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願う未来は永久にともに  作者: めこまる
第二章 少年とソルガン家編
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第22話 大人への成長

 ◇◇◇


 ソルガンから新しい刀と剣術に関する書物を贈られたスティルクは、村の裏手にある森でひっそりと鍛錬を積むようになった。きちんと扱えるようになるまで抜いてはいけないと言われていたので、同じ重さの木剣を自分で作り、それをひたむきに振り続けた。

 その書物を読むため、そして一族の魔導具について正確に知るために、必死になって文字の読み書きを覚えた。

 魔導具への命力の注ぎ方が最も難しく、量産型の弱い魔導具をいくつも破壊してしまった。友人ファイカンが最初に創った魔導具も破壊してしまったが、負けず嫌いだった彼は、


「絶対にお前に破壊されない魔導具を創ってやるからな!」


 と、息巻いていた。

 それを聞いたソルガンが「あれはいい職人になる」と言っていたので、初めて創った作品が弾け飛んだ瞬間の青い目に、うっすらと涙が滲んでいたことは忘れることにした。

 ちなみにフィヨルにも同じことをして泣かせてしまったが、なぜかファイカンの方が怒っていた。フィヨルのことは泣かせてはいけないらしい。

 命力の操作加減についての修練にいっそう励むようになった。


 そうしていくつもの年月が過ぎ、ソルガン家でしっかりと栄養価の高い食事を与えられたスティルクは驚異的な成長を遂げた。ぐんぐんと背丈を伸ばし、弾力を帯びたしなやかな筋肉で身を纏う様は、幼少期の貧相な身体が嘘のようだった。


(なんか最近、身体の節々が軋むなぁ……)


 成長期には関節の小さな痛みが分かる程度には、痛覚も蘇ってきていた。多少の痛覚は危機回避に必要だと、極めて冷静に学んでいたのだ。

 日々手入れだけを欠かさず続けていた刀を初めて人に向けて抜いたのは、兄シグルフの背丈を追い越してすぐの頃──十七歳の冬のことだった。

 たまたま一人で街に買い出しに出かけた帰り、麓で盗賊の襲撃に遭ったのだ。

 肌を粟立たせる殺気。

 嗜虐趣味を隠しもしない下卑た笑み。

 茜の陽光に煌めく刃。

 その総てが八年前の悪夢を思い起こさせた。

 同じだ、と思った。

 違ったのは、反射的に放った剣撃の軽さと、静謐さだけ。

 薙ぎの一閃から一拍あとに、彼らの首はずるりと落ちた。


(あっ、しまった……)


 慌てて周囲に人がいないことを確認して、彼らの躯を近くの川へ棄てた。そのとき心の底から思ったのだ。

 遭遇したのが自分で良かった、と。


(一族の魔導具に攻撃性のものはないし、創ったとしても職人の術師には使えない。今まで大丈夫だったからって、今後も大丈夫とは限らない……)


 村には隠し家の結界が張られているが、一歩外に出ればもう安全ではなくなる。

 その日から、スティルクは買い出しには積極的に出るようになった。タイミングが悪く引き受けられないときもあったが、荷が多い日こそ特に、一人で出るようにした。

 しかしそれは、別の面倒事も生んでしまう。


 十八になり、幼さをその顔立ちに残しながらも、すっかり大人の青年に成長したスティルクは、街の女性に頻繁に声をかけられるようになってしまった。


「──ごめんね。僕は誰とも恋人になるつもりはないから」


 以前までは普通に接していたはずの茶屋の娘、呉服屋、米問屋、他に誰がいただろうか。

 やんわりと拒絶しても泣いて縋られ、話が通じなくなる。

 求められているものが何なのかも理解できない。


「それならせめて……、せめて一度でいいから抱いてよ……! 抱いてくれたら諦めるから!」


 それを受け入れてしまったことが間違いだったのかもしれない。

 本当に一度で諦めてくれた女性がはたして何人いただろうか。適当に相手していればいいと思っていたのに、まさか人数が増えるとは思わなかった。


「他の子ばっかりずるいよ!」


 などと言われたこともある。

 情報共有でもしているのだろうか。

 腰を突き上げるたびに、甲高い嬌声を上げながら腰をしならせる様を冷めた目で見下ろしながら、嘆息が漏れ出るのを抑えられなかった。

 相手が果てればそれで終わり。一度で満足してくれない場合は、とりあえず足腰が立たなくしてしまえば良いと学んだ。


(うーん……。せめて、ファイカンやシグルフ兄さんと来た方がいいのかな……。けど、それでも声かけられたら余計に面倒だしなぁ)


 幸いなことにあれから盗賊に遭うこともなかったが、安全面とは別の意味で彼らと一緒には街に下りたくない。

 女性と一緒ならばとも思ったが、ファイカンに怒られるのでフィヨルはだめだ。アストリアはもっとだめである。色目を使う女性と喧嘩になりかねない。

 無邪気極まりない人だが、気の強い一面もあるのだ。


(バレたらお説教されそうだしなぁ……)


 考えるのも面倒になったスティルクは、とにかく行為は早く終わらせるようにしようと結論付けた。

 肌を見られたくないので着物を脱ぐこともなく、ただひたすらに相手を悦ばせるために反応の良いところを責め続ける。

 スティルクにとっての情事は、買い出しついでの面倒な雑事の一つに過ぎず、顔はまだしも名前を覚えている女性は一人たりともいなかったのである。

 弟を村一番の美男子になると宣言していた姉でさえ想定していなかった、罪作りな男の誕生だった。

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