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「番いなんていらないし、関わりたくない……」 と言われました。そんな、抱き締められながら言われても……  作者: HARUHANA


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20/29

20.過去と同じ道

 本を閉じて、ふぅと小さく息を吐いた。

 ここ数日は、穏やかな時間が続いている。


 エイキ様は、少しでも事実に辿り着けたかしら。私を巻き込みたくない、そんな態度だったから、全てを明らかにしないと話してはくれないでしょうね。


「リゼ様」


 扉の向こうから控えめな声がした。


「王妃様付きの者がお見えです」

「……分かりました。通して下さい」


 扉が開き、見覚えのある侍女が一礼した。


「王妃様が、お時間を頂きたいと」

「今から、ですか?」

「はい。少しだけお話をと」

「支度をしたら向かうと伝えて下さい」

「はい」


 シェリルの視線から、心配されてると感じる。エイキ様に……お伝えするべきか、少し悩んで止めた。私のせいで、時間を割くのは何か違う気がしたから。


 

 ――案内されたのは、以前と同じ温室のような部屋。花の香りと、どこか甘い空気。


「いらっしゃい、リゼさん」


 変わらない微笑みの王妃様に会釈した。


「お呼び立てしてしまって、ごめんなさいね」

「いえ……」


 ソファに腰を下ろした瞬間、ふわりと香りが溢れたけど……こんなに、甘かったかな?


「今日はね、少しだけお礼を言いたくて」

「お礼ですか?」

「えぇ。あの子が……少し変わった気がするの」


 琥珀色の微かな花の香りが、カップに注がれる。


「貴女のおかげね」

「……そんな、大したことは」

「いいのよ、謙遜なんかしなくて。人を変えるのは、いつだってキッカケだから」


 一口含んだ瞬間、舌に残る違和感のあるお茶に、少し表情を崩してしまった。


「……どうかした?」

「いえ……少し珍しいお味で」

「特別な茶葉なの。体を落ち着かせるのよ」


 そう言われれば、少し……身体が軽いような。


「ねぇ、リゼさん。守られるって、どういう気分?」

「え……?」

「大切にされること。選ばれること……それって、努力で手に入れたもの?」


 ――瞳の奥が、少し怖い。


「私は……分かりません。ただ――」


 浮かぶのは、エイキ様の微笑んだ顔。


「自然と、そうなってしまっただけで」


 静かな相槌と、王妃様の目が僅かに細められた。

 

「やっぱり、そうなのね」


 何でそんな事を……? そう聞こうとして、一瞬視界が霞んだ。


「少し、空気がこもっているわね」


 王妃様が、窓をわずかに開けた隙間から流れ込む外気が、とても心地良い。


「最近、街には出た?」

「え……? はい、この間」

「そう。あの子も一緒だったとか」

「なぜ――」

「護衛の報告よ。外を知るのはとっても良いことよ」


 鈍る思考の中で、なぜ私がここに呼ばれたのか考えるのに……分からない。私から何を探りたいの……?


 王妃様がカップに口を付けたのを確認して、もう一口……と、思った瞬間。


 ――チリン……


 ポケットのサシュから、微かな鈴の音が聞こえた。それと同時に、いつも近くに感じるはずの香りが——


「……え?」

「どうしたの?」

「……いえ」


 あることが当たり前になってた、エイキ様の香りが……でも、上手く言葉に出来ない。


「顔色が優れないわね。少し、外の空気を吸ってきたらどう?」

「……外ですか?」

「えぇ。ちょうど、頼みたいこともあるの。城下に、小さな店があるの。これを」


 差し出された包み。


「すぐに届けてもらえるかしら」

「……すぐに……」

「えぇ。簡単な用事よ」


 誰でもない、王妃様からの依頼を断る理由がない。

 

「……分かりました」

「ありがとう、助かるわ」


 満足げに微笑む王妃様が、静かに立ち上がった――



 ***



「エイキ様、ありました」

「……やはり」

「これです。当時の調香師とその弟子です。多額の金銭を受け取ったのち、城外に出ていました。今現在、弟子をしていた者が城を出入りしていると確認出来ましたので、騎士団員数名が向かっています」

「分かった」


 母さんの香りが消えたのは、お産が近いからだと思ってた。だが、それ以外の理由で――意図的に消せるなら。


 ――その時だった。

 胸の奥を、鋭く抉るような違和感が走る。

 

「…………ソイル」

「はい?」

「……今、リゼはどこにいる」

「どこって……エイキ様の方が分かるんじゃ――」

「香りが消えた……」


 いつもなら、どれだけ離れていても微かに感じるはずの気配が――完全に途切れている。


「……そんな、馬鹿な……」


 あり得ない。あっていいはずがない。


「……消された?」


 自分の口から出た言葉に、背筋が粟立つ。机の上の資料に視線を落とした。


 “香りが消え”

 “所在不明”

 “発見時――”


「……っ」


 呼吸が浅くなる。


「ふと思ったんですけど……まるで、この調査書のよう……ですね……」


 ……違う。似ているんじゃない。


「同じだ……」


 母さんが辿った道と、完全に一致してる――


「リゼが、危ない……!」


 ガタンッ!!と椅子を蹴り飛ばして立ち上がり、勢いよく羽織を掴む手が、わずかに震えている。


 間に合うのか? いや、間に合わせるしかない。


 ――コンコンコン!!

「至急のお知らせに参りました!」


 扉を叩く音と同時に、騎士が飛び込んでくる。


「弟子だった男を捉えました。が、訳の分からない事を繰り返し言うだけで話にならず――」

「なんと言ってる」

「それが……」


 一瞬、言い淀んで口を開いた。


「もう香りはない。見つけることも出来ない……歴史は繰り返される、と」


 その言葉を聞いた瞬間。

 心臓が、止まったような錯覚に陥った。


「……ふざけるな――繰り返させるか」


 拳を握って、廊下を飛び出した。

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