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流亡剣士  作者: 宇宙無敵ダークドラゴン大王


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17/21

17 観測者との対話

深淵の王を討ってから、一週間が経った。


リベルタスの街は、平穏を取り戻していた。迷宮の魔素異常も収まり、郊外の裂け目も完全に閉じた。ギルドに寄せられる依頼も、以前の日常的なものに戻っている。


だが、レインの胸には、まだ引っかかっているものがあった。


(深淵の王は「最後ではない」と言った。そして——観測者との対話権)


あの戦いの後、システムに表示された報酬の一つ。観測者と、直接対話できる権利。それを使って、聞きたいことがある。


(観測者の正体。なぜ、俺を選んだのか。そして——これから、何が起きるのか)


レインは宿の屋上に立ち、夜空を見上げた。星が、瞬いている。その中に、一際明るい星——希望の星。


「観測者。聞こえるか?」


レインが呟くと、システムの表示が、微かに光った。


《観測者との対話権を使用しますか?》

《注意:対話権は一度きりです。使用すると、消失します》


(一度きり、か。なら——)


「使う」


レインが頷くと、視界が、白く染まった。


---


気がつくと、レインは見知らぬ空間に立っていた。


白い、何もない空間。床も壁も天井もなく、ただ、無限の白が広がっている。だが、不思議と恐怖はなかった。どこか、懐かしいような感覚。


「……ここが、観測者の領域か?」


『いいえ。これは、私が一時的に作った対話空間です』


声が、聞こえた。レインの目の前に、光の球が浮かんでいる。小さな、淡い光。だが、その中に、確かな意志を感じる。


『初めまして、レイン。私は、観測者。あなたに、システムを授けた存在です』


「……初めまして、か。ずっと、俺を見ていたんだろ?」


『ええ。あなたが生まれた時から、ずっと』


レインは、少し驚いた。生まれた時から——つまり、観測者は、自分の人生をずっと見ていたということか。


「なぜ、俺を選んだ?」


『……あなたが、私の目に留まったからです』


「目に留まった?」


光の球が、微かに揺れる。まるで、照れているかのように。


『私は、この世界の理を記録する存在です。世界の始まりから、終わりまで、すべてを観測し、記録する。それが、私の役割』


「世界の、終わりまで……」


『ええ。だが——ある時、私は気づきました。記録するだけでは、世界は変わらない。私は、ただ見ているだけの存在。だが、あなたは——』


光の球が、レインの前に近づく。


『あなたは、変わることを選んだ。理不尽な運命に、抗うことを選んだ。その姿が、私には眩しかった』


「……眩しい、か」


『ええ。だから、私はあなたに力を貸すことにした。あなたが、自分の道を切り開けるように』


レインは、しばらく黙った。観測者が、自分に力を貸した理由。それは、同情でも、利用でもなく——共感だったのか。


「深淵の王は、お前の敵だった。なぜ、敵がいるんだ?」


『……深淵の王は、私の「影」です』


「影?」


『私は、世界の理を記録する存在。だが、理には、必ず「外」が存在する。深淵は、その外側。私が光なら、深淵は闇。私は、深淵を完全に消すことはできない』


「だから、俺に倒させたのか?」


『いいえ。あなたが、倒したいと望んだから。私は、その手助けをしただけです』


レインは、少し考えた。観測者の言葉に、嘘は感じられない。だが——


「お前は、俺を器と呼ぶ。俺は、お前の駒なのか?」


光の球が、激しく揺れた。まるで、否定するかのように。


『違います。あなたは、私の「器」ではありません。あなたは、私の「希望」です』


「希望?」


『ええ。私は、世界を記録するだけの存在。だが、あなたと出会って、初めて「変えたい」と思った。この世界を、もっと良い場所にしたいと。……それは、私が初めて抱いた、感情でした』


レインは、その言葉に、胸が熱くなるのを感じた。観測者は、自分を通じて、感情を知った。それは——自分が、観測者を変えたということか。


「……なあ、観測者。お前は、名前がないのか?」


『名前、ですか。私は、名もなき存在。世界の理の一部。だから、名前はありません』


「なら——」


レインは、少し考えて、言った。


「俺が、名前をつけてやる。お前は、これから——『ルミナ』だ」


光の球が、微かに震えた。そして、ゆっくりと、暖かい光を放つ。


『ルミナ……光、という意味ですね』


「ああ。お前は、俺にとっての光だ。だから、ルミナ」


『……ありがとう、レイン。私は、これからルミナとして、あなたを見守ります』


光の球が、レインの頬に触れる。温かい。まるで、手のひらで包まれているような感覚。


「ルミナ。これからも、力を貸してくれるか?」


『ええ。私は、あなたの味方です。いつでも、どこでも』


「ありがとう。……じゃあ、そろそろ戻るか。みんな、待ってる」


『ええ。……レイン。最後に、一つだけ』


「何だ?」


『あなたの魂は、まだ完全には回復していません。深淵の王との戦いで、大きな負担がかかった。しばらくは、無理をしないでください』


「分かってる。……心配性だな、ルミナ」


『あなたが、心配させるんです』


レインは、思わず笑った。観測者——ルミナが、少しだけ人間らしく感じられた。


視界が、再び白く染まる。そして——


---


気がつくと、レインは宿の屋上に立っていた。


夜空は、まだ星が瞬いている。時間は、ほとんど経っていないようだ。対話空間での出来事は、ほんの一瞬だったのだろう。


(ルミナ。良い名前だと思う)


システムの表示が、微かに光る。


《観測者——ルミナよりのメッセージ:ありがとうございます、レイン》


レインは、小さく笑った。そして、屋上を降りた。


---


翌朝。


レインは、宿の食堂で仲間たちに、観測者のことを話した。


「——というわけだ。観測者の名前は、ルミナ。俺の味方で、世界の理を記録する存在。そして、深淵の王は、その影だった」


「ルミナ……。素敵な名前ね」


セレスティアが、微笑む。


「で、そのルミナさんは、これからもレインを助けてくれるの?」


ミアが、パンをかじりながら問う。


「ああ。ただし、無理はするなって。魂が、まだ完全には回復してないらしい」


「当然よ。あんな無茶したんだから」


リィエルが、少し怒ったように言う。レインは、苦笑した。


「分かってる。しばらくは、無理しない」


「本当に?」


「……努力する」


「もう」


リィエルが、ため息をつく。シャドウは、黙って紅茶を飲んでいたが、ふと口を開いた。


「で、これからどうするの? 深淵の王は倒したけど、深淵そのものは残ってるんでしょ?」


「ああ。ルミナも言ってた。深淵は、完全には消せない。だが——」


レインは、システムの表示を見た。


《クエスト:深淵の残滓を討伐せよ(進捗:0/100)》

《報酬:スキル『深淵耐性Lv3』、スキル『深淵操作Lv1』》


「深淵の残滓が、各地に散らばってるらしい。それを討伐すれば、深淵の影響を減らせる」


「百体、か。地道な作業ね」


シャドウが、肩をすくめる。


「だが、やるしかない。放っておけば、また深淵の王のような存在が生まれるかもしれない」


「そうね。じゃあ、今日からまた、迷宮通いね」


ミアが、立ち上がる。


「ああ。だが、その前に——」


レインは、仲間たちを見回した。


「俺の魂が完全に回復するまで、無理はしない。それだけは、約束する」


「分かった」


「ええ」


「……信じるわよ」


「ああ」


四人の返事を聞いて、レインは頷いた。


---


その日は、久しぶりに迷宮に向かった。


目的は、深淵の残滓の討伐。試練の間で戦った魔物たちの中に、深淵の残滓が混じっているらしい。


「まずは、第三層から。深淵の残滓は、魔素の流れが淀んでいる場所に現れることが多いって」


ミアが、地図を広げながら言う。レインは頷き、仲間たちと共に迷宮に入った。


第三層は、以前と変わらず、ゴブリンやオークが棲息している。だが、よく見ると、ところどころに黒い霧が立ち込めていた。


「あれが、深淵の残滓か」


レインは、魔素支配で霧を分析した。深淵の魔素が、通常の魔素に混じっている。放置すれば、魔物が強化されたり、新たな裂け目が生まれたりするだろう。


「ミア、リィエル。霧を払えるか?」


「やってみる」


リィエルが、風の魔法で霧を吹き飛ばす。ミアが、魔法具で光の弾を放ち、霧を浄化する。霧の中から、小型の魔物が現れた。深淵の残滓が、形を持ったものだ。


《深淵の残滓を感知》

《推定脅威度:Cランク》


「数は、十体! レイン、どうする?」


「俺とセレスティアで前衛。ミアとリィエルは援護。シャドウは遊撃だ」


「「「「了解!」」」」


レインは、剣を抜いた。深淵の残滓は、動きが速い。だが、レインの目は、その動きを捉えていた。次元感知で、残滓の動きを予測し、先回りする。


「——散れ」


魔素の剣が、残滓を斬り裂く。残滓が、消滅した。


《深淵の残滓を討伐しました。殺戮ポイントを獲得しました:150 KP》

《深淵の残滓討伐数:1/100》


「よし、一体目!」


セレスティアも、残滓を斬り伏せる。ミアの光の弾と、リィエルの風の刃が、残りを殲滅していく。


《深淵の残滓討伐数:10/100》


「いい調子ね」


セレスティアが、汗を拭う。レインは頷いた。


「ああ。だが、油断するな。まだ、九十体残ってる」


「分かってるわ」


五人で、迷宮の奥へと進む。深淵の残滓は、層が深くなるほど、数が増えるらしい。第四層、第五層と進むにつれ、残滓の数も、強さも増していった。


《深淵の残滓討伐数:35/100》


「結構、倒したわね」


ミアが、息を弾ませながら言う。レインは、システムの表示を確認した。


```

【ステータス】

名前:レイン・クロウ

レベル:13

HP:165/165

MP:52/52

STR:42

VIT:46

AGI:54

INT:56

DEX:48

LUK:11

──────────

殺戮ポイント:142,586 KP

スキル:ゴブリン語Lv3、剛力Lv3、怪力Lv3、魔素支配Lv2、集団指揮Lv1、飛行Lv2、鱗鎧Lv1、水中適応Lv1、権威Lv1、次元感知Lv2、次元操作Lv2、魔族言語Lv2、炎耐性Lv2、魔力操作Lv1、深淵耐性Lv2、次元耐性Lv1

```


(レベル13か。KPも、かなり貯まったな)


レインは、KPをどう使うか考えた。STRとVITは、そこそこ高い。だが、AGIとINTを上げれば、次元操作の精度がもっと上がるはずだ。


《AGIに5,000 KP(54→64)》

《INTに5,000 KP(56→66)》

《残り132,586 KP》


体の内側から、熱が湧き上がる。動きが、鋭くなる。魔素の流れが、より詳細に見える。


(これで、深淵の残滓も、もっと楽に倒せるはずだ)


「レイン、そろそろ休憩しない?」


セレスティアが、心配そうに言う。レインは、少し迷ったが、頷いた。


「そうだな。少し、休もう」


五人で、迷宮の安全な場所に座り込む。ポーションで傷を癒し、保存食を食べる。ミアが、ふと口を開いた。


「ねえ、レイン。ルミナさんって、どんな感じの人だった?」


「人じゃない。光の球だ。だが——」


レインは、少し考えて、言った。


「話してみると、すごく……一生懸命な感じがした。俺のことを、心配してくれて。名前をつけたら、すごく喜んでくれた」


「へえ。なんだか、可愛いじゃない」


ミアが、笑う。セレスティアも、微笑んだ。


「レインのことが、好きなのね。ルミナさん」


「……そういうんじゃないと思うが」


「どうかしら」


セレスティアが、意地悪そうに笑う。レインは、少し照れながら、話題を変えた。


「そろそろ、行くか。残り、六十五体だ」


「そうね」


五人は、再び迷宮の奥へと進んだ。


---


その日の夕方、レインたちは、深淵の残滓を六十体討伐した。


《深淵の残滓討伐数:70/100》


「あと三十体、か」


レインは、宿に戻りながら、システムの表示を見た。明日、明後日で、百体達成できるだろう。そうすれば、深淵耐性Lv3と、深淵操作Lv1が手に入る。


(深淵操作……。深淵の力を、操れるようになるのか)


それは、強力な力だろう。だが、同時に危険でもある。深淵の力に、飲み込まれないようにしなければ。


『レイン』


声が、頭に響いた。ルミナだ。


「どうした、ルミナ?」


『深淵操作のスキルについて、注意しておきたいことがあります』


「ああ。聞かせてくれ」


『深淵操作は、深淵の力を借りて、魔物を操ったり、空間を歪めたりするスキルです。ですが、使いすぎると、深淵に魂を引かれる危険があります』


「……魂を、引かれる?」


『ええ。深淵は、常に魂を欲しています。深淵操作を使うたびに、少しずつ、あなたの魂が深淵に近づく。使い方を誤れば——』


「分かった。気をつける」


『……信じていますよ、レイン』


ルミナの声が、消える。レインは、拳を握った。


(深淵の力か。使いこなせれば、強い武器になる。だが——)


(ルミナの忠告は、無視できないな)


レインは、宿の扉を開けた。仲間たちが、待っている。


(まずは、目の前のことをやろう。深淵の残滓を、百体討伐する。それから——)


明日も、戦いが待っている。だが、一人じゃない。仲間がいる。そして、ルミナがいる。

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