13.鈴の音
だいぶ持て余してしまう。それもそうよね……私は、お姫様に生まれたわけでも、この国の住人でもないもの。
「リゼ様、気分転換に街へ行く許可を得てはどうですか?」
「街……なんて、許してもらえるかしら」
「多分、護衛は必須でしょうけど。嫁ぐかどうかは置いておいて、この国を知るのは良い機会ですよ」
「……それもそうね」
ソイル様へ相談するため、シェリルが部屋を出た。滞在が長引くことを考えれば、これも良い機会かもしれない。
しばらくしてシェリルが、にこにこ笑顔で帰ってきた。
「早く行きましょう、リゼ様。良い場所を聞いたんですよ」
「それが笑顔の理由なのね」
「リゼ様もきっとびっくりしますよ」
促されるように、外出用の服に着替えた。
「それと、これを身に付けて欲しいそうです」
そう言って手渡されたのは、可愛らしい模様の入ったサシュだ。小さな鈴も付いて、チリンと音を鳴らす。
「これは?」
「ソイル様に、『お守りに持ってて欲しい』と渡されました。念のためポケットにでも入れておいてくださいね」
「可愛いお守りね」
「さぁ行きましょう! ソイル様が、馬車も手配してくれてますから」
……ソイル様、随分と用意周到ね。まさか予め……まさか、ね。
それでも一歩馬車に乗って揺られれば、外に見える新しい景色に釘付けになった。
「さぁ、リゼ様。どうぞ」
賑やかな通りと一本離れた路地に降りて、身だしなみを整えた。
初めての場所は、やっぱり勝手も分からないし不安もある。ふと、後ろを振り返った時、護衛に就いてくれる騎士様が三名……。
「あの……良かったら、街を案内してもらえないかしら」
騎士様が互いを見合い、一人が頭を下げた。
「……我々で宜しいのですか?」
「えぇ。初めてだから、お願い出来たらとても嬉しいのだけど」
「はい、喜んで。どのような場所に興味がありますでしょうか」
まだ、昼食までは時間がある。別に宝石とかドレスも、そんなに興味はない……それなら――
「特産品がたくさんあるお店屋さんとか、この国が知れる場所に行きたいわ」
「それなら、おすすめの店があります」
前に一人、後ろに二人。挟まれるように、賑やかな街の中を見渡しながら進んで行く。
「ねぇ、獣人の方の割合は結構多いの?」
「対比で言えば6対4くらいの割合でしょうか。純血も混血も獣人扱いですので、割合としては多いかもしれません」
「見た目に分かる人と、そうでない人……見分けるのは難しそうね」
「獣人には明確な違いが一つだけあります」
「身体に印、とか?」
「いいえ。明確に、番いの気配を感じ取れることです」
「……気配?」
「はい。視覚や聴覚とは別の感覚で、特定の相手だけを強く認識します」
胸の奥が、ドクンと音を立てた。
「それって……距離は関係あるの?」
「個体差はありますが……強い結びつきであれば、かなり離れていても分かるかと」
無意識に、胸元を押さえた。さすがに……お城と街じゃ、無理でしょう。
「こちらのお店です。我々は、外で待機してますので、ごゆっくりどうぞ」
「ありがとう」
見たことない物ばかりで、シェリルと目を輝かせてしまう。美しい工芸品やガラス細工、精巧な編み込みの羽織――
「美しいお客さん、こちらがお勧めですよ」
ふと聞こえた声に振り返った。店員と思われる男性が、先ほど見ていた編み込みの羽織を手に持っている。
「この地方独特の製法で、一点ものですよ」
「ふふっ、商売上手だこと」
「騙されたと思って」
試すために羽織を広げ、待ち構える店員さんの言葉に甘えて試そうとした、その時。
――チリンッ……
服が擦れたのか、ポケットの鈴が鳴った。不意に訪れる香りに思わず「……んっ、」と、口と鼻を塞ぐように手を覆った。もしかして——
「その色よりも、こっちの方が似合う」
店員と私の間を割るように……殿下が視界いっぱいに広がった。
***
勢いよく立ち上がったせいで、椅子がガタッ、と音を立てた。
「な、何事ですか?」
「……出てくる。午前中の公務は、取り下げてくれ」
「え!? ちょ、ちょっとエイキ様!?」
「彼女が、街にいる」
「それが何か?」
「……守れない。この距離で、他の匂いが混じるのは……無理だ」
「護衛、三人も付けてますよ!?」
そんな声は無視して、本能のままに馬を走らせた。
――チリンッ……
突然鳴る、耳の奥に響く鈴の音。王家の馬車を見つけ、残り香を頼るように彼女を辿った。
そして。呼吸を整え、一つ羽織を持って――
「その色よりも、こっちの方が似合う」
色目を使う男の間に、割って入った。多分、俺が近いから匂いを感じているんだろう。口元を覆う彼女の手に触れかけたが、約束が脳裏をよぎって止めた。
「……殿下っ」
「ほら、こっちの方が似合うだろ?」
「……っ、綺麗ですが……」
「それとも、あっちの方が好みか?」
視線を男に移し、少しだけ睨みを効かせた。ビクッと肩を揺らし「ど、どうぞごゆっくり」と消えて行く定員に、内心舌打ちをした。
自由に過ごして欲しいのに、巣に連れて帰りたい……また、矛盾が生まれた瞬間だった。




