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「番いなんていらないし、関わりたくない……」 と言われました。そんな、抱き締められながら言われても……  作者: HARUHANA


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28.本当の姿

 全てが片付いて、肩の荷が降りたある日。我が主人、エイキ様が執務室の中を行ったり来たりしている。


「……あの、今度は何ですか?」

「良いよな、番いがいない奴は気楽で」


 あからさまな喧嘩を売られた気分。それでも主人に腹を立てては、側近は務まらないのだ。


「王妃様は、生涯幽閉が決まって……リゼ様のために結んだ協定が履行されて……何か、問題が?」

「……発情が来ない」

「はい? そりぁ、傷を負って強めの薬も飲んでましたし、来にくいんじゃ——」

「それじゃ、触れる理由が作れないだろ!」


 …………ただの八つ当たりか。


「リゼだって、あれ以来発情が来ていないし。やっぱりあの調香師の薬で発情が来なくなって……」

「でも、香りも戻りましたよね?」

「……確かに」

「どこにいるかも、分かりますよね?」

「……分かる」

「ならいっそ、発情に頼らず触れたら良いですよね?」

「……それが出来ないから悩んでるんだろ」


 我が主人は、ある時は「発情を消す薬を」と頼んでみたり、またある時は「発情が来ないから触れられない」と、番いがいない僕に向かって、気楽な奴と言う。毎日が退屈しないなんて、なんて幸せなことだろう…………はぁ。


「お言葉ですが、発情でガムシャラに触れるより、何でもない時の方が愛が深まりそうな気もしますけど……。ほら、それに初めては痛いって言いますし。黒豹の姿にでもなって毛繕いとか——」

「あ……」

「……何か?」

「……見せてない。本当の姿……」

「えっと、それじゃ番い様は、自分の夫が一体なんの獣人で、どの獣の妻になるかも知らないんですか? うわぁ……」


 獣人は、普段から人の姿でしか行動しない。それでも本来の姿になる必要も勿論あって、特にスキンシップの一つである毛繕いや手入れは番いだけに与えられる役目。


 ……とっくに見せてると思ってた。まだまだ互いが知らなければいけない重要事項が残ってるなら、発情の悩みも少しは薄れるだろう。


「行ってくる」

「どちらに? まさか、番い様の所ですか? 見てください。貴方が部屋をただ歩いてただけのせいで、仕事が一ミリも終わっていません。ですから出て行けませ——」

「すぐ戻る」

「あ、ちょ…………行っちゃった……」


 まぁ、体調が戻ってから番い様に会うのも我慢して、後処理やら執務をしてたのも知ってるから……()()なら目を瞑るか。


「……にしても……本当に、すぐ戻るのか……?」



 ***



「……はぁ」


 庭園を見渡せる窓に張り付いて、盛大な溜め息が溢れた。


「どうされたのですか? なんだか突っ込まなきゃいけないくらい、大きな溜め息でしたけど」

「……来てほしい時に来てくれないのよ」

「エイキ様ですか?」

「……違う。発情」


 王妃様のお茶と、怪しい弟子から貰った薬以来、それらしい発情が来ない。来たら来たでパニックになるのに、来ないなら来ないで……少し寂しかったりする。最近は、事件の後処理とか、寝込まれてた時の仕事が溜まってるとかで忙しい。会えるのも、一日のうち僅かな時間だけ。


「リゼ様も、寂しんですね。なら、リゼ様から訪問されたら良いじゃありませんか」

「忙しいのに……タイミングなんて分からないわ。それに……」


 キスしたい……なんて、自分から言えるわけない。


「はぁ〜あ、この窓からエイキ様が来てくれたらなぁ……」


 

 ——トスッ。


 

「……え? きゃっ……な、何っ!」

「リゼ様、お下がりください! 今、騎士を——」

「待って! シェリル……騎士様、呼ばなくて大丈夫」

「ですが……」


 突然、窓から黒い獣が飛び込んで部屋に入ってきた。驚いて後退りしてしまったけど……まじまじ見つめる瞳に、既視感を覚えた。


「……もしかして、エイキ様?」


 恐る恐る尋ねると、こくんと頷いて私の足元にそっと擦り寄って来る。まるで大きな猫のようで、思わず両手で口元を押さえた。


「か、可愛い……! シェリル、見て! エイキ様が……」


 でも、部屋の中には既にシェリルの姿はどこにもなくて、二人分のティーセットだけがテーブルに置かれていた。折角なら一緒に愛でたかったり……もしたけど、気遣いの出来るシェリルは絶対に、縦には首を振らないか。


「エイキ様、どうされたんですか? この姿でもお話出来るんですか?」


 でも、聞いてたところで答えは返ってこない。私の側から離れたと思ったら、ベッドに飛び乗り、ちょこんとお行儀よく座っている。見立てが間違っていなければ黒豹だと思うんだけど……それにしても大きい体で迫力があるのに、とても可愛らしい。


「撫でても……良いですか?」


 またしても、こくんと頷いた。


「綺麗な艶で、触り心地が最高ですね。うわぁ……すごい……」


 私の膝に顎を乗せて、随分と寛いでくれている。頭も背中も、いつものエイキ様だったら緊張して触れられないのに、この姿ならお構いなしに触れられる。それが、とても嬉しく感じれた。


「瞳の色は、同じなんですね——んっ!」


 思わず瞳を覗き込んだその時、ぺろっと口元を舐められた。恥ずかしくて顔が上気していると、楽しんでいるのか頬や手元までエイキ様の舌が色々な所に触れてくる。


「エ、エイキ様? そんなに……」


 くすぐったさに笑っていたら、今度はフニフニの肉球がドレスを踏んで、体勢を崩した私はベッドに倒れてしまった——

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