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流亡剣士  作者: 宇宙無敵ダークドラゴン大王


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10/21

10 新たな旅路

朝日が、宿の窓を橙色に染めていた。


レインは目を覚ます。隣のベッドでは、セレスティアが静かな寝息を立てていた。銀色の髪が枕に広がり、その表情は穏やかだ。長い間、地下牢に囚われていたせいか、少し痩せたように見える。


(……無事に、助けられたんだな)


レインは、自分の手を見つめた。王城での戦い。バルドを討った瞬間の感触が、まだ残っている。人を殺した——それが、魔物ではなく、人間だったという事実。正義だったのか。復讐だったのか。答えは、まだ出ない。


(だが、後悔はしていない)


セレスティアを守るためだった。それだけは、揺るがない。


「……ん」


セレスティアが、目をこすりながら起き上がる。レインと目が合うと、少し照れたように笑った。


「おはよう、レイン。早いのね」


「ああ。よく眠れたか?」


「ええ。久しぶりに、ぐっすりと」


セレスティアが、伸びをする。その仕草が、以前と変わらなくて、レインは少しだけ安心した。


「今日から、どうするの?」


「まずは、ギルドに行く。Aランクになった報告と、新しい依頼を探す」


「Aランク……すごいわね。私が知ってる冒険者のランクなんて、せいぜいCまでよ」


「お前のおかげだ。お前を助けるために、強くなれた」


セレスティアが、少し照れる。


「……そういうこと、さらっと言わないの」


「何でだ?」


「もう。鈍感なんだから」


セレスティアは、それ以上何も言わず、身支度を整え始めた。


---


朝食の席で、四人が顔を揃えた。


ミアが、パンを頬張りながら言う。


「それで、これからどうするの?」


「迷宮の異変を、調べたい。第四層の魔核は壊したが、根本的な原因は分かっていない。それに——」


レインは、システムの表示を見た。まだ、大量のクエストが残っている。


《クエスト:ゴブリンを10,000体討伐せよ(進捗:100/10,000)》

《クエスト:オークを50体討伐せよ(進捗:3/50)》

《クエスト:デーモンを討伐せよ》

《クエスト:迷宮第六層の調査》


「……やることが、多いな」


「でも、優先順位はつけなきゃね」


リィエルが、紅茶を飲みながら言う。その通りだ。すべてを同時にこなすことはできない。


「まずは、オークの討伐を進めたい。五十体で、剛力Lv2が手に入る」


「私も、それに賛成。剛力の上位スキルがあれば、近接戦がもっと楽になるわ」


「じゃあ、あたしは情報収集ね。迷宮の異変について、もっと詳しく調べてくる」


「俺も、セレスティアの装備を整えたい。今の剣じゃ、心もとないからな」


「……私も、戦えるわよ」


セレスティアが、少しむくれる。レインは笑った。


「分かってる。だが、専用の剣があった方がいい」


「まあ、そうね。ありがとう」


四人の役割が決まった。レインは立ち上がった。


「じゃあ、行くか」


---


ギルドに着くと、受付嬢が笑顔で迎えてくれた。


「レインさん、Aランク昇格おめでとうございます!」


「ああ。ありがとう」


「Aランクの方には、専用の依頼があります。こちらをご覧ください」


受付嬢が案内したのは、掲示板の最上段——Aランク専用のエリアだ。貼られている依頼は、どれも難易度が高く、報酬も桁違いだった。


《Aランク依頼:迷宮第七層の踏破》

《報酬:金貨三十枚》

《推奨:Aランク以上、四人以上のパーティ》


《Aランク依頼:古代遺跡の調査》

《報酬:金貨二十五枚》

《推奨:Aランク以上、魔法使いを含むこと》


《Aランク依頼:魔境ヴァルグの異常調査》

《報酬:金貨四十枚》

《推奨:Aランク以上、魔素感知スキル保持者》


「……これだ」


レインが指差したのは、三つ目の依頼だった。魔境ヴァルグの異常調査——魔素感知スキル保持者が推奨されている。まさに、レインにうってつけだ。


「これは、最近の迷宮の異変と関係があるかもしれない」


「ええ。私も、そう思う」


リィエルが、賛成する。レインは、依頼書を取った。


「受ける」


受付嬢が、少し驚いた顔をする。


「よろしいのですか? この依頼は、かなり危険だと報告されています」


「分かってる。だが、必要だ」


「……お気をつけて」


依頼を受けると、レインたちは迷宮へ向かった。まずは、オークの討伐だ。


---


迷宮第三層。


レインたちは、オークの群れを探していた。以前は、一体でも苦戦した相手だ。だが、今は——


「いた。五体」


セレスティアが、剣を構える。その動きは、さすが騎士団長の娘。無駄がない。


「セレスティア、無理はするな」


「分かってるわ。でも——」


セレスティアが、少し笑う。


「あなたに守られてばかりじゃ、嫌だから」


レインは、それ以上何も言えなかった。セレスティアは、自分で戦いたいのだ。その気持ちは、尊重したい。


「分かった。だが、危なくなったら、すぐに下がれ」


「ええ」


オークたちが、こちらに気づいた。五体が、一斉に襲いかかってくる。レインは、前に出た。『剛力Lv1』と『怪力Lv1』を同時発動するまでもない。通常の状態でも、オーク程度なら問題ない。


「行くぞ」


レインは、魔鉄剣を振るった。一体目の首が、飛ぶ。


《魔物を討伐しました。殺戮ポイントを獲得しました:200 KP》


二体目、三体目も、あっという間に倒す。セレスティアも、一体を相手に戦っていた。その剣技は、正確で、美しい。騎士団で訓練を積んできたのだろう。オークの攻撃を、最小限の動きで回避し、急所を突く。


《魔物を討伐しました。殺戮ポイントを獲得しました:200 KP》


「……やるな」


「当然でしょ」


セレスティアが、少し誇らしげに笑う。レインは、残る一体を倒した。


《オーク討伐数:8/50》


(まだまだ、先は長いな)


だが、着実に進んでいる。


---


それから一時間で、レインたちは二十体のオークを討伐した。


《オーク討伐数:23/50》


「いいペースね」


セレスティアが、汗を拭いながら言う。


「ああ。この調子なら、今日中に五十体いけるかもしれない」


「油断しないで。迷宮は、何が起こるか分からないから」


リィエルの言葉通り、迷宮は油断できない場所だ。レインは気を引き締め直した。


そして、第四層へと降りた時だった。


《警告:異常な魔素の流れを感知》

《この先、通常とは異なる空間が存在します》


「……何か、あるな」


レインは、魔素支配で周囲を探った。空気中の魔素が、不自然に渦を巻いている。以前、第四層で魔核を壊した時とは、違う種類の異常だ。


「あれを見て」


リィエルが、前方を指差した。空間に、裂け目のようなものが浮かんでいる。黒い、亀裂。まるで、世界に穴が開いたような——


「何だ、あれ……」


「分からない。でも——」


セレスティアが、剣を握りしめる。


「近づかない方がいい」


「だが、調べないと」


レインは、裂け目に近づいた。近づくにつれ、空気が冷たくなる。魔素の濃度が、急激に上昇している。


《警告:次元の裂け目を感知》

《この裂け目は、別の空間へと繋がっています》

《推定脅威度:Aランク以上》


(次元の裂け目……!?)


その時だった。裂け目から、何かが現れた。影——いや、影の形をした、何か。人型だが、輪郭がぼやけている。目に当たる部分に、赤い光が二つ。


《警告:未知の存在を感知》

《推定脅威度:測定不能》


(測定不能……!?)


レインは、剣を構えた。影が、じっとこちらを見ている。そして——


「……見つけた」


影が、喋った。低い、響く声。


「観測者の器……ここにいたのか」


「……お前は、何者だ?」


「我は、深淵の使徒。観測者の敵対者だ」


(観測者の、敵対者……!?)


影が、笑った。赤い目が、ぎらりと光る。


「器よ。その力を、我に譲れ。そうすれば、お前の望みを叶えてやる」


「断る」


レインは、即答した。


「そうか。ならば——」


影が、動いた。速い——だが、レインも動く。魔鉄剣で、影の攻撃を受け止める。だが、感触がない。影の腕が、剣をすり抜ける。


「物理攻撃は、通じぬ」


影の腕が、レインの胸を貫こうとする。レインは、とっさに魔素支配を発動した。魔素の壁を作り、影の攻撃を防ぐ。


「ほう。魔素を操るか。さすがは、器」


「レイン!」


セレスティアが、剣を振るって影に斬りかかる。だが、彼女の剣も、影をすり抜ける。


「無駄だ。我は、実体を持たぬ」


「なら——」


リィエルが、風の魔法を放つ。風の刃が、影を切り裂く。だが、影はすぐに再生する。


「魔法も、無駄ではないが……決定打にはならぬな」


(どうする……!?)


レインは、必死に考えた。物理も魔法も効かない。ならば——


《スキル『魔素支配Lv2』を応用し、魔素そのものを武器に変換することが可能です》

《ただし、大量のMPを消費します》


(魔素を、武器に……!)


レインは、魔素支配を最大出力で発動した。周囲の魔素を凝縮し、剣の形に変える。青白く光る、魔素の剣。


「……面白い」


影が、感心したように言う。


「だが、その程度で——」


「喰らえ!」


レインは、魔素の剣を振り下ろした。青白い光が、影を斬り裂く。今度は、手応えがあった。影が、悲鳴を上げる。


「ぐあああ!?」


「効いた……!」


だが、影は完全には消えない。ぼやけた輪郭が、揺らいでいる。


「……今は、これくらいにしておいてやろう。だが、覚えておけ、器よ。我は、必ずお前を——」


影が、裂け目に吸い込まれるように消えた。裂け目も、ゆっくりと閉じていく。


《未知の存在を撃退しました》

《クエスト:深淵の使徒を撃退せよ——達成》

《報酬:殺戮ポイント3,000 KP、スキル『次元感知Lv1』》


(次元感知……?)


レインは、その場に膝をついた。大量のMPを消費したせいで、体が重い。


「レイン!」


セレスティアが、駆け寄ってくる。


「大丈夫か?」


「……ああ。何とか」


レインは、立ち上がった。裂け目は、完全に閉じている。だが、あの影——深淵の使徒。観測者の敵対者。それが、自分を狙っている。


(観測者……お前の敵が、俺を狙ってる。どういうことだ?)


システムからの答えは、なかった。ただ、静かに表示だけが浮かんでいる。


《観測者よりのメッセージ:深淵の使徒に注意せよ。彼らは、器を狙っている》


(器、を……)


レインは、拳を握った。自分は、狙われる側なのか。だが——


(だから、どうした。俺は、俺の道を行くだけだ)


「戻ろう。今日は、ここまでだ」


三人は、迷宮を後にする。帰り道、セレスティアが心配そうにレインを見ていた。


「レイン。さっきの、何だったの?」


「……分からない。だが、俺を狙ってるらしい」


「観測者、と関係があるの?」


「たぶんな。だが、今は情報が足りない。もっと、調べる必要がある」


セレスティアは、少し黙って、それから言った。


「……私も、戦うわ。あなただけに、背負わせない」


「セレスティア……」


「騎士団長の娘よ。伊達じゃないわ」


セレスティアが、微笑む。レインは、その笑顔に、少しだけ救われた。


---


宿に戻ると、ミアが待っていた。


「おかえり! どうだった?」


「オークを二十三体倒した。それと——」


レインは、深淵の使徒のことを話した。ミアは、真剣な顔で聞いていた。


「観測者の敵……それは、まずいね」


「ああ。だが、今は何もできない。もっと強くなるしかない」


「……そうだね。あたしも、もっと情報を集める。深淵の使徒について、何か分かるかもしれない」


「頼む」


その夜、レインは一人で、システムの表示を見つめていた。


```

【ステータス】

名前:レイン・クロウ

レベル:7

HP:95/95

MP:28/28

STR:31

VIT:35

AGI:32

INT:33

DEX:26

LUK:7

──────────

殺戮ポイント:16,586 KP

スキル:ゴブリン語Lv3、剛力Lv1、怪力Lv1、魔素支配Lv2、集団指揮Lv1、飛行Lv2、鱗鎧Lv1、水中適応Lv1、権威Lv1、次元感知Lv1

```


(KPが、かなり貯まったな)


16,586 KP。これをどう使うか。STRもVITも、そこそこ高い。だが、Aランクの敵と戦うには、まだ足りない。


(INTとDEXを上げよう。魔素を操るなら、INTは必須だ)


レインは、KPを振り分けた。


《INTに3,000 KP(33→43)》

《DEXに2,000 KP(26→36)》

《AGIに2,000 KP(32→42)》

《残り9,586 KP》


体の内側から、再び熱が湧き上がる。頭が、クリアになる。魔素の流れが、より詳細に見える。体の動きも、鋭くなる。


(これで、少しは戦える)


レインは、窓の外を見た。夜空には、星が瞬いている。その中に、一際明るい星があった。


(セレスティア。ミア。リィエル。そして——観測者)


多くの想いが、胸を巡る。だが、レインは思った。


(俺は、進む。どんな敵が来ても、仲間を守るために)


その決意を胸に、レインは目を閉じた。明日も、戦いが待っている。


---


一方その頃。


リベルタスの郊外で、シャドウは一人、夜空を見上げていた。


「深淵の使徒が、動き出した……か」


彼女の手には、一通の手紙があった。差出人は——セレスティア・グランディア。


『シャドウさんへ。あなたが誰なのか、私は知っています。そして、あなたが私を守るために動いていたことも。感謝しています。ですが、もう大丈夫です。レインが、私を守ってくれます。だから——あなたは、あなたの道を進んでください。もし、協力が必要なら、いつでも来てください。私は、あなたを仲間だと思っています』


「……仲間、ね」


シャドウは、手紙を折りたたんだ。そして、小さく笑った。


「相変わらず、お人好しなんだから。セレスティアお嬢様は」


だが、その声は、優しかった。


「まあ、いいわ。私も、少しだけ——あの人たちに、興味が湧いたから」


シャドウは、リベルタスの街へと歩き出した。夜風が、マントを揺らす。その背中は、どこか楽しげだった。

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