18 深渊の残滓
翌日、レインたちは再び迷宮に潜った。
深淵の残滓は、迷宮の第四層から第五層にかけて、数多く確認されていた。レインは魔素支配で残滓の位置を探りながら、効率的に討伐を進めた。
「残り、三十体。今日中に片付けたいな」
「そうね。でも、油断しないで」
セレスティアが、剣を構え直す。その時、レインの次元感知が、強い反応を捉えた。
「……何か、来る」
前方の空間が、歪む。裂け目が開き、中から大型の魔物が現れた。深淵の残滓が凝縮された、深淵獣——狼のような姿だが、体は黒い霧で構成され、目に当たる部分には、深淵の眼の紋章が浮かんでいる。
《警告:深淵獣を感知》
《推定脅威度:Bランク上位》
「深淵獣……。残滓が、凝縮されてできたのか」
「レイン、どうする?」
「倒す。こいつを倒せば、残滓も消えるはずだ」
レインは、魔素の剣を形成し、深淵獣に斬りかかった。深淵獣は、素早く動き、レインの攻撃をかわす。だが、レインの次元感知は、その動きを正確に捉えていた。
「——そこだ」
レインは、次元操作で深淵獣の背後に転移し、剣を振り下ろす。深淵獣の体が、斬り裂かれる。だが、すぐに霧が集まり、再生しようとする。
「再生するのか……! だが——」
レインは、魔素支配で深淵の霧を浄化する。深淵の力と、通常の魔素を分離し、霧を消滅させた。深淵獣が、悲鳴を上げて消える。
《深淵獣を討伐しました》
《報酬:殺戮ポイント3,000 KP》
《深淵の残滓討伐数:75/100》
「よし、あと二十五体!」
その後も、レインたちは順調に残滓を討伐していった。セレスティアの剣技、ミアの魔法具、リィエルの風の魔法、シャドウの短剣。五人の連携は、もはや完璧だった。
《深淵の残滓討伐数:100/100》
《クエスト:深淵の残滓を討伐せよ——達成》
《報酬:スキル『深淵耐性Lv3』、スキル『深淵操作Lv1』を獲得しました》
《スキル『深淵耐性Lv3』:深淵の環境、精神攻撃、魂への侵食に対する強力な耐性を得ます》
《スキル『深淵操作Lv1』:深淵の力を操り、魔物を弱体化させたり、空間を歪めたりすることができます。ただし、使用のたびに魂に負担がかかります》
「……手に入れた、か」
レインは、自分の手を見つめた。深淵操作——深淵の力を操るスキル。使えば使うほど、魂が深淵に近づく。ルミナの忠告が、頭をよぎる。
(だが、使わなければならない時が来るかもしれない。その時のために、準備はしておこう)
「レイン、お疲れ様」
セレスティアが、ポーションを差し出す。レインは受け取り、飲み干した。
「ああ。これで、深淵の残滓は片付いた。だが——」
「まだ、何かあるの?」
「ああ。深淵そのものは、消えていない。ルミナが言ってた。深淵は、常に存在する。だから——」
レインは、システムの表示を見た。
《クエスト:深淵の裂け目を封鎖せよ(進捗:0/10)》
《報酬:スキル『深淵封印Lv1』》
《期限:なし》
《拒否:可能》
「裂け目を、封鎖する必要がある。十箇所。各地に、深淵の裂け目が開いてるらしい」
「十箇所……。結構な数ね」
ミアが、腕を組む。
「だが、やるしかない。放っておけば、また深淵の使徒が現れるかもしれない」
「そうね。で、どこから行くの?」
レインは、地図を広げた。ギルドからもらった情報によると、裂け目は大陸各地に点在している。リベルタス周辺にも、いくつかあるらしい。
「まずは、リベルタスに一番近い裂け目から。北の山脈にある」
「山脈ね。寒そうだなあ」
ミアが、少し嫌そうな顔をする。レインは、苦笑した。
「我慢してくれ。終わったら、温かい飯を奢る」
「本当? 約束だよ!」
ミアが、笑顔になる。その笑顔を見て、レインは少しだけ、肩の力が抜けるのを感じた。
---
宿に戻り、作戦会議を開いた。
「裂け目の封鎖には、次元操作の力が必要だ。俺が、裂け目に干渉して、閉じる。その間、魔物が来るかもしれない。だから——」
「私たちが、護衛ね」
セレスティアが、頷く。
「ああ。頼む」
「任せて。私、こういうのは得意よ」
シャドウが、短剣を弄りながら言う。その目は、真剣だ。
「それと、もう一つ。裂け目の近くには、深淵の残滓が集まりやすい。討伐も、同時に進めたい」
「分かった。じゃあ、明日の朝に出発ね」
「ああ。今日は、ゆっくり休もう」
その夜、レインは一人で、システムの表示を見つめていた。
```
【ステータス】
名前:レイン・クロウ
レベル:13
HP:165/165
MP:52/52
STR:42
VIT:46
AGI:64
INT:66
DEX:48
LUK:11
──────────
殺戮ポイント:139,586 KP
スキル:ゴブリン語Lv3、剛力Lv3、怪力Lv3、魔素支配Lv2、集団指揮Lv1、飛行Lv2、鱗鎧Lv1、水中適応Lv1、権威Lv1、次元感知Lv2、次元操作Lv2、魔族言語Lv2、炎耐性Lv2、魔力操作Lv1、深淵耐性Lv3、深淵操作Lv1、次元耐性Lv1
```
(KPが、かなり貯まった。だが、今は使わずにおこう。裂け目の封鎖には、次元操作の力が必要だ。INTとAGIは、十分に高い)
レインは、窓の外を見た。夜空には、星が瞬いている。その中に、一際明るい星——ルミナの星。
『レイン』
声が、聞こえた。
「ルミナ。どうした?」
『明日から、裂け目の封鎖ですね。……気をつけてください。裂け目の近くは、深淵の影響が強い。あなたの魂に、負担がかかるかもしれません』
「分かってる。だが、やらなきゃいけない」
『……ええ。分かっています。だから、一つだけ——』
「何だ?」
『もし、魂の負担が大きすぎると感じたら、すぐにやめてください。あなたが倒れたら、元も子もないのですから』
「……分かった。約束する」
『ありがとうございます、レイン』
ルミナの声が、消える。レインは、ベッドに入った。明日に備えて、眠らなければ。
(深淵の裂け目、か。十箇所。長い旅になりそうだな)
だが、仲間がいる。ルミナがいる。それだけで、心強かった。
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翌朝。
レインたちは、リベルタスの北門に集まった。装備を整え、食料を詰め、準備は万端だ。
「行くぞ」
「「「「おう!」」」」
北門を抜け、山道を進む。リベルタスから北へ、半日ほど歩いたところに、裂け目があるらしい。道中、魔物の襲撃が何度かあったが、レインたちの連携で難なく撃退した。
そして——山道の途中、開けた場所に出た。そこに、裂け目があった。以前のものより、少し小さいが、深淵の魔素が、周囲に溢れている。
《深淵の裂け目を感知》
《推定脅威度:Bランク》
「これが、裂け目……」
セレスティアが、剣を構える。レインは頷き、裂け目に近づいた。
「俺が、裂け目に干渉する。その間、魔物が来たら、頼む」
「分かった。任せて」
レインは、次元操作を発動した。裂け目の空間に干渉し、ゆっくりと閉じようとする。だが、裂け目は抵抗する。深淵の力が、レインの魂に絡みつく。
(……重い。だが、耐えられる)
「レイン、魔物だ!」
ミアの声。裂け目から、深淵の残滓が現れる。十体以上。セレスティアとシャドウが前に出て、ミアとリィエルが後方から援護する。
「レイン、集中して! 私たちが、守るから!」
セレスティアの叫びに、レインは頷いた。裂け目に、さらに力を込める。深淵の力が、抵抗するが、レインの次元操作が、それを押し返していく。
(閉じろ……!)
裂け目が、ゆっくりと閉じ始める。だが——
「レイン、上だ!」
リィエルの声。見上げると、裂け目の上方から、新たな魔物が降ってくる。深淵の使徒——以前戦ったものより、小さな影だが、数は五体。
「くそ……! 数が、多い……!」
レインは、裂け目への干渉を続けながら、片手で魔素の剣を形成する。だが、集中が乱れる。裂け目が、再び開き始める。
「レイン、無理しないで!」
セレスティアが、使徒の一体を斬り伏せる。だが、残り四体が、レインに迫る。
その時だった。
『レイン。私の力を、使いなさい』
ルミナの声。
(だが、それだと——)
『大丈夫です。私が、あなたの魂を支えます。だから——』
(分かった)
レインは、ルミナの力を借りることにした。体に、暖かい力が流れ込む。裂け目への干渉が、安定する。
「——閉じろ!」
レインの叫びと共に、裂け目が完全に閉じた。
《深淵の裂け目を封鎖しました》
《深淵の裂け目封鎖数:1/10》
《報酬:殺戮ポイント5,000 KP》
「よし……!」
だが、使徒たちはまだいる。レインは、剣を構え直した。
「みんな、使徒を倒すぞ!」
「「「「おう!」」」」
五人の連携で、使徒たちを次々と倒していく。最後の一体が、消滅した。
《深淵の使徒を討伐しました》
《報酬:殺戮ポイント8,000 KP × 5》
「……終わった、か」
レインは、その場に膝をついた。ルミナの力を借りた反動で、少し体が重い。
「レイン、大丈夫?」
セレスティアが、駆け寄ってくる。
「ああ。何とか。……ルミナが、支えてくれたから」
『どういたしまして、レイン。……ですが、無理は禁物ですよ』
「分かってる。……ありがとう、ルミナ」
レインは、立ち上がった。裂け目は、完全に閉じている。周囲の深淵の魔素も、薄くなっていた。
「これで、一箇所目。残り、九箇所だ」
「先は長いね」
ミアが、肩を回しながら言う。レインは頷いた。
「ああ。だが、一歩ずつだ。……さあ、次の裂け目へ」
五人は、再び歩き出した。深淵の裂け目を封鎖する旅は、始まったばかりだ。
---
その夜、野営をしながら、レインはシステムの表示を見ていた。
《深淵の裂け目封鎖数:1/10》
(まだ、一箇所。だが、確実に進んでいる)
「レイン、焼き肉できたよ」
ミアが、串焼きを差し出す。レインは受け取り、一口かじった。美味い。
「ありがとう、ミア。美味い」
「でしょ? 野営料理も、あたしにかかればこの通り」
ミアが、得意げに笑う。セレスティアも、リィエルも、シャドウも、それぞれ串焼きを頬張っている。
「しかし、寒いな。山の夜は」
レインが、焚き火に手をかざす。リィエルが、風の魔法で火を強くした。
「これで、少しはマシかしら」
「ああ。助かる」
レインは、焚き火の炎を見つめながら、思った。
(この旅が終わったら、どうするかな)
深淵の裂け目を封鎖して、深淵の残滓を討伐して。それでも、深淵そのものは消えない。だが——
(それでも、俺は進む。仲間と一緒に)
「レイン、何考えてるの?」
セレスティアが、隣に座る。
「……この旅が終わったら、どうするかなって」
「そうね。……私は、レインと一緒にいたい」
「セレスティア……」
「だって、そうでしょ? あなたを一人にしたら、また無茶するに決まってるもの」
セレスティアが、少し意地悪そうに笑う。レインは、苦笑した。
「否定はしない」
「ふふ。正直ね」
セレスティアが、レインの肩に寄りかかる。温かい。
「ねえ、レイン。この旅が終わったら——」
「ああ?」
「私と、結婚してくれる?」
レインは、一瞬、言葉を失った。セレスティアが、顔を赤らめながら、レインを見つめている。
「……本気か?」
「本気よ。私は、あなたと生きたい。この先も、ずっと」
レインは、少し考えて、答えた。
「……この旅が終わったら、ちゃんと答えを出す。だから、それまで待ってくれ」
「うん。待つわ」
セレスティアが、嬉しそうに笑った。その笑顔を見て、レインは、自分も笑った。
(結婚、か。……悪くないな)




