27.命日
「ソイル、報告を頼む」
ベッドからまだ降りる許可が出ていない僕は、リゼが席を外してる隙に現状報告を確認している。
「刺客は処刑し、調香師の男は現在も地下牢にいます。恐らく、今回使われた配合を再調合し、記録を残した後に何らかの処罰が下されるはずです」
「そうか……」
「それと、王妃ですが……北の塔に幽閉されました。具体的な理由は公表されていませんが、陛下の命令が下されたそうです」
「報告もなしに命令が出たなら、僕と同じように確証を待ってたんだろう……父さんの心には、一緒届かないな」
それでも、母さんを今も想ってた父に安堵した。番いだとしても、失えば気持ちも薄れるなんて事があってほしくないと切に願っていたから。
「体調が回復し次第、報告しに行くと伝えてくれ」
「御意」
リゼは、自分が勝手に動いて申し訳なかったと気落ちしていたが、結果的に見れば、やっぱりリゼのおかげだ。こうして全ての想いを救ってくれたのは間違いなく彼女なのに、どうやって伝えても届いていない気がする。
「リゼに、何かしてやりたい……」
「何だか、落ち込んでいますよね。エイキ様の気持ちが伝わるような方法、あれば良いのですが」
「あ……」
「浮かびました?」
「……明日の受診で、外出許可が出るなら——」
***
「リゼ様、お出掛けのお支度をしましょう!」
「外出の予定なんてあったかしら?」
「エイキ様の外出許可が出たそうです。デートのお誘いですよ、きっと」
あれだけの傷を負って、外出許可が出ただけで……デート? 俄かに信じ難いけど……。
「ソイル様から、なのよね?」
「ですね。ですから早めに支度しましょう」
一抹の不安を抱いたまま、外出着に着替えて廊下を進んだ。いくら「リゼのおかげで解決した」と言われても、結局エイキ様が怪我をしたのは私のせいで……とてもじゃないけど、自分のおかげなんて思えない。
下を向いて歩きながら、溜め息を履いた。
「リゼ」
……ピタッと止まって、下を向いたままの視界に映り込んだ見覚えのある靴。ゆっくり視線を上げると、久々に王族らしい服を着たエイキ様が立っていた。
「だ、大丈夫なんですか? まだ安静にしてた方が……」
「そんな事より、一緒に来て欲しい場所があるんだ」
「でも……」
「良いから、おいで」
向こうに、馬車の戸を開けるソイル様も見える。表情だけを見れば、随分顔色も良さそうだし、今までと変わらないエイキ様の姿がそこにある。
馬車はどんどん前に進み、気付けば綺麗に整備された林道を抜けていく。隣に座るエイキ様と手を繋ぎながら、美しい景色に目を輝かせた。
「着いたよ。ちょっと、ビックリするかもしれないけど」
「……?」
馬車を降りて、少し歩いた先——
「……ここって……」
「うん。母さんのお墓なんだ」
思わずエイキ様を見つめた。まさか行き先が……亡くなられたお母様のお墓なんて、本当に想像していなかったから。服装だって、普通の服で……。
「言ってくだされば、きちんとした服装を……」
「ありのままの僕らを見て欲しいと思ったから、これで良い。これが良いんだ」
手を引かれて大きな墓石の前で、ソイル様が用意していた花束を受け取った。
そっと花束を供えて、手を合わせた。
「母さん、リゼが僕の番いなんだ」
屈んだ私の隣で、エイキ様がそう言った。そして「全て、リゼが解決してくれたよ」と……。
「エイキ様……」
「リゼが疑問を抱き、立ち向かって、解決の糸口を掴んでくれたんだ。母さんの無念を晴らしてくれたリゼを、今日どうしてもここに連れてきたかった」
私を引き上げるように手を伸ばし、エイキ様の隣に立った。
「母さん。僕は、生涯をかけてリゼを守り抜くよ。何度だって盾になる。だから安心して見守っていて欲しい」
まるでその決意に反応するかのように、優しい風がサーッと通り過ぎた。ふわりと舞う髪を、そっとエイキ様が掬い、私の頬に触れた。
「リゼ」
「……はい」
「これから先、何があっても盾になると誓う。今回のように後悔する場面が、もしかしたらまたあるかもしれない。それでも、リゼはリゼの思う通りにすれば良い。必ず、そばにいるから」
「また……エイキ様が怪我したら……」
「死なないよ。絶対、君を残して死んだりしない」
「……こんなの、ズルいです」
落ち込んでた私を、エイキ様のお母様が眠るお墓の前で慰めるなんて、ズルい。
「今日が、母の命日なんだ」
グッと引き寄せられ、「だから」と言葉を繋いだ。
「悲しみに暮れるだけの墓参りにしたくなかった」
「……私も、お義母様にご挨拶して宜しいですか?」
「あぁ、母さんも喜ぶ」
もう一度、頭を下げて墓石を見つめた。
「リゼ……フランセスです。ご縁があって、エイキ様と番いとして出会えました。私を受け止めてくれて……理解してくれるエイキ様と、二人並んで歩んで行こうと思います。シルビア様が守りたかったもの、今度は私が守っていきます。きっと、きっとお約束します……」
不思議と熱いものが込み上げて、一筋の涙が溢れた。気付いたエイキ様が、自分のハンカチで拭い、そして優しいキスをした。
「逞しい番いだな」
「怠けていたら叱られるかもしれませんね、ふふっ」
悩みなんて呆気なく溶かして、エイキ様が笑った——




