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流亡剣士  作者: 宇宙無敵ダークドラゴン大王


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19/21

19 海辺の裂け目

山の裂け目を封鎖してから、三日が経った。


レインたちは北の山脈を抜け、西へと進んでいた。次の裂け目の場所は、海沿いの港町——ポルタ・マーレ。リベルタスから西へ、およそ五日ほどの距離にある。


「海か。久しぶりだな」


レインが呟くと、ミアが目を輝かせた。


「海! あたし、海って初めて! どんな感じなの?」


「……俺も、詳しくは知らない。見たのは、子供の頃に一度だけだ」


「えー。じゃあ、あたしと一緒だね」


ミアが、楽しそうに笑う。その横で、セレスティアがくすくす笑った。


「私は、騎士団の遠征で何度か。潮風が、気持ちいいのよ」


「セレスティアさん、ずるい!」


「ふふ。後で、案内してあげるわ」


三人の会話を聞きながら、リィエルが静かに言った。


「海沿いの裂け目、か。……海の魔物は、厄介よ。水中戦は、私たちには不利だわ」


「ああ。だが、今回は裂け目の封鎖が目的だ。深追いはしない」


レインは、地図を確認した。ポルタ・マーレは、自由都市連合の中でも古い港町で、貿易の中継地として栄えている。だが、最近は深淵の影響で、海の魔物が増えているらしい。


「ギルドからの情報だと、裂け目は港の沖合にあるらしい。船を出す必要があるな」


「船か。……酔わなければいいけど」


シャドウが、ぼそりと言う。レインは、少し驚いた。


「お前、船酔いするのか?」


「……乗ったことがないから、分からないだけよ」


シャドウが、そっぽを向く。ミアが、その様子を見て、笑いをこらえていた。


---


ポルタ・マーレに着いたのは、五日後の昼過ぎだった。


港町は、活気に満ちていた。色とりどりの帆船が並び、漁師たちが網を干している。市場には、海の幸が溢れている。だが——レインの魔素感知は、すぐに異変を捉えた。


「……深淵の魔素が、濃いな。港全体に、薄く広がっている」


「ええ。これじゃあ、海の魔物が増えるのも無理はないわ」


リィエルが、眉をひそめる。


「まずは、ギルドに挨拶に行こう。情報を集めたい」


ポルタ・マーレのギルドは、港の中心にある大きな建物だった。中に入ると、漁師や船乗り、冒険者たちで賑わっている。


受付で、レインはギルドマスターに会うことを求めた。しばらく待つと、恰幅のいい中年の男が現れた。


「よく来た。私は、このギルドのマスター、バルド・フィッシャーだ」


(バルド……。あの貴族と同じ名前か。まあ、よくある名前だな)


レインは、軽く頭を下げた。


「レイン・クロウです。深淵の裂け目の封鎖に来ました」


「おお、あんたが! 話は聞いてる。リベルタスで、深淵の使徒を討ったってな」


バルド・フィッシャーは、感心したように言う。


「実は、こちらも困ってたんだ。港の沖合に裂け目ができてから、海の魔物が増えてな。漁師も、船乗りも、仕事にならん」


「裂け目の場所は、分かっていますか?」


「ああ。港の北東、約二海里の地点だ。海底に、大きな裂け目がある。だが——」


バルド・フィッシャーは、声を潜めた。


「その裂け目の近くに、海竜が棲みついてな。近づく船を、片っ端から沈めてやがる」


「海竜……!?」


セレスティアが、息を呑む。海竜——海の魔物の中でも、最強格の存在だ。Aランク以上、場合によってはSランクに達することもある。


「討伐は、無理ですか?」


「無理だ。こちらの冒険者じゃ、歯が立たん。お前さんたちなら——と思ってな」


レインは、少し考えた。海竜を倒すか、それとも避けて裂け目を封鎖するか。裂け目の封鎖には、時間がかかる。その間、海竜に襲われれば、ひとたまりもない。


「……分かりました。まずは、海竜の偵察を。その上で、作戦を立てます」


「うむ。船は、こちらで用意しよう。いつでも言ってくれ」


---


宿に戻り、作戦会議を開いた。


「海竜、か。厄介ね」


シャドウが、腕を組みながら言う。


「ルミナに聞いてみるか? 海竜の弱点とか」


ミアの提案に、レインは頷いた。


「ルミナ。聞こえるか?」


『はい、レイン。海竜についてですね』


ルミナの声が、頭に響く。


『海竜は、水属性の魔物です。水中では無類の強さを誇りますが、陸上では動きが鈍ります。また、雷属性の攻撃が弱点です』


「雷属性……。俺たちに、雷を使える者は——」


レインは、仲間たちを見回した。リィエルが、手を挙げる。


「私、風の魔法は使えるけど、雷は……。エルフの魔法に、雷属性はないの」


「俺も、魔素の剣は物理攻撃に近い。雷は、出せないな」


「なら、海竜を陸に誘き出すか、水中で戦うしかないわね」


セレスティアが、剣を弄りながら言う。


「陸に誘き出す、か。だが、海竜はそう簡単に陸には上がらないだろうな」


レインは、地図を見つめた。港の北東、二海里。裂け目の周辺の海底は、どうなっているのか。海竜の棲み処は、どこなのか。


「明日、偵察に行こう。船を出して、海竜の動きを確認する」


「分かった」


「賛成」


「……船酔い、大丈夫かな」


シャドウが、不安そうに呟いた。


---


翌朝。


レインたちは、ギルドが用意した小型の帆船に乗り込んだ。船員は、熟練の漁師が三人。操舵を担当してくれる。


「出航!」


バルド・フィッシャーの号令と共に、船が動き出す。穏やかな波。潮風が、頬を撫でる。


「おお……! これが、海か!」


ミアが、船のへさきに立って、目を輝かせている。セレスティアも、潮風を楽しそうに浴びていた。


「気持ちいいわね」


「ああ。……シャドウは、大丈夫か?」


レインが振り返ると、シャドウは船の隅で、青い顔をしていた。


「……大丈夫。平気」


「全然、平気そうに見えないが」


「うるさいわね。……少し、休んでる」


シャドウは、その場に座り込んだ。リィエルが、心配そうに水を差し出す。


「シャドウさん、水分補給を。船酔いは、慣れるまでが大変よ」


「……ありがとう」


シャドウが、水を受け取る。その姿は、いつものクールな賞金稼ぎとは、ほど遠かった。


「かわいいわね、シャドウさん」


セレスティアが、くすくす笑う。シャドウは、睨みつけるが、顔色が悪いので迫力がない。


「……笑わないで」


「ごめんなさい。でも、ちょっとだけ」


和やかな雰囲気の中、船は進む。やがて、船員が声を上げた。


「あれだ! 裂け目が見える!」


レインは、船のへさきに立った。海面の下に、黒い影が見える。深淵の裂け目だ。周囲の海水が、黒く変色している。


「あれが、裂け目……。大きさは、山の裂け目と同じくらいか」


「レイン、海竜は?」


「まだ、姿は見えない。だが——」


レインの次元感知が、海底の奥に、強大な気配を捉えた。


「いる。裂け目の、すぐ近くに。……かなり、大きいぞ」


その時だった。海面が、激しく波立った。船が、大きく揺れる。


「来るぞ!」


海面が、割れた。巨大な影が、空中に飛び出す。海竜——体長は十五メートルを超える。青い鱗に、鋭い爪。頭部には、一本の角。その目は、獲物を狙う狩人のそれだった。


《警告:海竜を感知》

《推定脅威度:Aランク上位》


「でかい……!」


ミアが、息を呑む。海竜が、咆哮する。潮風が、爆風のように吹き荒れる。船が、再び大きく揺れた。


「船員さん! 船を、港に戻してくれ!」


レインが叫ぶ。だが、船員は首を振る。


「無理だ! 海竜が、船を狙ってる! このままじゃ、沈められる!」


海竜が、船に向かって突進してくる。レインは、魔素の剣を形成し、海竜の前に立ちはだかった。


「みんな、戦闘準備! 海竜を、陸まで誘き出す!」


「無茶よ! 海の上じゃ、私たちの足場がない!」


セレスティアが叫ぶ。レインは、次元操作を発動した。


「俺が、足場を作る! お前たちは、攻撃に専念してくれ!」


レインは、空間を歪め、海上に一時的な足場を作り出した。魔素で固めた、半透明の板だ。セレスティアとシャドウが、その上に飛び乗る。ミアとリィエルは、船の上から援護する。


「行くぞ!」


レインは、海竜に斬りかかった。魔素の剣が、海竜の鱗を斬る。だが、鱗は硬い。刃が、浅くしか入らない。


「硬い……! さすがは、Aランク上位……!」


海竜が、尾を振るう。レインは、次元操作で回避し、反撃する。セレスティアも、海竜の脚を斬りつける。シャドウが、短剣を投げ、海竜の目を狙う。


「……効かないわ! 鱗が、邪魔してる!」


「なら——」


レインは、深淵操作を発動した。海竜の体に、深淵の力を流し込む。海竜が、一瞬だけ動きを止める。


「今だ!」


セレスティアが、海竜の首を斬りつける。ミアの光の弾と、リィエルの風の刃が、海竜の傷口に叩き込まれる。海竜が、悲鳴を上げる。


「よし、効いてる!」


だが、海竜はまだ倒れない。逆に、怒り狂って、暴れ始めた。船が、今にも沈みそうだ。


「まずい……! 船が……!」


レインは、歯を食いしばった。このままでは、船員たちが危ない。海竜を、陸まで誘き出すしかない。


「みんな、聞け! 俺が、海竜を陸まで誘き出す! お前たちは、船を守ってくれ!」


「レイン、一人で!?」


「ああ! 俺なら、次元操作で逃げられる!」


レインは、海竜の前に飛び出した。そして、挑発するように、剣を振るう。


「こっちだ、海竜! 俺を追ってこい!」


海竜が、レインを狙う。レインは、次元操作で海上を跳びながら、港へと向かう。海竜が、その後を追う。


「レイン! 無茶しないで!」


セレスティアの叫びが、背後から聞こえる。レインは、振り返らずに走った。


(港まで、あと少し……!)


港が見えてきた。レインは、最後の力を振り絞り、海竜を陸へと誘き出す。海竜が、港の浅瀬に乗り上げる。動きが、鈍る。


「今だ……!」


レインは、深淵操作と魔素支配を同時に発動した。深淵の力で海竜の動きを封じ、魔素の剣で、海竜の急所——目の奥を、突き刺す。


「ギャアアアア!?」


海竜が、悲鳴を上げる。体が、大きく痙攣する。そして——動かなくなった。


《海竜を討伐しました》

《報酬:殺戮ポイント30,000 KP、スキル『水中適応Lv2』》


「……倒した、のか」


レインは、その場に膝をついた。体が、重い。深淵操作の反動だろう。


「レイン!」


セレスティアたちが、駆け寄ってくる。船も、無事に港に着いたようだ。


「バカ……! 本当に、バカ……!」


セレスティアが、レインを抱きしめる。レインは、彼女の背中に手を回した。


「……心配かけたな」


「当たり前でしょ……! もう、しないで……!」


「ああ。……でも、これで、裂け目を封鎖できる」


レインは、立ち上がった。港の沖合に、まだ裂け目がある。海竜を倒した今なら、封鎖できるはずだ。


「みんな、もう一度、船を出そう。裂け目を、封鎖する」


「……分かった。でも、無理はしないでね」


ミアが、心配そうに言う。レインは、頷いた。


---


再び、船を出した。今度は、海竜の邪魔がない。裂け目の真上まで来ると、レインは次元操作を発動した。


「閉じろ……!」


裂け目が、ゆっくりと閉じていく。深淵の力が抵抗するが、レインの次元操作が、それを押し返す。


《深淵の裂け目を封鎖しました》

《深淵の裂け目封鎖数:2/10》

《報酬:殺戮ポイント5,000 KP》


「よし……! 二箇所目!」


「やったね!」


ミアが、飛び上がって喜ぶ。セレスティアも、リィエルも、シャドウも、それぞれ安堵の表情を浮かべていた。


「これで、この港も安心ね」


「ああ。……船員さんたちも、喜んでくれるだろう」


港に戻ると、バルド・フィッシャーが待っていた。


「海竜を、倒したのか……!?」


「はい。裂け目も、封鎖しました」


「おお……! ありがとう! これで、漁ができる!」


バルド・フィッシャーは、感激して、レインの手を握った。そして、報酬の金貨を渡してくれた。金貨四十枚。Aランク依頼としては、破格の報酬だ。


「宿代と、食事代はこちらで持つ。ゆっくりしていってくれ」


「ありがとうございます」


---


その夜、レインたちは、港の宿でゆっくりと休んだ。


「海竜、強かったね」


ミアが、ベッドの上でごろごろしながら言う。


「ああ。だが、倒せた。みんなのおかげだ」


「レインの、深淵操作のおかげよ。あれがなければ、勝てなかったわ」


セレスティアが、レインの隣に座る。


「……深淵操作は、便利だが、危険だ。使いすぎると、魂が深淵に引かれる」


「分かってる。だから、必要な時だけ使う」


レインは、システムの表示を見た。


```

【ステータス】

名前:レイン・クロウ

レベル:14

HP:180/180

MP:56/56

STR:44

VIT:48

AGI:66

INT:68

DEX:50

LUK:12

──────────

殺戮ポイント:182,586 KP

スキル:ゴブリン語Lv3、剛力Lv3、怪力Lv3、魔素支配Lv2、集団指揮Lv1、飛行Lv2、鱗鎧Lv1、水中適応Lv2、権威Lv1、次元感知Lv2、次元操作Lv2、魔族言語Lv2、炎耐性Lv2、魔力操作Lv1、深淵耐性Lv3、深淵操作Lv1、次元耐性Lv1

```


(レベル14。KPも、かなり貯まった。だが——)


レインは、窓の外を見た。港の灯りが、海面に揺れている。美しい光景だ。だが、その奥には、まだ深淵の闇が潜んでいる。


(残り、八箇所。まだまだ、先は長い)


「ねえ、レイン」


セレスティアが、静かに言う。


「この旅が終わったら、どうする?」


「……さっきも、同じこと聞いたな」


「ええ。でも、真剣に考えてるの」


セレスティアの目は、真剣だった。レインは、少し考えて、答えた。


「……まずは、セレスティアとの約束を果たす。それから——」


「それから?」


「深淵が消えない限り、戦いは続く。だが、俺は——」


レインは、仲間たちを見回した。


「お前たちと一緒に、生きていたい。それが、俺の望みだ」


セレスティアが、微笑む。ミアも、リィエルも、シャドウも、それぞれの形で、レインの言葉に応えてくれた。


「……じゃあ、まずは、この旅を終わらせないとね」


「ああ。そのために——」


レインは、拳を握った。


「明日も、戦う。深淵を、封じるために」

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