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「番いなんていらないし、関わりたくない……」 と言われました。そんな、抱き締められながら言われても……  作者: HARUHANA


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25/29

25.溢れた願い

24話を2026.6.25改稿しています。初稿をお読みの方は、ご注意下さい。

 ――ガチャ。カツ……カツ……


「……死ね」


 ――グサッ……


「……っ、な……いない!」


 


 狙い通りで、ハッと笑いが出た。


「誰だ!」

「……それは、こちらのセリフだ。ここに、リゼはいない」

「……」

「深夜にリゼの部屋でナイフを立てるとは……余程死にたいらしい」

「チッ……」

「誰の命令か、吐いてもらおうか」

「……誰が言うか」

「そうか……。なら続きは取調室でやろう。番いの部屋に他の男がいるだけで、耐え難いんでね」


 どうせ、王妃の仕業だと証言はしないだろう。それでも、このままにはしておかない。


 ――その時。廊下から聞こえた……声——


「リ、リゼ様! お戻りください!」

「エイキ様は、ご無事ですか!?」

「なりませんっ! あっ」


 扉の向こうに現れたリゼの姿と、暗闇に見える刺客の細い笑み。


「……いた」


 一瞬のうちに、刺客がリゼに向かって投げた短剣。それを庇うように飛び出した――


「エイキ様!!!!」



 ***



 別室に移動したは良いけど、落ち着かないせいか色々な思考を巡らせてしまう。ここに移った理由を、ソイル様は『安全のため警護しやすい部屋』と言った。でも、本当にそれだけが狙い?


 それに、私は弟子を狙うように挑発してみせたけど……ここにいる護衛の数は、どうみても尋常じゃない。弟子ではなく……私を狙うと思っての行動だとしたら——


  一瞬、エイキ様の香りが鼻を掠めた。


「……胸騒ぎがする」

「もう遅いですし、早くお休みに——」

「行くわ」

「……リゼ様? 部屋から出てはなりません! お、お待ちください!」


 わざと王妃様を挑発した。これ以上、エイキ様を苦しめるのは許せないと思って、弟子の話をしたけど……。


 だけど……もし、私の部屋をエイキ様が利用したとしたら――


「リ、リゼ様! お戻りください!」

「エイキ様は、ご無事ですか!?」

「なりませんっ! あっ」


 部屋の中に見えた二人の影。キラッと光る刃物。


 あまりに一瞬の出来事で、立ち尽くしてしまった。庇うように前に出たエイキ様が、ゆっくりこちらに倒れてくる――


「エイキ様!!!!」


 膝から崩れ落ちるように倒れ込む、その身体を抱き留めた。温かいのに、指の隙間からこぼれていく血の滴り。


「……リ、ゼ……」

「やだ……っ、やだ」

 

 ぎゅっと、血に濡れた服を掴んだ。こんなつもりじゃなかった……私は、ただ……エイキ様を守りたかっただけなのに……!


「急いでお医者様を!」


 ソイル様を含め、その場の全員が最善を尽くすために動き始めた。窓から逃げようとした刺客を騎士が捕え、医者を呼ぶために駆けて行く人の足音。


「私のせい……ごめんなさい……お願い、止まって!」


 必死に抑え込むのに、止まらない血。でも、泣いたって何も始まらない。私が……助けるんだ。

 

「……大丈夫! 大丈夫、絶対助けるから。だって……私は、貴方の番いだから。何度だって、取り戻してみせるから」


 叫びに近い声が、静まり返った空気を震わせた。


 ――その瞬間。

 

 胸の奥を、何かが強く引き裂く感覚に息が止まる。じわじわ込み上げる熱……血の匂いに負けないエイキ様のあの香りを……感じる。

 ドクン、ドクンと心臓が暴れて、消えかけていた繋がりが、無理やり引き戻されるみたいに、全身を熱が駆け巡った。甘いはずのそれは痛みに近くて、鋭く胸を刺した。


「エイキ様……っ」


 止めどなく溢れて、身体中に香りが流れ込んでくる。


「……死なせない……!」


 強く抱きしめた瞬間、微かに指が動いた。


「……リ、ゼ……」

「……戻ってきて……エイキ……」


 額を重ねて、祈るみたいに目を閉じた。


 絡み合う呼吸の中で、途切れかけたはずの鎖が――もう一度、ゆっくりと繋がり始めていた。



 ――――――



 朝になっても、エイキ様は目を覚さない。


 お医者様の治療の甲斐もあって、一命は取り留めたものの、意識が戻るかどうか……依然、厳しい状況に変わりはない。今は、穏やかに眠る姿に祈るだけ。


「エイキ様、私……徐々に、戻ってます。貴方の香り、ちゃんと分かりますよ」


 瞳を閉じれば、心の中のエイキ様は、そっと微笑んで「諦めなくて正解だろ」って。


「今、私が発情したら……どうするんですか?」


 なんて、冗談も言える。私の発情は、エイキ様しか解けない……じゃなくて、エイキ様しかいらない。


「早く目を覚ましてくれないと……困るんですけど」


 そっと笑いかけてみた。だって、他愛もない話をしてたい。悲しみに溢れる会話より、クスッと笑ってしまうような……笑みが溢れる話がしたい。


「今度、発情が来たら……その時は、貴方と一つになりたいよ。そうでしょ、エイキ様」

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