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願う未来は永久にともに  作者: めこまる
第二章 少年とソルガン家編
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第21話 お守り

 ◇◇◇


 皆が寝静まった頃合いの夜のしじま、スティルクは家の裏にある鍛冶場へと足を向けた。窓から漏れ出る光と人の気配が、目的の人物がそこにいるであろうことを示している。

 ひょっこりと顔を覗かせると、はたして彼はそこにいた。作業台に向かい、険しい表情で青い水晶の欠片を転がしている。


「ソルガンさん」

「ぅおっ!」


 飛び上がったソルガンが胸を押さえながら振り向いた。随分と驚かせてしまったようだ。


「……スティルクか。お前は本当に静かに歩くなぁ……。眠れないのか?」

「びっくりさせちゃってごめんなさい。訊きたいことがあって……」


 歩み寄ると、作業台には水晶の欠片の他に、何やら古くて大きな書面が見えた。読める単語を拾っていくと、どうやら水晶についての記録らしいことが分かった。


「あ……」


 自分が壊してしまったからだと悟り、つい視線を伏せる。

 気まずさを察したのか、ソルガンは「あぁ」と呟いた。


「これのことはもう気にするな」

「……直るんですか?」

「直せはしないが、欠片があればまた育てられる。今はその設計書を調べていたところだ。この水晶は何代か前の長が創ったものでな。魔導具……というより、魔鉱石の一種なんだよ」


 魔鉱石とは、魔力を蓄える性質を持つ石の総称だと、少し前にフレイナに教わった記憶がある。

 

「これは内側に溜めた魔力が、注がれた命力に対して反応を示すように創られているんだよ。構成も難しいものではないから、次に必要になる頃には石も育っているだろうさ」


 そう言って、ソルガンはくしゃりとスティルクの頭を撫でる。

 大きな手の重みを感じながら、スティルクは彼を見上げた。


「ソルガンさんは、どうして僕の命力を測ろうと思ったんですか?」


 一つしか歳の違わないファイカンやフィヨルと出会って、スティルクは自分の身体が随分小さいのだと知った。そのとき、年齢を明かしたときのソルガンの反応の意味が、初めて分かった。

 本来なら身体が十分に育つまで使用されないはずの、命力測定用の水晶。

 同じ年頃の子供と比べても、体格の小さいスティルクには、不適格な代物だったはずなのだ。

 破壊してしまうまでは想定外だったかもしれないが、スティルクには彼が何かに勘付いていたとしか思えなかった。


「……スティルク。お前、儂と初めて会ったときのことを覚えているか?」

「え……」


 正直、そのときのことは曖昧で、おぼろげにしか覚えていなかった。意識が朦朧としていて、気を保つのに精一杯だったのだ。

 必死に記憶を呼び起こそうとしていると、低い声が囁くように告げる。


「儂がお前に声をかけて、目が合った。そのとき、凄まじい眼で睨みつけられてなぁ……」

「えっ、あの……、え?」


 言われてみればそうだったような気がして、背中に汗が流れ始めた。

 ソルガンの言葉に刺激されたように、脳裏にその瞬間の光景が蘇る。


 ──おい! そこのお前! こんなところで、子供が一人で何をしているんだ!


 そう言われ、怪しまれたと思ったのだ。深い森の中で遭遇した相手を、それまでと同じように敵(・)だと判断してしまった。

 薄れる意識を奮い立たせて、目の前の人間を睨み据えた。


 ──お前……何だその恰好は! 大丈夫か!? 怪我をしているのか!?


 直後にかけられた言葉がこちらを案じるものだったから、踏み込もうとしていた足を止めた。あれが一瞬遅かったなら、あるいは気絶寸前の状態じゃなかったなら──。


「あの瞬間のお前の眼光があまりの気迫だったんでな。気力の強い子だと思ったんだよ」


 ただの思い出を語るような、穏やかな口調だった。

 だがそれでも、スティルクは確信した。


(ソルガンさんは……全部、気づいてる……)


 向けられた瞳の意味を。

 刀を握る手に力を込めた意味を。

 そしてその刀が、何(・)を(・)し(・)て(・)き(・)た(・)も(・)の(・)な(・)の(・)か(・)を。


「あ……の、その……」


 言葉が出なかった。

 真っ直ぐに見据えてくる瞳を、ごまかせる気がしなかった。

 ソルガンは真正面に腰をかがめると、目線を合わせてスティルクの両手をそっと握りしめた。


「あのときお前が持っていた刀だが……」


 ビクリと肩が跳ねた。

 そのことを尋ねにきたのに、口にしてほしくない思いでいっぱいになる。


「刃こぼれもひどかったし、もう使用できそうにないから処分しようかと思っているのだが、かまわないか?」

「……ソルガンさんが、持ってるんですか?」


 唇が震え、掠れた声を絞り出す。

 問い返すスティルクに、ソルガンは苦しげに目を細めた。

 

「一応な。麻袋にくるんで隠してある。……できればあれは、皆には見せたくないんだ」


 おびただしい血痕のことを言っているのだろう。

 スティルクにとってもあれは、他の誰にも見られたくないものだった。

 それでもと、スティルクは懇願するように見据え返す。


「あれ……は、おまもり、だから……」

「お守り?」

「……刀が、僕を……まもってくれたから……」


 だから手放したくないのだと訴える。

 恐怖の対象だった刀が、唯一この身を護ってくれたものだった。

 思い出すたびにそれが手元にないことが心細くて、胸がそわそわしてしまう。


「……そうか。お守り、か。それは、あの刀でなければだめか?」

「え?」


 問われた意味が分からずに目を丸くすると、ソルガンはさらに続けた。


「あれでなくとも良いのなら、儂が新しいものを打ってやる。ただし、お前が成長し、きちんと扱えるようになるまでそれを抜くことは許さん。……どうだ?」

「……本当に?」


 言われてみれば、あの刀自体には思い入れなどない。

 なぜかあの家に飾られていただけの代物だ。

 安心材料としての刀を手にできるのなら、スティルクにとっては何でも良かった。


「儂はこれでもエルディンガル一族の長だ。それなりのものを打ってやる」


 言葉に込められた頼もしさに、ホッと肩の力が抜ける。

 また刀を手にできるのだと、期待で胸が満ちていく。


「ありがとうございます、ソルガンさん」


 スティルクは生まれて初めて、心から喜びの笑顔を浮かべた。

 それに複雑そうな表情をしながらも、ソルガンは優しくスティルクの頭を撫でたのだった。

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