でも見えないなんて…。
本当に人間なのかな、魔王って……。
「早く刺しなよ。その隙になら…葉月ちゃんを安全な所へ移せる 」
さっきの書きかけ魔法陣があるし、その辺くらいまでなら、一瞬で人一人十分移動させられる。
どんとこい。そんなことを内心で呟いていると、ようやく魔王が口を開いた。
「てめぇ、ガラムの人間だろ…。さっさと消え失せろ。そうするなら、見逃してやってもいい 」
こういう上から目線のやつは大嫌いだ。自分がなんでも一番だと思うなよ。
「嫌だね。こうなったら、葉月ちゃんを一人にしておけない。連れて帰ることにするよ 」
「……お前、リリス……いや、この子のことを知っているのか……? 」
『リリス』って名前、ちゃんと聞き逃さなかった。
……どっかで聞いたことあるような、ないような名前だな…。
「知っているよ。……この子はね、とても『大切な子』なんだ 」
一向にその剣(刀かな…)で刺そうとしないので、こっちから攻めることにした。
間を置くことなく振り返り、小さく屈んだ。そして葉月ちゃんに移転させるための呪文をかけるため、おでこに手を触れようとしたら………。
魔王の刀が葉月ちゃんに触れようとした手に振り下ろされた。
「気安くリリスに触るな 」
一瞬、手首から下が切り落とされたかと思った…。さすが僕だね。間一髪、ぎりぎりセーフだった。
「お前、近いうちに殺してやる」
その言葉が僕の耳に届くころには、2人の姿はもうどこにもなかった。
自分しかいなくなってしまった部屋を見渡しながら、独り言。
「あーあ、どうしよう…。これってやっぱりファイに話した方がいいのかな…」
でも話したら、すぐにでもこっちの世界に来そうで怖いな……。




