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願う未来は永久にともに  作者: めこまる
第一章 光の贈り物編
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第1話 火の一族

 ◇◇◇


 シルバルク山脈より遥か東の辺境の地。そこには「火の一族」と呼ばれるエルディンガル一族の小さな村があった。

 彼らは更に東の民の血を引いており、魔導具作りに長けている一族だ。


「あんたの訪問は十八年ぶりか……」


 来客用のテーブルを挟み穏やかな口調で言うのは、一族の長ソルガン。長い歳月が黒かった彼の髪と髭に白を増やし、肩を少し丸めさせていたが、瞳にはまだ鋭い光が宿っている。

 その黒瞳を見つめ、差し出された湯呑を両手で包んだセリヴァルは微笑みを返す。


「そうだったかしら? 私にはわずかな期間なのだけど、ここは知らない顔も増えたわね?」

「フン。十八年も経てば子も大人になるし、さらに子が増えるのは当然だ」


 湯気をくゆらせる若草色の茶を啜り、ソルガンは続ける。


「他所から一族の仲間入りをした男も一人、おるしな……」

「他所から? 珍しいわね。婿入りした人でもいるの?」

「いや、儂の末の息子だ。拾い児なんだがな」

「ふぅん?」


 根っからの職人で無愛想な男ではあるが、ソルガンはお人好しな一面もある。一族の皆から慕われる彼が孤児を拾って養子にしたというのは、セリヴァルにとって別段驚くようなことでもなかった。


「あんたには会わせたいと思っていたんだ」

「私に? なぜ?」


 自分から言い出しておきながら、ソルガンがわずかに口ごもる。


「……あんたも知っての通り、儂らの創る魔導具は魔力ではなく命力を動力源としている」

「術者の気力・体力・生命力を使用するんでしょう? それぐらい覚えてるわよ」


 通常、魔導具を使用する際には術者の魔力がその動力源となる。自分では行使できない特定の魔術や魔法の奇跡を起こすために使われるのが魔導具だ。

 だがエルディンガル一族の魔導具はそうではない。魔力を有する者は命力よりも魔力の方が優先的に使用されてしまうため、この一族の魔導具は使用できないのだ。

 魔力を持たない人間のために創られているのが、エルディンガル一族の魔導具だった。


「十二年前、九歳だったあいつを拾ったんだがな。当時から凄まじい命力を秘めていた。弱い魔導具は何個か破壊されてしまったほどだ」

「へぇ? 九歳でそれはよっぽどねぇ……。でもここに着いてから、そんなに生命力溢れるような気配は感じなかったのだけど」

「だろうな。儂らも破壊されたときには驚いたが……。まぁ、あんたなら会えば分かるだろう」


 何が、と思うのと同時に玄関戸が叩かれる。

 控えめなノック音が耳に届き、セリヴァルは目を見開いた。


「え……?」


 玄関までの距離はそう遠くはない。

 姿は見えずとも、セリヴァルにとってのその距離は、来訪者の足音と気配を察知するには十分な距離のはずだった。

 それにもかかわらず、ノック音が聞こえるまでセリヴァルはその存在に気がつかなかったのだ。


「ソルガンさん。スティルクです」


 爽やかな若い青年の声。それにソルガンが「入れ」と応答すると、扉が静かに開かれた。

 毛先に癖のある黒い柔らかそうな髪に、眦(まなじり)がわずかに垂れた漆黒の瞳。一目で東の民族の血を引く者と分かる容貌。

 その青年はセリヴァルには見覚えのない人物であり、いわゆる好青年というような柔和な表情を浮かべていた。

 ためらうことなく中に入ってきた青年の立ち姿に、セリヴァルは無意識に眉根を顰めた。


(まさか、彼が……?)


 中性的で愛くるしく整った顔立ちの割に、しっかりと太い首筋をしている。ゆるりとした東方の着衣で体躯は分かりづらいが、真っ直ぐに伸びた背すじと、全く重心がぶれない立ち居振る舞いは武人のそれだ。

 そして何よりもセリヴァルを驚かせたのは、その姿を目の当たりにしてもなお感じられない彼の気配の薄さと、腰に提げた一振りの刀だった。


(剣士……? 争いを好まないエルディンガル一族に?)


 セリヴァルが思考していると、青年はこちらを向いてにこりと頭を下げた。ソルガンが立ち上がり、彼の傍へと歩み寄る。


「セリヴァル殿。こいつが末の息子のスティルクだ」

「……こんにちは。セリヴァルよ」


 セリヴァルも立ち上がり、努めて冷静に微笑む。

 先程のソルガンの話では、末の息子は凄まじい命力を秘めているはずではなかったか。今目の前にいる青年は、そのような絶大な力はおろか、気配そのものがあまりに薄い。

 正面に立ってみると、青年スティルクはそれなりに長身だった。見下ろしてくる漆黒の瞳が柔らかく細められる。


「初めまして、セリヴァルさん。スティルクです。話はソルガンさんから聞いています。若い人は知らない人も多いだろうから、みんなに紹介してやれって」

「? 聞いていた?」


 何の気なしに言われた言葉に首を傾げる。

 今回エルディンガル一族の村を訪ねるにあたり、事前にソルガンに連絡を入れるようなことはしていなかった。そもそも、セリヴァルは数代前の長の頃から不定期にここを訪れていたが、そんな気の利いたことをしたことは一度もないはずだ。


「なぁに。ただの勘だ」


 澄ました顔で言ったソルガンは再び着席し、ずずっと若草色の茶を啜る。その様子にセリヴァルは感嘆のため息をついた。


「まったく……。未来視の力もないのに、相変わらず鋭いことね」


 魔術師や魔導士の中には未来を視る力を持つ者もいるが、ソルガンにその力はない。だが彼はなぜか非常に勘が鋭いところがあった。

 事前に、なんとなく、彼はセリヴァルの来訪を察していたのだろう。


「あの……セリヴァルさん」

「何かしら?」


 ためらいがちに声をかけてくるスティルクに向き直ると、彼は頬をかきながら言った。


「セリヴァルさんって呼びにくいので、セラさんでもいいですか?」

「距離詰めるの早いわね。……嫌よ、なんとなく」


 穏やかでにこやかな表情に違わず軟派な男のようだ。

 そういう男も嫌いではないのだが、初対面から数分と経たずにセラの愛称で呼んできたのは夫以来だ。

 若干引き気味になっているセリヴァルにかまわず、スティルクは笑みのまま自然と手を差し出してきた。


「じゃあ、みんなのとこ行きましょうか」


 彼の手はそれが当然であるかのような所作でセリヴァルの腕を引く。

 

(人の話、聞かないタイプだわ……)


 セリヴァルは半ば諦めたように遠い目をしながらため息をつく。

 意味ありげなソルガンの視線を受けつつも、セリヴァルはスティルクに連れられて家を出たのだった。



明日以降は毎日投稿の予定です。

平日は朝8時、休日は昼12時のつもりですのでよろしくお願いします。

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