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願う未来は永久にともに  作者: めこまる
第四章 交わされる想い編
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第43話 選択の報告

「僕、セラさんの旦那さんに会って頼んでみます。僕が生きている間だけ、セラさんを譲ってほしいって」


 一体何を言い出しているのか。

 セリヴァルは言葉も出ず、ぱくぱくと口を開閉させた。

 対して、なおもスティルクは続ける。


「セラさんと旦那さんは、もう数千年夫婦でいるわけですよね? 永久(とわ)の命を持つ人にとっては、人間の数十年の寿命なんてたかが知れてるじゃないですか。だからセラさんは、人間と関係を持っても許されてるんじゃないですか?」

「そ……れは、そう……だけど」

「一か所にさえいなければいいなら、僕も一緒に旅に出ます。セラさんが今までしてきたように、何年か後には一族の人ともまた会えますよね?」


 なんという男なのか。セリヴァルは開いた口が塞がらなかった。

 かつての時代ならまだしも、神に次ぐ格を持つ相手に「あなたの妻を数十年間だけ譲ってください」などと申し立てにいこうという人間がいようとは。


「……さすがに怒られますか? ひょっとして僕、殺される?」

「それはないと思うけど……」


 むしろあの人なら面白がりそうだ。

 神格者には嫉妬深く独占欲の強い者もいたが、夫はそうではない。スティルクが言うように、寿命が短い人間が相手なら受け入れる可能性も高そうだ。

 夫もまた、気まぐれな風なのだから。


(スティルクの莫大な命力なら、あと百年は生きそうだけど……)


 また仔犬のような目をしている。

 願いを叶えるならば対価が必要だと普段なら言っているところだが、そうする気になれないのは、自分もまたそれを望んでしまっているからなのか──。


「まったく……あなたのわがままを断りきれた試しがないわ」


 手を伸ばし、目を丸くした頬を軽くつねって引き伸ばす。黒瞳をぱちぱちと瞬かせ、スティルクは安堵したように破顔した。

 古の元精霊の胸にもまた、淡い温もりが湧き起こる。


(言われた通り、観念するしかなさそうね……)


 スティルクはセリヴァルと同じ時間は生きられない。

 共に生きたとしても、いずれは彼だけが老い、弱り、セリヴァルは置き去りにされる。それでも、と思ってしまう自分がいるのだ。


(ま。彼が老いたら『弱くなった』と笑ってあげましょうか)


 微笑みを浮かべた唇がゆっくりと下りてくる。


「大好きですよ、セラさん」

「ん……」


 重なる唇を受け止めながら、セリヴァルは彼の選択を受け入れるべく腹を括ったのだった。




 ◇◇◇


「……そうか。行くか」

「はい」


 ソルガンの正面にセリヴァルとスティルクが並んで座り、背筋を伸ばしている。

 想いを交わした翌朝。ソルガンの家で三人で朝食を摂ってから、スティルクはセリヴァルと共に旅立つことを養父に告げた。

 それに驚くでもなく、初老の魔導具職人はただ小さく頷く。


「前にソルガンさん、僕に訊きましたよね。セラさんに惚れているのか、って……」

「あぁ」

「改めて答えさせてください。僕は、セラさんに惚れてます。大好きです」


 晴れやかな表情で言い切るスティルクに、ソルガンは一瞬目を見開き、そしてくつくつと笑う。


「大好きときたか……。よもやお前から惚気を聞かされるとは思わなんだ。すっかりアストリアの影響を受けたものだな」

「アストリア姉さん?」

「毎日毎日そう言われ続けて育ってきただろう。お前がセリヴァル殿にやたら密着するのも、あいつの癖とそっくりだ」

「そういえばそうかもしれませんね……」


 二人のやり取りに、セリヴァルの脳裏に一人の少女が思い起こされる。十八年前、初対面のセリヴァルの膝へためらうことなくよじ登り、満面の笑みを浮かべていた人懐っこく愛らしい少女。

 その光景に彼女の兄と母親が青ざめていたことが微笑ましかった。

 

(……あの子の影響だったのね。なんだか納得してしまうわ……)


 あの少女ならば新しくできた弟をさぞや溺愛したことだろう。

 現在のスティルクは姉の英才教育の賜物というわけだ。


「して? セリヴァル殿」


 不意に水を向けられる。

 視線を返すと、ソルガンは仏頂面で尋ねてきた。


「あんたも同じだと思って良いのか?」

「え?」

「あんたもスティルクに惚れているのかと訊いている」

「わ、私も答えるの!?」

「当然だ。親としては聞いておきたいところだろう」


 巻き込み事故の気分である。

 ちらりとスティルクを見やれば、何やら期待に満ちた様子で瞳を輝かせている。

 これはきちんと答えねば許してくれなさそうだ。


「…………惚れてるわよ」


 改めて言わされるとどうにも気恥ずかしく、つい視線を明後日の方向へ向けてしまう。しかしすぐ傍から、今にもこちらへ飛び込んできそうな気配が押し寄せてきた。


「セラさん……っ!」

「い、今はダメよ!」


 両手で制するも、彼は爛々とした目をしている。

 止められる気がしない。


「……いちゃつくのはあとにしなさい、スティルク」


 熱のこもった目のままに、スティルクがピタリと止まった。

 ソルガンの言うことなら素直に聞くらしい。

 前途多難だ。


「それで、いつ発つんだ?」


 問われ、少し考える。


「具体的には決めてないけれど、いずれにせよ、そろそろ発とうとは思っていたわ」


 エルディンガルの村に来てからもうすぐ二か月。

 離れ難くなる前にと思っていたが、その事情は変わった。とはいえ、約定の縛りがあることは変わらない。

 スティルクも己の選択を決めた。潮時である。


「そうか。ならば二、三日待ってくれ」

「それはいいけれど、なぜ?」

「スティルクは一族の子だ。村にはこいつを慕う者も多い。別れを惜しむ時間くらいはくれてやれ。あんたについていく以上、次にいつ会えるか分からんのだからな」

「まぁ、それもそうね」


 スティルクがソルガンと話す時間も必要だろう。

 親子水入らずで話せば良いと、セリヴァルはおもむろに立ち上がった。

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