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願う未来は永久にともに  作者: めこまる
第三章 執着への問い編
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第29話 古の魔導士の正体

 何を問うてくれているのかと半眼で睨むも、ソルガンの視線はスティルクに据えられたままだ。


「惚れ……?」


 対するスティルクは、言われている意味が分からないという表情で首を傾けている。


「彼女に恋い焦がれているのかと訊いている」


 スティルクの腕がわずかに緩む。

 しばらく考え込むように間を置き、困ったように返す。


「……惚れたことがないので分かりません。急にどうしてですか?」


 セリヴァルもまた内心では、これは困ったことになったと思っていた。

 ソルガンが養父としてスティルクの意図を気にする気持ちは理解できる。彼は息子が人間らしい感情を取り戻すことを誰よりも切望していたのだから。


「……セリヴァル殿」


 ソルガンは深く息を吐きながら、目線をセリヴァルへ移す。


「あんたの出自は話してあるのか?」


 これもまた、当然の問いだろうと思いながらもさらりと返す。


「特に話す機会はなかったわね。でも別に、隠しているわけではないわよ。あなただって知っているぐらいですもの」


 隠しはしないが、必要がなければ自ら話すこともしない。

 セリヴァルにとっての己の出自など、その程度のものだ。


「出自? 僕は特に気になりませんけど。……僕だって人に誇れるような出自ではありませんし」


 無意識だったのだろうか。

 最後の言葉は呟くような小ささだった。そこには触れず、ソルガンがかぶりを振る。


「出自が悪いという話ではない。彼女の存在そのものの話だ」


 知られて困るようなことでもないので、セリヴァルは口を挟まずにいた。彼が息子に知っておいてほしいと思うのであれば、それを止めるつもりもない。


「魔導士は儂ら魔術師とは魔力の質が異なる。世界の理の力を借りるその存在は、通常よりも何倍も長く生きるのだ」

「はい。知っています。セラさんはその中でも特に強い力を持っているから、すごく長く生きているんですよね? セラさんが村に来る少し前に、ソルガンさんが教えてくれたじゃないですか」

「それだけではない」


 一度言葉を切ると、目配せをするような視線を向けてきた。

 別に言ってもかまわないとセリヴァルは肩をすくめてみせる。


「人の姿をしているが、彼女は人間ではないのだ」


 未だ腰にまわされたままだった腕が力なくほどかれ、スティルクの黒瞳が大きく見開いた。


「人間じゃ……ない?」


 呆然とした黒瞳が向けられた。

 かと思うと、ふにっと両頬がつままれる。


「す……すひるく……」

「どう見ても人間にしか見えませんけど……」


 なぜ確かめる方法がこれなのか。

 柔らかさを確かめるようにふにふにと頬が捏ねられ、伸ばされる。

 抗議の意でその手をべちべちと叩いていると、ソルガンがふぅっと息をついた。


「肉体を纏った精霊だそうだ。だからこそ彼女は寿命の概念もなく、数千年前の神々の時代から生きている」

「精霊……。本当に?」


 事実だった。

 頬が解放されたので、わずかに身を引きながら答える。


「肉体を持った時点で、私はもう精霊とは呼べない存在よ。かと言って、今の私が何なのかと言われると困ってしまうわね」


 セリヴァルは風と大地の強大なエネルギーが交わる霊山で、突然変異のように生まれた存在だった。ゆえに親という存在がなく、いうなれば風と大地が母であり父であり、セリヴァル自身でもある。

 神々が当たり前に存在したかつての時代でも二つの属性を持つ精霊は非常に珍しく、ましてや受肉に成(・)功(・)し(・)て(・)し(・)ま(・)っ(・)た(・)例はセリヴァル唯一人だった。

 尋ねられない限り、それを語ることはないのだが。

 

「ふぅん……」


 じっとセリヴァルを見つめてから、スティルクは改めてソルガンへと向き直った。


「ちょっと驚きましたけど、やっぱり特には気になりません。むしろ納得したような……。でも僕にとってセラさんはセラさんですし、なぜだか触れたくなることに変わりないみたいです」

「……そうか」


 頷き、ソルガンは言った。


「お前がそれでいいなら儂は何も言わん。ただ、彼女は気まぐれな風だ。いつまでもお前の傍にいてくれるわけでもないし、お前と同じ時間は生きられない。それだけは、覚えておきなさい」

 

 ほんのわずか。本人でさえ自覚していないのではないかというほどに、黒瞳がわずかに揺らいだ。

 それから二秒ほどの沈黙を経て、スティルクは小さく零れ落とすように「はい」と答えたのだった。

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