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流亡剣士  作者: 宇宙無敵ダークドラゴン大王


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11/21

11 深淵の使徒

朝、レインはギルドの依頼板の前に立っていた。


Aランク専用の依頼は、やはりというべきか、どれも危険度が高い。迷宮第七層の踏破、古代遺跡の調査、そして魔境ヴァルグの異常調査。どれも魅力的だが、今は優先すべきことがある。


《クエスト:オークを50体討伐せよ(進捗:23/50)》


あと二十七体。今日中に片をつけたい。


「レイン、これ見て」


ミアが、掲示板の端に貼られた紙を指差した。小さな紙で、他の依頼に紛れて見落としそうになっていたが、内容は重要だった。


《情報提供依頼:深淵の使徒に関する情報を求む》

《報酬:情報の価値に応じて、金貨五枚〜二十枚》

《依頼主:冒険者ギルド》


「ギルドも、動き出したみたいね」


リィエルが、紅茶を飲みながら言う。レインは頷いた。


「だが、情報提供を求めるってことは、ギルドも深淵の使徒の正体を掴んでいないんだろうな」


「ええ。おそらく、私たちが初めて遭遇したケースよ」


(だとすると、俺たちが得た情報は、貴重だな)


レインは、受付嬢に声をかけた。深淵の使徒と遭遇したこと、その特徴、戦闘の詳細を伝える。受付嬢は真剣な顔で聞き、メモを取った。


「ありがとうございます。この情報は、ギルドマスターに報告します」


「頼む。それと——」


レインは、声を潜めた。


「深淵の使徒は、俺を狙ってる。もし、他にも狙われてる奴がいるなら、教えてほしい」


受付嬢は、少し迷ったが、頷いた。


「……分かりました。調べてみます」


---


ギルドを出たレインたちは、迷宮へ向かった。


今日の目標は、オーク二十七体。第四層まで降りれば、オークの群れが複数確認されている。


「セレスティア、今日はどうする?」


「私も行くわ。戦いに慣れたいの」


「だが——」


「レイン。私は、あなたに守られるだけの存在じゃない」


セレスティアの目は、真剣だった。レインは、それ以上何も言えなかった。


「分かった。だが、無理はするな」


「分かってる」


迷宮に入り、順調に第三層を突破する。途中、ゴブリンの群れに遭遇したが、レインとセレスティアの連携で難なく殲滅した。


《ゴブリン討伐数:127/10,000》


(まだ、先は長いな……)


第四層に降りると、空気が変わった。以前、魔核があった場所は、すでに崩れている。だが、別の場所に新たな魔素の流れを感じる。


「リィエル、どう思う?」


「……何かが、いるわ。強い魔素の塊が、複数」


「オークか?」


「いいえ。もっと——」


リィエルが、言葉を切った。前方の空間が、歪んでいる。そして——裂け目が現れた。


「まただ……!」


裂け目から、影が現れる。前回と同じ、人型の影。赤い目。深淵の使徒。


「見つけたぞ、器」


「しつこいな」


レインは、魔鉄剣を抜いた。だが、今回は一人ではない。セレスティア、ミア、リィエルの三人が、隣に並ぶ。


「今度は、一人じゃない」


「ふん。仲間がいても、無駄だ」


使徒が、腕を振るう。影の触手が、四方八方から襲いかかる。レインは、魔素支配で触手を防ぎながら、使徒に接近する。


「セレスティア、左から!」


「分かってる!」


セレスティアが、剣を振るって触手を斬る。だが、物理攻撃は通じない。触手が、彼女の腕に絡みつく。


「きゃっ……!」


「セレスティア!」


レインは、魔素の剣を形成し、触手を斬り裂く。セレスティアが、自由になる。


「ありがとう……!」


「ミア、閃光弾!」


「もう投げた!」


ミアの閃光弾が、使徒の目の前で炸裂する。使徒が、一瞬だけ怯む。その隙に、リィエルが風の魔法を放つ。


「——風よ、刃となれ!」


風の刃が、使徒を切り裂く。だが、決定打にはならない。


「弱いな。器よ、その程度か?」


「まだだ……!」


レインは、システムの表示を見た。前回、魔素の剣でダメージを与えられた。だが、決定打にはならなかった。もっと、大量の魔素を凝縮すれば——


(MPは、28。足りるか……?)


《スキル『魔素支配Lv2』を最大出力で発動します。MPを20消費します》


(やれ!)


レインの周囲の魔素が、急速に集まる。青白い光が、剣に収束していく。以前よりも、はるかに強力な魔素の剣。


「……ほう」


使徒が、感心したように言う。


「だが、その程度で我を——」


「喰らえっ!」


レインは、剣を振り下ろした。青白い閃光が、使徒を貫く。使徒が、悲鳴を上げる。


「ぐああああ!?」


「今だ、みんな!」


セレスティアが、剣を振るう。ミアが、魔法具で光の弾を放つ。リィエルが、風の刃を放つ。三つの攻撃が、同時に使徒に叩き込まれる。


「……ぬぬぬ……!」


使徒の体が、ぼろぼろと崩れ始める。


「覚えておけ、器……! 我は、一人ではない……! 深淵の使徒は、無数にいる……! やがて、お前の前に、より強き者が現れる……!」


「だろうな。だが、その時は——」


レインは、剣を構え直す。


「俺も、もっと強くなってる」


「……楽しみにしているぞ」


使徒が、裂け目に消える。裂け目も、閉じた。


《深淵の使徒を撃退しました》

《クエスト:深淵の使徒を撃退せよ——達成》

《報酬:殺戮ポイント5,000 KP、スキル『次元感知Lv2』》


《スキル『次元感知Lv2』:次元の裂け目や、異空間の存在をより正確に感知できるようになります。また、微弱な次元の歪みを操作し、短距離の空間転移が可能になります》


(空間転移……!?)


レインは、目を見開いた。短距離とはいえ、空間を移動できるのか。これは、戦闘でも、逃走でも、使える。


「レイン、大丈夫?」


セレスティアが、駆け寄ってくる。


「ああ。何とか」


「……強くなったわね。前より、ずっと」


「お前たちのおかげだ」


レインは、仲間たちを見回した。セレスティア、ミア、リィエル。三人とも、疲れているが、充実した顔をしている。


「戻ろう。今日は、これくらいでいい」


だが、その時だった。


《警告:近くに、複数の強力な魔物の気配》

《推定脅威度:Aランク》


「……まずい」


レインは、周囲を見回した。空間のあちこちに、裂け目が開き始めている。そして、それぞれから、魔物が現れる。デーモン——以前、第六層で遭遇した、あの強敵だ。それが、五体。


「嘘だろ……!」


「レイン、逃げるよ!」


ミアが叫ぶ。だが、逃げ道は塞がれている。裂け目は、レインたちを囲むように開いている。


「……やるしかない」


レインは、剣を構えた。だが、五体のデーモンは、明らかに実力が上の相手だ。セレスティアも、ミアも、リィエルも、緊張している。


その時だった。


「——待て」


声がした。裂け目の一つから、別の影が現れる。黒いマント。二本の短剣。銀色の髪。シャドウだった。


「お前……!」


「久しぶりね、レイン・クロウ」


シャドウが、デーモンたちの前に立つ。そして、短剣を抜いた。


「ここは、私に任せて。あんたたちは、下がって」


「何を——」


「いいから。私は、こういう戦いに慣れてる」


シャドウの目が、真剣だった。レインは、迷ったが、頷いた。


「分かった。だが、死ぬなよ」


「あんたに言われなくても」


シャドウが、デーモンたちに向かって走り出す。その動きは、以前戦った時よりも、はるかに鋭い。デーモンの攻撃を、紙一重で回避し、カウンターを決める。


「すごい……!」


ミアが、感嘆の声を上げる。レインも、その戦いぶりに目を見張った。だが——


(シャドウ、一人じゃ限界がある)


「セレスティア、ミア、リィエル。援護するぞ」


「ええ!」


四人は、シャドウの援護に回った。レインの魔素の剣、セレスティアの剣技、ミアの魔法具、リィエルの風の魔法。そして、シャドウの短剣。五人の連携が、デーモンたちを追い詰めていく。


《魔物を討伐しました。殺戮ポイントを獲得しました:2,500 KP × 3》


三体のデーモンが、倒れる。残る二体も、追い詰められていく。


「——終わりよ」


シャドウの短剣が、最後のデーモンの急所を貫く。


《魔物を討伐しました。殺戮ポイントを獲得しました:2,500 KP × 2》


デーモンが、すべて倒れた。裂け目も、閉じていく。


「……終わった、か」


レインは、肩で息をついた。シャドウが、こちらに歩いてくる。


「大丈夫?」


「ああ。助かった。……なぜ、助けてくれた?」


シャドウは、少し迷って、それから言った。


「……セレスティアお嬢様から、手紙をもらったの。あなたたちを、助けてほしいって」


「セレスティアが……?」


レインは、セレスティアを見た。彼女は、少し照れくさそうに笑っている。


「シャドウさんは、私を守るために動いてくれていたの。バルドの屋敷にいた時も、影から守ってくれていた。だから——」


「そういうこと。まあ、あんたたちを見てたら、放っておけなくなったのよ」


シャドウが、少しだけ笑った。その笑顔は、どこか寂しげだった。


「シャドウ。お前、これからどうするんだ?」


「……しばらくは、自由よ。依頼も、終わったし」


「なら——」


レインは、言葉を選んだ。


「俺たちと、来ないか?」


シャドウが、目を見開く。ミアとリィエルも、驚いた顔をしている。セレスティアだけは、最初から分かっていたように、微笑んでいた。


「……いいの?」


「ああ。お前の力は、頼りになる。それに——」


レインは、少し照れながら言った。


「お前には、借りがあるからな」


シャドウは、しばらく黙っていた。そして、小さく笑った。


「……分かった。しばらく、一緒にいてあげる。ただし、私はあんたたちの仲間じゃない。あくまで、協力者よ」


「それで、いい」


レインは、頷いた。こうして、新たな仲間——いや、協力者が加わった。


---


宿に戻った夜、レインはシステムの表示を確認した。


```

【ステータス】

名前:レイン・クロウ

レベル:8

HP:105/105

MP:32/32

STR:33

VIT:37

AGI:44

INT:45

DEX:38

LUK:8

──────────

殺戮ポイント:28,586 KP

スキル:ゴブリン語Lv3、剛力Lv1、怪力Lv1、魔素支配Lv2、集団指揮Lv1、飛行Lv2、鱗鎧Lv1、水中適応Lv1、権威Lv1、次元感知Lv2

```


(KPが、かなり貯まったな)


28,586 KP。これをどう使うか。そろそろ、剛力と怪力を上位スキルに進化させたいところだ。だが、その前に——


《クエスト:オークを50体討伐せよ(進捗:48/50)》


(あと二体か)


明日、片をつけよう。そう思った時だった。扉が、ノックされた。


「レイン、ちょっといい?」


ミアだった。レインは扉を開ける。


「どうした?」


「……少し、話したいことがあるの」


ミアの表情は、いつもより真剣だった。レインは、部屋に招き入れた。


「座ってくれ」


ミアは、ベッドの端に腰掛けた。そして、しばらく黙ってから、口を開いた。


「……あたし、レインに言ってなかったことがあるの」


「あたしの出身、自由都市連合のスラムなのは話したよね。でも——あたしには、家族がいたの。両親と、弟が一人」


ミアの声は、静かだった。レインは、黙って聞いていた。


「あたしが十歳の時、スラムで疫病が流行った。両親は、あっという間に死んだ。弟も——」


ミアの手が、震えている。レインは、何も言わずに、彼女の手を握った。


「……あたしだけが、生き残った。運が良かっただけ。でも、あたしは——」


「ミア」


レインは、彼女の目を見た。


「お前は、生き残った。それだけで、十分だ」


「……そう、かな」


「ああ。お前が生きてるから、俺は助けられた。お前がいてくれたから、ここまで来られた」


ミアの目に、涙が浮かぶ。彼女は、それを拭おうともせず、レインの肩に頭を寄せた。


「……ありがとう、レイン」


「気にするな」


しばらく、二人はそうしていた。やがて、ミアが顔を上げる。


「あたし、強くなる。もっともっと。レインの隣にいても、恥ずかしくないくらいに」


「お前は、十分強い」


「足りないの。あたし自身が、そう思ってる」


ミアの目は、真剣だった。レインは、頷いた。


「分かった。なら、一緒に強くなろう」


「うん」


ミアが、笑った。その笑顔は、以前より、少しだけ大人びていた。


---


翌朝。


レインたちは、迷宮第三層でオークの群れを探していた。残り二体——だが、念のため、もう少し多めに倒しておきたい。


「いた。三体」


セレスティアが、剣を構える。レインは、頷いた。


「行くぞ」


三人のオークを、あっという間に殲滅する。


《オーク討伐数:50体達成。スキル『剛力Lv2』を獲得しました》

《オーク討伐数:50体達成。スキル『怪力Lv2』を獲得しました》


《スキル『剛力Lv2』:筋力を一時的に強化します。持続時間:60秒。使用間隔:3分。Lv1より効果が上昇》

《スキル『怪力Lv2』:筋力を大幅に強化します。持続時間:30秒。使用間隔:5分。Lv1より効果が上昇》


(これで、近接戦がもっと楽になる)


レインは、拳を握った。力が、漲る。まだ発動していないが、その気になれば、いつでも使える。


「これで、Aランクの魔物にも、対抗できるかな」


「ええ。きっと」


セレスティアが、微笑む。その時だった。


《クエスト:オークを100体討伐せよ(進捗:50/100)》

《報酬:スキル『剛力Lv3』、『怪力Lv3』》


(また、新しいクエストか)


だが、悪くない。剛力と怪力の上位スキルは、戦闘で役に立つ。レインは、システムに意識を向けた。


(分かってる。やるよ)


---


宿に戻ると、シャドウが待っていた。


「遅かったわね」


「迷宮で、スキルを手に入れた」


「ふーん。まあ、いいわ。それより——」


シャドウが、一枚の紙を差し出した。


「これ、ギルドから回ってきた情報よ。深淵の使徒について」


レインは、それを受け取った。紙には、こう書かれていた。


《深淵の使徒に関する報告》

《深淵の使徒は、観測者の敵対者であり、世界の理の外から来る存在である。彼らは、観測者の器を狙い、その力を奪おうとする。過去に確認された事例は、三件。いずれも、器は力尽き、使徒に魂を奪われている》


(過去の器は、全員——)


レインは、紙を握りしめた。だが、恐怖はなかった。むしろ、決意が固まった。


(俺は、違う。絶対に、負けない)


「シャドウ。お前、この情報をどう思う?」


「……あんた、狙われてるわよ。確実に」


「ああ。分かってる」


「怖くないの?」


レインは、少し考えて、答えた。


「怖いさ。だが、逃げても仕方ない。向こうから来るなら——迎え撃つだけだ」


シャドウは、しばらくレインを見つめていた。そして、小さく笑った。


「……本当に、馬鹿ね。でも、嫌いじゃないわ」


「褒めてるのか?」


「さあ、どうかしら」


シャドウは、マントを翻して、部屋を出ていった。レインは、その背中を見送りながら、思った。


(仲間が、増えたな)


セレスティア、ミア、リィエル、そしてシャドウ。四人の仲間。そして、これからも増えるかもしれない。


(だが、守るべきものが増えるほど、強くならなきゃいけない)


レインは、窓の外を見た。夜空に、星が瞬いている。その中に、一際明るい星——セレスティアが言っていた、希望の星。


(俺は、進む。どんな敵が来ても、仲間を守るために)


その決意を胸に、レインは目を閉じた。明日も、戦いが待っている。

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