↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
流亡剣士  作者: 宇宙無敵ダークドラゴン大王


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/21

13 郊外の裂け目

朝もやが、リベルタスの街を包んでいた。


レインたちは、東門に集まっていた。郊外の裂け目を調査するためだ。ミアが入手した情報によれば、裂け目は東の森の外れ、街道から外れた湿地帯にあるらしい。


「準備はいいか?」


レインが振り返ると、四人がそれぞれ頷いた。セレスティアは騎士団時代の軽鎧に身を包み、ミアは新しい魔法具を腰に下げている。リィエルは弓と風の魔法の準備を済ませ、シャドウはいつもの黒いマントで、その下に無数の短剣を隠していた。


「出発する」


東門を抜け、街道を進む。朝の空気は澄んでいて、遠くの山々まで見渡せた。だが、レインの魔素感知は、すでに異変を捉えていた。


(魔素の流れが、おかしい。東の方角から、不自然な渦が発生している)


「レイン、見て」


セレスティアが、前方を指差した。街道の先、森の手前の湿地帯に、黒い霧が立ち込めている。霧は、ゆっくりと渦を巻き、まるで生き物のように蠢いていた。


「あれが、裂け目の影響か……」


「霧が濃いわ。中に入るのは、危険ね」


リィエルが、風の魔法で霧を払おうとする。だが、霧は風を吸い込むように、消えない。


「普通の霧じゃない。魔素で構成されている」


レインは、魔素支配で霧を分析した。霧の中には、異次元の魔素が混じっている。深淵の使徒が、何かを企んでいるのは間違いない。


「みんな、隊列を組む。俺が先頭、セレスティアが後衛。ミアとシャドウは左右、リィエルは中央だ」


「分かった」


「ええ」


五人で、霧の中へと足を踏み入れた。


---


霧の中は、異様な静けさだった。


音が、吸い込まれるように消える。足音さえ、こもって聞こえる。視界は十メートルもない。だが、レインの魔素感知は、霧の中の気配を正確に捉えていた。


「この先に、裂け目がある。大きさは……前の二倍」


「二倍……!?」


ミアが、息を呑む。以前の裂け目でも、深淵の使徒は手強かった。それが二倍となれば、どれほどの敵が現れるか分からない。


「警戒を怠るな。何かが来る」


レインの言葉通り、霧の奥から、低い唸り声が聞こえた。複数の足音。そして——赤い光が、霧の中に浮かぶ。


《警告:深淵の使徒の眷属を感知》

《推定脅威度:Bランク》


「眷属……?」


霧の中から現れたのは、獣だった。狼のような姿だが、体は黒い霧で構成されている。目に当たる部分に、赤い光。深淵の使徒の眷属——使徒に仕える、下級の存在だ。


「五体……いや、七体か!」


「レイン、どうする?」


「倒す。だが、深淵の使徒本体を探せ。眷属は、時間稼ぎだ」


レインは、魔鉄剣を抜いた。『剛力Lv2』を発動し、最初の眷属に斬りかかる。手応えはある。だが、眷属は霧でできているため、斬ってもすぐに形を戻す。


「物理攻撃は、通りにくい! 魔素の攻撃を使え!」


レインは、魔素の剣を形成し、眷属を斬り裂く。青白い光が、霧の獣を消滅させた。


《魔物を討伐しました。殺戮ポイントを獲得しました:300 KP》


「一匹倒せば、消える! みんな、魔素攻撃を!」


セレスティアは剣に魔力を込め、ミアは魔法具で光の弾を放つ。リィエルの風の魔法と、シャドウの魔素を帯びた短剣が、眷属たちを次々と消滅させていく。


《魔物を討伐しました。殺戮ポイントを獲得しました:300 KP × 6》


「全部、倒した……!」


ミアが、息を弾ませる。だが、レインは霧の奥を見つめていた。


「まだだ。本体が、来る」


霧が、さらに濃くなる。そして、裂け目が現れた。以前のものより、はるかに大きい。黒い亀裂から、影が現れる。人型の影。赤い目。だが、以前の使徒よりも、明らかに強い気配を纏っている。


《警告:深淵の使徒を感知》

《推定脅威度:Aランク上位》


「……また、貴様か」


使徒が、低い声で言う。レインは、剣を構えた。


「何度でも、来るがいい。そのたびに、俺が追い返す」


「ふん。強くなったようだな、器よ。だが——」


使徒が、腕を振るう。霧が、一斉にレインたちに襲いかかる。レインは、魔素支配で霧を払うが、完全には消せない。


「セレスティア、左!」


「分かってる!」


セレスティアが、霧の触手を斬る。だが、触手はすぐに再生する。ミアの魔法具も、リィエルの風も、決定打にはならない。


「シャドウ、俺と一緒に来い! 本体を狙う!」


「分かったわ!」


レインとシャドウが、使徒に接近する。レインの魔素の剣と、シャドウの短剣が、同時に使徒を襲う。だが、使徒は片手でそれを受け止めた。


「その程度か。前よりは、ましだが——」


使徒が、レインを蹴り飛ばす。レインは、次元感知で空間を歪め、攻撃を回避する。そして、使徒の背後に転移する。


「シャドウ、今だ!」


「言われなくても!」


シャドウの短剣が、使徒の背を貫く。使徒が、悲鳴を上げる。


「ぐああ!?」


「セレスティア、リィエル、ミア! 一斉攻撃だ!」


四人の攻撃が、使徒に叩き込まれる。使徒の体が、ぼろぼろと崩れ始める。だが——


「……まだだ。我は、まだ——」


使徒が、裂け目から新たな力を引き出そうとする。レインは、それを見逃さなかった。


「させるか!」


レインは、次元感知で裂け目自体を歪めようとした。空間の歪みを操作し、裂け目を閉じようとする。


「馬鹿な……!? 次元を、閉じる気か……!?」


「お前を、ここで終わらせる!」


レインの魔素と、次元感知の力が、裂け目に干渉する。裂け目が、ゆっくりと閉じ始める。


「……覚えておけ、器よ。我は、最後ではない。深淵の使徒は、無数にいる。そして——我らの主は、必ずお前を——」


使徒が、裂け目に吸い込まれるように消える。裂け目が、完全に閉じた。


《深淵の使徒を撃退しました》

《クエスト:深淵の使徒を撃退せよ——達成》

《報酬:殺戮ポイント8,000 KP、スキル『次元操作Lv1』》


《スキル『次元操作Lv1』:次元の歪みを、より自由に操作できるようになります。空間転移の距離が伸び、裂け目を一時的に閉じることも可能になります》


(次元を、操作できる……!)


レインは、その場に膝をついた。大量のMPを消費したせいで、体が重い。だが、生きている。


「レイン!」


セレスティアが、駆け寄ってくる。


「大丈夫か?」


「……ああ。何とか」


レインは、立ち上がった。霧が、晴れていく。湿地帯に、朝の日差しが差し込む。


「裂け目は、閉じた。だが——」


「深淵の使徒は、まだいる」


シャドウが、静かに言う。その通りだ。使徒は「最後ではない」と言った。そして、「我らの主」という言葉も気になる。


「戻ろう。情報を、整理する必要がある」


---


宿に戻り、五人で作戦会議を開いた。


「深淵の使徒の目的は、レインの力を奪うこと。そして、使徒の背後には『主』がいる」


リィエルが、紙にまとめながら言う。


「主、か。観測者の敵対者で、使徒を従える存在……」


「観測者と、何らかの関係があるのは確かね」


シャドウが、腕を組みながら言う。


「観測者は、レインにシステムを与えた。使徒は、その力を奪おうとしている。つまり——」


「観測者と使徒の主は、敵同士。そして、俺はその戦いに巻き込まれている」


レインが、言葉を引き継ぐ。


「そういうこと」


セレスティアが、心配そうにレインを見る。


「レイン。あなた、どうするの?」


レインは、少し考えた。そして、答えた。


「俺は、観測者の駒になるつもりはない。だが、使徒の脅威は、俺たちだけの問題じゃない。リベルタスにも、被害が及ぶ。だから——」


「戦うのね」


「ああ。だが、そのためには、もっと情報が必要だ。観測者の正体、使徒の主の目的、そして——俺の力の真実」


レインは、システムの表示を見た。


《クエスト:深淵の使徒の主を討伐せよ》

《報酬:殺戮ポイント50,000 KP、スキル『深淵耐性Lv1』、スキル『観測者との対話権』》

《期限:なし》

《拒否:可能》


(50,000 KP……! そして、観測者との対話権……!)


レインは、迷わなかった。


「受ける」


その瞬間、システムの表示が、一瞬だけ歪んだ。そして——


《観測者よりのメッセージ:……本当に、いいのですか?》


(……今、何て言った?)


レインは、目を見開いた。観測者が、初めて「問いかけて」きたのだ。


《観測者よりのメッセージ:深淵の使徒の主は、あなたの想像を超える存在です。対話権を得たとしても、私はあなたを守れないかもしれません》


(……俺を、心配してるのか?)


《観測者よりのメッセージ:……私は、あなたを器として選びました。ですが、あなたが壊れるのは、望んでいません》


レインは、少しだけ、その言葉に驚いた。観測者は、自分をただの器としか見ていないと思っていた。だが、違うのかもしれない。


(心配するな。俺は、壊れない)


《観測者よりのメッセージ:……分かりました。あなたを信じます》


システムの表示が、元に戻る。レインは、しばらくその場に立ち尽くしていた。


「レイン? どうしたの?」


セレスティアが、心配そうに覗き込む。


「……何でもない。少し、考え事をしてた」


レインは、仲間たちを見回した。セレスティア、ミア、リィエル、シャドウ。四人とも、真剣な目でレインを見ている。


「みんな。これから、もっと危険な戦いになる。深淵の使徒の主を倒す——それは、今の俺たちの力を超えた敵かもしれない。それでも——」


「行くんでしょ?」


ミアが、笑った。


「あたしは、ついて行くよ。どこまでも」


「私も」


セレスティアが、頷く。


「あなたを、一人にしない」


「私も行くわ。ここまで来て、引き返す理由がないもの」


リィエルが、微笑む。


「……私も、しばらくは協力するわ。あんたの戦い、見届けたいし」


シャドウが、そっけなく言う。だが、その目は、優しかった。


「……ありがとう。みんな」


レインは、深く頭を下げた。そして、顔を上げる。


「必ず、勝つ。そして——生きて、帰ってくる」


「「「「おう!」」」」


五人の声が、宿の部屋に響いた。


---


その夜、レインは一人で、屋上に立っていた。


夜空には、星が瞬いている。その中に、一際明るい星——希望の星。


(観測者。お前は、何者なんだ?)


システムの表示は、静かなままだった。だが、レインは感じていた。観測者が、自分のことを見ている。そして——心配している。


(不思議だな。お前のことを、まだ何も知らないのに。それでも——)


レインは、小さく笑った。


(俺は、お前を信じる。お前が、俺に力をくれたから。俺は、ここまで来られた)


システムの表示が、微かに光る。


《観測者よりのメッセージ:……ありがとう》


レインは、その言葉に、少しだけ救われた気がした。


(さあ、明日からまた、戦いだ)


レインは、屋上を降りた。仲間たちが待っている。そして、守るべきものが、ある。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。