13:別の記憶
葉月サイド◇◆◇
私の中の記憶の断片が『異世界』の言葉によって、見つけ出されたような…そんな気がする。
なぜ…どうして今まで忘れてたんだろう。
いや……違う。
忘れてたんじゃない。
私は忘れていたんじゃなくて、まるで誰かに記憶を操作されたかのように、今まで別の記憶を信じていただけだ。
ある日、見事な金色の目が印象的で美術品のように可憐で優美な顔をしている青少年、ファイに出会った。
初めこそ冷たくあしらわれたが、木から落ちてしまった私を自らを省みず助けてくれたし、一緒にいれば居るほど、私はファイが大好きになっていった。
ファイがあの家にいるようになって数日が経った頃、おじいさんとファイとが話をしているところを偶然に聞いてしまった……。
その会話の中でファイが帰るって言葉を口にした時……私はファイが自分の隣にいなくなるのが物凄く嫌で、離れたくなくて…、気づけば涙が出ていた。
いつか何処かへ帰ってしまうのではないかなって、なんとなく感じ取れていたよ。
でも…受け入れなくて…。
私はファイと一緒にいたいから。だからそれを聞いた後、ファイの傍から離れなかった。
だってそうすれば、今だけでもここにいてくれると思ったから。
午後から散歩がてらにりんごの木を見に行くことになって、……その途中ファイが『葉月、前向いて歩かないとこけるぞ』って言ったんだっけ、な。
私が前を向いたその隙にファイがいなくなっちゃう……。
考えないようにしていた『ファイがいなくなる』ことを、思い出した私は、ファイにしがみ付いて全部話そうとした。
あの頃の私は言葉を喋るのも片言だし、思っていることがうまく言葉にできない。
でも、ゆっくりでいいから、ずっと一緒にいたいだとか、離れたくないだとか、全部話そうとしたよ。
でもファイにしがみ付いた時、私が一緒にいたいって言ったらファイが困るって分かったの。
だから…何も言葉がでてこなかった。
ここから…だ。今までの私の記憶には、その後ファイが『ずっと友達だから』って言ってそのまま何処かへ行ってしまう、というものだった。
涙で霞んだファイの後ろ姿が、今でも鮮明に思い出せる…はずだったのに。
カインさんが『異世界』って言った時、この記憶が揺らいだ。
それが気持ち悪くて、自分でもその言葉を声に出してみる…と、今まで真実だと思っていた記憶がぼやけてきて………。
まったく違う……でもこれが真実だって確信できる、別れる前の最後の思い出…が頭の中を駆け巡る。
これがきっと本当の記憶だね。
そうだよ…ね。




