第27話 試火その2
黄金の光の筋が風を切り、次々と疾走する。
一発、二発……と次々着弾していき、五発目が着弾しようかという直前、スティルクがわずかに刀を持ち上げた。
──次の瞬間。
爆発にも似た激しい衝撃音が響き、それと共に大地が揺れ、土煙が高く舞い上がる。
周囲の人間は皆、ただ唖然と立ち尽くし、息をするのも忘れたようだった。粉塵が舞う中、見物の者たちから徐々にざわざわと声が漏れ始める。
「何、今の……」
「何があったんだ?」
「スティルクは? スティルクは無事か?」
ざわめきが大きくなる中、チンッという高い金属音が耳に届いた。土煙の隙間から、スティルクが刀を腰に差し直す姿が目に入る。
(まさか……嘘でしょう……?)
何が起こっていたのかは、セリヴァルの瞳にしか認識できなかったはずだ。
瞬きにも満たぬ刹那だった。
スティルクは左手の指先で刀の上下を反転させ、宙空を切り上げるように抜刀したかと思うと、一気にそれを振り下ろしていた。
大気を裂くその斬撃が、五発目の魔力弾を撃ち落としたのだ。
その場から、一歩も動くことなく。
(山賊のときも思ったけど……剣を抜く速度が恐ろしく速い……)
若干の反りが入ったあの形状が、鞘の中で刀身を滑らせるのだろうとセリヴァルは推察していた。その速度にスティルクの膂力が乗り、凄まじい威力を発揮しているのだと。
それに耐え得る刀の方も、さすがは一族の長が打っただけのことはある。
──とはいえ。
(手加減していたとはいえ、斬撃で魔力弾を撃ち落とすって……)
見れば、リンガ母娘がスティルクへと駆け寄っていた。
「あぁ、スティルク! 無事で良かった!」
「この辺りが限界ですね。最後のを受けてたら破れてたと思います」
外套をリンガに手渡すとスティルクはくるっと振り向き、ぶんぶんと手を振った。
「セラさ〜ん! 今ので、セラさんの出力の何割くらいですかー?」
こちらの気も知らず呑気なものである。
セリヴァルは歩み寄り、険しい表情のまま答えた。
「今の私なら、三割よ」
「……それって、一般的な魔導士のどれぐらいですか?」
尋ねておいて、基準になるものが分からなかったらしい。
スティルクは一族以外の魔術師には出会ったこともないらしく、魔導士の数はその魔術師よりも遥かに少ないので無理からぬことではあるが。
「そもそも、戦闘力のある魔導士自体があまりいないのだけどね。だから魔術師の基準で言うなら……そうね、上級術者の通常攻撃ぐらいは耐えられるんじゃないかしら」
その答えに周囲から歓声が上がった。リンガ母娘とソルガンも安堵している様子だ。
浮かれ騒ぐ様子にセリヴァルは小さく眉を顰める。
「スティルクが注いだのと同じだけの命力を注げるのなら、の話よ?」
「そこは大丈夫そうですよ。さすがに誰でもってわけにはいきませんけど、それなりの命力の人なら扱えます。リンガさんたちの創るものはいつも命力効率が良くて、高品質なんですよ」
随分と評価が高い。今では一族の魔導具と職人たちの技量に関しては、スティルクは誰よりも精通していると言えるのだろう。
かつて破壊を重ねた分、命力の扱い方に関しては相当修練を積んだようだ。
「ところでスティルク?」
「何ですか?」
「あなた、どうして最後の一撃だけ撃ち落としたの?」
何をしたのか、なぜそんなことができたのかについては、もはや尋ねる気にもなれない。この目で確かに見てしまったのだから。
代わりに投げた問いに、彼は当然のことのように答える。
「あれには耐えられない気がしたので。避けても掠ったところがやられちゃいそうでしたし、それはもったいないじゃないですか」
「そうではなくて……」
なぜ受ける前にその威力が分かったのかとセリヴァルは問い直した。
「僕、気配に敏感なので」
しれっと答える。
意味が分からなかった。
自身は魔力を持ってもいないというのに、ただ気配だけで魔力量を正確に測れるなど、彼の感知能力は一体どうなっているのか。
人間離れした膂力と速さ、それに加えて魔力に対する察知能力までずば抜けているとなると、術を行使するのに幾分かのタメを必要とする魔術師の天敵に他ならない。
「それにしても、セラさんはやっぱりすごいんですね。一発ずつ魔力濃度を上げていく精密操作もそうですけど、タメもほとんどなかったですし」
セリヴァルの気を知ってか知らずか、そんなことを言って褒めそやしてくる。彼ならば、ほとんどなかったというそのタメの隙を突くことは容易なはずだ。
素直に受け取ることなどできるはずもなく、飄々とした彼の態度に腹立たしささえ覚えてくる。
「どの口が言ってるのよ、もうっ……」
不貞腐れた気持ちを吐き出すようなため息を漏らし、セリヴァルは唇を尖らせた。




