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「番いなんていらないし、関わりたくない……」 と言われました。そんな、抱き締められながら言われても……  作者: HARUHANA


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18/29

18.告白

 抱き締められて、耐えられない熱を溶かしてく――


「……殿下っ、私……」

「ん?」


 それでも消えない疼きを、どうにかしたくて彼の袖を掴んだ。少し顔を離して、心が欲する場所を注視してしまう……。もう、どうしようもなく、はしたない自分が出てくる。


「楽になりたい……キス……して良いですか?」

「……許可なんか、いらないだろ」

「……っ、ごめん……なさい。離れなきゃ……なのに――」


 欲しいのに、振り払うように下を向いた。私が離れれば、この人は傷付かないで済む……はずなのに、キスして欲しいなんて。嫌だと思ってた矛盾が、自分を苦しめる。


「……んっ!」


 それなのに、私の顔を優しく包んだ彼の手が導くままに、唇が重なる。浅くなる息を整える暇もなく、求めるように重ねた。


 きっと、私は逃れられない――




 

 

「……少しは、マシか?」

「……はい」


 力が抜けた身体を預けて、呼吸を整える。


「約束を……ルールを破って済まなかった」

「呼んでないのに、って約束ですか……?」

「あぁ」

「それなら……私もです」

「……困っ時には呼べ、って約束か?」

「はい」


 お互い様だなって、小さく彼が笑った。

 呆れてはいても、怒ってはない。それは、私も一緒だ。


「王妃様に、会いました」

「知ってる。俺のことを聞いたんだろ?」

「はい。守られてると言ったら、傷付く前に離れた方が良い……そう言われました」

「……俺は――」


 顔は見えない。だけど、何か決心したように深呼吸して、言葉の続きを話し始めた。


「俺がもっと子供の頃、母さんの香りが一時消えたんだ。だから、母さんがどこにいるか分からないと、父と必死に探した。いつもいる場所にもいない、それは必死に……」


 私の肩に、彼の額がもたれかかった。


「見つかったと聞いて、慌ててその場所まで走ったんだ。そして、思い切り飛び込んだ――」


 絞り出すように。


「お腹に赤子がいたのに、知らずに飛び込んだせいで死産……したと、言われた。その予後が悪く、母さんも……。だから母さんが死んだのは俺のせい……」

「だから……」

「そう、最愛を亡くした父を見ていたし、僕も母さんが大好きだった。自分の行動一つで、全ての歯車を狂わせることを知ってる。だから、俺は自分の運命からずっと逃げてきた」


 ……きっと、ずっと自分を責めて生きてきたんだ。小さい身体で、耐えてきたんだ……。


「……私がいたら、辛い……ですよね。離れた方が……楽ですか?」

「……それは――」

「それでも……私が、貴方のそばにいたいって言ったら……受け止めて、くれますか?」


 ハッと顔を上げて、私を見つめる。

 中途半端な覚悟なら絶対にこんな言葉、口にしない。それを理解した上で、私を見てるんだと分かる。


「……傷付けるかもしれない……」

「構いません」

「受け止めたら二度と……離せない、と思う」

「はい……」

「……幸せに――なれるだろうか」

「……分かりません」


 一瞬だけ、彼の表情が揺れる。


「でも……それでも、貴方といたいです。今まで諦めてきた分、幸せになりませんか?」


 ポタッと、彼の瞳から涙が落ちた。


 そんな彼を、今度は私が優しく抱きしめた……。



 ***



 こんな風に、心を開いたのは……母さん以来、かもしれない。人に涙を見せるなんてこと出来なかった僕が、こんなに自然に泣くとは、思いもしなかった。


 言葉が無くても、ただ重なった体温と、落ち着いていく呼吸だけがそこにある。


 発情を満たすのとは、また違った充足感。

 

「……一つ、聞いても良いですか?」


 腕の中で、リゼが首だけ俺に向けた。


「ん?」

「どうして、お母様の香りが一時消えたんですか?」

「……生まれる予兆、と聞いた」

「それまでお母様の懐妊を知らなかったんですか?」

「……周囲には内密にしてたらしい。ただでさえ、母さんは側妃だったから」


 聞かれる言葉の一つ一つに答えると、一つの疑問が生まれた。


「生まれる予兆があるなら、姿を消したり……しないですよね」

「病院で治療して帰ってきたらしい。馬車から降りたのを見て、飛び込んだから」


 ……リゼの表情が、何を捉えているのか、俺には分からない。真剣に、何かを考えて――


「それって……本当に、殿下のせい……でしょうか」


 ――ドクンッと、心臓が鈍い音を立てた。


「……どういう意味だ」

「生まれる予兆で体調を崩したなら、お医者様が来られるはずです。ましてや、内密にされたお産なら尚更」

「……」

「外に出ざるを得ない状況で偶然、殿下の行為があったとしたら――」


 指先が僅かに震えている。

 

 鮮明には思い出せない、断片的な記憶の中。確かに、父すらも必死に探したあの状況を、母さんが作ったのだろうか……?


「もし……事実が別にあったとしたら」


 ほんの少しだけ、僕から身体を離したリゼが、真っ直ぐ真剣な目で――


「殿下は……どうしますか?」


 問いかけられた言葉の意味を、すぐには飲み込めなかった。


「……どうする、とは」

「もし……本当は、殿下のせいじゃなかったとしたら」


 その言葉に、反射的に顔を歪めた。


「やめろ。それ以上、踏み込むな」


 脅してるわけじゃない。怒っているわけでもない。胸の奥に押し込めてきたものが、あまりに長いから。


「俺は……あの時、あそこにいた」

「……はい」

「俺が飛び込んだ。それは事実だ」

「でも――」

「結果は、変わらない」


 遮るように言い切った。今まで、それで終わらせてきた。それ以上、考えないようにしてきたんだ。


「事実が別にあっても、殿下は……自分を責め続けたまま生きていくんですか?」


 答えられなかった。


 今まで一度も、そんな可能性を考えたことがなかったから。

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