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流亡剣士  作者: 宇宙無敵ダークドラゴン大王


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4/21

4 賞金稼ぎ

全身が鉛のように重い。だが、昨日のオーガ戦に比べれば、体の傷は浅い。HPも、システムの自動回復でかなり戻っている。


```

【ステータス】

名前:レイン・クロウ

レベル:2

HP:28/40

MP:12/12

STR:16

VIT:9

AGI:10

INT:10

DEX:9

LUK:5

──────────

殺戮ポイント:735 KP

スキル:ゴブリン語Lv2、剛力Lv1、怪力Lv1

```


(28まで回復したか……)


レインは体を起こし、隣のベッドを見る。ミアはもう起きていた。部屋の隅で、何かを書きつけている。レインの視線に気づくと、顔を上げた。


「あ、起きた。おはよ」


「何を書いてるんだ?」


「情報をまとめてたの。昨日、スラムの友達に聞いたやつ」


レインはベッドから降り、ミアの隣に座った。羊皮紙には、ミアの走り書きが並んでいる。文字は読みにくいが、内容は重要なものだった。


「セレスティア・グランディアについて。グランディア王国の騎士団長の娘で、去年の暮れに姿を消した。表向きは『行方不明』ってことになってるけど、裏では貴族の間で『バルド卿の屋敷に軟禁されている』って噂されてる」


(軟禁……)


レインの胸が、締め付けられた。生きている。だが、自由を奪われている。バルドの屋敷に——


「それと、もう一つ」


ミアは、別の紙を取り出した。


「あんたの懸賞金、金貨五百枚。これは、グランディア王国だけじゃなくて、セントラル王国群全域に回ってる。つまり、ここ自由都市連合にも、賞金稼ぎが集まってる可能性が高い」


「……分かってる」


「分かってるならいいけど。あたしが心配してるのは、あんたが無茶すること」


ミアは、真剣な目でレインを見た。その目には、純粋な心配があった。


「……心配かけて悪い」


「分かればいいの。で、これからどうする?」


レインは考えた。セレスティアはバルドの屋敷に軟禁されている。だが、今の実力では、グランディア王国に乗り込むなど自殺行為だ。まずは、強くなる。そして、情報を集める。バルドの屋敷の構造、警備の数、セレスティアの正確な場所——すべてを知った上で、動く。


「……まず、装備だ。今の剣じゃ、Bランク以上の魔物には通用しない」


「それと、ポーションも買った方がいいよ。昨日みたいな戦いが、またあるかもしれないし」


「ああ。それから——」


レインは、システムの表示を見た。


《ゴブリン討伐数:15/100》

《リザードマン討伐数:3/20》

《クエスト:ゴブリンを10,000体討伐せよ(進捗:15/10,000)》


(100体で、スキルか。今の進捗は15体。先は長い)


だが、やるしかない。レインは立ち上がった。


「装備を整えて、また迷宮に行く。もっと強くならなきゃいけない」


「だと思った。あたしも、準備してくる」


二人は宿を出た。リベルタスの大通りは、今日も活気に満ちている。だが——レインは、昨日とは違う視線を感じていた。


(……見られている)


人混みの中に、こちらを窺う目がある。賞金稼ぎかもしれない。レインはミアに小声で言った。


「尾行されてる」


「気づいてる。三人。後ろの露店の影と、向かいの建物の上」


さすがは盗賊だ。気配を読むのが速い。レインは平静を装いながら、武器屋へ向かった。店主のドワーフ老人は、レインの顔を覚えていた。


「兄ちゃん、また来たか。今日は何だ?」


「まともな剣が欲しい。予算は、銀貨五十枚」


「ふむ。これでどうだ?」


老人が差し出したのは、片手剣だった。刃は青みがかった銀色。柄には、精緻な細工が施されている。


「鋼鉄剣だ。切れ味は保証する。ただ、手入れを怠るなよ」


「……これをくれ」


レインは鋼鉄剣を手に取り、鞘から抜く。重さは、以前の長剣とほとんど変わらない。だが、刃の輝きが違う。これなら、オーガの皮膚も貫けるかもしれない。


「ミア、お前も何か買うか?」


「あたしは、これで十分。でも、ポーションを買い足したい」


「分かった。じゃあ、薬屋に行くか」


薬屋で、レインは回復ポーションを五本買った。銀貨二十枚。かなりの出費だが、命には代えられない。


店を出たところで、ミアが囁いた。


「まだ尾行されてる。どうする?」


「……少し、付き合うか」


レインは、わざと人通りの少ない路地に入った。袋小路——行き止まり。背後から、足音が近づいてくる。三人だ。


「観念しろ、レイン・クロウ」


振り返ると、賞金稼ぎの三人組が立っていた。いずれも、武骨な装備に身を包んでいる。真ん中の男が、にやりと笑った。


「金貨五百枚。悪くない額だ。お前の首、もらい受けるぜ」


「……グランディアの手先か?」


「違うね。俺たちは、ただの賞金稼ぎだ。誰が金を出すかは、関係ない」


男が剣を抜く。左右の二人も、それぞれ得物を構える。レインはミアを見た。


「下がってろ」


「でも——」


「大丈夫だ」


レインは鋼鉄剣を抜いた。青い刃が、薄暗い路地に光る。賞金稼ぎの三人は、レインの武器を見て、少しだけ警戒した。だが、すぐに笑みを戻す。


「所詮はGランク。レベルも知れてる」


男が斬りかかってくる。レインは、その剣を受け流した。鋼鉄剣の重みが、相手の剣を弾く。男の体勢が、わずかに崩れる。


(今だ)


レインは踏み込み、男の鳩尾に拳を入れた。『剛力Lv1』を発動する。強化された筋力が、男の体を吹き飛ばす。


「ぐはっ……!」


男が壁に叩きつけられる。残る二人が、同時に襲いかかってくる。レインは後ろに跳び、二人の攻撃を回避する。そして、システムに意識を向けた。


(システムよ……人間にも、KPは入るのか?)


《人間を殺害した場合、KPが獲得されます。ただし、著しく低い値となります。また、殺害した人間の魂は、観測者の記録に残ります》


(……そうか)


レインは剣を握り直す。殺すつもりはない。だが、倒さなければ、自分が殺される。レインは前に出た。一人目の剣を、鋼鉄剣で受け流し、柄で顔面を打つ。鼻血を流しながら、賞金稼ぎが倒れる。


二人目が、短剣を投げてきた。レインは身をひねって回避し、そのまま踏み込み、相手の腕を掴んで投げ飛ばした。地面に叩きつけられた賞金稼ぎは、動かなくなる。


「……終わりだ」


レインは剣を収めた。三人とも、殺してはいない。だが、しばらくは動けないだろう。


「すごい……」


ミアが、呆然と呟く。レインは、肩で息をしながら振り返った。


「行こう。長居は無用だ」


路地を抜け、大通りに出る。だが、その時だった。


《警告:新たな脅威を感知。推定脅威度:Bランク》

《対象:人間。賞金稼ぎ、上級》


(上級……!)


レインは足を止めた。前方の建物の屋根の上に、人影があった。黒いマントを羽織り、顔を深く隠している。だが、その体から発せられる気配は、オーガとは比べ物にならないほど鋭い。


「……あんたが、レイン・クロウか」


声は、女だった。低く、冷たい声。レインは鋼鉄剣に手をかける。


「誰だ」


「賞金稼ぎ。名は、シャドウ」


女は、屋根から飛び降りた。音もなく、地面に着地する。身のこなしが、常人離れしている。


「金貨五百枚。あんたの首に、それだけの価値がある」


「……悪いが、渡す首はない」


「だろうな。だから、来た」


シャドウが、マントの下から二本の短剣を抜く。その刃は、黒く染まっている。毒か、それとも——


「ミア、下がれ。これは、俺がやる」


「でも——」


「下がれ」


レインの声には、有無を言わせない強さがあった。ミアは悔しそうに唇を噛み、数歩下がる。


シャドウが、動いた。速い——が、レインも動く。鋼鉄剣で、シャドウの短剣を受け止める。火花が散る。シャドウの目が、わずかに見開かれた。


「……やるな。Gランクとは思えない」


「お前もな。Bランクとは思えない速さだ」


二人は、間合いを詰めて斬り結ぶ。シャドウの動きは、正確で無駄がない。レインは防戦一方になりながら、相手の癖を読む。左からの斬撃が多い。右足の踏み込みが、わずかに遅い。


(そこだ)


レインはシャドウの右足を狙い、剣を振るった。シャドウが後退する。だが、完全には避けきれない。レインの剣が、シャドウのマントを切り裂く。マントが落ち、素顔が露わになった。


「……っ」


シャドウは、若い女だった。銀色の髪を短く切り、青い瞳。左頬に、古い傷跡がある。その顔を見て、レインは息を呑んだ。


(セレスティア……?)


いや、違う。髪の色は似ているが、顔立ちが違う。だが、その瞳の色は——セレスティアと同じ、深い青。


「……何だ、その顔は」


シャドウが、低い声で言う。レインは首を振った。


「……何でもない。続けるか?」


「……いや」


シャドウは、短剣を納めた。そして、くるりと背を向ける。


「今回は、引き分けだ。だが、次はない」


「……待て」


レインが呼び止める。シャドウは足を止めた。


「あんた、名前は——」


「シャドウだ。それ以上は、ない」


そう言って、シャドウは建物の影に消えた。レインは、しばらくその場に立ち尽くしていた。


(セレスティアに、似ていた……)


気のせいだろうか。だが、あの瞳の色は——忘れられない。


「レイン」


ミアが駆け寄ってくる。


「大丈夫? 怪我は?」


「……ああ。大丈夫だ」


レインは、シャドウが消えた方向を見つめた。だが、もうそこには誰もいない。風だけが、路地を吹き抜けていく。


(……何者なんだ、あの女は)


胸に、わだかまりが残る。だが、今は考える時ではない。レインはミアに向き直った。


「行こう。迷宮だ」


「うん。でも、その前に——」


ミアが、レインの手を握った。


「あんた、さっき無茶したでしょ。約束して。これからは、もっと慎重に動くって」


「……分かった」


「ほんとに分かってる?」


「……分かってる」


ミアは、じっとレインの目を見つめ、それから手を離した。


「よし。じゃあ、行こう」


---


迷宮に着いたのは、午後だった。


今日は、第三層の攻略が目標だ。前回はオーガに阻まれたが、今は鋼鉄剣がある。装備も整えた。ポーションも五本ある。


「第三層は、第二層よりも魔物の数が多い。でも、その分、稼ぎもいい」


ミアが、松明を掲げながら言う。レインは頷き、周囲を警戒しながら進んだ。


第一層は、順調に突破した。ゴブリンを十体倒し、討伐数を25に伸ばす。第二層では、リザードマンを八体討伐。進捗は11/20に達した。


そして、第三層への階段に差し掛かった時だった。


《警告:迷宮内に、異常な魔素の流れを感知》

《この先、通常よりも強力な魔物が出現する可能性があります》


「ミア、聞こえるか?」


「……うん。何か、変だね。空気が、重い」


第三層に降りると、空気が一変した。壁の苔は、赤黒く変色している。天井からは、水滴ではなく、何か粘ついた液体が垂れている。異様な光景だった。


「何だ、これ……」


「分からない。でも、嫌な予感がする」


二人は慎重に進んだ。しばらくすると、広い空間に出た。そこには——無数の卵があった。壁に、床に、天井に。どれも、人の頭ほどもある。半透明の卵の中で、何かが蠢いている。


「これ……魔物の卵?」


「かもしれない。だが、数が多すぎる」


その時だった。卵の一つが、割れた。中から現れたのは——蜘蛛だった。人の手のひらほどの大きさだが、その数は尋常ではない。次々と卵が割れ、蜘蛛が這い出てくる。


「レイン!」


「分かってる!」


レインは鋼鉄剣を振るい、蜘蛛を斬る。だが、数が多すぎる。一匹倒せば、三匹現れる。キリがない。


《魔物を討伐しました。殺戮ポイントを獲得しました:2 KP × 12》


(2 KP……!?)


蜘蛛一体あたりのKPは、たったの2。効率が悪すぎる。だが、倒さなければ、前に進めない。


「ミア、火は!?」


「あるけど、これだけの数には——」


ミアが、火薬の入った小さな袋を取り出す。盗賊の道具だ。


「これで、卵をまとめて焼く!」


「やれ!」


ミアが火薬袋を投げ、松明で火をつける。爆発音。炎が、卵を飲み込む。蜘蛛たちが、悲鳴を上げて焼けていく。


《魔物を討伐しました。殺戮ポイントを獲得しました:2 KP × 23》


(一気に、46 KPか)


だが、まだ蜘蛛は残っている。レインは剣を振るい続けた。腕が痺れ、息が上がる。それでも、止まらない。


(こんなところで、死ぬわけにはいかない……!)


蜘蛛の大群を殲滅したのは、それから一時間後のことだった。


《蜘蛛討伐数:35/50》

《クエスト:蜘蛛を50体討伐せよ(進捗:35/50)》

《報酬:スキル『糸操りLv1』》


(蜘蛛にも、クエストがあるのか……)


レインは荒い息をつきながら、周囲を見回した。卵はすべて焼き払われた。蜘蛛の死骸が、床に散らばっている。


「……終わった、か」


「みたいだね」


ミアも、疲れ切った顔で座り込んでいる。レインは、システムの表示を確認した。


```

【ステータス】

名前:レイン・クロウ

レベル:3

HP:12/50

MP:14/14

STR:18

VIT:11

AGI:11

INT:10

DEX:10

LUK:5

──────────

殺戮ポイント:1,286 KP

スキル:ゴブリン語Lv2、剛力Lv1、怪力Lv1

```


(レベル3……HPも、50まで増えたか)


だが、疲労は限界に近い。ポーションを一本飲み、HPを回復させる。少しだけ、体が楽になった。


「戻ろう。今日は、これくらいでいい」


「賛成」


二人は、迷宮を後にする。帰り道、ミアが言った。


「ねえ、レイン。あの蜘蛛の卵、誰かが意図的に置いたのかな?」


「……どういう意味だ?」


「だって、あんなに数が多いのは、自然じゃない。誰かが、意図的に増やしてる可能性がある」


レインは考えた。確かに、不自然だ。だが、誰が、何のために——


「……分からない。だが、気をつけよう」


「そうだね」


リベルタスに戻ると、街は夕暮れに染まっていた。ギルドで依頼を報告し、報酬を受け取る。銀貨四十枚。迷宮の異常も報告したが、受付嬢は困った顔をするだけだった。


「最近、迷宮の魔物が活発化しているという報告は、他にも来ています。ですが、原因は分かっていません」


「……そうか」


レインは、何か引っかかるものを感じた。だが、今は情報が足りない。


宿に戻り、食事を取る。ミアは、今日もパンを頬張っている。


「明日は、どうする?」


「……迷宮の第四層に行ってみたい。もっと強くなりたいから」


「第四層は、危険だよ。Bランクの魔物が、普通に出る」


「分かってる。でも、行かなきゃいけない」


セレスティアを救うためには、もっと強くならなければ。Bランクの賞金稼ぎに、後れを取るようでは、話にならない。


「……分かった。あたしも、行くよ」


「無理するな」


「無理してない。仲間でしょ」


ミアは、にこりと笑った。レインは、それ以上何も言えなかった。


その夜、レインは夢を見た。


夢の中で、セレスティアが泣いていた。


「レイン……助けて……」


手を伸ばすが、届かない。セレスティアの姿が、遠ざかっていく。


「待ってくれ! セレスティア!」


叫ぶが、声は届かない。そして——セレスティアの背後に、黒い影が現れる。


「……誰だ」


影が、笑った。そして、言った。


「——観測者だ」


レインは、飛び起きた。


冷や汗が、全身を伝う。心臓が、激しく鼓動している。隣のベッドで、ミアが眠っている。


(……夢、か)


だが、ただの夢ではない気がした。観測者——システムを与えた、あの存在。その正体は、何なのか。


レインは、窓の外を見た。夜明け前の空が、わずかに白み始めている。


(……強くなる。もっと、もっと)


その決意を胸に、レインは再び目を閉じた。だが、眠りは訪れなかった。

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