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「番いなんていらないし、関わりたくない……」 と言われました。そんな、抱き締められながら言われても……  作者: HARUHANA


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13/29

13.鈴の音

 だいぶ持て余してしまう。それもそうよね……私は、お姫様に生まれたわけでも、この国の住人でもないもの。


「リゼ様、気分転換に街へ行く許可を得てはどうですか?」

「街……なんて、許してもらえるかしら」

「多分、護衛は必須でしょうけど。嫁ぐかどうかは置いておいて、この国を知るのは良い機会ですよ」

「……それもそうね」


 ソイル様へ相談するため、シェリルが部屋を出た。滞在が長引くことを考えれば、これも良い機会かもしれない。


 しばらくしてシェリルが、にこにこ笑顔で帰ってきた。


「早く行きましょう、リゼ様。良い場所を聞いたんですよ」

「それが笑顔の理由なのね」

「リゼ様もきっとびっくりしますよ」


 促されるように、外出用の服に着替えた。


「それと、これを身に付けて欲しいそうです」


 そう言って手渡されたのは、可愛らしい模様の入ったサシュだ。小さな鈴も付いて、チリンと音を鳴らす。


「これは?」

「ソイル様に、『お守りに持ってて欲しい』と渡されました。念のためポケットにでも入れておいてくださいね」

「可愛いお守りね」

「さぁ行きましょう! ソイル様が、馬車も手配してくれてますから」


 ……ソイル様、随分と用意周到ね。まさか予め……まさか、ね。


 それでも一歩馬車に乗って揺られれば、外に見える新しい景色に釘付けになった。


「さぁ、リゼ様。どうぞ」


 賑やかな通りと一本離れた路地に降りて、身だしなみを整えた。

 初めての場所は、やっぱり勝手も分からないし不安もある。ふと、後ろを振り返った時、護衛に就いてくれる騎士様が三名……。


「あの……良かったら、街を案内してもらえないかしら」


 騎士様が互いを見合い、一人が頭を下げた。

 

「……我々で宜しいのですか?」

「えぇ。初めてだから、お願い出来たらとても嬉しいのだけど」

「はい、喜んで。どのような場所に興味がありますでしょうか」


 まだ、昼食までは時間がある。別に宝石とかドレスも、そんなに興味はない……それなら――


「特産品がたくさんあるお店屋さんとか、この国が知れる場所に行きたいわ」

「それなら、おすすめの店があります」


 前に一人、後ろに二人。挟まれるように、賑やかな街の中を見渡しながら進んで行く。


「ねぇ、獣人の方の割合は結構多いの?」

「対比で言えば6対4くらいの割合でしょうか。純血も混血も獣人扱いですので、割合としては多いかもしれません」

「見た目に分かる人と、そうでない人……見分けるのは難しそうね」

「獣人には明確な違いが一つだけあります」

「身体に印、とか?」

「いいえ。明確に、番いの気配を感じ取れることです」

「……気配?」

「はい。視覚や聴覚とは別の感覚で、特定の相手だけを強く認識します」


 胸の奥が、ドクンと音を立てた。


「それって……距離は関係あるの?」

「個体差はありますが……強い結びつきであれば、かなり離れていても分かるかと」


 無意識に、胸元を押さえた。さすがに……お城と街じゃ、無理でしょう。


「こちらのお店です。我々は、外で待機してますので、ごゆっくりどうぞ」

「ありがとう」


 見たことない物ばかりで、シェリルと目を輝かせてしまう。美しい工芸品やガラス細工、精巧な編み込みの羽織――


「美しいお客さん、こちらがお勧めですよ」


 ふと聞こえた声に振り返った。店員と思われる男性が、先ほど見ていた編み込みの羽織を手に持っている。


「この地方独特の製法で、一点ものですよ」

「ふふっ、商売上手だこと」

「騙されたと思って」


 試すために羽織を広げ、待ち構える店員さんの言葉に甘えて試そうとした、その時。


 ――チリンッ……


 服が擦れたのか、ポケットの鈴が鳴った。不意に訪れる香りに思わず「……んっ、」と、口と鼻を塞ぐように手を覆った。もしかして——


「その色よりも、こっちの方が似合う」


 店員と私の間を割るように……殿下が視界いっぱいに広がった。



 ***



 勢いよく立ち上がったせいで、椅子がガタッ、と音を立てた。


「な、何事ですか?」

「……出てくる。午前中の公務は、取り下げてくれ」

「え!? ちょ、ちょっとエイキ様!?」

「彼女が、街にいる」

「それが何か?」

「……守れない。この距離で、他の匂いが混じるのは……無理だ」

「護衛、三人も付けてますよ!?」


 そんな声は無視して、本能のままに馬を走らせた。


 ――チリンッ……


 突然鳴る、耳の奥に響く鈴の音。王家の馬車を見つけ、残り香を頼るように彼女を辿った。


 そして。呼吸を整え、一つ羽織を持って――


「その色よりも、こっちの方が似合う」


 色目を使う男の間に、割って入った。多分、俺が近いから匂いを感じているんだろう。口元を覆う彼女の手に触れかけたが、約束が脳裏をよぎって止めた。


「……殿下っ」

「ほら、こっちの方が似合うだろ?」

「……っ、綺麗ですが……」

「それとも、あっちの方が好みか?」


 視線を男に移し、少しだけ睨みを効かせた。ビクッと肩を揺らし「ど、どうぞごゆっくり」と消えて行く定員に、内心舌打ちをした。


 自由に過ごして欲しいのに、巣に連れて帰りたい……また、矛盾が生まれた瞬間だった。

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