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願う未来は永久にともに  作者: めこまる
第二章 少年とソルガン家編
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第24話 序曲

 ◇◇◇


 フレイナが静かに息を引き取ってから三年。

 スティルクは相変わらずの日々を過ごしていた。

 剣技と命力操作の鍛錬を積み、一族が制作する魔導具の素材集めや、完成品の試験をこなし、街に下りれば女性に声をかけられる──そんな日々だ。

 

 一方、村の方には多少の変化があった。

 まずファイカンとフィヨルが結婚し、ラーシュが生まれた。二人が互いに、そしてラーシュに向ける笑みが他に対するものとは違うことに気づき、スティルクは不思議な感覚を覚えた。

 加えてソルガン家である。

 今までにも魔導具を卸していた最大の取引先である巨大魔術都市アヴリオンから、治水工事のための大掛かりな魔導具制作の依頼が舞い込んだのだ。

 それを請けることになったのが、長の子であるシグルフとアストリアである。人柄のせいで忘れがちだが、二人は長であるソルガンの技術を受け継ぐ存在であり、その技量も村では群を抜いていた。

 さすがに大掛かりな魔導具は村では創ることができず、二人はしばらくの間村を離れ、アヴリオンに旅立つことになったのだった。


「可愛いスティルクとしばらく会えないなんて……寂しい!」

「スティルクは大人になってるってのに、お前は本当に成長しないな。たった半年だろうが」


 旅立ちの日。大袈裟に悲しみを訴えるアストリアにシグルフが呆れた声をあげるのも、想定通り過ぎる光景だった。

 

「まぁ、俺も言っておきたいことはあるけどな」


 そう言いながらシグルフがスティルクの肩に腕を回し、そのままアストリアから引き剥がすように引っ張っていく。

 きょとんとするアストリアには「男同士の話だ」と追い払うように軽く手を振り、二人だけで部屋の隅まで移動すると、シグルフは低い声で囁いた。


「街の噂は聞いてるぞ。モテるのは結構だが、女遊びはほどほどにな」

「えっ。そんなつもりはないけど……でも、どうして兄さんが知ってるの?」


 確かにシグルフが街に下りることもあったはずだが、彼の耳に入るほどに噂が立っているとは思わなかった。

 いよいよ面倒くさくなってきたなと、スティルクは心中でため息をついた。

 

「ファイカンと二人で街に行ったときに、お前が俺の弟だって知られてな。何人かから恋文を押し付けられたことがあったんだよ。そんときに、なんか色々語られた」

「そうなの? でも兄さんもファイカンも、今までそんなこと一言も……」

「全部捨てたからな。どうせお前のことだから、迫られて断りきれなかったんだろ?」

「うっ……」


 まさかそんなことになっていたとは。

 恋文など、スティルクが受け取ったとてどうせ燃やすだけだろうと思った、とシグルフは続けたが、実際そうだっただろう。お見通しだった兄が先に処分してくれていたことはありがたい反面、少々申し訳なかった。


「俺だって可愛い弟が心配なんだよ。お前ももう大人だし、そろそろいい人見つけろよ。ファイカンだって結婚したんだしさ」


 ニッと口角を吊り上げて肩を小突いてくるシグルフに、スティルクはぽそりと返す。


「僕より兄さんの方が先じゃないの? もう二十七なんだから」

「げっ……藪蛇だったか」


 わざとらしく胸を押さえ、チラリとアストリアを見るシグルフ。


「いつまでもまとわりついてくる妹がいると、どうにもなぁ……」

「姉さんの相手を探す方が先かな?」


 村から出たことがほとんどないというのも考えものかもしれない。

 山道では自分が傍について、危険な気配があったら先んじて処理すれば街につれていけるだろうかと、スティルクは真剣に考え始めた。


(峰打ちだったら血も出ないし、返り血も浴びなくて済むかも……)


 首の骨を折る可能性は否めないが、それは仕方あるまいと己を納得させる。

 ソルガンは特に口うるさくは言わないが、シグルフとアストリアには長の血筋を残す責務がある。

 スティルクにもその意味はいまいち分かっていないが、一族の大人たち皆がそれを期待していることは知っていた。


「あいつももうちょい落ち着くといいんだけどな」

「うーん……、姉さんが?」

 

 子供っぽいところは多々あれど、アストリアももう二十五歳だ。恋人でもできれば兄弟離れするだろうか。

 シグルフとそろってアストリアに視線を向け、次の瞬間には顔を見合わせて笑ってしまう。

 

「んもぅっ。何なの、二人して!」


 二人の会話が聞こえておらず、なぜ笑われているのかわからないアストリア。拳を握りしめ、ぷぅっと頬を膨らませている。

 さらに地団駄のように足元を踏み鳴らす仕草は、やはりどこか子供じみていて、見ている二人を更に破顔させた。

 

「何をたらたらしとるんだ、お前たち」


 奥から出てきたソルガンが呆れたように声をかけてきた。

 二人は弾かれたように土間に置いていた荷物を慌てて背負う。


「ほれ。そろそろ行きなさい。アヴリオンまで数日かかるが、道中気をつけるんだぞ」

「街までは馬で、その先は馬車なんだよね?」

「うん! スティルクがあんまり心配するから! 騎馬は久しぶりだから、ちょっと不安だけど」


 馬上ならば多少は大丈夫かと思いながらも、スティルクはくいくいとシグルフの袖を引いた。


「兄さん。もし街に着くまでに変な奴に遭遇したら……」

「遭遇したら?」

「ちゃんと馬で轢くんだよ?」

「物騒だな、お前」


 シグルフが半眼で引き気味になってしまったが、スティルクは大真面目だった。やはりもう一頭借りて、自分も街までついていくべきだったのではないかとさえ考えている。

 妹に続き弟まで過保護になったとシグルフはぼやいた。


「父さま、ちゃんと食事してね! 無理しないで!」

「あぁ、分かってるさ。お前こそ、あちらで失礼のないようにな」

「うぅ……努力する!」

「まったく、弟離れするいい機会だな。じゃあ……父さん、スティルク。いってきます」

「いってらっしゃい。気をつけてね」


 順に声を交わし合い、アストリアが最後に元気よく手を振る。


「スティルクも、ちゃんとご飯食べてね。鍛錬ばっかりしちゃだめだからね!」


 玄関の戸が開き、朝の柔らかな光が射し込む。

 背中をまっすぐに伸ばした二人がそれぞれ一歩外へ踏み出し、振り返ることなく歩き出した。

 それを見送りながら、スティルクはほんのわずかな空虚を胸に感じていた。


 ──旅の魔導士だという女性が村に訪れたのは、それから二か月後のことだった。


過去編終了。

次回から第三章です。

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