12 第六層攻略
翌朝、レインはギルドの依頼板の前に立っていた。
Aランク専用のエリアには、新たな依頼が貼り出されている。その中に、目を引くものがあった。
《Aランク依頼:迷宮第六層の制圧》
《内容:第六層に巣食うデーモンの討伐。確認されている個体数は七体》
《報酬:金貨三十五枚》
《推奨:Aランク以上、五人以上のパーティ》
《期限:十日以内》
「デーモン七体、か」
レインは、以前第六層で遭遇したデーモンを思い出した。あの時は、一体でも手も足も出なかった。だが、今は違う。レベル10、スキルも増え、仲間もいる。
「これ、受けるの?」
ミアが、後ろから覗き込む。
「ああ。ちょうどいい。実力試しにもなるし、報酬も悪くない」
「でも、七体でしょ? 前は一体で逃げたのに」
「前は、一人だった。今は――」
レインは、仲間たちを見回した。セレスティア、ミア、リィエル、シャドウ。四人とも、それぞれの武器を持ち、戦う準備ができている。
「五人だ。勝てる」
「……まあ、あんたがそう言うなら」
ミアは、まだ不安そうだが、頷いた。シャドウは、興味なさそうに壁に寄りかかっているが、その目は真剣だ。
「で、作戦は?」
シャドウが、短く問う。レインは、頷いた。
「まず、第六層への入り口を確保する。そこから、一体ずつ誘き出して倒す。七体同時は、さすがに危険だ」
「誘き出しは、私がやるわ」
リィエルが、手を挙げた。
「風の魔法で、遠くから攻撃できる。デーモンの注意を引くには、うってつけよ」
「分かった。リィエルが誘き出し、俺とセレスティアが前衛。ミアとシャドウが遊撃だ」
「了解」
「分かったわ」
「ああ」
四人の返事が、揃った。レインは、依頼書を取った。
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迷宮第六層。
前回訪れた時とは、雰囲気が変わっていた。壁の黒い石が、以前よりも赤黒く変色している。空気は、さらに冷たく、魔素の濃度も濃い。
《警告:迷宮第六層。魔素濃度:極高。推定脅威度:Aランク》
「前より、濃くなってるな」
レインは、魔素支配で周囲を探った。デーモンの気配は、七つ。いずれも、第六層の奥深くに固まっている。
「リィエル、頼む」
「ええ。——風よ、集え」
リィエルが、風の魔法を唱える。小さな風の刃が、暗がりの奥へと飛んでいく。しばらくすると、低い唸り声が聞こえた。
「来るぞ」
レインは、剣を構えた。暗がりから、赤黒い肌のデーモンが現れる。一体目。手には、炎を纏った大剣。
「……人間が、また来たか」
デーモンが、レインたちを見回す。そして、鼻で笑う。
「五人か。だが、貴様らなど――」
「悪いが、話す暇はない」
レインは、踏み込んだ。『剛力Lv2』と『怪力Lv2』を同時発動。以前とは比べ物にならない速度で、デーモンの眼前に迫る。
「な――!?」
デーモンが、大剣を振るう。レインは、魔鉄剣で受け流し、そのままデーモンの脇腹を斬り裂く。鱗鎧が、デーモンの反撃を防ぐ。
「ぐおっ!?」
「セレスティア、今だ!」
セレスティアが、デーモンの背後から剣を突き刺す。デーモンが、悲鳴を上げる。
「ミア、シャドウ!」
ミアの魔法具が、光の弾を放つ。シャドウの短剣が、デーモンの急所を貫く。五人の連携が、一体目のデーモンを追い詰めていく。
《魔物を討伐しました。殺戮ポイントを獲得しました:2,500 KP》
「よし、一体目!」
「まだ、六体いるわよ」
シャドウが、暗がりを見つめる。続けて、二体のデーモンが現れた。
「二体同時か。だが――」
レインは、次元感知を発動した。空間の歪みが、手に取るように分かる。デーモンたちの動きが、スローモーションのように見える。
(次元感知Lv2……。空間の歪みを、操作できるんだったな)
レインは、試しに、デーモンの足元の空間を歪めてみた。すると、デーモンの足が、突然、地面に沈み込む。
「な、何だ!?」
「足が、動かん……!?」
「今だ、みんな!」
セレスティアとミアが、動けないデーモンに攻撃を叩き込む。シャドウが、もう一体の背後に回り、短剣を突き刺す。リィエルの風の刃が、デーモンの首を狙う。
《魔物を討伐しました。殺戮ポイントを獲得しました:2,500 KP × 2》
「三体目まで、あっという間ね」
ミアが、息を弾ませながら言う。
「ああ。だが、残り四体。油断するな」
レインは、再び暗がりを見つめた。だが、デーモンたちは、なかなか姿を現さない。
「どうした? 怖気づいたか?」
レインが、挑発するように言う。すると、暗がりの奥から、声が聞こえた。
「……調子に乗るなよ、人間」
現れたのは、以前のデーモンよりも、明らかに大きな個体だった。身長は三メートルを超え、角も太い。その目は、知性と冷酷さを宿している。
《警告:デーモンの上位種を感知》
《推定脅威度:Aランク上位》
「上位種……!」
「私は、この層の主だ。貴様ら人間を、一人残らず――」
「問答無用!」
レインは、魔素の剣を形成し、上位種に斬りかかった。だが、上位種は、その攻撃を片手で受け止める。
「ふん。その程度か」
「……まだだ!」
レインは、次元感知で空間を歪め、上位種の背後に転移する。そして、剣を振り下ろす。だが、上位種は、背後からの攻撃にも反応した。大剣で、レインの剣を受け止める。
「空間転移か。面白い能力だな。だが――」
上位種が、レインを蹴り飛ばす。レインは、壁に叩きつけられた。
「レイン!」
セレスティアが、叫ぶ。上位種が、セレスティアに向かって炎のブレスを放つ。セレスティアは、とっさに身をかわすが、完全には避けきれない。鎧が、焦げる。
「きゃあっ!」
「セレスティア!」
レインは、立ち上がった。体が、悲鳴を上げている。だが、構わない。
(こいつは、強い。だが――)
レインは、システムの表示を見た。
《クエストを提示します》
《クエスト:デーモンの上位種を討伐せよ》
《報酬:殺戮ポイント15,000 KP、スキル『魔族言語Lv2』、スキル『炎耐性Lv2』、スキル『魔力操作Lv1』》
《期限:なし》
《拒否:可能》
(15,000 KP……!)
レインは、迷わなかった。
「受ける」
そして、仲間たちに叫ぶ。
「みんな、聞け! こいつは、俺が引きつける! その間に、援護を頼む!」
「無茶よ!」
セレスティアが、叫ぶ。だが、レインは首を振った。
「無茶じゃない。俺は、こいつを倒す」
レインは、再び上位種に向かって走り出した。上位種が、大剣を振るう。レインは、次元感知で空間を歪め、攻撃を回避する。そして、魔素の剣を形成し、上位種の腕を斬りつける。
「ぐっ……! 小癪な……!」
上位種が、炎のブレスを放つ。レインは、魔素支配で炎を相殺する。だが、完全には消しきれない。熱が、肌を焼く。
(『炎耐性』が、欲しいところだな……!)
その時だった。シャドウが、上位種の背後から、短剣を突き刺した。
「今よ、レイン!」
「ああ!」
レインは、上位種の隙を見逃さなかった。次元感知で、上位種の急所を探る。そして、魔素の剣を、その急所に叩き込んだ。
「ぐああああ!?」
上位種が、悲鳴を上げる。体が、崩れ始める。
「……見事だ、人間。だが――」
上位種が、最後の力を振り絞り、炎のブレスを放つ。レインは、とっさにセレスティアを庇った。炎が、レインの背中を焼く。
「レイン!」
セレスティアの叫びが、聞こえる。だが、レインは笑った。
「……これで、終わりだ」
レインは、最後の力を振り絞り、魔素の剣を上位種の心臓に突き刺した。
《魔物を討伐しました。殺戮ポイントを獲得しました:15,000 KP》
《スキル『魔族言語Lv2』『炎耐性Lv2』『魔力操作Lv1』を獲得しました》
上位種が、崩れ落ちる。残る三体のデーモンも、主を失って動揺している。そこを、セレスティアとミアとリィエルが、一気に畳みかける。
《魔物を討伐しました。殺戮ポイントを獲得しました:2,500 KP × 3》
すべてのデーモンが、倒れた。第六層に、静寂が訪れる。
「……終わった、のか?」
ミアが、呆然と呟く。レインは、その場に膝をついた。背中の火傷が、痛む。だが、生きている。
「レイン!」
セレスティアが、駆け寄ってくる。その目に、涙が浮かんでいる。
「バカ! あんな無茶して!」
「……悪い。でも、勝てた」
「勝てたじゃない! 死んでたら、どうするの!」
セレスティアが、レインの胸を叩く。レインは、その手を握った。
「死なない。約束しただろ」
「……覚えててよ」
セレスティアが、涙を拭う。その姿を見て、ミアが、少しだけ複雑な表情をした。
「……とりあえず、ポーションを飲んで。傷が深いわ」
リィエルが、ポーションを差し出してくれる。レインは、それを飲み干した。傷が、少しずつ塞がっていく。
「ありがとう、リィエル」
「どういたしまして。……でも、本当に無茶するんだから」
リィエルが、少し怒ったように言う。だが、その声は、優しかった。
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宿に戻ったのは、夕方だった。
ギルドに報告し、報酬の金貨三十五枚を受け取る。ガルドは、レインの話を聞いて、驚いていた。
「デーモンの上位種を、討伐したのか……!」
「はい。仲間のおかげです」
「うむ。君たちは、本当に強い。……だが、無理はするなよ。Aランク冒険者は、貴重なんだ」
「分かってます」
レインは、ギルドを出た。宿に戻る途中、ミアが隣を歩いていた。
「ねえ、レイン」
「何だ?」
「あんた、セレスティアさんのこと、本当に大事なんだね」
「……ああ。当たり前だ」
「うん。分かってる」
ミアは、少し寂しそうに笑った。レインは、その表情の意味を、なんとなく理解していた。だが、今は何も言えなかった。
(ミア……)
宿に戻ると、シャドウが待っていた。
「おかえり。生きてたのね」
「ああ。お前のおかげだ」
「私は、大したことしてないわ。……それより、これ」
シャドウが、一枚の紙を差し出した。
「ギルドからの伝言。深淵の使徒が、また動き出したって」
レインは、紙を受け取った。そこには、こう書かれていた。
《深淵の使徒、新たな動き。リベルタス郊外に、次元の裂け目を確認。至急、調査を求む》
「……またか」
「今度は、郊外らしいわ。街に近づかれると、厄介ね」
「ああ。だが――」
レインは、システムの表示を見た。先ほどの戦いで、レベルが上がっている。
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【ステータス】
名前:レイン・クロウ
レベル:10
HP:130/130
MP:40/40
STR:36
VIT:40
AGI:48
INT:50
DEX:42
LUK:9
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殺戮ポイント:48,586 KP
スキル:ゴブリン語Lv3、剛力Lv2、怪力Lv2、魔素支配Lv2、集団指揮Lv1、飛行Lv2、鱗鎧Lv1、水中適応Lv1、権威Lv1、次元感知Lv2、魔族言語Lv2、炎耐性Lv2、魔力操作Lv1
```
(レベル10……! これなら、深淵の使徒とも戦える)
レインは、決意を新たにした。
「明日、郊外の裂け目を調べる。みんな、準備を頼む」
「分かった」
「ええ」
「ああ」
三人の返事を聞いて、レインは窓の外を見た。夜空には、星が瞬いている。その中に、一際明るい星——希望の星が。
(セレスティア、ミア、リィエル、シャドウ。そして——観測者)
多くの想いが、胸を巡る。だが、レインは思った。
(俺は、進む。どんな敵が来ても、仲間を守るために。そして——)
システムの表示が、静かに浮かんでいる。
《観測者よりのメッセージ:深淵の使徒の動きが活発化しています。注意してください》
(分かってる。だが、俺は負けない)
レインは、目を閉じた。明日も、戦いが待っている。だが、一人じゃない。仲間がいる。それだけで、強くなれる気がした。




