18:思い出したいよ。
でも、私はこの人の言っている『リリス』って人じゃない訳だし…ね。
とりあえず、このままだとの人が可哀想だし…人違いですよって言わなきゃ!
「……あの…すみません…。私、リリ…スさんじゃないです。人違いです、よ… 」
すると私を包み込んでいた彼の手が離れた。じっと私の方を睨むようにして見ている。
肩を思いっきりつかまれた。
「リリス……覚えていないのか…? 俺だ、ルシファーだ…… 」
「ごめんなさい。私、その…分かりません…… 」
あまりに彼が真剣で…その上必死だったから、もう一度人違いですって言うことはできなかった。
しかも私の消えてしまった過去に関わった人だとすれば、『知り合い』の可能性はある。
「あの…私の名前は音野瀬葉月って言います。良ければ、リリ…スさん…って方を探すの、手伝いましょうか? 」
私の肩を掴んだまま固まっている彼に、言ってみた。
正直、自分でも驚いてる。
なにか、この人には優しくしたい……好かれたいと思っている自分がいることを。
だからだよね。初対面(?)の人なのに、こんなことを口走ってしまうなんて…。
ほどよい沈黙の後、彼が口を開いた。
「お前が絶対にリリスだ。俺が見間違うはずがない 」
「絶対に……? 」
「ああ、絶対に、だ 」
こうも断言されたら、私の忘れてしまった過去と関係があるのかどうか聞いてみたくなった。
「………あなたは私の過去に……私との関わりがある人ですか? 」
…彼は何も言わずに頷いた。
「私、小さい頃の記憶が……ないんです。思い出したいと思うけど、どうしても無理で……。だか…ら……うっ、痛っ! 」
ズキンっと頭の奥に痛みが走り、倒れそうになった…が、彼が私を抱きとめてくれた。
そしてさっきまでとは違う、氷のように冷たくて低い声が聞こえてきた。
「………どうして…だ? どうして俺たちばかり…こんな……… 」
「………………………… 」
私は彼に何を言えばいいのか分からない。
「許さない……。 こんな世界など、消えてしまえばいい 」
刹那に、暗くて深い闇のような…ブラックホールのようなものが、彼から発せられる。
空気が一気に肌寒くなった。
怖い。今度こそ、この人から急いで離れなきゃいけない気がする。
……いや、でも………それはきっと…違う…ね。
私は彼の傍を離れたりしない。
なんで? 怖いんでしょ、早く逃げないと!
嫌だ……。
心の中で、自分と自分が言い争っている。
これは、もしかして…過去の自分と現在の自分なのかもしれない。
彼を知っている過去の私と、何も知らない今の私と。
そしてそれがごちゃごちゃになって、そのまま音になった。
「私、分からない。怖いよ…。嬉しくてたまらないのに、逃げたいよ…。あなたは誰なの? でも知っている気がするの……。私、思い出したいよ……思い出したいよ…… 」
だんだんと眼の焦点が合わないようになってきてる。
思い出したいと強く願ったからかな、頭が割れそう……すっごく痛いよ……。
そのまま意識が薄れていった。




