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流亡剣士  作者: 宇宙無敵ダークドラゴン大王


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3/21

3 迷宮都市

朝日が、宿屋の窓から差し込む。


レインは目を覚ました。硬いベッドの上で、体の節々が痛む。だが、昨日よりはマシだ。傷も、少しずつ癒えている。


(今日から、ミアと行動を共にするのか……)


隣のベッドを見ると、ミアはまだ眠っていた。猫のように丸くなり、尻尾が顔にかかっている。無防備な寝顔だ。レインは小さく息をつき、身支度を整える。


「……起きろ」


ミアの肩を軽く叩くと、彼女は飛び起きた。


「にゃっ!? 敵か!?」


「……違う。朝だ」


ミアは目をこすりながら、状況を把握する。そして、にへらと笑った。


「おはよ、レイン。今日は何する?」


「ギルドに行く。情報を集めたい」


「了解。あたしも、聞きたいことがあったんだ」


二人は宿を出た。朝のリベルタスは、すでに活気づいている。露店が並び、商人たちが声を張り上げる。レインはミアの後ろを歩きながら、周囲に注意を払っていた。懸賞金をかけられた身だ。賞金稼ぎが、いつ襲ってきてもおかしくない。


(……気づかれていない、はずだ)


ギルドに着くと、中は朝から冒険者で賑わっていた。レインは掲示板の前に立ち、依頼書を物色する。ミアは受付嬢に何かを聞いている。


その時だった。


「おい、聞いたか? ヴァルグ迷宮で、大規模な魔物の出現があったらしいぞ」


「ああ。第五層まで下りたパーティが、全滅したって話だ」


「第五層? あそこは、まだ比較的安全なはずだろ?」


「それが、何かが変わったらしい。魔物の動きが、おかしいんだと」


レインは耳を澄ませた。ヴァルグ迷宮——魔境ヴァルグにある、大陸最大級の迷宮。そこでは、強力な魔物が棲息している。だが、同時に、レベルの高い冒険者にとっては、稼ぎの場でもある。


「ねえ、レイン」


ミアが戻ってきた。手には、一枚の依頼書を持っている。


「これ、どう? ヴァルグ迷宮の調査依頼。報酬は、銀貨三十枚。初心者向けの、浅い層だけの探索だって」


レインは依頼書を受け取った。確かに、迷宮の第一層から第三層までの調査、という内容だ。報酬は悪くない。だが——


「迷宮か……」


レインは考えた。迷宮には、様々な魔物がいる。倒せばKPが得られる。スキルも獲得できる。だが、危険も伴う。特に、魔物の動きがおかしいという話は、気になった。


「あたし、行ったことあるよ。浅い層なら、ゴブリンとか、スライムとか、弱いのばっかり。あたしでも、何とかなるレベル」


ミアは自信満々に言う。レインは少し迷ったが、頷いた。


「分かった。受けてくる」


受付で依頼を正式に受け、二人は迷宮へ向かった。リベルタスから東へ半日ほど歩くと、魔境ヴァルグの入り口に着く。そこからさらに進むと、巨大な洞窟の入り口が見えてきた。入り口は、まるで巨獣の口のように、ぽっかりと開いている。


「ここが、ヴァルグ迷宮……」


レインは洞窟を見上げた。壁には、古代の文字が刻まれている。誰が、何のために作ったのか。分からない。だが、その威容は、見る者を圧倒する。


「行こう、レイン」


ミアが先に立って、洞窟に入る。レインは長剣を握り直し、後に続いた。


---


迷宮の中は、思ったよりも明るかった。


壁に生えた苔が、淡く光っている。天井からは、水滴が落ちる音。空気は、ひんやりとしている。だが、奥へ進むにつれて、その光は弱まり、闇が濃くなる。


「松明、あるよ」


ミアが腰から松明を取り出し、火をつける。オレンジ色の光が、周囲を照らした。


「第一層は、もう少し先。ここはまだ、入り口付近だから」


二人は歩を進める。しばらくすると、広い空間に出た。天井は高く、まるで大聖堂のようだ。床には、石畳が敷かれている。人工的に作られた空間——これが、迷宮の第一層。


《迷宮内に進入しました。魔素濃度:低》

《このエリアの推定脅威度:E〜Dランク》


システムの通知が、頭に響く。レインは小さく頷き、周囲を見渡した。


「……魔物の気配は?」


「まだ。でも、油断しないで。ここは、魔物の領域だから」


ミアが耳を澄ませる。獣人の聴覚は、人間よりも優れている。彼女の尻尾が、緊張で逆立っている。


「来るよ。左から、五体」


レインは長剣を抜いた。薄暗がりの向こうから、小さな影が現れる。ゴブリン——五体。手には、それぞれ武器を持っている。棍棒、短剣、石斧。


「ミア、援護を頼む」


「任せて!」


レインは前に出た。ゴブリンたちが、一斉に襲いかかってくる。レインは長剣を横薙ぎに振る。一体目の首が飛ぶ。二体目の腹を切り裂く。三体目は、ミアが投げたナイフが眉間を貫いた。


「いい腕だ」


「あたしも、やるんだよ!」


残る二体を、レインが斬り伏せる。あっという間の戦闘だった。


《魔物を討伐しました。殺戮ポイントを獲得しました:5 KP × 5》

《ゴブリン討伐数:15/100》


(15体か……先は長いな)


レインはシステムの表示を確認し、再び歩き出した。ミアが隣に並ぶ。


「ねえ、レイン。あんた、戦い慣れてるね。元騎士、って本当?」


「……ああ」


「ふーん。じゃあ、なんで王国を追われたの?」


レインは少し黙った。ミアは、悪意で聞いているわけではないだろう。純粋な好奇心だ。だが、話すわけにはいかない。セレスティアのことを話せば、彼女も危険に晒される。


「……話すと、長くなる」


「そっか。まあ、いいや。そのうち教えてよ」


ミアはあっさりと引き下がった。その気遣いが、少しだけ嬉しかった。


---


第二層へ降りる階段を見つけたのは、それから一時間後だった。


階段は、下へと続いている。暗く、冷たい空気が流れ込んでくる。レインは松明を掲げ、慎重に降りた。ミアが後ろからついてくる。


「第二層は、少し危ないよ。オークとか、リザードマンとかが出るから」


「分かった」


第二層に足を踏み入れると、空気が変わった。ひやりとした冷気。壁の苔の光は、ほとんどない。松明の炎だけが、頼りの光源だ。


《迷宮第二層。魔素濃度:中。推定脅威度:D〜Cランク》


(Cランク……オークか)


レインは警戒を強めた。オークは、以前戦ったことがある。一体なら何とかなるが、複数なら危険だ。


「……静かに」


ミアが耳を立てる。何かを聞いている。レインも足を止め、耳を澄ませた。遠くから、声が聞こえる。人の声だ。


「助けて……!」


「誰か……!」


レインとミアは顔を見合わせた。


「行くぞ」


二人は声のする方へ走った。広い空間に出ると、そこには——三人の冒険者が、魔物に囲まれていた。リザードマンが、五体。爬虫類のような顔に、鋭い爪。冒険者たちは、すでに一人が倒れている。残る二人も、傷だらけだ。


「レイン、どうする?」


ミアが問う。レインは迷わなかった。


「助ける」


「……だと思った」


ミアがため息をつき、短剣を構える。レインは長剣を抜き、リザードマンたちに向かって走り出した。


「お前ら、下がれ!」


冒険者たちが、レインに気づく。リザードマンたちも、振り返る。レインは一体目の首を狙って剣を振るう。リザードマンは素早い。だが、レインの剣の方が速かった。


《魔物を討伐しました。殺戮ポイントを獲得しました:30 KP》


(30 KP……ゴブリンの六倍か)


残る四体が、レインに襲いかかる。レインは『剛力Lv1』を発動した。腕に力が漲る。長剣を振るう速度が、上がる。二体目、三体目を斬り伏せる。ミアも、一体の背後から短剣を突き刺した。


「あと一体!」


最後の一体が、レインに飛びかかる。レインは体を半歩ずらし、リザードマンの腹に剣を突き入れた。リザードマンが、地面に倒れる。


《魔物を討伐しました。殺戮ポイントを獲得しました:30 KP》

《リザードマン討伐数:3/20》


(リザードマンも、討伐数がカウントされるのか)


レインは息をつき、冒険者たちに振り返った。生き残った二人は、二十代の男女だった。男は剣士、女は魔術師のようだ。


「助かった。ありがとう」


男が、震える声で言う。レインは頷いた。


「立てるか?」


「ああ……でも、相方が」


倒れた冒険者を見る。息はあるが、重症だ。レインはミアを見た。


「ミア、ポーションは?」


「あるよ。高いけどね」


ミアが腰の袋から、小さな瓶を取り出す。回復ポーション——魔素を凝縮した液体で、傷を癒す効果がある。レインはそれを受け取り、倒れた冒険者の口に含ませた。しばらくすると、冒険者の顔色が良くなった。


「……ありがとう。本当に」


女魔術師が、涙を浮かべて言う。レインは首を振った。


「ここは危険だ。早く戻れ。俺たちは、もう少し先へ進む」


「あんたたち、名前は?」


「レイン。こっちはミア」


「レイン……覚えておくわ。私はリナ。こっちは、カルロ」


「リナに、カルロか。気をつけて帰れよ」


レインとミアは、冒険者たちと別れた。先へ進みながら、ミアが言う。


「いい人だね、レイン」


「……そうでもない」


「いや、いい人だよ。あたし、そういうの分かるんだ」


レインは答えなかった。だが、ミアの言葉が、少しだけ心に残った。


---


第三層への階段を見つけたのは、さらに一時間後だった。


だが、その前に——システムが、警告を発した。


《警告:強力な魔物の気配を感知しました》

《推定脅威度:Bランク》

《推奨:退避》


(Bランク……!)


レインは足を止めた。Bランクともなれば、熟練の冒険者でも手こずる相手だ。今の自分たちでは、分が悪い。


「ミア、下がれ」


「え? 何——」


その時だった。前方の闇から、何かが現れた。巨大な影。オーガ——オークよりもさらに大きく、知能も高い。身長は三メートルを超え、手には鉄の棍棒。その目は、爛々と赤く光っている。


「……まずいな」


レインは長剣を構えた。オーガが、咆哮する。迷宮の壁が、びりびりと震える。


《クエストを提示します》

《クエスト:オーガを討伐せよ》

《報酬:殺戮ポイント500 KP、スキル『怪力Lv1』》

《期限:なし》

《拒否:可能》


(500 KP……!)


レインは迷った。だが、背を向ければ、オーガは確実に追ってくる。ミアを守りながら逃げ切れる保証はない。


「ミア。俺が引きつける。お前は、隙を狙え」


「無茶だよ! Bランク相手に——」


「やるしかない」


レインは走り出した。オーガの棍棒が、振り下ろされる。レインは横に跳んで回避し、オーガの脚に剣を振るう。だが、オーガの皮膚は硬い。刃が浅くしか入らない。


(オークと同じだ……だが、もっと硬い)


オーガが、レインを蹴り飛ばそうとする。レインは後ろに跳ぶが、完全には避けきれない。風圧で、体が吹き飛ばされる。


「ぐあっ……!」


壁に叩きつけられる。背中に激痛。だが、立ち上がる。ミアが、オーガの背後からナイフを投げる。ナイフは、オーガの肩に突き刺さった。だが、オーガは気にした様子もない。


「効かない……!」


「ミア、目を狙え!」


レインは再び走り出す。オーガが棍棒を振るう。レインはそれをくぐり抜け、オーガの足にしがみつく。そして、長剣を思い切り、オーガの膝に突き刺した。


「グオオオオ!」


オーガが咆哮する。膝をつく。ミアがすかさず、オーガの目にナイフを投げた。ナイフが、オーガの右目を貫く。


「今だ!」


レインはオーガの首に飛びかかり、長剣を振り下ろした。何度も、何度も。オーガの首が、深く切れる。そして——


《魔物を討伐しました。殺戮ポイントを獲得しました:500 KP》

《スキル『怪力Lv1』を獲得しました》


オーガの体が、崩れ落ちる。レインも、その場に倒れ込んだ。息ができない。全身が痛い。


「レイン! 大丈夫!?」


ミアが駆け寄る。レインはうつ伏せのまま、親指を立てた。


「……ああ。何とか」


「バカ! 無茶しすぎだよ!」


ミアが、涙目で怒る。レインは少しだけ笑った。


「……悪い」


システムの表示を確認する。


```

【ステータス】

名前:レイン・クロウ

レベル:2

HP:3/40

MP:12/12

STR:16

VIT:9

AGI:10

INT:10

DEX:9

LUK:5

──────────

殺戮ポイント:735 KP

スキル:ゴブリン語Lv2、剛力Lv1、怪力Lv1

```


(レベル2に上がったか……)


HPは3。あと一撃で死んでいた。だが、生きている。そして、強くなった。


「……戻ろう。今日は、もう限界だ」


「そうだね。あたしも、疲れた」


二人は、迷宮を後にする。帰り道、ミアがぽつりと言った。


「ねえ、レイン。あんた、強くなるために、何をしてるの?」


レインは少し考えて、答えた。


「……守りたいものがある。そのためには、強くならなきゃいけない」


「守りたいもの?」


「……ああ」


ミアは、それ以上聞かなかった。ただ、隣を歩き続けた。


---


リベルタスに戻ったのは、夜だった。


ギルドに依頼の報告をし、報酬を受け取る。銀貨三十枚。悪くない。宿に戻り、食事を取る。ミアは、隣の席でパンを頬張っている。


「明日は、どうする?」


「……装備を整えたい。それと、情報が欲しい」


「情報? 何の?」


レインは少し迷ったが、言った。


「……セレスティア・グランディア。その名前を、聞いたことがあるか?」


ミアの手が、止まった。彼女は、レインを見つめる。


「セレスティア・グランディア……グランディア王国の騎士団長の娘でしょ? あんた、彼女と何の関係が——」


「……俺の、恋人だった」


ミアの目が、大きく見開かれた。そして、静かに言った。


「……そう。だから、追われてるんだ」


「ああ」


ミアはしばらく黙り、それから言った。


「分かった。あたしも、調べてみる。スラムの友達に、聞いてみるよ」


「……いいのか?」


「仲間でしょ。当然だよ」


ミアは、にこりと笑った。その笑顔が、レインの胸に、少しだけ温かさを灯した。


「ありがとう、ミア」


「どういたしまして。……でも、レイン」


「何だ?」


「あんた、もっと素直になりなよ。そういうの、女の子に嫌われるよ」


レインは、答えに詰まった。ミアは、楽しそうに笑った。

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