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願う未来は永久にともに  作者: めこまる
第三章 執着への問い編
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第31話 触れてくれるな

「スティルク? もう帰っちゃうの? もう少しだけ一緒に……」


 呼吸を整えながら振り向いてきた女性に、スティルクは繕う笑みを浮かべることもなく言葉を返した。


「悪いんだけど、こういうことは……もうしない」

「……え?」

「他の子とも、もうしない。どうせ筒抜けなんだろ? 彼女たちにも伝えておいて」


 淡々と告げ、身なりを整えて腰に刀を差し直す。

 信じられないという様子で目を見開く女性を一瞥し、「それじゃ」とスティルクは去ろうとした。その裾を慌てて掴んだ女性が、縋るような目で見上げてくる。


「ちょっ……ちょっと待って! どうして急に…!?」

「嫌だと、思ったから。……君たちにはそれなりに付き合ってきてあげたし、もういいでしょ?」


 元々気乗りしない行為だったのだ。一度拒絶を決めれば、スティルクにはためらう理由などない。

 情け容赦なく、続ける。


「それに、急にも何も、僕は最初から君たちに対する気持ちはないって言ってあったはずだけど?」


 村に迷惑をかけたくない気持ちはあったが、既にシグルフとファイカンが恋文を押し付けられるという被害を受けている。

 この行為を受け入れる必要性はもはや皆無だ。


「そ、れって……」


 女性が唇を噛みしめ、悔しさと怒りを混ぜ合わせたような瞳で睨み上げる。


「あの人の……ため?」

「あの人?」

「この間、すっごい綺麗な人と街に来てたよね? 他の子が声をかけに行ったとき、私も見てたの。あの人がスティルクの本命の恋人なんでしょう!? 私たちには見せないような目をしてたもんね! 抱き寄せることも、頬へのキスも、私たちの誰もされたことないもん!」


 責める言葉を聞きながら、やはり互いに情報を共有していたのだなと冷静に納得する。そうやって誰が何をしてもらえたのかを知り合うことに、何の意味があったのだろうか。

 なかなかどうして理解できない人たちだが、それならセリヴァルの存在についても知れ渡っているであろうことが窺える。

 それを思うと、何かを途轍もなく踏み荒らされたような感覚が滲み出てきた。


「私、ずっとあなたのことが好きだったのよ! 確かにすごく綺麗な人だったけど……、でも、美しいだけの人に私の気持ちは……!」


 金切声は続かなかった。代わりに、「ぐっ」と苦しげな呻き声が漏れる。

 締め上げられた首筋に、冷たい金属の刃が押し当てられていることに気づいた女性の瞳が恐怖で震え始めた。空気を求めてか助けを乞うてか、開いた唇がはくはくと動いている。


「君が、彼女のことを口にするな」


 自分でも意外なほどに低く冷淡な声だった。


「いい? 僕はもうこういうことは、しない。他の子にも、伝えておいてね」


 一言一言を区切りながら再度告げると、女性はかろうじて頷いた。

 手を離して刀を収めると、シーツにじわりと染みが広がっていくのが目に入った。怯えのあまり失禁したらしい。咳き込む女性の全身はぶるぶると震えている。

 その様子に同情することもなく背を向け、


「それじゃあ、もう会うこともないね」


 と告げたスティルクは、そのまま部屋を後にした。




 ◇◇◇


 外に出たスティルクは冷たい夜風に吹かれながら、自分の手をじっと見つめた。息をつき、少しだけ振り返る。


(あれだけやれば、さすがにもう来ないよね)


 やり過ぎただろうか、とも思うが、あの瞬間の冷たく熱い、どす黒い感情が制御できなかった。あの首に傷一つ残さなかっただけでも上出来だと自嘲気味に思う。

 歩き出しながら、頭には疑問符が浮かぶ。


(イラッとしたなぁ……。なんでだったんだろう……?)


 苛立つ思いなど初めて抱いたかもしれない。

 セリヴァルと街に下りたとき、寄ってきた女性を追い払うためにわざと誤解させるような行動を取った。だがそれでも、適当にあしらうために関係を持っているだけの女性に口を出されることは、度し難いほどに不快だったのだ。

 彼女と過ごした楽しかった思い出が汚されるような感覚である。

 

(セラさんは綺麗なだけの人じゃないしね)


 理解してもらう必要はない。

 理解してほしいとも思わない。

 ただ、触れてくれるなと思ったのだ。


(それにしても……、セラさんで想像して抱くこともできないなんて。僕の中で、セラさんはセラさんだけなんだなぁ)


 検証で得られたものは虚しさと苛立ちだけ。

 八方塞がりだ。

 感じないから寝るのはだめだと言われているというのに、感じるようになるにはどうすれば良いのか。

 彼女に触れたいと思う感情が「惚れている」というものならば、解決の糸口が見えてくるのかもしれない。だがそんな感覚そのものが分からないのだから、これがそうだと言い切ることができない。


(惚れる……、恋焦がれる……。あっ)


 はたと思い出す。

 むしろなぜ今まで思い出さなかったのかと我ながら疑問に思うほどだ。

 何よりも知りたい感情を誰よりも知っていそうな人物が、身近に一人いたではないか。


 ──やればできるんだとしても、一人じゃしんどいと思うときは頼れ。しんどいとまでは思わなくても、大変なときは頼ってくれよ。


 彼はそうも言っていた。


(……明日にでも、ファイカンに訊いてみようかな)


 とぼとぼとした足取りがわずかに軽くなる。

 柔らかな月明かりが行く道を照らし、スティルクは家路を急いだ。

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