↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
願う未来は永久にともに  作者: めこまる
第一章 光の贈り物編
13/66

第12話 光射す

 ◇◇◇


 夜明け前。肌寒いそよ風を心地良く感じながら、セリヴァルは満天の星空を見上げていた。

 雲一つない、晴れた夜空だ。これなら目的のものが望めるだろうと、笑みを浮かべる。

 それと同時に、穏やかな声が耳に届いた。


「やっぱり、セラさんでしたか」


 セリヴァルが立っていたのは、小さな家屋の裏手だった。その陰から、スティルクが姿を現す。ソルガンの家で育った彼は、二カ月ほど前から、この家で一人で暮らしているらしい。

 一人の大人として自立を促すためだとソルガンは言っていたが、スティルクは大概のことは自分でできる上に、結局はソルガンともよく食事をともにしているので、はたして意味があるのかはよく分からない。


「ふふっ。驚いた?」

「まぁ、急に鳥がしゃべったから少しは驚きましたけど……」


 夜に訪ねたときには彼が留守にしていたので、家の屋根に手製の使い魔を残しておいたのだ。魔鉱石の欠片を核として、小枝を織り上げて鳥を模したものに幻術まで施し、普通の鳥に見えるようにしておいた。

 夜明け前、外に。

 彼が帰ってきたら、それだけを発して、小枝の鳥はほどける手筈にしたのだ。

 

「少ししか驚いてくれなかったのねぇ……。まぁいいわ。ちゃんと出てきてくれたしね」

「セラさんの声でしたからね。何か用でしたか?」


 声まで加工しておくべきだったか。悪戯心を込めた使い魔だったが、半分は失敗した気分である。

 気を取り直したセリヴァルは、手招きして歩き始めた。


「いい場所を見つけたの。時期的にもちょうどいいし、あなたにも見せてあげようと思って」

「見せるって、何を?」

「着いてからのお楽しみ! さ、早く早く!」


 唇に人差し指を立て、片目を瞑ってみせる。

 怪訝そうにしながらも、スティルクは素直についてきた。

 森の中、少し険しい坂道をしばらく並んで進んでいく。木々の間を縫うようにして進むたび、星の輝きが薄れ、空が白み始めていく。

 そうして、やがて景色が開けた場所へと二人はたどり着いた。


「ここよ」


 遠い眼下に、いくつかの集落が見える。小さな明かりが点々と散らばり、夜の終わりを静かに告げているようだった。

 それを正面に見下ろし、セリヴァルは地面に腰を下ろした。隣をぽんぽんと叩き、スティルクに座るよう促す。

 未だ状況が分かっていないながらも、彼はやはり言われた通りに腰を下ろした。

 セリヴァルは両手に竹皮の包みを一つずつ出現させ、片方をスティルクへと手渡す。


「はい。朝ご飯ってほどじゃないけど、小腹がすきそうだったから」

「……おむすび? まさかセラさんが?」


 竹皮を開いたスティルクが目を丸くしている。使い魔のときより驚いているように見えるが、残念ながらセリヴァルが握ったものではない。


「ソルガンを無理やり起こして作らせたのよ。西の珍しいお酒を対価にね」

「あぁ、なるほど……。確かに、大きさがソルガンさんっぽい」

「目をしょぼしょぼさせながら作っていたわ」


 スティルクが声を立てて笑った。

 三角の武骨で大きめなおむすびを前に両手を合わせ、「いただきます」と口にする。それに倣い、セリヴァルも両手を合わせた。

 一口齧ると、ほのかな塩味と米の甘みが舌に広がる。

 二口目で、焼き魚の具が出てきた。単純な作りでありながら、なかなか美味い。

 これも西方では口にできない食事で、セリヴァルはご満悦だった。


「それで、見せたいものっていうのは何ですか? あの集落?」

「いいえ。そのさらに、向こうよ。そろそろ来るわ」

「来る……?」


 セリヴァルの視線を追い、スティルクが気づいたように「あ」と呟く。

 遥か遠くの山々の隙間から、わずかに金色(こんじき)の光が漏れ始めていた。


「日の出……ですか」

「この前、散歩中にここを見つけてね。ちょうど東向きだなーって思って」


 視界いっぱいに広がる荘厳な光景。山の端に煌めく光が、ゆっくりと上昇し、眠りから目覚める空を鮮やかに染めていく。

 夜の暗闇が朝の輝きに上塗りされていき、世界が色を取り戻す瞬間だ。


「……すごいですね」


 感嘆の声を漏らすスティルクに、セリヴァルはニヤリと笑みを浮かべた。


「まだよ」


 彼に見せたかったのは、これだけではなかった。

 おもむろに両腕を前方へと伸ばし、


「もっと綺麗なものを見せてあげる」


 と、告げる。

 肌寒い季節が移ろい、暖かさを得始めるこの季節に、ここでしか見せられないものがある。

 広げた両腕を力強く振り上げたその瞬間、風が興った。周囲の木々が呼応するようにさざめき始め、森から森へと伝播していく。

 風と木々の輪唱が咲き誇る花弁を舞い散らせ、セリヴァルの腕の動きに合わせて、色彩豊かな花吹雪が日の出の輝きを乗せて空へと踊り出る。


「──っ!」


 スティルクは言葉を失い、息を呑んで眼前に広がる光景に目を奪われていた。

 この顔が見たかったのだ。

 友のおかげで心が動き始めている今の彼になら、届くのではないかと期待していた。


「この辺りには早咲きの花が多くてね。それがほぼ満開になるこの時期にしかできないことなのよ。……どう?」

「……綺麗です。本当に、それしか言えないくらい……」


 答える彼の声は、わずかに掠れていた。長い睫毛が震え、大きな黒瞳が色とりどりの景色を映し続けている。

 その姿を見つめながら、セリヴァルは満足して鼻を鳴らした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。