第11話:格上、降臨
経営が軌道に乗り始めた頃、
セバスチャンが珍しく緊張した面持ちで私の元へやってきた。
「お嬢様。……『あの方』が、視察に訪れるとのことです」
「『あの方』……? もしかして、会長?」
「はい。現在、王宮の上空に到着されました」
セバスチャンの言葉と同時に、王宮全体が、
見たこともないほど巨大な魔導飛行船の影に覆われた。
船体に刻まれているのは、オーバークロック社の真の紋章
――「世界を喰らう黄金の歯車」。
「な、なんだあの規格外の飛行船は……!?」
町中の人々が、上空を見上げて呆然としている。
ラングハイム大公国の全予算をつぎ込んでも、
あの船の「燃料費」すら賄えないだろう。
玉座の間に現れたのは、
小柄で、仕立ての良いスーツを着こなした、一人の老人だった。
だが、その身から放たれる魔力の「圧」は、
元国王など比較にならない。
「……セバスチャン。
ずいぶんと楽しそうな『遊び』をしているようじゃな」
「会長。……ご無沙汰しております」
あのセバスチャンが、深々と、直角に頭を下げた。
「ふん。……でお前が、セバスチャンを狂わせた新しい『CEO』か」
会長の冷徹な視線が、私を貫く。
その瞬間、脳内の演算領域が、
かつてない外部アクセスを検知した。
(解析不能。……この人、脳そのものが『生体魔導サーバー』化されている。
演算速度、私の約800倍。…理解不能)
「初めまして、会長。エリス・ラングハイムです。
……私の演算領域への無断アクセス、セキュリティ規約違反ですが?」
私は、会長に向けて言い放った。
会場が、静まり返る。
セバスチャンさえも、一瞬、息を呑んだ。
「……ほう? ワシのハッキングに気づき、
さらに文句を言うか。……面白い」
会長の顔に、ニヤリと凶悪な笑みが浮かぶ。
「セバスチャンからの報告書は読んでおる。
『人質の七年間で、一国の資産をすべて私有化した異常個体』。
だが、ワシが知りたいのは、お前の『未来の価値』の方でな。」
会長は、スライドに大陸全土の地図を投影した。
「今、大陸の東側で『魔導石の相場』が暴落しておる。
エリスCEO。お前なら、この状況をどう『利益』に変える?」
それは、世界最高峰の経営者からの、最終試験。
「三分ください」
私は、魔導端末を取り出し、
大陸全土の通信網からデータを吸い上げ、計算する。
「……三分?一分やろう」
「――開始」
(時間不足。再計算――)
一分ちょっと過ぎた。
「スライドできました。
**『東部魔導石パニックを利用した、大陸鉄道網の完全買収計画』**」
投影されたのは、暴落した魔導石を燃料として
大陸全土の物流を支配する、事業計画書だった。
「……合成魔導石の特許を武器に東部の採掘場を買収。
同時に、燃料不足で立ち往生している鉄道会社の株式を強制決済。
これにて、大陸の物流の8割を、我が社が掌握します。」
「……ククク、ハハハハ! なるほど!」
会長が大爆笑した。
「セバスチャン! お前が惚れ込むのも無理はない!
だが、まだまだじゃ。さっきの案だと、10年後には飽和する。」
会長は、私の前に歩み寄り、首を少し傾けてウィンクした。
「エリス・ラングハイム。……お前の『未来の価値』に投資してみるかの。
いい暇つぶしにはなりそうじゃ。まあ、次も頑張れ。
次は一分以内に出してみせろ。……期待しておる。」
そう言い残し、会長は去って行った。
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本日、第最終話まで投稿します。
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