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流亡剣士  作者: 宇宙無敵ダークドラゴン大王


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15/21

15 試練の間

入口回廊の終わりに、巨大な石門が立ち塞がっていた。


門には深淵の眼——無数の目が浮かぶ紋章が刻まれている。近づくだけで、肌が粟立つ。空気が、異様に重い。レインは魔素支配で周囲を探ったが、門の向こうの気配はまるで霧のようで掴めなかった。


「この先が、試練の間か……」


「ええ。深淵層の中心部。最も危険な場所よ」


リィエルが弓を握りしめる。その手が、微かに震えていた。


「リィエル、怖いか?」


「……少しだけ。でも、大丈夫」


リィエルは小さく笑った。レインは頷き、門に手をかけた。


「行くぞ」


門が、重い音を立てて開く。中から強い風が吹き出した。魔素を含んだ、冷たい風。レインは目を細め、中へと足を踏み入れた。


試練の間は、異様な空間だった。


天井はなく、頭上には暗い虚空が広がっている。床は黒い石で、ところどころに青白い光の筋が走っている。そして——空間全体が、脈打つように歪んでいた。まるで、世界そのものが呼吸しているかのように。


《警告:試練の間に進入しました》

《魔素濃度:極限。次元の歪み:激甚》

《注意:この空間では、次元操作の精度が低下します》


「次元が、不安定だ……。転移が、使いにくいな」


レインは次元操作を試してみたが、以前のように自由には動けなかった。指輪の力で何とか安定しているが、それでも制限がある。


「レイン、あれを見て」


セレスティアが前方を指差した。空間の奥に、巨大な影が浮かんでいる。深淵の使徒の主——いや、違う。もっと大きな、何か。


「あれは……」


「分からない。だが——」


ミアが声を震わせる。


「近づきたくない」


その時だった。空間が激しく歪んだ。そして、無数の裂け目が現れる。それぞれから魔物が現れた。デーモン、グール、ワイバーン——試練の間に棲息する、強力な魔物たちだ。


「囲まれた……!」


「数は、二十以上! レイン、どうする!?」


セレスティアが剣を構える。レインは即座に判断した。


「突破する! 俺が先頭、セレスティアとシャドウが左右。ミアとリィエルは後方から援護!」


「「「「了解!」」」」


レインは『剛力Lv3』と『怪力Lv3』を同時発動。魔素の剣を形成し、最初のデーモンに斬りかかる。以前の戦いで、デーモンの急所は分かっている。首と心臓。鱗鎧の隙間。


「——散れ!」


魔素の剣が、デーモンの首を斬り飛ばす。同時に、セレスティアがグールを斬り伏せ、シャドウがワイバーンの翼を切り裂く。


《魔物を討伐しました。殺戮ポイントを獲得しました:2,500 KP》

《魔物を討伐しました。殺戮ポイントを獲得しました:80 KP》

《魔物を討伐しました。殺戮ポイントを獲得しました:1,200 KP》


「この調子で、突破する!」


レインは次々と魔物を倒していく。だが、数が多すぎる。一匹倒せば、二匹現れる。キリがない。


「レイン、上だ!」


リィエルの声。見上げると、虚空から新たな魔物が降ってくる。ワイバーンが三体。炎のブレスを吐きながら、急降下してくる。


「セレスティア、リィエル! ワイバーンを頼む! ミア、シャドウ、俺と来い!」


「分かった!」


レインはミアとシャドウを連れ、地面を走った。ワイバーンのブレスが背後で爆発する。熱風が背中を焼く。だが、構わず走る。


「シャドウ、左の裂け目を塞げるか?」


「やってみる!」


シャドウが短剣に魔素を込め、裂け目に突き刺す。裂け目が一時的に閉じる。だが、すぐに別の裂け目が開く。


「キリがないな……!」


「レイン、あれ!」


ミアが指差したのは、試練の間の中心にある巨大な魔核だった。以前、第四層で見たものより、はるかに大きい。魔核が周囲の魔素を吸い込み、新たな魔物を生み出している。


「あれを壊せば、魔物の出現が止まるかもしれない!」


「だが、近づくには魔物の群れを突破しないと!」


レインは歯を食いしばった。その時だった。


《クエストを提示します》

《クエスト:試練の間の魔核を破壊せよ》

《報酬:殺戮ポイント25,000 KP、スキル『次元耐性Lv1』》

《期限:なし》

《拒否:可能》


(25,000 KP……!)


レインは迷わなかった。


「受ける!」


そして仲間たちに叫ぶ。


「みんな、聞け! あの魔核を壊す! 俺が道を開くから、ミアとシャドウは俺の後ろに! セレスティアとリィエルは、ワイバーンを足止めしてくれ!」


「無茶よ、レイン! あの中に突っ込む気!?」


セレスティアが叫ぶ。レインは首を振った。


「無茶じゃない。これしかない!」


レインは、魔素の剣を構え直し、魔物の群れに向かって走り出した。『剛力Lv3』と『怪力Lv3』の効果が、全身に漲っている。一体、また一体と魔物を斬り伏せ、前へ進む。


「どけえええっ!」


魔素の剣が、巨大な弧を描く。前方の魔物が、まとめて薙ぎ払われる。その隙に、ミアとシャドウが左右から援護射撃。光の弾と短剣が、レインの進路を守る。


「レイン、右からデーモン三体!」


「分かってる!」


レインは次元操作で空間を歪め、デーモンの攻撃をそらす。そして、振り向きざまに魔素の剣を振るう。三体のデーモンが、同時に倒れた。


《魔物を討伐しました。殺戮ポイントを獲得しました:2,500 KP × 3》


「今だ、魔核まであと少し!」


レインは走った。魔核が、目の前に迫る。巨大な黒い結晶が、脈打つように光っている。レインは剣を振り上げた——


その瞬間だった。


ゴゴゴゴゴ……!


空間が、激しく震えた。魔核が、激しく光り出す。そして、魔核の中から、声が聞こえた。


「……よくぞ、ここまで辿り着いた、器よ」


低い、響く声。魔核が、割れた。中から現れたのは——人型の影。だが、以前の使徒とは比べ物にならないほど、強大な気配を纏っている。


《警告:深淵の使徒・試練の守護者を感知》

《推定脅威度:Sランク》


「Sランク……!?」


セレスティアが、息を呑む。レインも、背筋が凍るのを感じた。Sランク——それは、Aランクのさらに上。伝説の域の魔物だ。


「私は、試練の守護者。深淵の使徒が一人、ガーディアン。器よ、この試練を越えられるか、見せてもらおう」


ガーディアンが、腕を振るう。その瞬間、空間が歪み、無数の魔素の刃がレインたちに襲いかかる。レインは魔素支配で防ごうとするが、威力が桁違いだ。防ぎきれない。


「ぐあっ……!」


「レイン!」


セレスティアが、レインを庇う。魔素の刃が、セレスティアの鎧を切り裂く。


「セレスティア!?」


「大丈夫……! でも、このままじゃ……!」


レインは、歯を食いしばった。Sランクの敵。今の実力では、勝てるかどうか分からない。だが——


(逃げるわけにはいかない。ここで退いたら、深淵層には辿り着けない)


「みんな、聞け!」


レインは、仲間たちに叫ぶ。


「俺が、ガーディアンを引きつける! その間に、魔核を壊せ! 魔核が残ってる限り、魔物が無限に湧いてくる!」


「でも、レイン一人じゃ——」


「一人じゃない。お前たちがいる」


レインは、セレスティアを見た。


「セレスティア。俺を、信じてくれ」


セレスティアは、涙を浮かべながら、頷いた。


「……分かった。必ず、生きて」


「ああ。約束する」


レインは、ガーディアンに向かって走り出した。ガーディアンが、笑う。


「愚かだな。Sランクの私に、一人で挑むとは」


「一人じゃない。仲間がいる」


レインは、魔素の剣を構えた。そして、システムの表示を見た。


《スキル『剛力Lv3』『怪力Lv3』『魔素支配Lv2』の同時発動が可能です》

《同時発動により、筋力と魔素操作力が爆発的に上昇します。ただし、反動が大きくなります》


(やるしかない……!)


レインは、三つのスキルを同時発動した。体の内側から、激しい熱が湧き上がる。筋肉が軋み、血管が浮き出る。だが、力が漲る。魔素の剣が、青白く輝きを増した。


「おおおおおっ!」


レインは、ガーディアンに斬りかかった。ガーディアンが、魔素の刃で迎え撃つ。剣と刃が、激しくぶつかり合う。衝撃波が、周囲の魔物を吹き飛ばす。


「……ほう。その程度の力で、私に挑むか」


「まだだ……!」


レインは、次元操作で空間を歪め、ガーディアンの背後に転移する。そして、剣を振り下ろす。だが、ガーディアンは背後からの攻撃にも反応した。


「甘い」


ガーディアンの蹴りが、レインの腹に炸裂する。レインは吹き飛ばされ、床に叩きつけられた。口の中に、血の味が広がる。


「レイン!」


セレスティアの叫びが聞こえる。だが、レインは立ち上がった。


「……まだだ。まだ、終わらない」


その時だった。魔核の方から、爆発音が聞こえた。ミアとシャドウが、魔核を破壊したのだ。


《試練の間の魔核を破壊しました》

《魔物の出現が停止しました》


「やった……!」


ミアが叫ぶ。ガーディアンが、魔核の方を見た。その目に、一瞬の動揺が走る。


「……魔核を、壊したか。だが、それで私が弱るわけではない」


「分かってる。だが——」


レインは、仲間たちを見た。セレスティア、ミア、リィエル、シャドウ。四人とも、レインの側に立っている。


「これで、全員で戦える」


「……面白い。ならば、見せてもらおう。器とその仲間の、本気の力を」


ガーディアンが、本気を出した。周囲の魔素が、急速に収束する。その体が、さらに大きくなる。禍々しい気配が、空間全体を覆い尽くす。


《ガーディアン、本気モードに移行》

《推定脅威度:Sランク上位》


「……行くぞ、みんな」


レインは、剣を構えた。セレスティアが隣に並び、ミアとリィエルが後方に、シャドウが影から援護の体勢に入る。


「「「「おう!」」」」


五人の声が、重なった。そして——


ガーディアンが、動いた。五人の戦いが、始まった。


---


戦いは、一進一退だった。


レインの魔素の剣、セレスティアの剣技、ミアの魔法具、リィエルの風の魔法、シャドウの短剣。五人の連携が、ガーディアンを追い詰めていく。だが、ガーディアンも強い。Sランクの力は、伊達ではない。一撃一撃が重く、レインたちの体力を確実に削っていく。


「……しぶといな、器よ」


ガーディアンが、レインに魔素の刃を放つ。レインは次元操作で回避し、反撃する。だが、ガーディアンはそれを片手で受け止める。


「その程度か。ならば——」


ガーディアンの目が、冷酷に光る。そして、空間全体が、歪み始めた。


「——『深淵の崩壊』」


空間が、軋みを上げる。次元そのものが、崩れようとしている。レインは、指輪の力で何とか安定させようとするが、ガーディアンの力には及ばない。


「まずい……! このままじゃ、空間ごと消し飛ばされる……!」


「レイン、どうする!?」


セレスティアが叫ぶ。レインは、必死に考えた。Sランクの力。次元を崩壊させる力。それを防ぐには——


(俺の、次元操作——いや、もっと根本的な力が必要だ)


その時だった。


《観測者よりのメッセージ:レイン。私の力を、貸しましょう》


(観測者……!?)


《観測者よりのメッセージ:あなたが、私を信じてくれるなら。私は、あなたに全てを託します》


レインは、迷わなかった。


(信じる。お前の力を、貸してくれ)


《観測者の加護、最大出力で発動》

《全ステータス、50%上昇。次元操作の精度が、大幅に向上します》


レインの体に、暖かい力が流れ込む。観測者の力。世界の理を記録する存在の、本気の加護。レインの魔素の剣が、さらに輝きを増す。


「……なんだ、その力は……!?」


ガーディアンが、驚愕する。レインは、剣を構え直した。


「これが、俺の力だ。そして——」


レインは、次元操作を最大出力で発動した。空間の歪みを、逆手に取る。ガーディアンの『深淵の崩壊』を、押し返す。


「馬鹿な……!? 私の崩壊を、押し返すだと……!?」


「終わりだ、ガーディアン!」


レインは、次元操作で空間を固定し、ガーディアンの動きを封じた。そして、魔素の剣を、ガーディアンの中心——深淵の眼の紋章に、突き刺した。


「ぐあああああ!?」


ガーディアンの体が、崩れ始める。


「……見事だ、器よ。そして、観測者よ。お前の器は、強い。だが——我らの主は、まだ目覚めておらん。主が目覚めた時、この世界は——」


ガーディアンが、消滅した。


《深淵の使徒・試練の守護者を討伐しました》

《報酬:殺戮ポイント50,000 KP、スキル『次元耐性Lv1』》


《スキル『次元耐性Lv1』:次元の歪みや崩壊に対する耐性を得ます。次元操作の精度が、さらに向上します》


「……終わった、のか?」


ミアが、呆然と呟く。レインは、その場に膝をついた。観測者の加護の反動だろう。体が、重い。


「レイン!」


セレスティアが駆け寄る。レインは、何とか立ち上がった。


「……ああ。何とか」


「バカ……! 本当に、バカ……!」


セレスティアが、涙を流しながらレインを抱きしめる。レインは、彼女の背中に手を回した。


「心配かけたな」


「当たり前でしょ……!」


「でも、勝てた。みんなのおかげだ」


レインは、仲間たちを見回した。ミアが、リィエルが、シャドウが、それぞれ疲れた顔で、だが確かな笑みを浮かべている。


「さあ、先へ進もう。主の玉座は、すぐそこだ」


レインは、試練の間の奥に続く通路を見つめた。深淵の使徒の主が待つ、最深部。だが、恐怖はなかった。


(みんながいる。そして——観測者が、俺を信じてくれている)


レインは、一歩を踏み出した。仲間たちが、続く。


深淵層の、最深部へ——。

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