第51話 ごめんね
エグめ表現有りです。
苦手な方はお気をつけください。
◇◇◇
鞭で打たれ続けた背中が熱い。内股にはケダモノのような男たちの欲望と、もはやどこからなのかも分からない血が伝う。
天井から吊るされた手枷が全体重をぶら下げ、その重みで手首の皮膚が削げている。足首にも重い鉄球が繋がれた足枷が嵌められ、ほとんど身動きが取れない。
どうせもう、身動きをする気力も体力も残されてはいないが──。
(もう痛みも分かんないな……)
先程までこの身体を嬲っていた男たちも、満足したのか今は姿を消している。
(兄さま……無事でいるかな…)
自分に対する拷問を目の前で見せつけられていた兄の姿を、数日前から見ていない。
彼もひどい怪我を負わされていた。
それでも妹を助けようと、怒りと憎悪に燃える目で奴らに立ち向かおうとしていた姿が脳裏によぎる。
(スティルク……)
背中に脈打つように走る熱さに、弟の幼かった頃の姿を思い出す。
傷だらけの状態で拾われてきた可愛い弟。
十二年一緒に暮らしてきたが、彼の全身の傷痕を目にしたのはほんの二、三回だけだ。
大概の手伝いはさせてくれていた彼は、着替えの手伝いだけは断固として拒否していたし、父にも止められていた。
その理由を知ったときは、自分はなんて無神経だったのだろうと反省したものだ。
彼の傷痕がなぜ背中側に集中していたのか、今なら分かる。
きっと、あの小さな背中を丸めて頭や顔、内臓などの弱い部分を無意識に守っていたのだろう。
(痛かったよね、スティルク……。あんなに小さかったのに、こんな痛い思いしてたんだね……)
あの子の傷は癒えただろうか。
触れるたびに身体を強張らせ、周囲の気配に敏感に反応する野生動物のような子だった。
そんな子に自分は、ただひたすらに愛情を伝えることしかできなかった。
怖がらなくていいよ。
大好きだよ。
みんながあなたを、護ってくれるよ。
ただひたすらに、抱きしめることでそれを伝えることしかできなかった。
(なんにも分かってなかったんだなぁ、私……)
つらい思いをして生きてきた子なのだと分かっていたつもりだった。
だが実際に暴虐の痛みを知った今、その認識が甘かったのだと思い知る。
九歳までずっと、日常的にこの痛みを与えられていたのだとしたら、自分がしてきたことはただの自己満足でしかなかったのではないか。
あの子にとっては苦しいものにしかならなかったのではないか。
彼が家族の一員になってしばらくしてから、父が夜中に何か麻袋を持ってこっそりと家を出る姿を見たことがある。
そっと後をつけると、父は森の中に穴を掘り、麻袋から取り出したそれを埋めた。
松明に照らされたそれは、赤黒いものが大量に固まったボロボロの刀だった。
当時はそれが何なのか分からず、誰にも言わないまま忘れていたが、今なら分かる。
(つらかった……よね、スティルク。ごめんね……ごめんね……)
どうか、どうか自分のことは見棄ててほしい。
あの子をここに来させてはいけない。
繰り返させてはいけない。
あの子は幸せになるべき子なんだ。
アストリアは涙を零しながら、ひたすらに自分がこのまま孤独に死ぬことを願っていた。




