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「番いなんていらないし、関わりたくない……」 と言われました。そんな、抱き締められながら言われても……  作者: HARUHANA


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6.主導権の行方

 一夜明けて、こんなに頭が冴えてるとは思わなかった。寝れなかったわけじゃないけど、考え出したら止まらなくなってて。


 “僕は貴女を選ばない。だから、貴女も僕を選ぶな”


「……本当に、勝手な人」

「何か言ったか?」

「いいえ。何でもありません」


 フルフルと首を振った。選ばれるために行くんじゃないと、そう強く心に念じた。お父様と共に、昨日の今日で同じ部屋の同じ椅子に微笑んで座る陛下に頭を下げる。


「どうだ、考えはまとまったのか?」

「はい。この縁談、お受けいたします」

「そうか! それはめでたい」

「ただし――」


 頭を上げて、陛下とお父様を真っ直ぐ見つめた。


「条件がございます」

「……ほぉ。申してみよ」


 僅かな表情の歪みはあっても、国同士という規模の話……無下には出来ないでしょう。


「正式に進める前に――エイキ第二王子殿下と、直接お話する機会を頂きたく存じます。その上で、双方の合意が得られた場合のみ、この縁談を進めて頂きたいのです」


 何も応えないせいで、静寂が落ちる。断る理由はないにしても、簡単に頷ける内容でもない。


 でも、譲るつもりも毛頭ない。

 

「選ばれるだけの立場で、この話を受けるつもりはありません」

「……面白い。よかろう、この条件をスウィーデンに伝えよう」

「ありがとうございます」


 ……これでお互い逃げ道は、無くなった。頭の良い王子様なら、意味なんてすぐ分かる。


 私の出来ることは、やったつもり。あとは、国同士が勝手に進めてくれる。


「……っん、」

 

 張り詰めた緊張が解けたのか、ドクンッと胸が疼いた。いるはずのない、彼の香りが鼻を掠めたのは――どうして?



 ***



「……条件だと?」

「はい。番い様は、正式に縁談を受ける意思はあるものの、殿下本人との直接の意思確認を条件にされたようです」


 ソイルが、淡々と告げた。


「……はっ…………」


 思わず、乾いた笑いが漏れた。あれだけ突き放されて、この縁談を受ける……あの女が?


「随分、余裕だな」

「……そうですか? むしろ、逆では?」

「逆?」

「選ばれるだけの立場にはならない――という意思表示でしょう」

「……面倒なことを」

「ですが、理には適っています。断る理由はありません」


 ……逃げ道を、塞がれている気がする。国としても、王子としても。

 

「……で? その場とやらは、いつだ」


 ゆっくりと椅子に背を預け、面倒ごとを片付けるように聞いた。


「調整中ですが……恐らく、近日中に」

「……そうか」


 脳裏に浮かぶのは、あの日の顔。怒りと、戸惑いと、わずかな揺れを隠した瞳。


 ――あれで、終わったはずだったのに。


「……兄さんは、何か言ってたか?」

「ランドウェル王子ですか? いえ、特には……」


 どうせ、僕に関心なんてない。

 異母弟など、眼中にもない――聞くだけ無駄だったな。


「……なら良い。ウェルガリアからの日程が決まったら、すぐ知らせてくれ」

「御意」



 ――そして、早々に決められた日程通り、ウェルガリアからの馬車が到着した。決して短くない日数をかけて、わざわざ。


 出迎えにはいかず、自室の窓からその様子を見ていた。馬車から出てきた彼女は、クスリと笑うことなく上品にエントランスを抜けていく。


 ……正直、何度も夢に見た。しないはずの香り、感じるはずのない感触を……何度も。本人を前に……いや、遠目に見るだけで呼吸が多少なり乱れるのを、必死に整えているはずなのかな、厄介な本能とやらが牙を剥く。


「……っ、はぁ……早く、帰ってくれ……」


 彼女が通される部屋なら、分かってる。エントランスを抜けて、どこを通るのか、今どの辺を歩いてるのかすら……分かってしまう。

 もう少しすれば、きっとここにも迎えが来るだろう。仕方なく重い腰を上げて、彼女に会うんだ。


「どうしろと言うんだ……」


 蘇る記憶の端を意識すれば、この縁談を進めてはいけないと――自制出来る


「……そうだ。自制が全てじゃないか」


 何事もなかったように、平静に冷静に対処して……それで、それで――?


「エイキ様、お待たせしました。準備が整いました……けど、大丈夫ですか?」

「……何が」

「すごい顔してますけど、その顔で番い様に会われるんですか?」

「……うるさい」


 鏡なんて確認したら、それこそ期待してるように見えるじゃないか。

 そんな格好悪いこと……出来るか。


 設けられた、二人のための部屋。この扉を開ければ……いる。

 小さく溜息を吐いて、静かに室内へと踏み込んだそこには、整えられた距離に頭を下げた彼女がいた。


 夢で何度も見たはずの姿が、ゆっくりと顔を上げる。この距離も、輪郭も、温度も、全部が本物。


「……本日は、お時間をいただきありがとうございます」


 完璧な所作の彼女に言葉が返せないまま、無意識に視線を逸らした。意思とは裏腹に——手を伸ばしそうになるから……。

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